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数に強い人と数学に強い人の違い〜数学が計算の上を跳ぶ、その理由

2024年07月10日 15時35分22秒 | 数学のお話

計算と数学の違い

 ギリシャの偉大なる数学者プラトンは、”計算と算術(数論)は全く異なるもので、算術は誰もが出来るものではない”と言い放ち、若き天才ガロアは”計算の上を行く数学”を唱えた。
 多くの人は、”算数の延長上に数学がある”と思い込んでいる。勿論、間違いではない。
 が厳密に言えば、算数は計算で正しい答えを出す事を目的とするが、数学は抽象的な問題を扱い、そうした問題を解く過程を重視する学問とも言える。
 もっと言えば、算数は予め答えが判ってる問題を計算する学問であり、数学は答えが存在するか否かすら判らない難題や未解決問題を解く学問と言える。勿論、計算力は数学の基礎となるから、ないよりはあった方がいいし、計算や算数が得意である事は数学が好きになる為の十分条件にはなる。

 ただ、数学は計算以上に高度な論理的思考を要求されるから、算数が得意なくらいでは(受験の数学はクリアできても)大学の数学は太刀打ちできない場合が多い。
 実は私もその1人で、高校まで数学は得意なつもりだったが、大学で挫折し、中学の計算すら出来なくなった。今でもその後遺症に悩まされたままである。
 しかし、大学以上の高等数学では抽象的な論理的思考や数学的センスが要求されるから、たとえ計算が出来なくても、実はそんなに不自由する事もない。事実、公式の丸暗記だけでは100%確実に挫折する。言い換えれば、公式の丸暗記は受験の数学でのみ通用する勉強法とも言える。
 つまり、公式の上を跳ぶ位の洞察力や考察力が必要であり、故に、数学とは本質を最短で見抜く為のトリックであり、超難度なイカサマを要する学問とも言える。

 一方で、数学は項を踏む様にして会得する積み重ねの学問でもある。だが、蓄積された知識だけが物を言う訳でもない。若き天才数学者が度々登場するのもその為である。
 事実、”500年先を行く天才”と評されたアーベルやガロアは若くして数学の上を跳んでいたし、リーマンは100年の数学を僅か1歩で跨いでしまった。
 故に、計算が苦手でも、受験の数学に馴染めなくても、数学の持つ難解なトリックや奇怪なイカサマに面白さや興味を感じる事が出来るのなら、それこそが数学者になる為の一番の近道かもしれない。

 
”思考の武器”としての算数

 但し、算数を”思考の武器”として、偏差値35から奇跡の東大合格を果たした人がいる。
 「東大算数」の著者の西岡壱誠氏である。
 彼は”算数の考え方は思考の武器として、その後の人生でも使えるもので、算数や数学で使えるだけでなく、あらゆる勉強に、仕事に、人生に大きく繋がるものです”と語る。

 本書では、計算に強い人とそうでない人を見分ける為の問題を2つ挙げる。
 1つ目は、”1+1/5+3/100+1/250+1/2000+3/50000=?”である。
 まず、計算に弱い人は(バカ正直に)”通分”を使い、50000に分母を合わせ様として、多くは挫折する。

 だが計算に強い人は、1/5=0.2、3/100=0.03、1/250=0,004、1/2000=0.0005、3/50000=0.00006と計算し、1+1/5+3/100+1/250+1/2000+3/50000=1.23456との答えを弾き出すだろう。
 つまり、数に強い人は、分数を小数に変換し、最短で答えを導く。従って、”分数→小数”との変換(トリック)を使えた事になる。

 2つ目は、”0.15×0.2=?”だ。
 そのままバカ正直に計算してもいいが、0.15×0.2=0.15×(1/5)とすれば、小数同士の計算をしなくても、答えの0.03がすぐに導ける。但し、本書での答えは”3/20×20/100=3/100”とあるが、0.15=3/20をすぐに思い浮かぶ人がどれ程いるのだろうか?つまり、こういう所はセンスの問題でもあるが、この問題でのトリックは”小数→分数”の変換にある。

 一方で、著者の西岡氏は、12や60という複数の数字で割り切れる数は日常生活でも多く見られる便利な数で、13という(1とそれ自身以外で割り切れない)数は不吉な数だとし、数に強い人ほど”数に関する感度”が高い事を説明する。
 例えば、12という数字は2,3,4,6と4つの数(約数)で割り切れ、時間や月、ダースといった様々な日常生活の中に組み込まれている。”数に対する感度の高い人”なら、60や360はもっと多くの数で割り切れる数字だと感覚的に理解するだろう。事実、60は時間(60分)や角度(360度=60×4)に使われている。

 因みに、インドの数学者ラマヌジャン程の大天才になると、数の感度も神憑り的になり、タクシーのナンバープレートの数”1729”を見て、大興奮したという。
 つまり、1729という数字は、1729=12³+1³=10³+9³を満たすからだ。
 これが何を意味するのか?
 数に対する感覚の鋭い人はお判りだろうが、12と1、10と9の2つの組の立方数の和となっている。事実、1729未満の数ではこの様な形で表す事は出来ない。
 こうした数をタクシーに因んで”タクシー数”Ta(n)と呼ぶ。但し、nは組み合せの数であり、故に、Ta(2)=1729となる。

 但し、これまでにn=6までのタクシー数が確認されている。例えば、Ta(1)=2=1³+1³、Ta(3)=87539319=167³+436³=228³ 
423³=255³+414³となるが、それ以降のTa(4)、Ta(5)、Ta(6)は数に強い人の為の夏休みの宿題にしたい。
 そういう私は計算が苦手なので、タクシー数の仕組みと理解だけで十分である(笑)。

 一方で、13を不吉な数だとしたが、数学の世界には”ヴァンパイア数”という吸血鬼を表す数もある。1260はその数の1つ例だが、1,2,6,0の4つの数を並べかえて作った数字21と60を掛け合わせると、元の数字の1260(=21×60)になるからだそうだ。
 因みに、掛け合わせる2つの数字(21と60)を牙(fang)と呼ぶ事から、その名の由来とあるが、定かではない。但し、両方の牙の末尾に0がある数はヴァンパイア数にはなりえない。仮にそれを許すと、ヴァンパイア数が簡単にかつ無限に見つかるからだ。
 興味のある人は、他のヴァンパイア数を見つけ出してほしい。ヒントは、1530=30×51。


算数と数学の違い

 私とは逆に、”算数は好きだったのに、数学は苦手になった”と嘆いてる人も多いだろう。
 そこで、少し詳しく算数と数学の違いを説明する。
 前述の様に、算数は計算で答えを導き出すが、数学は答えを導き出す過程(プロセス)を数字や記号を用い、論理的に説明する学問である。
 例えば、算数では個数や距離など日常的で具体的な場面が想定され、計算や算数を使って答えを出す。一方で数学は、答えを導く事よりも数学のルール(公式や定理など)を理解し、そのルールに基づいて答えに辿り着く過程を重視する。
 以下、「算数と数学の違いは考え方?・・」より大まかに纏めます。

 まず算数は、基本的な計算方法や図形の面積や体積、重さや長さなどを学ぶ教科である。つまり、数を使い”正しい答えを導き出す”事が目的で、買い物や時間の計算など、日常の生活に密接に関わってる事が特徴だ。
 算数の学習内容は、「数」「計算」「図形」「量」「関数と統計」の5項目に分かれる。私今初めて聞きました(笑)。
 まず”数”では、小数・分数・偶数や奇数・比など、数の構成や表し方について学ぶ。次に”計算では、四則演算や等号と不等号など、計算の仕方について学習する。
 ”図形”では、円・球・多角形・展開図など、様々な図形やその面積や体積の求め方や単位について、更に”量”では、長さ・重さ・時間や速さなど、それらの単位求め方について学ぶ。例えば、kgやトン、mmやcmなどの重さや長さの単位や表記の仕方、角度の大きさなどである。
 ”関数及び統計”では、平均・割合・グラフなど、数量の変化や関係、データの表し方について勉強する。

 一方で、中学校で学習する”数学”は、「数と式」「図形」「関数」「データの活用」の4つの項目がある。
 まず「数と式」は、算数の数と計算に相当し、方程式や平方根などを学習する。次に、「図形」では、平面や空間図形、図形の合同や相似、三平方の定理などについて学ぶ。
 「関数」では、1次関数やの表や式、グラフを勉強し、2次関数や連立方程式などが登場する。「データの活用」では、データ分布・比較・標本調査などを学び、データ分析の仕方や確率の具体的なデータの活用法を学ぶ。
 更に高校では、中学校の数学をを基礎に、「数学Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ」で方程式・不等式・微分積分を、「数学A、B」で整数・確率・図形・数列についてより複雑な事を学習する。

 では、同じ数学でも、中学と高校では何が違うのか?
 1つには、問題がより複雑になる。
 高校の数学は、中学の数学に比べ、問題が複雑になり、計算も難しくなる。更に、公式を丸暗記して計算するだけで答えが導ける中学数学に比べ、高校では複雑な問題が多くなり、問題の本質的理解が必要となる。
 また、文章問題では問題文自体が複雑になる為、文章を読み解く基本的スキルも必要になる。
 次に、覚える公式の量が増えるし、より複雑になる。公式だけでは解けない問題も登場し、複数の公式を組み合わせて解く必要がある為、それぞれの公式をしっかり理解する事が大切になる。また、式の形も複雑になり、sin(サイン)cos(コサイン)tan(タンジェント)の様な三角関数(超越関数)が登場するので、まずここで多くの生徒が脱落する。
 更には、推論や証明の重要さが増すが、証明問題の比率が高くなり、”〜ならば”といった推論を重ね、正解に辿り着く様な問題も多くなる為に、中学数学みたいに単純ではない。つまり、計算だけでなく(答えを予測する)推論や洞察力が必要となる。
 故に、数学の用語や公式・定理の意味とそれぞれの関連性を理解する事で、複雑な証明問題も公式の暗記に頼る事なく、本質を理解する事で解ける様になる。

 最後に、数学を学ぶ目的として、問題解決の方法と能力を養う事にある。が、物事を論理的に解釈し、道筋をたてて解決する事は数学に限った事ではない。ただ、社会で起こる様々な問題を解決する能力を養う為に、数学の論理や考え方は適している。
 以上、マナビナビから長々とでした。


最後に〜数学は計算の上を跳ぶ

 因みに、私のド田舎の小学校では、四則の計算と公約数・公倍数を教えてもらった位の記憶しかない。先生の多くは無学に近く、私もほぼ無知に近かった。この頃に”物事を学ぶ”事の重要性を今更ながら思い知らされる。
 中学でも、私は数学の何を学習したのか?殆ど記憶がない。家に変えれば兄にいじられ部活(軟式テニス)の練習がキツく、家に帰れば兄に毎晩の様にイジメられ、勉強どころではなかった。
 高校では、担任が(ド田舎には珍しく)多少は学のある数学の先生で、そこそこ数学には馴染めた気もするが、入れ込み過ぎて2年ほどが限界だった。だが、高校で初めて”数学”に出会った気がしたのも、この頃である。 

 日常生活に結び付き、明確な答えが導ける算数に比べ、数学では抽象的考えが必要となる。が故に、算数の感覚で数学に取り組むと、論理的であっても(非日常的な)抽象的思考が大きな壁となり、脳が疲労する。つまり、”数学は苦手”と脳が勝手に判断してしまう。
 マナビナビでは数学の苦手を克服する為に、①解らない所を特定する②公式を理解する③計算力を上げる、の3つを挙げている。が、私から言えば、①の”何の何処が解らないか”を知る事だけで十分だと思う。
 つまり、数学は”解らない”事から始まる学問だ。故に、何が解らないかを知らなければ、公式を理解しても計算力を上げても、解らないままである。言い換えれば、(人生と同じく)数学とは”答えのない”学問でもある。

 従って、計算や理解を超えた所にある数学こそが、数学の本質だと考えれば、数学が苦手な人も”数学嫌い”を克服できるかもしれない。
 これからはあらゆる職種で数学が必要となる時代が来るだろう。つまり、仕事に必要なスキルは数学という学問が基盤になる事が当り前になる時代が来る。
 そして、その数学はガロアが言う様に”計算の上を跳ぶ”必要がある。つまり、そうでないと、数学は難しいだけの無機質で無味乾燥な学問で終わりそうに思えるからだ。 
 そんな数学こそが、数学の理想の姿なのかもしれない。 



2 コメント

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ダイヤル数の超不思議 (UNICORN)
2024-07-15 07:59:25
タクシー数で思い出しましたが
ダイヤル数は巡回数とも呼ばれ、その数に2、3、4を掛けた時、その結果が巡回させた数となる。
例えば、142857は有名なダイヤル数ですが、
142857×1=142857、142857×2=285714、142857×3=428571、142857×4=571428、142857×5=714285、142857×6=857142と、1→4→2→8→5→7の巡回数になってます。
これは順番を変えても、1→4→2→8→5→7の巡回規則は変わりません。これは、6通りの巡回数が全て表されている事になる。

次に、上の6つの数を3桁ずつで区切って足すと、142+857=285+714=428+571=571+428=714+285=857+142=999となって全て999となる。
同じ様に、3等分してそれぞれを足せば、14+28+57=28+57+14=42+85+71=57+14+28=71+42+85=85+71+42=99と、今度は全て99となります。
最後に、142857を6等分して足すと、1+4+2+8+5+7=27となりますが、27を2等分して足せば、2+7=9と、これまた9に関係する数を得る。

何故こうなるのかは素数7が関係するのですが、こうした素数に基づく巡回数の規則が、後のラグランジュの定理やオイラーとガウスによる平方剰余の相互法則に出会うのも超不思議な縁だと思います。 
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UNICORNさん (象が転んだ)
2024-07-15 15:15:01
言われる通り
素数の持つ超不思議な巡回数の縁ですよね。
142857×7=999999となるのは、1/7=0.142857142857…の両辺に7を掛けると1=0.999999999…となります。
従って、142857は1を7で割った時の循環部分という訳です。但し、1/7は小数部が規則正しく循環するので”循環小数”と呼びます。
因みに、142857に8~13を順に掛けると、1142856,1285713,1428570,1571427,1714284,1857141となりますが、142857×7=999999を引けば、順に142857,285714,…,857142となり、1~6を掛けた同じ巡回数を得ます。

一方で、142857はカブレカ数となる事も有名ですね。
2乗した数の前の部分と後ろの部分を分けて和を取ると元の数に等しくなる様な数をカブレカ数と呼ぶんですが、実際に(142857)²=20408122449の11桁の数を前の5桁と後の6桁に分けて足せば、20408+122449=142857を得ます。
さてと、ダイヤル数の名の由来は数が回る事から来てますが、その巡回数の神秘が”1/素数”から来てるとは、まさに驚きですね。
お陰で、数のお遊びが数論(算術)の基盤になってる事を教えられました。
いつも貴重なコメント有り難うです。
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