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象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

女優は性格で、映画は質感で決まる〜映画「悪の偶像」と「死を告げる女」

2025年02月03日 04時40分18秒 | 映画&ドラマ

 「死を告げる女」(2022)で奇怪なキャスター役を演じた中堅女優のチョン・ウヒに惹かれ、彼女が出演した「悪の偶像」をアマプラで立て続けに見る。
 まず前者では、苦労して掴んだメインキャスターの座は誰にも渡さないと、ライバルらを次々と蹴落とすも、実は娘は解離性同一症を患い、母はアル中で心はボロボロであった。
 サイコ系ホラー映画との触れ込みだが、母娘の愛情と憎悪が入り混じった、悲しくも皮肉なヒューマンミステリーでもある。
 実は、母は娘を生んだ事で、キャスターになる夢を閉ざされるが、その無念さと鬱憤を娘をキャスターに育てる事で晴らそうとする。

 と、ここまではよくある度が過ぎた教育ママの物語だが、母の徹底した教育と彼女の影響力でキャスターの座に上り詰めた途端、小さい頃に虐待され続けていた娘の逆襲が始まる。
 今や娘にとっては用無しとなったアル中の母親だが、(都合のいい事に)娘は解離性同一症を患い、母親の破壊された人格に深く入り込み、母を自殺に追い込む。が、自らの凡ミスで若手女子アナにキャスターの座を奪われ、我を失った彼女は若いライバル女のお腹を突き刺してしまう。
 若い女は何とか一命を取り止め、自殺を図った彼女は自身もお腹の子供も無事だったが、犯罪者として退職する事になる。
 多重人格もののスリラーとも言えるが、オープニングの脅迫電話が全くの余計だった。折角の秀作ミステリーが最初の一歩で台無しになるという、典型の消化不良的作品とも言える。


「悪の偶像」(2020)

 続けて見た作品は、ロングドライブだけあり、最初から最後まで充実してはいた。
 知事を目指す市会議員ミョンフェ(ハン・ソッキュ)の息子ヨハンはある日、飲酒運転で人をはねて死なせてしまう。しかも、死なせた相手を車のトランクに入れ、自宅まで連れてきてしまう。息子が死刑になるのと自分の政治生命が終わる事を免れる為に、偽装工作をするミョンフェだが・・・
 新婚旅行中だった息子が死んだ事でミョンフェを激しく責め立てるジュンシク(ソル・ギョング)だが、監視カメラに残った画像から不信を抱き、事件の真相究明に乗り出していく。
 ひき逃げの被害者と加害者の父の葛藤という単純な構図ではなく、ここに朝鮮族の不法滞在者の女リョナ(チョン・ウヒ)が絡んでくる。
 彼女こそが轢死したジュンシクの息子の妻で、女にとっては韓国で生きる為に、偽の結婚契約書が必要だったのだ。つまり、死んだ旦那は偽装結婚の2度目の相手で、1度目の相手は交通事故の場面を目撃されたが故に、殺害の標的となっていた。

 一方で、お腹の子が前の旦那の子である事がバレたが故に、女は2度目の旦那を走ってくる車へと突き飛ばし、殺してしまう。実は、ジュンシクは息子にパイプカットを施し、リョナのお腹の子が息子の子でない事を知っていたのだ。
 つまり、リョナは殺害の罪をミュンフェの息子に被せたのだろう。更に言えば、風俗嬢として生計を立てる彼女は、客であるミュンフェの素性を知っていた。故に、ミュンフェは女を探し出し、椅子に縛り付け、”善良に生きろ”と諭し、殺害をやめる。
 九死に一生を得たリョナだったが、姉夫婦を殺し、その生首を持ち歩く中国人の殺し屋に命を狙われるも、返り討ちに合わせ殺してしまう。が、逃げる途中でお腹の子を死産する。

 リョナは今や家族も子供も失い、周りの全てを破壊する凶気の殺人鬼と化しつつあった。更に、様々な悪の修羅場を知り尽くした女は、聖人面し、所詮は悪徳政治家に過ぎないミュンフェが”悪の偶像”である事も見抜いていた。
 一方で、哀れなリョナを救う為にミュンフェと不条理な取引をし、息子の死後は彼女を家族の1人と認めたジュンシクだったが、ここに来て全てが崩壊する。
 つまり、リョナは全てを失った狂った殺人鬼に過ぎず、ミュンフェは悪の偶像に過ぎなかった。そして、ジュンシクは国家の英雄である将軍の偶像を破壊するというテロ行為に走る。
 最後は、この3人の悪の偶像が1つの点で交わる所で幕を下ろすが、リョナに両親と家族を殺され、自身もガス爆発で殺されかけたミュンフェだが、顔半分が焼けタダレただけで何とか生き延びる。その後、声を荒げて支持者の前で演説するシーンは、悪の偶像と言うより哀れな偶像にも思えた。


見終えて・・

 確かに、見る人によっては唯でさえ複雑怪奇な展開が微妙に異なって映る訳だが、ここまでややこしくする必要がどこにあるのだろうか?実際、ネタバレを書く途中でウンザリする部分が多々あった。
 事実、ミュンフェが息子の事故を起こした車と遺体を偽装工作をするシーンはとても曖昧に映ったし、ミュンフェの息子がジュンシクの息子をハネたのか?リョナが突き飛ばして殺したのか?これまた曖昧なままで幕を下ろした。
 更に、ミュンフェとリョナの性的関係も明らかにされず仕舞いで、その他、余りに多くのフラグを張り巡らせたお陰で、その多くが回収できずに、濃密な筈の奇怪な物語は幕を閉じる。

 故に、極論を言えば、不法脱北者で偽装結婚と殺人を繰り返すリョナと、表向きは原発反対論者で正義の議員であるミュンフェとの1対1のシンプルな対決の構図でも良かった。
 ”悪の偶像”をタイトルにするからには、悪と悪に翻弄される正義の偶像に最後まで拘るべきだった。だが、そんな致命的欠点をチョン・ウヒの奇抜で深淵な演技が救った形となる。勿論、ハン・ソッキュもソル・ギョングも悪を演じてはいたが、偶像にまでは至らなかった。

 そういう意味で残念な終わり方ではあるが、終始チョン・ウヒの存在ばかりが目立った作品でもある。
 但し、年齢的にも美形と呼ぶには、彼女も峠を過ぎた感があるが、それを補って余りある彼女の個性と質感に、私の心は鷲掴みにされてしまったようだ。


追記〜殺人鬼は俺がフルボコにする

 更に2作を追加です。
 先ずは「隣人」ですが、ホラーとミステリーとアクションが融合した様な作品で、見てて少し怖くもあったが爽快感すら覚えた。
 こういう所は、アクション俳優として飛ぶ鳥を落とす勢いのマ・ドンソクだが、若き日のオラオラ系のチンピラ高利貸を演じる颯爽とした演技も、実に懐かしく頼もしくも映る。
 一方で、最近越してきたばかりの元船乗りで、人を殺しては居場所をコロコロ変えるという設定の怪しげな男だが、人を殺すと決まってピザを頼む。
 ここら辺の展開はコミックを原作にしてるだけあり、非常にユーモラスにも映るが、こうした奇怪な趣味がきっかけになり、犯人の実像が少しずつ暴かれていく。


「隣人」(2012)

 船乗り男はまず最初に、同じ団地内に住む女子中学生のヨソンを英会話塾の帰りに拉致し、部屋に連れ込み、バラバラにして殺害する。
 殺された筈の彼女だが、その後の10日間、毎晩の様にずぶ濡れで泥まみれになりながら、何も言わずに自分の部屋を訪れる。
 一方、義母のギョンヒは毎晩の如く訪れる娘のお化けに悩まされる。が、あの時、仕事を理由に向かえに行かなかった自分を深く後悔する。

 最初の殺人に味をしめた船乗り男だが、殺人の証拠を偶然見つけた団地の(昼の部の)管理人を殺してしまう。
 お陰で、夜の部の管理人が昼の部を継ぐ訳だが、この人もまた殺人罪で服役し、出所後にはこの団地の管理人として働いていた。
 因みに、時効まで残り5ヶ月という訳有の男だったが、殺人犯の心理をよく知る彼も、殺人鬼の部屋に殺害された遺体の一部(髪の毛)を発見していたのだ。
 殺人鬼はバラバラに切断した死体を運ぶ為のトランクを他人名義の小切手で買う。かばん屋の店主は当然、疑惑の念を抱く。

 以上より、ピザ屋の店員と訳有の管理人、それにカバン屋の主人の3人は、この厄介な殺人鬼が団地内にいる事を悟ってしまう。
 次第に、その本性が顕になる殺人鬼だが、ある日、オラオラ男の駐車スペースに車を停めてしまう。高利貸しの男は殺人鬼をフルボコにし、”今度舐めた真似しやがったら殺す”と脅す。
 イライラ度が最高潮に達した殺人鬼は、自分の携帯をトランクの中に閉じ込めるという失態を犯し、自分の秘密を知りつつあるカバン屋の主人を拉致する。当初から慎重に綿密に逃亡を企てるつもりだったが、今や自暴自棄になり、自分に関わった人間の皆殺し計画を立てるという暴挙を犯すのだが・・
 更に、オラオラ男を連続殺人の容疑者にしようと、ある策を講じた。が、人のいい単細胞のチンピラはまんまと引っ掛かり、警察に出頭する羽目となる。

 男は無実を必死で証明しようとする一方で、殺人鬼は車で(ヨソンと瓜二つの)別の女子中学生のスヨンを尾行し、同じ手口で襲おうとするが、今度はギョンヒが立ちはだかる。
 同じ悲劇は2度と繰り返してはならぬのだ。
 計画がバレて、殺人鬼は自宅に戻るのだが、そこには怒り心頭のオラオラ男が待ち構えていた。”俺をハメやがって”と殺人鬼を3度フルボコにすると、男は脱力したかの様に床にしゃがみ込み、”あの女が毎晩の様にやってくるんだ”と意味不明な独り言を漏らす。
 そこに管理人が押しかけ、過去に自分の同僚を殺した悪夢を追い払おうと、殺人鬼を鈍器で殴り殺す。つまり、目の前の殺人鬼が自分に思えたのだ。


オラオラ男とマ・ドンソク

 こうした最初から殺人鬼の存在が明らかであり、散らばれた伏線も明瞭明快で、安心して展開を追う事が出来る。が一方で、連続殺人鬼の曖昧で微妙なオーラがとても不気味に映る。意外にも思えるが、観る側はこっちの方がずっと怖い。
 それに展開は非常にシンプルだが、俳優陣の演技が深く、上質に映る。サスペンス映画においてはまだまだ日本は大きく差を就けられている。また、そう思わせる作品でもあった。

 一方で、殺人犯の奇怪なオーラを払拭するかの様に、オラオラ男が殺人鬼を赤子を弄ぶ様に吹っ飛ばす。特に、殺人鬼が刃物を構え、”俺は人殺しだ。お前も殺してやる”と凄む瞬間に、前蹴り一閃で男をぶっ飛ばすシーンは、爽快以外の何ものでもない。
 さすがヤクザだけあり、刃物を構えられても微塵たりとも動じない。
 勿論、映画の中だから出来る事だが、刃物を突きつけられそうになった経験がある私には、マ・ドンソクの力技は実に参考になる。

 確かに、猟奇殺人も含め、頭が狂った殺人鬼は、オラオラ男みたいな単純な肉弾系が有効なのかもしれない。


「ザ・ファイブ~選ばれた復讐者」(2014)

 こちらの作品は、殺人鬼と言うより、殺人鬼に娘と旦那を殺された女性の復讐劇に焦点を絞ったものだ。が、この作品でもマ・ドンソクが活躍する。イケメン相手の殺人鬼にフルボコとまでは行かないが、悪戦苦闘しながらも熱い演技をしていた。
 Amazonレヴューが3.5/5とイマイチで、復讐に選ばれたメンバー4人の”脇が甘い”と言われればそれまでだが、現実には素人がプロの殺し屋に敵う筈もない。
 確かに、肝心な所ではメンバーらのもたつきが目立ったものの、登場する俳優陣は濃密な演技を披露し、緊迫感や緊張感が削がれる事もなかった。

 日本だと、こうした猟奇系サスペンスはヒーローやアイドル寄りに傾くが、この作品も含め韓国の映画界には、シリアスの王道を愚直なまでに貫く、ある種の美学が存在する様に思えた。
 特に、悲劇の主人公を演じるキム・ソナさんは美人で可愛いのに、終始微笑む事はなかったが、それでもとても魅惑的に映る。改めて、韓国女優の実力の高さを思い知った。

 とにかく、韓国映画にはハズレがない。政府の分厚いバックアップもあろうが、それ以上濃密な役者魂がしっかりと定着してる様にも思える。
 珍しく4作品を纏めて紹介しましたが、どれも秀作揃いで、一気に見入ってしまった。
 韓国の俳優さんは男も女も美形が多く、其々に個性豊かで、演技も濃くて深い。
 という事で・・・

 


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