彼はお弟子さんたちと、カラオケをして楽しむのが、大きな生き甲斐である。
プロの歌を聞くよりは、素人同士がちょっと下手に歌い合う方が、よっぽど楽しいらしく、うきうきしてしまうとか。
ただし、その時には一つの決まり事がある。
友だちが歌っているのを聞かないで、べらべら喋っている者からは、千円の罰金を取るのだ。
歌が上手ならともかく、あまり得意でない人が、小さな声で恐る恐る遠慮しているのに、タバコを吹かしながら、お菓子を片手に、大声でべらべらと喋り回り、時々下品に笑いこけてる奴は許さんッと。
どんなに音痴な歌でも、みんなで手を打って身を乗り出して聞いて差し上げ、終わったら大拍手をしてやる…。
これが「仁」のカラオケだ。
「仁・礼」の行いを、改まった場所でだけ形式的にするのは、一体何の徳になるであろう。
「仁・礼」の行為は、いつでもどこでもだ。
「人にして不仁ならば、楽を如何にせん」ーー人は無礼になると、手を繋いで悩みの無い人生を、楽しく送れなくなってしまう。
礼の作法というのは、決してお茶室の中で行っている様な、厳格な作法ばかりではない。
正しい作法も大事だが、礼の要点は人を敬する心である。
礼のキチンとした作法をなぜ習得するかというと、普段の生活の中で常に人を敬う心が、実修出来る様にする為である。
大事なのは日常だ。
普段の生活の中では、あまり仰々しい作法を受けるよりは、笑顔の中で明るい挨拶を受けた方がよい。
敬する心が無いのに、大袈裟な形だけの礼を受けたら、逃げ出したくなる。