鏡張りの部屋。その９〜男と女の互いの事情〜

ただでさえ少ないアクセ数が､ここんとこスッカリ落ち込んじゃって。それでもこの侘しいブログを読んで下さってる方､誠に感謝します。

　さてと､7/4以来ご無沙汰してた､”鏡張りの部屋”ブログですが。展開が難しくなってきました。Sキングの長編みたいに､全くの間延び状態です(笑)。
　ここら辺で､思い切って救世主フィリップ･マーロウの出番といきたいのですが。もう少し､男を追い込んでからという事で。

 

男は支配人を睨みつけた。

大声が迷惑になるだと？
この亡霊小屋にどんな客がいるってんだ？
ああ､見てみたいな､温かい血が通ってる
正真正銘の人間の客をな
俺以外の人間の客を見てみたいもんだ
ええ､そうだろ､旦那

支配人は殆ど冷静さを崩さない。
そして､男を諭す様に言い放つ。

これ以上､騒ぎ立てるような事があれば
警察を呼びますよ､正真正銘の警察です
とにかく､お客様
今は大人しくしてた方が､身の為です
悪い事は言いません
今は､ここで待機してた方が
ずっと安全なんです
家族の為でも､あなたの為でもあるんですよ
　

男は少したじろいだ。

”こいつら､一体俺の何を知ってるというんだ。
確かに､コイツらは何かを知ってる。
俺が知らない何かを知ってる。
ここは、大人しくしておいて
様子を探った方が､正解かもな”

ああ､わかったよ､俺が悪かった
ここでは､アンタが主人だものな
ついカッとしてしまって､
少し神経質になってたみたいだ
今日はもう疲れた､もう寝るとするよ
ほんと悪かったな

男は､そのまま大人しく部屋に戻っていく。

支配人と受付の若い女は､
少しホッとした表情で､
男の後ろ姿をしばらく眺めていた。

男は恐ろしく疲れてたせいか､
起きたのは昼過ぎだった。
ホントはもう少し寝ていたかったが､
ノックする音がする。

例の若い女が入ってきた。

ゆっくり眠れた？相当疲れてたみたいね
それに､これアナタの携帯､直しておいたわ
事故った車の中で､水浸しになってたのよ
昨晩は調子悪かったみたいだけど
何とか繋がる様にはなったわ

男は女から携帯を奪い取ると､
きちんと作動するか確認した。
携帯は問題なく起動した。
圏外のマークもなく､受信も良好だ。
男は､安堵した視線を女に送った。

有難う､昨晩は俺が悪かった
今まで色々酷い事を言って､本当に悪かった
今の自分の状況を､受け入れられないんだ
ああ､自己紹介を忘れてたな
オレはダーレム､2児のパパだ
妻とはもう元には戻りそうもない
それでも一家の主には変りはないんだ
オレのツライ立場も判ってくれ

女はニッコリと微笑んだ。
そして､柔かな眼差しを男に送る。

私は､カミーユ。まだ17だけど､既にバツイチ
私の方も全く笑えないわね
子供は腹の中にいた時､中絶したの
それで大喧嘩になって離婚したって訳
出来すぎた人生でしょ
それ以来､コカインにまみれ､
潰れかけてた所を
ここのホテルの主人に助けられたって事
素晴らしい人生でしょ🎵
ここは素敵でしょ🎵
ここの老主人も素敵な人よ🎵

男も思わず吹き出した。

全くお互いに､お似合いの人生って訳か
こんなにかわいい女を追い出すなんて
旦那の方も､相当にやり手だったんだな

女は少し照れくさそうにした。

私が追い出したのよ
彼がヤクの売人という事がバレて
ケツの穴を蹴飛ばしてやったの(笑)
それに堕ろしたのは､別の男との子供
全くお互い様だわ
私の方も､ホント酷い事を言ってごめんなさい
カッとなると､悪い癖が出ちゃうのよ
許して頂戴､ダーレムさん

男も､少し照れくさそうに返す。

さんは付けなくてもいい､ダーレムでいい
お互い似たもの同士なんだからな
そういう俺だって､
娼婦のレオニーとは､最初からデキてたのさ
末娘のルーシーが難病の喘息に罹った時
彼女が資金援助してくれたんだ
彼女がいなかったら､ルーシーは死んでた
レオニーは愛人というより､恩人なんだよ
それに頭もいいし､考えもしっかりしてる。
人類学と歴史学の2つの博士号を持ってんだぜ
客は大学教授ばかり
レオニーこそ選ばれし民なんだ

若い女は､少し嫉妬を浮かべる様な目をした。

アララ､いきなり下半身の自慢話？
ホントは､彼女のアッチの方に
ゾッコンだったんじゃないの？
正直に言ったら､女は肉体が全てだって
そういう私だって､まだまだ若いわ
アッチの方だって､レオニー教授には負けないわ(笑)

男は女の麗しい裸体を､一瞬思い浮かべた。
確かに､17の若い肉体には
躍動と妖精が誘惑が充満していた。
男には､おつりが来る程の見事な肉体に思えた。

それは､おめでたいコッタ
レオニーとどう違うか､試してみたいんだが
でも､ここにはスピリッツがない
お酒がないと､その気になれないんだ(笑)
でも､君が無垢で純真な心を持った
魅力ある女性である事は認めるよ
君と出会えてホントに良かった
嘘じゃない。君には才気を感じるよ

女は笑い転げた。

男の人って､ホント肉体の誘惑に弱いのね
そんな事じゃ､イチモツが幾らあっても足りないわよ
でも､奥さんは夜の方は全くだったの？

男は急に真顔になった。

ホントいうと､妻は不妊症なんだ
子供がデキない身体なんだよ
それで､俺たちは体外受精を選択した
スージーもルーシーも

彼女の子宮から生まれた娘じゃない
お腹を痛めて生んだ娘じゃないんだ
その費用もレオニーが捻出してくれたんだ
全く悲しい話さ､
憐れな中年男の物語なんて､聞いてて疲れるだろ？

女も真顔になる。
そして､泣きそうになった。

そんな事ないわよ
私の方は子供を殺したのよ
親指ほどの大きさの無垢な天使を
全く無抵抗な天使を殺したのよ