象が転んだ

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蘇る天才アーベルのアイデア”その7”〜1824年(及び26年)の論文と解の不可能性(最終回)

2024年07月16日 05時01分12秒 | 数学のお話

 「不可能の証明」の第3段階に入る前に、前回「その6」の[STEP2-2]で証明した様に、元の5次方程式y⁵−ay⁴+by³−cy²+dy−e=0―①の解yが、y=p+p₁・ᵐ√R+p₂・ᵐ√R²+⋯+pₘ₋₁・ᵐ√Rᵐ⁻¹―②の形に展開できる事を、3次方程式の例を上げて説明します。
 「その1」では、2次方程式の例だけを上げましたが、事実、y²−ay+b=0の解は、y=a/2±√(a²−4b)/2となり、p=a/2,m=2,R=a²−4bとして、√R=±√Rとみなせば、y=p+√Rと表現できる。故に、2次方程式の解yの多項式でのp,Rは係数a,bの有理式、つまり、”(a,bの有理式)+√(a,bの有理式)”の形の代数式となる事を証明しました。
 そこで、2次方程式の時と同様にして、3次方程式y³−ay²+by−c=0の解もy=p+³√R+p₂・³√Rと表現できる事を、つまり、3次方程式の解yの多項式でのR,p,p₂が、”(a,b,cの有理式)+√(a,b,cの有理式)”の形の代数式となる事を証明します。


カルダノの公式

 2次方程式の例では簡単でしたが、3次方程式は複雑です。そこで、y³+ay−b=0の形の3次方程式にして”カルダノ”の公式で解くと、少しは簡単になる。
 まず、方程式y³+ay−b=0にy=u−vを代入し、(u−v)³+a(u−v)−b=0を整理して、u³−v³+b=0,3uv=aを得る。ここでvを消去し、u³についての2次方程式u⁶−bu³+a/27=0を解く事で、u,vを求める。但し、u³は立方体とみなすので、u³(>0)に留意する。
 すると、u³=b/2+√(a³/27+b²/4)、v³=−b/2+√(a³/27+b²/4)を得て、両辺の立方根を取れば、u=³√{b/2+√(a³/27+b²/4)}、v=³√{−b/2+√(a³/27+b²/4)}となる。
 従って、y=u−v=³√{b/2+√(a³/27+b²/4)}+³√{b/2−√(a³/27+b²/4)}―(B6)というカルダノ公式を得る。
 以上より、上の公式で得たyの解が、アーベル形式:y=p+³√R+p₂・³√R²と同じ形になってる事を言えばいい。
 因みに、y³+ay−b=0の3つの解の和はy²の項がないので0となる。一方、αを1の虚3乗根とすると、1+α+α²=0となり、3つの解の和は、3p+³√R(1+α+α²)+p₂・³√R²(1+α+α²)=3pとも書ける。故に、p=0とできる。

 そこでまずは、p=0として、y=³√R+p₂・³√R²をy³+ay−b=0に代入し整理すると、(R+p₂³・R²−b)+³√R(3p₂R+a)+³√R²(3p₂³・R+ap₂)=0―(B7)を得る。
 「その5」のSTEP2の⑧でした様に、z=³√Rとすると①式はzに関する2次方程式となり、R+p₂³・R²−b=0、3p₂R+a=0、3p₂³・R+ap₂=0の3式を得る。
 2番目又は3番目の式より、p₂=−a/3Rとなり、1番目の式に代入し、R²−bR−a³/27=0が得られ、Rにて解けば、R=b/2±√(a³/27+b²/4)を得る。
 ここで、R₊=b/2+√(a³/27+b²/4)、R₋=b/2−√(a³/27+b²/4)とすると、y=³√R₊+p₂・³√R₊²=³√R₊−a/3・⁻³√R₊となるが、³√R₊・³√R₋=−a/3に注意すれば、y=³√R₊+³√R₋が言える。これは、カルダノの公式(B6)そのものとなる。
 以上より、3次方程式の解はアーベルの形式②でp=0とした展開式:y=p+³√R+p₂・³√R²で表現できる(証明終)。

 以上の2次、3次方程式の例は1826年の論文の中に補足されてるものだが、”500年先を行く”天才アーベルが数学が不得手な人でもと、敢えて丁寧に説明したであろう事は容易に推測できる。こういう所にも、アーベルの温かい人柄が滲み出てるではないだろうか。

 
前回のおさらい 

 前回「その6」では、不可能の証明の第2段階として、元の5次方程式の解y₁,y₂,…,y₅の置換(入れ替え)と可解性について考えました。
 アーベルはまず、”ᵐ√Rの形のべき根を考え、Rはa,b,c,d,eの有理式(y₁,y₂,y₃,y₄,y₅の対称式)とすると、ᵐ√R=rと書ける”と仮定した。但し、rは元の方程式の解y₁,y₂,y₃,y₄,y₅の有理式とする。
 だが、rをm乗したRはy₁,y₂,y₃,y₄,y₅の対称式なので、rはy₁,y₂,y₃,y₄,y₅の順序の入れ替え(置換)により、m個の値をとる必要がある。
 ここでアーベルは、証明の第2段階の中核をなす「コーシーの置換論」を持ち出す。つまり、有理式rはそれを構成する5つの変数の可能な全ての置換により、m個の異なる値をとる必要があるが、”mは素数なので、m=2又は5となる”と、アーベルは主張したのだ。
 事実、この厳密なる証明を1826年の論文で、しっかりと補足&説明している。

 アーベルはまず、m=5と仮定して、それが矛盾する事を示し、m=2となる必要があるとした。これには、元の方程式の解の置換と対称性の抽象的な議論を必要とするが、もし解が対称性を持てば、5つの解の置換はどれも同じで不変となり、対称性がなければ解の置換は5個の値をとる。
 そこで、vを元の5次方程式の5つの解y₁,y₂,y₃,y₄,y₅の有理式と考え、その内のy₁を除いた4つの解y₂,y₃,y₄,y₅の置換により変化しないと仮定しました。つまり、vの4つの解は、p,q,r,sを係数とする4次方程式を解く事で表わせる。
 更に、これを単純に係数比較し、vがy₁,a,b,c,dの有理式となる事を示します。故に、vはy₁と元の方程式の係数a,b,c,dの有理式となる。一方で、vはa,b,c,d,eの有理式p₀,p₁,…,pₘにより、v=p₀+p₁y₁+p₂y₁²+…+pₘy₁ᵐと書ける。と、ここまでが前回「その6」の[STEP2-2]でした。

 最後の「その6」[STEP2-3]では、元の5次方程式にy=y₁を代入した式を使えば、mの次数を5以下に出来て、[STEP2-1]の⑭式の左辺(⁵√R=)rは、v=p₀+p₁y₁+p₂y₁²+p₃y₁³+p₄y₁⁴の形に直せる。ここで、⁵√R=v=p+p₁y₁+p₂y₁²+p₃y₁³+p₄y₁⁴とおき、両辺をα倍すれば、⁵√Rがα・⁵√Rに置換され、y₁がy₂に置換される。
 そこでアーベルは単にy₁とy₂を入れ替え、p+p₁y₁+p₂y₁²+p₃y₁³+p₄y₁⁴=αp+αp₁y₂+αp₂y₂²+αp₃y₂³+αp₄y₂⁴の⑮式を得た。一方で、⑮式はα=1又はy₁=y₂でないと成立しないが、解は全て異なるのでどちらもありえない。
 故に、「コーシーの定理」により、m=5との仮定では矛盾し、m=2となる。
 また、⁵√R=r=p+p₁y₁+p₂y₁²+p₃y₁³+p₄y₁⁴の⑭式のrは5種類の異なる値をとるとアーベルは仮定したが、それも矛盾し、故にrは2個の値をとる事が言える。
 従って、√R=rとなり、rは符号が異なる2つの値をとる事の証明になる。

 前回、寄せられたコメントを参考にまとめると、まず解がべき根で表される為には、元の5次方程式の解がᵐ√Rの形の多重べき根の和で展開できる時、ᵐ√R=rとなる事が必要となりますが、rᵐ=Rは5つの解の対称式より、rは5個の解の置換となり、m個の値をとる必要がある。
 ここで、rを有理式と見れば、5つの変数の置換により、m個の異なる値をとる。但し、mが素数である事から、m=2又は5となるが、これこそが証明の第2段階の中核をなすコーシーの置換論でした。
 ここでアーベルは背理法を用い、m=5とした時の矛盾を導き、m=2とします。故に、√R=rとなり、rは2個の値をとる。
 以上が、前回「その6」の大まかな流れとなりますが、更にアーベルは、元の方程式の解がᵐ√Rの形のべき根の和で展開できる事の証明も、コーシーの置換論を使い、厳密な証明を加えています。これを見ても、アーベルがコーシーの置換論を高く評価してたが理解できますね。
 厳密には、1つのSTEPで終える事も可能でしたが、理解し易い様に敢えて3つに分けました。


ステップ3-1

 さてと、今日は不可能の証明の第3段階に入りますが、コーシーの置換論が理解できれば、最後まで一気に進める筈です。

 ”この時、√R=r―⑰とすると、(rがRの平方根とみなせば)rは符号の異なる2個の値をとる必要がある。従って(コーシーの論文により)、√R=r=v(y₁−y₂)(y₁−y₃)⋯(y₂−y₃)⋯(y₄−y₅)=v√S―⑱と書ける。但し、vは対称式である(一方、√Sは非対称式となる)”

 因みに、√R=rを”rがRの平方根”とみなせばr=±√Rと2つの値をとるが、単にr=√Rと書けば、1つの値しかとらない。故に、平方根と根号”√”には重要な違いがある訳だが、私は式を簡略化する為に、これまで”rがRのmべき根”をr=R^(1/m)=ᵐ√Rと書いてきた。
 これは山下氏の注釈でも書かれてる様に、アーベルも、rのとる2個の値をr=√R=R^(1/2)と表現した。勿論、平方根は常に±の符号だけの不確実さ(非対称性)を持つ事に留意する。更に言えば、r=√Rからr²=Rを得て、r=±√Rとなるから、rが2つの値を持つかどうかは文脈で判断するしかない。
 また、「コーシーの定理」では、rは⑱式の様な積の形に書けるが、vは元の方程式の解と係数が作る対称式で、√Sはn=5の時のコーシー=アーベルの特殊多項式である(y₁−y₂)(y₁−y₃)⋯(y₄−y₅)とする。
 故に、この式ではどの2つの変数を交換しても符号が変化する。つまり、√Sは−√Sに変化するだけで、故に、有理式は多くても2個の値を持つに過ぎない事が判る。
 但し、Sは2解が等しくないので0になりえない事にも注意する。

 因みに、アーベルの1824年の論文では、コーシーによる置換の議論が使われてるが、これはルフィニの結果を一般化したもので、2年後の論文ではこの議論を、更に発展させている。
 因みに、「コーシーの定理」とは、”n変数の有理式がとりうる異なる値の個数pは(n!を超える事はなく)n!の約数になる”事だが、これはn!個の値がp種類のm個ずつの組に分かれる事を意味し、従ってn!=pmとなる事より言える。
 つまり、アーベルは”pは(奇素数とすれば)n以下の最大奇数p以上である”事に到達し、仮にn=p=5の時、つまり”5次方程式の時、解の係数がとる有理式は5個又は2個の異なる値をとる”事に気付いた。この形で、コーシーとルフィニの視点はアーベルの証明の最終段階で決定的なものとなったのだ。
 一方で群論にては、これを一般化したものを「ラグランジュの定理」と呼ぶが、Gを群としてその元の個数を|G|とすると、HをGの部分群とする時、”|H|が|G|の約数になる”事である。
 但し、ガロアがやった様に、Gを可換だとし、GをHで剰余類に分ける時、この剰余類を群と考え、HがGの不変部分群となる時、正規部分群と呼ぶ。当時のガロアは、正規部分群による剰余類分解を”固定分解”と呼んでいた。 
 

ステップ3-2

 ”いま、ᵐ√(p+p₁・ᵛ√R+p₂・ᵘ√R₁+…)―⑲の形の無理式を考える。但し、p,p₁,p₂,…,R,R₁,…はa,b,c,d,eの有理式で、y₁,y₂,y₃,y₄,y₅の対称式と出来る。
 [STEP3-1]で見た様に(⑱式により)、v=u=2…,R=v²S,R₁=v₁²S,…となり、⑲=ᵐ√(p+p₁v√S+p₂v₁√S+…)となるので、⑲式はᵐ√(p+p₁√S)―⑳という簡単な形になる。(但し、vは対称式なので、p₁v+p₂v₁+…=p₁となる事に注意)
 ここで、r=ᵐ√(p+p₁√S)、r₁=ᵐ√(p−p₁√S)とおき、その積をとると、rr₁=ᵐ√(p²−p₁²S)―㉓を得る。
 いま仮に、rr₁が対称式でないとすると、m=2であるべきだが、今はrが4個の異なる値をとる(r自身を含めれば5つの値をとる)必要があるので、不可能となる。故に、rr₁は対称式となる必要がある。
 そこで、Vをこの対称式、V=rr₁とすると、r₁=V/r=V・⁻ᵐ√(p+p₁√S)に注意すれば、r+r₁=ᵐ√(p+p₁√S)+V・⁻ᵐ√(p+p₁√S)=z―㉔を得る。
 この代数式がm個の異なる値をとれば、mは素数より、m=5となる必要がある。
 故にこの時、㉔式は、z=q+q₁y+q₂y²+q₃y³+q₄y⁴=⁵√(p+p₁√S)+V・⁻⁵√(p+p₁√S)―㉕と書ける。但し、q,q₁,q₂,q₃,q₄はy₁,y₂,y₃,y₄,y₅の対称式より、a,b,c,d,eの有理式となる”

 因みに、ここでアーベルが言いたいのは、5次方程式に解の公式があるとすれば、最初に必要なべき根は平方根(2乗根)で、次に必要なのが5乗根となる事である。

 ”この㉕式と最初の方程式①を組み合わせる事で、yをz,a,b,c,d,eの有理式として表す事が出来る。この様な代数式は常に、y=P+⁵√R+P₂・⁵√R²+P₃・⁵√R³+P₄・⁵√R⁴―㉖の形に帰着できる。但し、P,R,P₂,P₃,P₄はp+p₁√S,p,p₁,S(a,b,c,d,eの有理式)となる。
 ここで、yのこの表示式㉖から、前回「その6」の[STEP2-1]でやった様に、⁵√R=(y₁+α⁴y₂+α³y₃+α²y₄+αy₅)/5となり、同じく[STEP2-1]の⑭より、⁵√R=rを得て、⁵√R=(y₁+α⁴y₂+α³y₃+α²y₄+αy₅)/5=⁵√(p+p₁√S)=r―㉗となる事が判る。
 一方で、αは1の虚5乗根より、α⁴+α³+α²+α+1=0となるが、㉗式の(y₁+α⁴y₂+α³y₃+α²y₄+αy₅)/5は、y₁,y₂,y₃,y₄,y₅の置換により120個(=5!)の値をとる。だが一方で、同右辺の⁵√(p+p₁√S)は10次方程式:z¹⁰−2pz⁵+p²−p₁²S=0の解となる。
 つまり、これは矛盾となる”

 因みに、⁵√(p+p₁√S)=zとすると、p+p₁√S=z⁵となり、Sの√を外して整理すれば、上の10次方程式を得る事は明らかですね。

 ”以上より、我々は<5次方程式の一般方程式をべき根で解く事は不可能だ>という結論に達する。
 更に、この結論から直ちに、5次以上の一般方程式もべき根で解く事は不可能である事も判る(証明終)”

 これは仮に、べき根では解けない5次方程式をy倍すれば、y=0という解を持つ6次方程式を得るが、この6次方程式の残りの解はべき根によって解く事が出来ないのは明らかである。故に、べき根により解けない(更に)高次の方程式も同じ様にして作る事が出来る。
 更に言えば、アーベルの証明はコーシーの定理が成立してるので、5次よりも高次な場合でも、これと同じ議論が適用できる。
 但し、このアーベルの議論を4次以下の方程式に適用すれば、矛盾する事はなく、解の公式が作れる事に注意する必要がある。


最後に

 以上、「アーベルの証明〜解けない方程式を解く」(Pペジック著、山下純一訳)に収録されてる3つの付録(アーベルの2つの論文(原文訳)とコーシーの置換論)を使い、アーベルの不可能の証明を全7話に渡り、紹介しましたが、1824年(及び26年)の論文とコーシーの置換論を行来きしながらと、奮闘の連続でした。
 出来るだけ自分の言葉でとも思うんですが、ボリュームだけが膨張し、結果的に読み難いブログとなりました。
 アーベルの論文に関しては、多少古い文献も様々に出版されてますが、私には山下氏訳の本書が(新しいせいもあるのか)スムーズに理解できた様な気がします。
 では・・・



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