象が転んだ

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望月教授とタイヒミュラー理論〜ABC予想の完全証明へ向けて

2020年04月10日 05時27分18秒 | 数学のお話

 今日は”ABC予想が証明された”の後半を書く予定でしたが。UNICORNさんからの京都大学数理解析研究所のHPの紹介コメントを見て、望月新一教授「IUT理論」についてほんの少しですが、突っ込んで述べようと思います。
 大きな驚きと発見なんですが、望月教授がやってる事は、まさにアーベルやリーマンが追いかけた”スケッチ”そのものなんですね。


IUT理論とディオファントス幾何

 1990年代の望月教授の研究の殆どは、「P進タイヒミューラー理論」「P進遠アーベル幾何」「楕円曲線のホッジ•アラケロフ理論」の3つのテーマでした。しかし2000年以降は、「絶対P進遠アーベル幾何」と「組合せ論的遠アーベル幾何」を中心に、上の3つのテーマの相互作用や融合に関心の対象が移ります。
  特に、有限体上の双曲的曲線と数体の間の古典的な類似の延長線上にあるものとして、「P進タイヒミューラー理論」にヒントを得た形で、「P進遠アーベル幾何」の延長線上にある「絶対P進遠アーベル幾何」と「組合せ論的遠アーベル幾何」を用い、「楕円曲線のホッジ•アラケロフ理論」をスキーム論の枠組みに収まらない幾何の下で再定式化しました。
 そしてこれにより、「宇宙際タイヒミューラー理論」を構築する事が大きな目標となったとされます。

 この「宇宙際タイヒミューラー(IUT)理論」とは、”数体に対する一種の数論的なタイヒミューラー理論”の事で、この「IUT理論」に関する4篇(500頁)からなる望月教授の論文は2012年8月、プレプリントとして公開されました。
 論文の内容を一言で総括すると、数体上の楕円曲線に付随するテータ関数の値や、その周辺にある数論的次数の理論を”絶対遠アーベ ル幾何”等を用いて(比較的軽微な不定性を除いて)、異なる環論にも通用する様な形で記述する事により、ディオファントス幾何的な不等式を帰結する事であると。

 かなりややこしい抽象的な説明ですが、”ディオファントス幾何”とは、幾何学を使って(不定)方程式の整数解を調べる事で、アレクサンドリアの数学者ディオファントスが不定方程式(整数係数の代数方程式)に関する多くの問題を考察した事から由来する。
 楕円曲線も不定方程式の一種ですが、「ABC予想」が整数論を楕円曲線に帰着させ、証明を得るという点において、楕円曲線(テータ関数)を起点とする「IUT理論」の途中に「ABC予想」が存在する事が解ります。
 つまり、”弱いIUT理論こそがABC予想”と言えるかもですね。

 「パリの論文」(1826)の中で、アーベル関数(積分)の途中に楕円関数(積分)が発見された様に、丁度リーマンが、ゼータ関数(=オイラー積)から始まり、テータ関数による解析接続を駆使し、リーマン予想(1859)に繋げ、素数公式(強い素数定理)を確立した様に。
 望月教授もまた、テータ関数(楕円曲線)を起点とし、遠アーベル幾何を駆使し、ABC予想に繋げ、その先のIUT理論の構築に挑んだ。
 何だかそう思うだけで、ワクワクすると同時に、背中に寒気がします。


ホッジ•アラケロフ理論

 数体や局所体、或いは有限体(アーベル多様体)の上で定義された楕円曲線は、数論幾何の中でも中心的な研究対象の一つで、その研究は20世紀初頭まで遡ります。
 因みに、ここで言う楕円曲線とは楕円そのものではなく、楕円関数に関する代数曲線の事です。勘違いしないようです。
 特に、その様な楕円曲線の等分点へのガロア群の作用や楕円曲線の上で定義されるテータ関数は、楕円曲線の数論幾何の研究においては重要なテーマです。
 ここで”等分点”とありますが、ガウスやアーベルの等分理論でも有名ですね。
 一方、 種数が2以上の代数曲線をはじめとする双曲的な代数曲線の数論幾何は、比較的最近まで余り熱心に研究されてこなかった。

 特に双曲的代数曲線の場合、非アーベルな基本群への基礎体の絶対ガロア群の外作用は、楕円曲線の等分点へのガロア群の作用の”双曲的な類似物”と見る事ができ、双曲的代数曲線の数論幾何の出発点となります。
 因みに、双曲的代数曲線とは多項式で定義される幾何学的な対象の中で、上半平面で一意化され、リーマン面に対応するものですが。双曲的なリーマン面と同様に、双曲的代数曲線の研究では、基本群及び基本群へのガロア群の作用が重要な役割を果たすとある。

 この双曲的代数曲線の研究は1980年代後半の伊原康隆の仕事以降、日本の数論幾何において、特に数理解析研究所を中心に重要な研究テーマの一つとなります。
 1990年代半ばに得られた”遠アーベル幾何”の様々な結果も、この文脈の中で興ったものですね。
 また1990年代の後半以降、”一点抜き”楕円曲線の上で定義されたテータ関数を、従来の”アーベル系”の視点とは決定的に異なる”遠アーベル的”な視点で扱う「ホッジ•アラケロフ理論」の研究も大きく進展します。

 つまり判り易く言えば、テータ関数(楕円曲線)を”遠アーベル的”な視点で扱う「ホッジ•アラケロフ理論」が大きく進化し、「IUT理論」に寄与したと言えます。
 遠アーベル幾何からP進アーベル幾何なんて、ゼータ関数の拡張と同じ流れですね。
タイヒミュラー幾何からP進タイヒミュラーに、テータ関数におけるホッジ•アラケロフ理論の寄与なんて何だか出来過ぎの感がします。
 因みに、”P進”に関しては”リーマン1の9””1の9補足”も参照です。

 この様に、「IUT理論」に登場する定理や法則をざっと並べただけでも、アーベル、ヤコビ、ガロア、リーマンの名前がさらっと思い浮かびます。
 つまり、望月教授が目指す「IUT理論」とは、19世紀の偉大な数学者の奇抜で独創的なスケッチの上で成り立つ、異次元の夢の”数体論”なんでしょうか。
 リーマン予想が”数学を超えた”と称されるように、望月教授のIUT理論上のスケッチも”現代数学を大きく超えてる”のかもしれません。
 

スピロ予想とABC予想とフェルマーの定理

 元々、この「ABC予想」の多項式バージョンの「メーソン=ストーサーズ定理」が、1981年にウィリアム•ストーサーズによって証明されてますが、整数は多項式と違い、微分ができないなど情報量が少ないので、証明は困難とされてきました。

 ”強いスピロ予想こそがABC予想”ですが。「ABC予想」の大まかな流れとしては、「フェルマーの定理」の証明と同じく、整数論を楕円曲線y²=x(x-a)(x+b)に帰着させるもので、元々ABC予想はフェルマー予想を証明する為に出てきたと言ってもいい。
 故に、ABC予想が証明出来れば、フェルマーの定理は簡単に証明出来ます。
 実際にこのABC予想で、3つの互いに素な自然数(a,b,c)の素因数の積をK(ε){rad(abc)}とする時、ε=1、K(1)=1とすれば、フェルマー予想を証明できるんですね。
 つまり、「ABC予想」は、楕円曲線(楕円積分に関連する代数曲線で、y²=xの3次式)に関する「スピロ予想」の延長線上にある為、「ABC予想」が証明されれば「スピロ予想」も証明されると。

 前述のストーサーズが証明した多項式と違い、整数の場合は微分ができないので、微分の代りに、数論的変形理論である”一元体上の小平•スペンサー写像”として構成するというアプローチをとるんですが、望月教授はこの説明に数百ページを使ってます。
 更に、この”一元体”を考える絶対数学や双曲空間のモジュラー群や保型形式、ワイエルシュトラウスの”ペー楕円関数”のアイゼンシュタイン級数表記、宇宙際幾何(IUG)などを説明する必要があるのですが、望月教授はそれを僅か1000文字で書いてます。これは人間離れした神業です。

 超難解な専門用語のオンパレードで頭が混乱しつつも、書く程に知る程に望月氏のファンなりそうな勢いです。いや、それとも”宇宙的タイヒミュラー熱”に魘されてるだけなのだろうか。

 理解を超えた誤解なのか?誤解を超えた理解なのか?本当の勝負はこれからだ。



10 コメント

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こう纏めてきますか (UNICORN)
2020-04-10 07:44:36
P進とか遠アーベル幾何とかテータ関数とか出てくるけど、結局は数体論→幾何学→代数学の流れで進むんだ。
パリの論文やリーマン論文との比較も面白かった。

知れば知る程に混乱するけど、この混乱度の高さがIUT理論の分厚い壁となって立ちはだかってる。後は世界がどう理解し譲歩してくれるかだろう。
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無能の証明 (#114)
2020-04-10 09:34:57
今のままの勢いで行けば
接待を伴う飲食業は壊滅するな
コロナ騒動の前から飲食店の倒産は
過去最高と予測されていた
参入のハードルが低い接待業系は
感染の高リスクを恐れ
客足が一気に減ったとされる
これも自然淘汰というか
適者生存というべきか

ABC予想と同じで
査読と検証は完全証明には必須だ
日本政府はこの査読と検証に相当する
検査と隔離が殆ど進んでない
つまり世界のメディアが非難する様に
東京都は一気に爆発感染が起き
日本列島は壊滅する

そんな今になっても安倍は
最悪になっても責任を取ればいいって
いう問題ではないと言い放つ
逃げ逃げの姿勢が見え見えなんだ
結果オーライで上手く凌げばって
呑気で甘い事ばかり考えてんだ

安倍は全てにおいてそうなんだよ
北方領土問題も拉致問題も
最初から投げ鉢だったな
その代り、世界中に金をばら撒き
今になってそのツケが来てんだ
金が無いから、検査も隔離も
具体的な対策も出来ないでいる
全てはお天道様任せなのよ

安倍が無能である事が
世界中で証明されたようなものだ
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コロナウイルスも (HooRoo)
2020-04-10 10:21:54
望月教授の論文を見れば、一気に死滅しそうなほどの難解さよ
P進という言葉を聞いただけで背中向けたいほどよ。でも望月教授がアーベルやリーマンの歩んだ道と同じような道をたどってるというのも(^^♪

アベはイロイロ言わてるけど、バカと無能は叩いても治らないわ👋
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ABC理論の完全証明 (paulkuroneko)
2020-04-10 10:49:24
ピーター・ショルツ教授(独)は”この証明に欠陥がある”と否定をし、望月新一教授と議論をしますが話は平行線のままでした。18年3月にも二人は京都で議論を交わしますが結局もの別れに終わります。

望月教授の論文としては、「P進的手法によるグロタンディークの遠アーベル幾何予想の解決など双曲的代数曲線の数論幾何学に関する研究」(1997年)、「宇宙際タイヒミューラー(英語版)理論の検証」(2012年)、「ABC予想」(2012年)などが挙げられてますが、タイトルを見ただけでも頭が混乱しそうです。

それ例外にも、”遠アーベル幾何”や”楕円曲線のホッジ・アラケロフ理論の別証明”、それに”小平・スペンサーの変形理論”や”Hurwitzスキームのコンパクト化”、”crys-stable-bundleの構成”、”数論的log-Scheme圏論的表示の構成”、”宇宙際幾何の構築”など気の遠くなるような理論の結集です。

望月教授のIUT理論は20年以上一人で取り組んだ独力で構築した理論です。故に誤解も多く、ハードルも高いんですね。
しかしリーマンの論文と同じく、望月教授が編み出した数多くの理論が証明されない限り、ABC予想の完全証明にはならないんでしょうか。
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Unknown (lemonwater2017)
2020-04-10 14:37:09
UNICORNさん。象が転んだです。

1つ1つの理論を調べれば、一応は繋がってる事は理解できるんですが。あまりにも複雑多岐に渡りすぎて、理解が追いつかないというのが現状でしょうか。

1859年のリーマンの論文は、僅か6ページで、3つの新たな定義と4つの証明、そして”リーマン予想”の8つの要素で成り立ってました。アダマールの存在が大きく、リーマン予想以外は全て証明されました。
アーベルのパリの論文(1826)は、ガウスとヤコビを覗いては当時どんな数学者でも理解できなかった程ですが。パリの論文と同じテーマで、対象を超楕円積分に限定し、僅か2頁の遺作を発表したお陰で、多くの数学者の理解を得る事が出来ました。

そういう意味においては、お互いの歩み寄りを促す為の「PRIMS」誌への掲載と思いたいです。
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Unknown (lemonwater2017)
2020-04-10 14:38:35
#114さん、象が転んだです。
ほんと安倍はふざけてますね。
こんなバカが日本国の主だとは?
これじゃ太平洋戦争時の無謀で無策な日本陸軍に逆戻りです。
”陸の三馬鹿”がいましたが、安倍も含め、”陸の四馬鹿”ですよ。
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Unknown (lemonwater2017)
2020-04-10 14:42:30
Hoo嬢へ、象が転んだです。
IUT理論でコロナ撃退とは行かないんですかね。
ABC予想が解けたら、全てのウイルスを駆除できるとか。
数学の超難解な理論が医療関係にも応用される事を願いたいです。
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Unknown (lemonwater2017)
2020-04-10 14:46:30
paulさん、象が転んだです。

ABC予想の証明には、一体どれ程の多くの理論が必要なんでしょうか?
望月教授は”根本的に誤解してる”と、シュツルツ教授ともの別れしたらしいですが。IUT理論とは根本的に数学と離れた世界もあり、その数学と離れた世界をどう数学的に理解するのか。
単に理解できないから証明できないじゃ悲しいし、相手に理解できるように証明の見通しを明るくするのも重要ですね。

そういう意味ではアーベルはずば抜けてたと思います。リーマンの論文も結構混乱した部分もありますが、構造自体は非常にシンプルだっただけに、余計な誤解を受けずに済んだのかもしれません。
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下町ロケット佃製作所 (財務のプログラマー)
2023-12-11 20:19:21
そんなことより巷のビジネススクールで流行っているKPI競合モデルのほうが金になりそうな気がするな。工学分野のストライベック線図から経済学の国富論まで説明できる分野横断的全体最適化理論だということだ。
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Unknown (象が転んだ)
2023-12-12 03:57:43
確かに・・
数学はカネにはなりませんものね。
コメントどうもです。
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