象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

フォアマンの衝撃と奇悲劇とその豪打と、その2〜”キンシャサの奇跡”の真相と”ロープ•ア•ドープ”の疑惑と〜

2019年09月21日 13時34分11秒 | ボクシング

 土曜日といってもやる事もないので(悲)、”フォアマン伝説”を続けます。
 前回の”その1”では、”キングストンの惨劇”までを述べました。
 まるで、プレデター(捕食者)の形容がピタリ合うほどの凄まじい躍動に、あのフレイジャーが、自らマットに沈んでいった印象を受けた。その後、東京にも来日し、ホセ•ローマンを迎えた2度目の防衛戦は、全くの赤子扱いでした。

 と、ここまでは、フォアマンも順調なアメリカンドリームを決まった様に重ねるんですが。”好色魔多し”じゃないですが、地上最強の捕食者にも災難が降りかかる。
 その第一弾が”キンシャサの奇跡”というより、私に言わせれば”ザイールの奇悲劇”ですね。


”キンシャサの奇跡”とアリの悲願

 ”アリを病院送りにした”フレイジャーを、”アリの顎を砕いた”ノートンを、共に2Rで完全KOしたフォアマンを、誰もが最強だ信じた。今でも私は、フォアマンが最強だと信じてる、多分これからもだろう。
 事実、フォアマンの豪快KOを目の前で見せられたアリは試合後に乱入し、フォアマンを挑発した。明らかにアリは動揺していた。
 しかしこの時、アリが言い放った、”序盤を乗り切れば、ノートンが勝っていた”との言葉は、非常に予言めいたものでもあった。事実、それをアリはそれを実践で証明したのだから・・・
 勿論、”神の力”を授かった(モハマド)アリと、自身の怪力に慢心したフォアマンとの差と言われれば、それまでだが・・

 そのアリ(当時はカシアス•クレイ)は、22歳の若さでヘビー級王者となるも、ベトナム戦争の徴兵拒否から王座を剥奪される。
 3年7カ月のブランクの後、王座奪回に挑んだ1971年のフレージャー戦で、プロ初ダウンと初黒星(判定負け)を喫し、1973年のノートン戦でも顎を砕かれ判定負け。その後、両者との再戦は、際どい判定勝ちで何とかリベンジを果たす。
 疑惑気味?の復活を遂げたアリは、大胆にもフォアマンとの対戦を要求。ここにて、ザイール(現コンゴ民主共和国)の独裁者モブツが国家事業として企画したとされるキンシャサでの世界戦が実現した。


空前のファイトマネー

 だが、ベトナム戦争における徴兵拒否により、世界ヘビー級王座を剥奪されてたアリは既に32歳。全盛期はとうに過ぎた”と思われてた。
 一方、26歳の若きゴールデンボーイ•フォアマンの戦績は40戦(37KO)無敗。歴代で最も高いKO率を誇り、さらに24連続KOを突っ走るフォアマン優勢”の声が圧倒する。
 NYタイムズも”3R位までならアリはフォアマンの強打から逃れられるが、15Rは無理だ。アリは初めてカウントアウトになるだろう。第1Rでそうなる可能性もある”と報じた。
 事実、アメリカの専門家の予想では3対1、ロンドンのブックメーカーは11対5でフォアマン有利とした。

 私も正直、アリは殺される”と思った。毒を飲ませなかったら、アリはリングに這い蹲ったままか、死んでたろうと今でも思ってる。
 しかし、”フォアマン対アリ”という超ビッグブートに見合う巨額なマネーを出すスポンサーは、アメリカ国内でも見当たらない。
 その時、ザイールに目をつけたプロモーターのドンキングは、モブツ大統領(ザイール)と接触し、空前のファイトマネーとされた、当時のスポーツ興行史上最高額の1000万ドル(約30億円)を引き出す事に成功する。因みに、それまではアリ対フレイジャー(1971)の500万ドルが最高だった。

 独裁者のモブツが、ザイールの名を世界中に宣伝し、”国威掲揚を図る為”だと噂された。
 一方でキングは、黒人の故郷であるアフリカの地で行う歴史的イベント、”Rumble in the Jungle”(キンシャサの奇跡)と銘打ち、盛り上げていく。
 長年に渡り、黒人差別撤廃を訴えてきたアリは、ベルギーによる植民地支配の時代を知るザイール国民にとって、まさに”希望の星”でもあった。
 一方、同じ黒人でありながら、入国時にベルギーの警察犬だったシェパードを連れてきた事から、フォアマンは”白人の手先”と非難の的となる。
 事実、不運は続くもので、フォアマンは練習中に瞼をカットし、約1ヶ月試合が延期となった。
 フォアマンはアメリカに帰国し、治療を望んだが、試合拒絶の逃亡だとアリが非難した為、出国禁止の軟禁状態置かれる。

 一方、アリの人気は高まるばかりで、”アリ、ボマイエ!(フォアマンなんか殺しちまえ)”は、ザイールの国民的流行語になった程だ。
 元々繊細なフォアマンだが、完全アウェーの状態で軟禁され、心身ともに大きなダメージを背負い、試合に臨む事になる。

 
ロープ•ア•ドープの疑惑

 1974年10月、世界中が見守る世紀の一戦は、放送権を独占する米国TV局の都合に合わせ、何と現地時間の午前3時過ぎに行われた。
 しかし、ここで大きな問題が起きた。リングが一回り小さい。故に、幾らキツく締めても、ロープがユルユルなのだ。
 アリ•サイドはいきなり追い詰められた。序盤から中盤を脚を使って逃げ回り、フォアマンが疲れた所を一気に仕留めるというプランが使えなくなったのだ。 
 つまり、”ロープ•ア•ドープ”は誤算が生み出した苦肉の策だったのだ。
 事実、アリはすぐにリング上を舞うのを止め、ロープにへたり込む。意外な展開に、策士でありセコンドのアンジェロ•ダンディは、”何やってんだアイツは”と怒鳴りつけた。
 このロープに座り、もたれ掛かる咄嗟のアリの行動と判断こそが、ロープ•ア•ドープ(ロープ戦術)という奇怪な戦術を生んだとも言える。 

 ボクシング関係者やファンの殆どが、このロープ•ア•ドープ作戦によりフォアマンが疲弊したと、口を揃えて語る。
 しかし、私の目はホラ穴?じゃない。ナメてもらっては困る。
 フォアマンが自伝の「God in My Corner」で書いてる様に、フォアマンの動きは3Rを終えた辺りから急激に失速する。試合前に”毒を飲まされた”を私は信じる。今までもこれからも・・・(多分)

 ”やっとの思いでリングにもぐり込み、3Rが終わると、まるで15ラウンドを戦ったかの様な疲労を感じた”とは、一見敗れざる者の言い訳に聞こえなくもない。
 それに、追い詰められた繊細なフォアマンのメンタルを、その原因とする論評もあるが、やはり説得力に欠ける。
 このフォアマンの一見、弱気に見える発言こそが、ロープ•ア•ドープが生んだ”キンシャサの奇跡”の真相ではないだろうか。 


ヤッパリ毒を飲まされた?

 事実、フォアマンの象をも倒す”筈のパンチは、弱々しく流れる様なパンチに成り下がってる。
 動画で確認すれば判るが、パンチを放った後、フォアマンの身体がバランスを崩し、前方へ流れてるのが確認できる。つまり、フレイジャーやノートンを粉砕した豪打とは、明らかに別モノだ。
 実際にサンドバッグを叩いてみると判るが、素人ほど前屈みになるし、疲れてる時ほど前のめりになる。
 それに、8Rのカウントアウトも”自ら倒れて”いった印象を受けた。3R以降のフォアマンは立つ事さえ、ままならなかったのではないか。

 この”キンシャサの奇跡”の後、モハマド•アリは全世界の尊敬を一身に浴び、一方敗れ去ったフォアマンは、場末の娼婦にもバカにされる始末。
 それでも当初は、この”毒を飲まされた”も結構出回ったが、フレイジャーの証言やアリ陣営の饒舌により、この”毒説”は跡形も無く掻き消される。
 以降、”ロープ•ア•ドープ”のドープはドーピング(毒)の意味で使われる事はなくなり、”ヤバイけどカッコいい”みたいな、流行語で広く好まれる様になる。

 しかし私からすれば、やはり”ドープは毒に過ぎない”のだ。
 でも、フォアマンは負けるべくして負けた。全てを味方に付けたアリは、やはり勝つべくして勝った。
 ”毒を盛る”という安直で単純な奇策がまんまと成功した?のも、戦う前からフォアマン陣営が孤立してた証拠だろうか。
 事実、温室の中で育ち、大きくなったフォアマンは、ザイールという無法地帯のジャングルでは試合をすべきではなかった。
 一方、圧倒的不利の状況でリスモンを2度粉砕し、フレイジャーには病院送りされ、ノートンには自慢のアゴを破壊されたアリは、若さと身体能力では大きく劣っていたが、ある意味失うものはなく、全てを悟っていたとも言える。
 つまり、フォアマンの精神的な脆さと温室育ちの危うさを、とっくに見抜いてたのかもしれない。

 まるで神に近づいたアリと、神に見放されたフォアマンと言えばそれまでだが、そう思うと無神論の私としては、やっぱり悲しくなる。
 だが、ボクシングは強い奴が勝つべきなのだ。スポーツの中でも唯一、勝負がはっきりしてるのがボクシングであるべきだ。
 そこに精神論や戦術論や聖書を持ち込んで欲しくはない。

 少し感情的&感傷的になった所で、”その2”を終えます。最終回は、フォアマン復活です。



2 コメント

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ロープアドープ (hitman)
2019-09-21 16:29:29
ロープアドープって、ドーピングをもじったものだと思うけど、向こうの人って 韻を踏むのが上手い。実際に毒が盛られたかは分かんないけど フォアマンにとって試合どころではなかった事は確かだな。

でも、殺伐とした試合だった。特にアリ陣営の一人は背中に銃を隠し持ってた。アリが殺されたらやり返すつもりだったのかな。

全3話ともに十二分に堪能させて頂くつもりで〜す。
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hitmanさんへ (象が転んだ)
2019-09-21 18:39:19
ロープ•ア•ドープ、ロープとドープ。
ロープがゆるい上に、毒を盛られた?前者はアリに不利だったし、後者はフォアマンに不利だった。

でも、本場アメリカでやるべきだったですかね。最後の最後に神はフォアマンに微笑んだけど、アリの最後はとても残酷だと思いました。
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