正直、大した映画だとは思わなかった。
しかし、何とか辛抱して見終わった後、不思議な余韻が私を包み込む。この奇怪な空気はいったい何だろう?
”ストリップサーチ電話詐欺”とは、アメリカで2004年に犯人が逮捕されるまで約10年間続いた一連の事件の総称で、因みにストリップサーチとは裸体検査の事である。
犯人はファーストフード店などに電話をかけて警察官を自称し、若い女性店員に窃盗の容疑を着せ、店長らを巧みに誘導する。更に、少女を裸にし厳格な検査を行い、性的行為をするよう仕向けた。狙われた店の多くは小さな田舎町だ。
一連の犯行は70件を数え、行われた場所も30州もの広範囲にわたった。犯人は刑務所・収容所運営会社の従業員であり、最後の犯行であった2004年の当時37歳の時に逮捕された(ウィキ)。
日本の電話詐欺で有名なのは”オレオレ”がすぐに浮かぶが、こうした単純な詐欺でも多くの高齢者が餌食になった。”私は大丈夫”と思ってる人ほど引っかかる。
コロナも同じで、”私は感染しない”と自負してる人に限って、知らず内に感染しウイルスを穏やかに撒き散らす。
こうした初歩的な詐欺に遭遇した時、人は咄嗟に正しい判断を選択出来るのだろうか?
トップレビューにもある様に”くだらない”と決めつけるのは簡単だ。しかし、現実には一見くだらない、いや日常では有り得そうにもない詐欺や事件で世の中は溢れている。
なぜ人は単純な詐欺や簡単な嘘ほどに騙されるのだろうか?
映画「コンプライアンス」と服従の心理
事実、何度も見るのを諦めようとも思った。が、被害者役の小娘(ベッキー)を演じるドリーマ・ウォーカー(写真)の風貌が、私の田舎のジャンクフード店の売り子に似てる気がしたからだ。つまり、若くてチャーミングで、それにお人好しでオツムも弱そうに感じた。
もし彼女が被害者役じゃなかったら、最初の数十分で見るのを諦めてたであろう。決して才気あふれる女優でもないが、映画で見る彼女の(美人だが)グロに思えなくもない蒼い瞳と安っぽいブロンドは、私が勝手にイメージする被害者像にピッタリでもあった。
それに、まんまと騙された女店長(サンドラ)を演じるアン・ダウトの演技は見事とも言えるが、いくら店が忙しいとはいえ、一方的に電話してきたニセ警官(ダニエルズ)の言葉を1から10まで鵜呑みにするという序盤の展開は少しやりすぎにも思えた。
しかしこの作品は、冒頭で述べたケンタッキー州のマクドナルドで実際に起きた事件を映画化した震撼のスリラーでもある。
どこにでもいる様なキュートで尻軽な小娘を演じる彼女が、店長の明らかに不可解で不自然な要求に(目立った抵抗も明白な恐怖もなく)素っ裸になるシーンは、映画だとしても奇怪でショッキングにも思えた。
それに、ニセ警官の要求は明らかに理不尽である。むしろ滑稽すぎて、笑いが出そうでもあった。しかし、騙される程に電話詐欺という見えない恐怖が逆にひしひしと伝わってくる。
耳に入るのは電話口の声だけで顔が見えないだけに、油断してしまうのだろうか?いやだから簡単に騙されるのか?
人は単純で幼稚な心理戦にいとも簡単に引っかかる。また、ガードが堅い人ほど賢い人ほど初歩的な詐欺に引っかかる。
冷静に考えればわかる事が、普通とほんの少しずれただけでパニックになる。やがて脳内はパンデミックになり、一気に洗脳状態に陥る。
監督クレイグ・ゾベルは不合理極まりないこの事件を、“権威と服従の実験"で有名な”ミルグラム実験”に結び付けて映像化した。つまり、善悪の判断を超えて”人はなぜ権威に服従してしまうのか?”という人間の本質に鋭く迫る。
確かに最後のシーンは、女店長の言い逃れは醜くも愚かだったが、予想通りでもあった。それはナチスのアイヒマン裁判と全く同じで、”命令に従ってやっただけだ、私に責任はない”と。つまり、こうした心理の下では、人は簡単に常軌を逸した行動をとる。
因みに、マクドナルドでは既に同じ様な事件があり、4件の訴訟を受けてたにも関わらず、店舗に報告を怠ってたという事で、マクドナルド側は被害者の女性店員とは110万ドルの損害賠償金で和解し、女性店長にも40万ドルの損害賠償を支払ったとされる。
但し、ニセ警官は逮捕はされたが、犯罪への関与を示す直接的な証拠がない為、この件では有罪を免れたが、幾つもの州で一連の事件の容疑をかけられている。
一方で、女店長の婚約者で(彼女の指示で)少女に性的な検査を強要した男は、性的暴行その他の罪で5年の刑に服した。事実、被害者を殴り、性行為にも及んでいた。
最後に〜服従の代償
コンプライアンスとは”法令遵守”を意味するが、映画「コンプライアンス」(2012)では法令が守られるどころか、セクハラも真っ青の不条理な事が平然と行われた。
日本でこの言葉が普及したのは、1990年代にバブルが崩壊し、不況に陥った日本では粉飾決算や不正融資など、企業の不祥事や不正が相次ぐ様になってからで、その後も企業の不祥事は続き、法改正などが行われ、2000年代半ばからコンプライアンスが注目される様になった。
映画の副題は「服従の心理」だが、”法令遵守”というよりはこの方が辻褄が合う。
つまり、会社の”規則に従いなさい”というよりかは、全て”会社の言いなりになれ”というものである。流石に”素っ裸になれ”とは明記されてはいないが・・・
被害にあった少女は2億ドルの、女店長は5千万ドルの賠償を求める裁判を起こしたが、結局は二人とも、僅か1/100以下の金額で妥協した事になる。
つまり、服従させる方も絶対的に悪いが、自ら進んで服従する方も(相対的にだが)悪いという事になる。
権力は当然悪いが、悪いと明確に分かっていながら、その権力に服従する事も愚かな行為である。
もし、(被害にあった少女はともかく)女店長が上司や警察を呼ぶという精神的ゆとりがあったなら、いや、(スキを見て)少女が逃げ出していれば、先日ブログにした「誤った二分法」に陥る事もなかったかもしれない。
人は追い詰められると、更に自分を追い詰めようとする。些細な事で自分を追い詰め、更に被害者意識が強くなる。
女店長とその婚約者の男の前で裸になリ、性的暴行を受けた事の代償が110万ドルとは、高いか安いは私にはわからないが、少なくとも服従した代償としては高くついた結果となった。
日本の”失われた20年”も、国民が自民党に服従した結果の代償である。
そして今、故安倍元首相の国葬という事で、更に多くの代償を国民は背負わされようとしている。しかし、メディアやジャーナリズムも含め、大半の日本人はダンマリである。
故安倍氏の巨悪を知り尽くしてるのに・・・である。
これも権力に対する、立派なコンプライアンス(法令遵守)と言えるのだろうか。
法治国家の日本がやがて放置国家になる時、民主主義は服従という名の奴隷制度に成り下がる・・・
こういう単純で初歩的な脅しにあった特は簡単に服従し、大きな代償を背負う事になります。
特に、日本人は権力に弱過ぎる凡庸な所があるから、今回の”国葬”にしても欧米なら大きな暴動になってるでしょう。
しかし日本では、騒ぎ立てる人は限られる。
フランス在住の日本女性なんか70代ですが、凄い剣幕ですよ。
それに比べると今の日本人は”ビュリタンのロバ”状態で本当に情けないんですが・・・
故安倍元首相もそうですが、国家元首にしてはオツムが弱過ぎたと思うんです。
プーチンにもトランプにも簡単に騙された。日本では裸の大将ですが、世界では”脅せばカネを出すABE”に過ぎなかった。
ただ映画を見てて残念に思ったのは、女店長は上司や警察に相談(連絡)すべきだったが、敢えて自ら選択肢を潰してしまった。
人生にはよくある事ですが、こんな映画でも色々と勉強になります。
高く付いた弁護士費用はマクドが支払ったとは思うけど
女店長の方はマクドをクビになリ、婚約者は有罪判決を受け、挙げ句は婚約を破棄し、弁護士費用を差し引くと大きな赤字でしょうし
実質の有罪判決と何ら変りはないですよね。
実際にあそこまで簡単に権力に服従すれば
一種の犯罪幇助というべきですよ。
記事のテーマにもありますが、権力に服従しすぎるのも高く付くということでしょうか。
結局は権威に加担したが故に、犠牲者となります。
犯人はこうした立場の弱い(店長などの)中間管理職をターゲットにし、かつ現場の若い売り子を間接的に脅し、自由自在に弄んだ。
何度も言ってますが、女店長がマクドの上司に電話してたら、なんて事はなかったんですよね。そこで犯罪はバレバレだし、事件は解決。
でももう一つ不思議なのが、なぜ被害者の少女が両親や友人に電話しなかったのか?店内に頼れる同僚らはいなかったのか?
脅しとは言っても、明らかに不可解で穏やかだったので、最初に異変に気づいてれば・・・
オレオレ詐欺と同じで、こんな単純な詐欺ほど人は簡単に引っかかるんですよね。
直感で物事を判断する事の危険性を思い知らされた気がします。