地球の裏からまじめな話~頑張れ日本

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日本電子(JEOL)のアルパイン円CBに関して

2005-07-07 03:09:20 | CB教室
またまた間が空いてしまってすまんすまん。どうもこの頃熱くなるような話題が無いのでつい書きそびれてしまう。
普段の私の様子は拙日記にて(笑)。
あるいはもしこれをお読みになっていらっしゃる方で疑問に思うことなどあれば遠慮なくコメント欄に書き込み頂ければ、私の出来る範囲でそれに関しての考察を述べさせて頂こうと思うので、よろしくお願いします。

さて、本日久々にスイス市場にて新発の転換社債がローンチしたのでそれについて書いてみる。
銘柄は『日本電子(コード6951)』、英名は『JEOL』。
これは三菱証券ロンドンの支店のチューリッヒ支店が形の上で主幹事になっているが、事実上すべてはロンドンにてハンドルされるはずだ。
このように他社幹事の起債があった場合、我々はどのようなことをチェックするのか等をざっくばらんに書く。
ちなみに自分の会社が主幹事の場合は、私の立場ではやはりその当日までこのニュースを知ることが出来ない。引き受け部隊と我々セカンダリー部隊(いわゆる普段の市場に向き合っている人間)の間には厳然とした壁、チャイニーズウォールと呼ばれるものが存在する。
普段マーケットに向き合っている人間が、ある会社のファイナンス情報を事前に知ってしまうとこれはインサイダー規制に抵触する。
転換社債の場合は当然そのダイリューション等の影響が株価に出るので、かなりまずいのである。
事前にそのニュースを知りえれば、例えば空売りを仕掛けられるし、そしてそんなことを本当にやっちゃったら間違いなく後ろに手が回る。

さて、本日のこの日本電子の条件等を見ていこう。

(発行総額)60億円

(満期)2009年7月24日のゼロクーポン

(社債の発行価格)額面金額の100%、額面金額100万円

(払い込み期日及び発行日)2005年7月25日(スイス時間)

(募集価額)額面金額の102.5%

(転換価格の下方修正)06年7月31日及び07年7月30日の2回で最大80%まで

(予約権の行使請求期間)05年8月8日~09年7月10日

(繰上償還)130%CALLオプション、08年7月25日~09年7月23日まで

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上記が我々がまず目を通して頭に叩き込むべき情報である。この他に様々なことが書いてあるのだが、最低限まずはこれだけがマーケットに一斉に出回る。
満期からこのCBは4年債と言うことが分かる。
そして混乱しやすいのが、発行価格100%に対して募集価格は102.5%と言うところだが、これは、起債社であるJEOLが受け取る金額が100%x60億円で、102.5%とはこのCBのいわばスタート値段、つまり投資家に販売する時の基準となる値段がこれである、と言うことだ。
つまり簡単に考えればこの差の2・5%は三菱が受け取る手数料となる。
昔は100-100で、この場合は起債社はそこから約2.5を引いた97.5%x総額、を受け取っていた。

さて払い込み及び発行日が7月25日、つまり今日これを買っても明日買っても、その払込日は25日、と言うことである。
発行日と言うものの言い方にはあまり意味は無いと考えてよい。

さて下方修正条項が付いているが、あのライブドアやフジテレビと違って、こちらは4年満期中にチャンスは2回しかない。転換価格をその時点で下回っていれば下方修正されるが、その最大幅は当初転換価格から比べて8掛けまでにしか下がらない。つまり1回目ですでに80%まで修正されてしまったら、もう2回目の下方修正は無効になる。

130%CALL条項。
これは定められた期間中(この場合は08年7月25日~09年7月23日)に、このCBの理論価格(すなわちパリティー)が連続して30営業日130%を超えた場合、このCBを起債社はその後の通知期間を経て、100で償還できる、と言うものである。
つまりパリティーが130を超えてきたらどんどんホルダーは転換していかないと、この条項に引っかかってしまう恐れがある、と言うことだ。
ただし、実際これを発動する時には、ほとんどすべてが転換されてしまっているので(私も何度か経験したが)、この条項を満たしても事実上起債社が100で強制償還すると言う場面に出くわした事は無い。起債社としてもこれですべて転換してもらった方が話は早いのである。

さて本日スイス時間の朝、東京時間の引け後にこの起債がJEOL社内の取締役会で正式に承認されて、そして報道されて我々の耳に届く。
この条件を(特に在ヨーロッパの)投資家が知った時点で、各投資家はその内容やらを検討し、三菱に自分が買いたい金額を提示して申し込みに行く。
三菱側はその需要を積み上げて、日本時間の本日中(夜中の12時まで)にJEOLに投げかけ、そしてそこで大切な条件を決定する。
転換価格である。
本日のJEOLの東証終値は609円。ここにどれほどのプレミアムが乗っかって来るのか(アップ率とかコンバーション・プレミアム、とか呼ばれる。)?
これが決まらないとすべての計算が出来ないので、投資家はある程度の予測をしながら注文を出す。
投資家によっては、プレミアムが10%以内で決まるのならいくら、20%以内だったらいくら、と言う形で注文を出すこともある。

そして本日スイス時間午後、決定した。
転換価格は、655円、アップ率7.55%となった。
と言うことは、本日におけるこのCBの理論価格すなわちパリティーは、
609/655=92.97 と計算されることになる。

ちなみにこのJEOLの時価総額は大体483億円、この60億のCBに伴うダイリューションは、
約12.4%と計算され、これは極めて妥当な水準であると言える。
ちなみにこの会社、前回もスイスでCBを起債している。前回は70億円で、満期が今年の9月30日に来るが、実はこれはほとんど転換されて現在の残存は100万円しか無いようだ。
私が前の会社に居た時、このCBのマーケットメイクをやっており、この銘柄では結構稼がせていただいた記憶がある。

私はこの手の、自分の守備範囲のCBが出るとファイナンス系の掲示板を見に行く。
このJEOLも今日何回も見に行った。
この株に対する、書き込んでいる方々の知識は相当なものがあると思う。特にこの会社、製造しているものが、電子顕微鏡やX線解析・光電子分光装置等、かなり高等な技術を要しそうなものばかりで、この株に投資されてかつ掲示板に書き込まれている方々のそれらに対する知識は半端じゃない。下手なアナリストよりよっぽど詳しいと言ってもよい。
しかしながらいつも思うのは、この投資対象会社のファイナンスについての知識がもうひとつなのである。
その辺に関しては結構な数の憶測めいた書き込みが目立ち、かつそれらはどうも的を得ていない。
投資対象企業のファイナンスはダイレクトに株価に響いてくるものであるので、どうか皆さんも是非正確な知識を身に付けて頂きたい。