地球の裏からまじめな話~頑張れ日本

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CBに関する質問とそれに対する回答

2005-07-09 20:28:53 | CB教室
さる掲示板にて直近に発行されたCBに絡んでいくつかの質問に対する回答を書くように依頼されたのでここにて書いてみる。
極めて一般的かつ今後CBに対する知識をより一層深めていただくには非常に良いチャンスなので逐次回答を載せて行きたいと思う。

<無利子の転換社債とは>
文字通りクーポンゼロのCBのことであり、このCBの投資家はクーポン収入を得ることはあり得ない。
仮にこのCBの購入時に手数料を払うとすれば、満期償還を迎えた場合にはその手数料分だけ投資家は損をすることになる。
また近頃のCBは発行価格100に対して当初の募集価格を102.50程度に設定することが多く、ゆえに当初の募集価格で買えば償還時にさらに2.5ポイントのキャピタルロスが発生する。
しかしながら個人投資家に限って言えば、CBの値動きは常に100以上とは限らず、例えばパー割れ(100割れ)となって、仮にCBが98とかと言う値段の時に買うことが出来れば、それは償還時にキャピタルゲインを得ることが出来る。一種の割引債券的感覚である。

ではそのようなCBを個人投資家が買う意味とは何か?
これはCBの特性である、株式的側面とは違う面の債券的側面に関わると思われる。
通常原株が大きく転換価格を割り込んだ場合、例えば転換価格の半値まで株が下がってしまった場合、この場合CBの理論価格は50となってしまうが、CB自体はそこまで下がることはほとんど無い。これは債券的側面が働くからで、通常であればこの場合せいぜい下がって85~90程度であろうと思われる。つまりこの下方硬直性が損失を限定させるべく保険となるので、堅実な資金運用を望む向きにはCB投資は適していると言えよう。

<満期まで下方修正が2度程度のCBをMSCBと呼ぶか否か>
どういう過程にてこのMSCBと言う用語がどこで使われだしたのかはよく分からない。
もともと90年代の終わりごろにチラチラと出ていた「悪名高きスイスフラン私募CB」。
倒産寸前の会社にこの手のCBを発行させ、資金を入れて、仮に会社がその資金によって復活すればよし、駄目なら仕方が無い、しかしCBの引き受け手はさっさと転換にいそしみその会社がどうなっても関係ない・・・そのようなCBが既にあった。これは今のMSCBの原型とも言うべきもので、転換価格が毎日その日の終値の90%とかまで下方修正される、と言うものであった。
当時はこれは「レッサーCB(Lesser CB)」と呼ばれていた。
このスキームは当たり前だが引き受け手が、その当該会社が倒産しない限り儲かる。
当時大手証券ではこれらの引き受けをためらっていた。当然既存株主を莫大なダイリューションリスクに曝すわけであるので社会的にどうか?と言う議論がまずあったのと、当時はこの手のCB発行が「有利発行」か否か当局の判断も確定していなかった。
と言うことは当然これは株主代表訴訟の対象となってもおかしく無かった訳であり、実際さる起債会社の担当役員は「訴訟を起こすなら起こしてください。いずれにせよこういう形であれなんであれ、わが社に資金が入らなければ倒産は逃れられないのです」
と言っていた、なんて記事があった。

最近ではこのMSCBの名を世間に認知させたのがライブドアであろう。
ただし現在においてはこのMSCB、有利発行にはならない、と言う金融庁の見解が出ており、また各金融専門の弁護士もこれをOKと認めているので、堂々と出せるようになった。

ライブドアCB~毎週末に転換価格を変更、但し転換価格が上昇することもある。
フジテレビCB~毎月第3金曜日に転換価格を変更、これも上昇もあり。
となっている。
この手の頻繁に転換価格が変更される形態のCBに関しては実は「譲渡制限条項」と言うのが付いており(と言うか引き受け会社が付けていると思うが)、このCBは引き受け証券会社は他の投資家に転売や譲渡は出来ないようになっている。
つまりこの手のCBには「流通市場」と言うものが事実上存在しない。
ライブドアの場合はリーマンブラザースが、フジテレビの場合は大和SMBCが、それぞれ全額引き受けて全額保有する、転換可能期間内になるべく多く転換する、と言う行動があるのみで、個人投資家はおろか、世界的に有名なヘッジファンドすらこのCBをリーマンや大和から購入することが出来ない。
そしてこのような形態のCBをプロの世界ではMPO(Multiple Private Offering)と呼んでいる。
一般にはこれらをMSCB(何故ならMSCBと言う言葉にはどうも多少後ろめたい響きがある)と呼ぶのが普通であり、世間一般に出てくる普通のCB(たとえそれに下方修正が償還までに2回程度付いていでも)をMSCBと呼ぶのには、少なくとも上述したような決定的な差が両者にあるので、プロの世界では抵抗があるように感じる。
従って、通常2回程度の下方修正条項付きCBは、我々は「普通のCB」と言っている。
ちなみに英語だとMSCBは「Private CB」と言われており、通常のCBでロンドンで発行されるものは「Euro Yen CB」、スイスは「Alpine Yen CB」、そして日本国内のは「Domestic CB」、と呼んでいる。

<CBアーブ>
これは「CB Arbitrage」(CBアービトラージ)の事である。つまり「裁定取引」の事だ。
一般的な裁定取引とは、割高なものを売ると同時に割安なものを買い、その「さや」を取ることを言う。
例えば「NT倍率」、日経平均とTOPIXの絶対値の倍率が毎日どう変化するのかを詳細に追いかけて、ある日その倍率が通常から離れてきたときに、それがいずれ元に戻ると考えて、例えばそういう状況下、日経平均を売ってTOPIXを買う、みたいな取引を指す。

CBアーブの場合はちょっと違って、CBを買うと同時に原株を売る、と言うポジションを組む。
つまりCBのリスクを株を売ることによってヘッジすることを一般にCBアーブと呼んでいる。
転換価格1000円のCBを1億保有する場合、その潜在株数は、1億/1000=10万株になる。
1億のCBに対して10万株売ったとしたら、それは理論上は完全にニュートラルとなる。
これをデルタニュートラルヘッジと言う。
この『デルタ』をそれぞれの投資家がそれぞれのモデルで計算して、例えばこのCBに付いてはデルタは50%と言う値が計算された場合、CB1億に対して5万株を売る、と言うポジションを組む。
株が上がればCBも上がるので、その際はCBで利益、株の売りで損失、となるが、そういう局面ではいわゆるボラティリティーが大きくなってくるので株の売りを減らす。
株が下がればCBも下がるが、その際はCBで損失、株の売りで利益となり、さらに株が下がる場合は今度はCBの下方硬直性が働きCBは一定以上に下がらなくなり、そこでCBからの損失は限定されてくる、と言う仕組みになっている。
今回のCB発行と同時に貸し株が増えた、と言うのはこのために誰か投資家がさっさと株を借りた、と考えることが出来る。

<スプレッド方式によるCBの発行>
発行価格100に対して募集価格102.50と言うスタイルの発行形態をスプレッド方式発行と呼んでいる。
質問にあったが、この場合は起債会社は引き受け手数料を払わなくて良い。(厳密には今回の60億の発行で起債会社が受け取る金額は、5,940百万円となるが)
この差、2.5ポイントが引き受け手数料として、主幹事に入ってくる。
しかしながら仮に相場が悪く、このCBがちっとも売れない場合、主幹事は例えば100にて何とか投資家に販売、と言うようなケースがあれば、主幹事は引き受け手数料吐き出し、となる。

つまり、それまでは手数料は起債会社が主幹事に払っていたのだが、このスプレッド方式が一般化してきた昨今は、CBの買い手である投資家が手数料を間接的に払って居る形となる。

<ユーロ、アルパインCBの現況>
この会社のCBのローンチ日の気配は105-106程度、当日のパリティーは92前後だった。
極めて妥当な水準である。
一般的にCBについて来るプレミアムであるが、これはさまざまなファクターによる。
その銘柄の先高感やCBの流動性、相場の全体感、ボラティリティーの大きさ等々。
アルパイン円CBの場合は通常10~20%程度のプレミアムが付いていると考えられて良いと思う。今回の銘柄に関しては、まだ判断は出来ないが、出だしはマーケットの予想通り、と言った感じであると思う。


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とりあえずはこんな所であろうか。
CBとはあくまでも一種のデリバティブ商品(派生商品)に過ぎないことを改めてお考え頂きたい。
まずは原株ありき、なのである。
その債券的側面がゆえに、株式投資をしている方にはCB投資と言うのはその値動きを考えても、あまりおもしろくないとも言えよう。
但し世の中にはこの手のCBファンドが山のようにある。これは債券的側面をうまく利用しながら、つまり損失を極力回避しながら、パフォーマンスを上げて行こう、と言うのがその究極の目的であり、そういう安全志向の資金運用を考える人もたくさん居るのである。
普通に株式投資に魅力を感じるのであれば、CBまで投資対象を広げる必要は無いとは思うが、但しこのCBが当該会社のファイナンスである以上、それに対する知識武装は必要であると考える。
ちなみにCB購入対象者は詳しい資金使途説明があるのでは、と言うご意見も拝見したが、そんなのは存在しない。
それは現状の金融界に対する監督状況を考えた場合、まず不可能であろう。
あくまでも現在の金融行政は、個人投資家保護に何よりの重点を置いていることがその証左となると考える。

以上です。