弁理士近藤充紀のちまちま中間手続49
拒絶理由
引用文献1にはゼオライト結晶体の合成膜およびその製造方法において、90重量%以上のアルミナからなり、細孔径が0.1~3.0μmの細孔を有する基板を、シリカ源としてケイ酸ナトリウム粉末もしくは水ガラスを用いたゼオライト結晶前駆体を含むスラリー内に浸漬し、水熱合成しまたはそれを数回繰り返すことが記載されている。A型ゼオライト膜を形成する際には70℃~90℃の温度に15分から12時間保持するか、ZSM-5ゼオライト膜を形成する際は160℃~200℃の温度で約24~72時間保持するのが好ましい旨、該合成膜は空気分離用セルに応用した例が記載されている。また、実施例において、アルミナの平板に対し、ゼオライト結晶前駆体を含むスラリーを常温から200℃の操作を複数回繰り返し水熱合成させたものが記載されていることから、一度200℃まで上昇させた後、常温まで冷却した後、再度温度を上昇させているものと認められる。
意見書
本願発明は、調節された厚みを有する複合連続ゼオライト/担体層によって構成された担持ゼオライト膜であって、ゼオライト相は、主として細孔内に局在化させられたものの調製に関するものである。
これに対して、引用文献1の請求項1等には、多孔質のアルミナ基板と、この基板の細孔内および表面に形成されたゼオライト結晶体とからなるゼオライト結晶体の合成方法が記載されてはいるが、実際には、引用文献1には、ゼオライト相が主として細孔中に局在化させられている担持ゼオライト膜は、全く開示されていない。逆に、引用文献1には、細孔中ではなく外表面上に形成されたゼオライト膜の合成膜が教示されている([図面の簡単な説明]等参照)。さらに、引用文献1にはその段落[0018]に、「本発明によれば、所定のアルミナ基板「上」にゼオライト結晶体を水熱合成により形成させた・・・」ことが記載されている。すなわち、引用文献1には、多孔質担体の表面上にゼオライト結晶体を形成させた旨の記載があるが、細孔内にゼオライト結晶体を形成させた旨の記載はない。また、引用文献1には、細孔内にゼオライト結晶体が局在化させられた担持ゼオライト膜を調製し得るような何らの教示も見出されない。したがって、引用文献1を参照しても、当業者は、ゼオライト相が主として細孔中に局在化させられた担持ゼオライト膜を調製することができない。
したがって、引用文献1には、ゼオライト結晶体が担体の細孔中に形成されるゼオライト結晶の合成膜を調製することを十分に開示したものではないので、引用文献1は、本願請求項1とは異なっており、本願請求項1は新規性を有する。
一方、引用文献1の記載に基づいても、当業者は、本願請求項1のような担持ゼオライト膜を調製することは容易に想到することができない。したがって、本願請求項1は進歩性も有する。また、請求項1が進歩性を有するので、請求項1を引用する請求項2~12も当然に進歩性を有する。
補正により、請求項13~19が削除されたので、引用文献2および3は、本願発明とは全く関連性を持たなくなった。引用文献2および3には、本願請求項1において規定されたようなゼオライトの結晶化のための非等温性昇温プログラムが開示されていないからである。
また、引用文献2および3には、本願請求項1において規定されたゼオライトの結晶化のための非等温性昇温プログラムが開示されていないので、引用文献1~3を組み合わせても、本願請求項1に想到することは容易ではない。
以上のように、本願請求項1は、引用文献1の発明と異なるので、新規性を有する。また、請求項1が新規性を有するので、請求項1を引用する請求項2~12も当然に新規性を有する。
また、本願請求項1は、引用文献1~3に基づいて容易に想到することができないものであるので、請求項1は進歩性を有する。また、請求項1が進歩性を有するので、請求項1を引用する請求項2~12も当然に進歩性を有する。
拒絶査定
引用文献1には「本発明のゼオライト結晶体の合成膜は、ゼオライト結晶体の合成膜は、90重量%有情のアルミナからなり、細孔径が0.1~3.0μmの細孔を有する基板と、この基板の細孔内及び表面に緻密に形成されたゼオライト結晶体とからなることを特徴とするものである。」(【0006】参照)、「図より緻密なゼオライト膜がアルミナ基板の細孔内と表面に形成されているのがわかる。」(【0011】参照)、「アルミナ基板の細孔径を望ましくは0.1~0.3umとしたのは、・・・0.1μm未満であるとゼオライト結晶がアルミナ基板の細孔内にほとんどはいらずアルミナ基板にゼオライト結晶体の担持能力が少なくなるとともに」(【0009】参照)と記載されていることから、基板の表面のみならず、細孔中にゼオライト相は局在しているものと認められ、どの程度のゼオライト相を局在させるかは当業者が適宜決定することである。
失敗例
内と表面に形成されたことが、引用文献1に記載されている、との指摘ではあるが、明細書中の前半部分にあるだけで、実証例はないのではないか?「内および表面」であるので、「内」にのみ形成される場合は、引例1にはないのではないか?等。今なら、逆に、拒絶査定で指摘された部分を利用して進歩性の主張もできると思われる。
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