わざわざ録画をしてまで、高校野球日本代表の壮行試合を見た。確か録画といえば、松坂のメジャーデビュー戦以来か。とにかく、佐々木朗希投手(大船渡)を見てみたかった。
江川やイチローが評価するだけの事はあった。
彼には、球速を稼ぐ為の”力感”というものがない。脚を大きく振り上げ、タメを作る事なく、スムーズな全身連動の後に、腕を振ってハイ終わり。投げ終わった後の無駄な躍動すら無い。
163kの最高球速と50mを5.9秒で走り抜ける天賦の才とは、こういうものなのか。
細く見える精神面が少し心配だが、素材的にはダントツの高校No.1ではある。
飛びすぎるバットと貧相な打撃と
ただ、佐々木投手の圧巻の投球に比べ、打撃の方が貧相に見えた。金属バットの悪影響からか、皆が皆バットを長々と持ち、バカの一丁覚えの様に、下から振り上げてる様に見えた。
金属バットでは、どんなヘボな打ち方でも、当たりさえすれば飛ぶ。しかし、この日は国際規格の木のバットだ。芯で捉えた当りでも、外野の定位置にまですら届かない。
メジャーでは、”飛ぶボール”のお陰で、フライボール革命(要クリック)が主流だ。
猫も杓子も下から振り上げ、長打を量産するという雑な打撃スタイルが、日本にも上陸しつつある。そして決まった様に、野球少年もそれを真似る。
今年の夏の甲子園でも、その傾向は露骨だった。
今日は、”球数制限”と同様に、野球コラムでもしばし話題になる、”飛びすぎる”金属バットが抱える高校野球の、今そこにある危機を考えてみる。
1974年金属バットの導入で、本塁打が倍増した。その後も本塁打数は増え続け、2015年以降は、1試合当り0.802本にも達する。
つまり、金属バット導入以降、高校野球は”別物”になった。今、日本の高校野球は”ガラパゴス級”の危機にある。
それでもボールは飛ぶ
ラッキーゾーンを撤廃し(1991)、球場を広しくても本塁打が減る事はなかった。寧ろ、凄まじい勢いで増え続けてる。それだけ金属バットはよく飛ぶ。
そこで、2011年、高野連は金属バットの重さを900g以上に制限した。それでもボールは恐ろしくよく飛ぶ。
金属バット導入時、0.498本/1試合だったが、昨年は0.927本と殆ど倍に近い。そして、令和元年の今年は、48試合で48本。これは日本のプロ野球の本塁打率とほぼ同じだ。
数字はウソをつかない。飛び過ぎるバットの弊害は、確実に露呈し始め、高校野球そのものを侵食し続けてる。
国際大会で、格下の相手に負けるケースも増えてる。プロに入り、低反発の木のバットに馴染めなく、不発のまま球界を去る選手も多い。
それでも現場の監督は、筋トレの充実や打撃技術の進化を、一番の理由に挙げる。全てを自分の手柄にしたいのが、名物監督というゲスな人種の強欲だろうか。
一方、哀しい事故も多発する。打撃の際の打球速度が早すぎて、ヘルメットを被ってない野手の頭部や身体をもろに直撃する。150kで弾き出される打球は、高校生には危険すぎるのだ。
勿論、高校野球とて観て楽しむスポーツだ。大人しい展開よりも派手な展開の方が、メディアでも話題にもなるし、興味も引く。
特に野球を知らない人は、フライが上がるだけで狂喜乱舞する。だからどうしても、運営側や興行主は、打ち上げ花火の様な、見た目が派手な展開を期待する。
高校野球とはいっても、所詮は”見た目”なのだ。
フライボール革命と高校野球
そして、フライボール革命は高校生にまで飛び火する。
打者はより強く振るし、打撃スタイルは雑に淡白になる。甲子園で鳴らした稀有のスラッガーが、プロでは中距離ヒッターがやっと、というのも珍しくない。
甲子園で活躍したスーパー高校球児が、国際試合で結果が残せないのは、日程のせいではない。単に打てないのだ。
金属バットにより打撃の質が落ち込み、国際規格の木のバットでは、打てる球すら打てない。飛ぶ筈のボールが飛ばないという、笑えない悪循環を生み出してる。
事実、横浜DeNAの筒香も、木のバットに慣れるまでは苦労した。日本以外の国は、飛ぶ金属バットを止め、木のバットや低反発の金属バットに変え始めた。しかし、日本の高校だけが、未だに飛びすぎる金属バットだ。
”甲子園には魔物が住む”と言われる。野球にもホームランという幻想が棲み着いてる。
野球少年の、ホームランへの純朴なる飽くなき妄想が、飛びすぎる金属バットを生みだし、高校野球を死滅させるとすれば、これ程悲しい事もない。
今すぐ金属バットを禁止すべきだ。
一時は追いつかれそうになりましたが、後半大きく引き離す辺りは、打撃が本物になってきた証拠。
初戦や二回戦は、もろに金属バットの悪影響が出ててとても心配でしたが。
実力的にみて、U18ジャパンは世界一の筈なんですが。高野連も金属バットを廃止し、安い木製のリサイクルバットの活用も考えた方がいいと思う。
”指2本短くコンパクトに反対方向”との監督のアドバイスが生んだ、打撃復活です。今日の台湾戦も一気に行きましょう。