弁理士近藤充紀のちまちま中間手続56
拒絶理由
刊行物1には、本願発明の方法と類似の、炭化水素原料から油を生産する方法が記載されている。同1には、接触脱パラフィン触媒に含まれる分子篩として、ZSM-48等が記載されているのに対し、本願発明ではZBM-30、EU-2、EU-11を用いる点で相違している。
ところで、EU-2は当該技術分野において、線状パラフィンの選択的クラッキング触媒として知られており(刊行物2の特許請求の範囲、4頁左下欄下から3行~最下行参照)、この触媒が接触脱パラフィン触媒として有用であることは自明であるから、同1における接触脱パラフィン触媒にEU-2を含有させることは当業者が容易になし得る事項である。
刊行物3には、脱ろう触媒(接触脱パラフィン触媒と実質的に同じである)として、ZSM-48の存在下で炭化水素原料を脱ろうする方法が記載されている。同3には脱ろう触媒としてEU-2,EU-11,ZBM-30を用いることについて記載されていないが、刊行物4には、ZSM-48がEU-2,EU-11,ZBM-30とトポロジーが一致することが記載されており(2頁右下欄)、トポロジーが一致するゼオライトが同等の触媒活性を有することはよくあることからすると、EU-2、EU-11、ZBM-30を脱ろう触媒として用いることは当業者が容易になし得る事項である。また、同3には、脱ろう処理前に仕込み原料の水素化異性化転換することについて記載されていないが、刊行物1には、水素化異性化転換後に水素化脱ろうを行うことが記載されていることからすると、同3においてもそのようにすることは当業者が容易になし得る事項である。
さらにその他の発明特定事項は同1もしくは同3に全て記載されている。
また、本願請求項8の発明特定事項である、水素化異性化触媒中で、2nm未満のサイズをもつ貴金属粒子の分率が、触媒上に担持された貴金属の多くとも2%であることについて、同1には、「2nm未満の大きさの貴金属粒子部分が、触媒に沈着した貴金属の少なくとも2重量%を占める。」と記載されており(【0041】)2重量%の点で両記載は一致するが、触媒活性成分は分散性が良い方、すなわち粒子の大きさが小さい方が好ましいことは周知であることからすると、本願発明のように「2nm未満のサイズをもつ貴金属粒子の分率が、触媒上に担持された貴金属の多くとも2%であること」とすることにより格別予想外の効果が奏されるとは認められないので、「2nm未満のサイズをもつ貴金属粒子の分率」を好適値にすることは当業者が容易になし得る事項にすぎない。
意見書
引用文献1には、炭化水素原料から油を生産する本願発明と類似の方法が記載されている。引用文献1には、接触脱パラフィン触媒に含まれる分子篩として、ZSM-48等が記載されている。これに対して、本願発明の方法において接触脱パラフィンを行う工程b)では、分子篩としてZBM-30、EU-2および/またはEU-11を用いており、この点で両者は相違している。
引用文献2には、EU-2等のテクトメタロシリケートの存在下に線状パラフィンを選択的にクラッキングすることによって、直鎖および分枝鎖状パラフィンの混合物からなる供給原料を不飽和炭化水素、すなわち、オレフィンを製造する方法が開示されている。
引用文献2は、具体的には、軽質ナフサ等の鎖状および分枝状アルカンを含む本質的にパラフィン性の炭化水素の混合物から不飽和炭化水素、すなわち、オレフィンを製造することを目的としている。引用文献2で製造されているのは不飽和炭化水素であり、これに対して、本願発明は、基油を製造する方法に関するものである。また、引用文献2では、線状パラフィンの選択的クラッキングを行っているが、これに対して、本願発明において行っているのは、接触脱ろうである。接触脱ろうは、パラフィンを除去することを意味し、線状パラフィンの選択的クラッキングによって直鎖または分枝鎖炭化水素を含む炭化水素混合物から不飽和炭化水素、すなわちオレフィンを製造することを示唆している引用文献2の反応と本願の接触脱ろうとは全く異なっている。
したがって、当業者は、引用文献2に記載された線状パラフィンの選択的クラッキングを行うためのEU-2を引用文献1の接触脱パラフィンに用いることの動機付けを有しない。
引用文献3には、炭化水素原料を脱ろうする方法が開示されている。この方法は、第1の工程で、ゼオライトY等の大気孔の結晶性ゼオライトを用い、第2の工程で、ZSM-48等の中気孔ゼオライトを用いて、炭化水素原料を脱ろうするカスケード式の脱ろう法である。
しかしながら、引用文献3には、本願発明の工程b)において用いられているZBM-30、EU-2およびEU11のゼオライトを用いることが開示されておらず、それを示唆する記載もない。
引用文献4には、具体的には、ZSM-48ゼオライトを合成する方法が開示されている。
しかしながら、引用文献4には、合成されたZSM-48を脱ろう工程に用いることができることが開示も示唆もされていない。
したがって、当業者が引用文献4の記載を参照しても、引用文献1~4を組み合わせて、接触脱ろうに用いることができることを予期する動機付けは有しない。
本願発明に開示されているEU-2、EU-11、ZBM-30と引用文献1~4に開示された各分子篩についてさらに検討する。
小野嘉夫、八嶋建明編,「ゼオライトの科学と工学」,講談社サイエンティフィック,p.172-175によると、「脱ろうは、流動点、ワックスの析出、粘度等の低温流動性を悪化させる要因となる直鎖あるいはわずかに側鎖のあるアルカン類を除去するために行われる処理である。脱ろうには、遠心分離や溶剤抽出などの多くの方法が知られているが、1970年代に入り、ZSM-5に代表される10員環のゼオライトの形状選択性と高い分解活性が認められて以来、ゼオライトを触媒とした水素化脱ろう法が開発された。
これに対して、1990年代になると、より高粘度指数を有しながら流動点の低い潤滑油基油の要求が高まり、脱ろうと異性化を同時に行う水素化異性化脱ろう法が開発されるに至っている。」ことが記載されている。
本願発明は、その明細書の段落[0001]において、「本発明は、高品質の基油、すなわち粘度指数(VI)が高く、UV安定性が良好で、流動点の低い基油を、・・・製造するための改良された方法に関するものである」と記載されている通り、パラフィン類を単に除去するだけの脱ろうを提供することを目的としておらず、1990年代以降に開発された水素化異性化脱ろうに類する方法を提供するものである。そして、そのような目的を達成するために、段落[0008]において、「酸性機能と水素化機能との両者の間の平衡は、触媒の活性および選択性を決定する基本パラメータである。・・・それゆえ、それらの機能の各々を適切に選択することによって、触媒の活性/選択性の組合せを調節することが可能である」との技術常識に基づいて、請求項1に記載されるような
(a)非晶質酸性支持体上に担持させられた少なくとも1つの貴金属を分散度20%未満で含む触媒の存在下での所定のn-パラフィンの少なくとも一部分の同時異性化を伴う転化段階、および
(b)少なくとも1つの水素化-脱水素化元素及びZBM-30、EU-2およびEU-11から成る群の中から選択された少なくとも1つの分子篩を含む触媒の存在下での、段階(a)からの流出物の少なくとも一部の接触脱パラフィン段階を行うことにより、高い粘度指数(VI)、低い揮発度、良好なUV安定性および低い流動点を有する基油を製造することができるという格別顕著な効果が得られることを見出すに至ったものである。
これに対して、引用文献1の方法は、接触脱パラフィンに含まれる分子篩としてZSM-48等が記載されている。しかしながら、引用文献1には、本願発明のZBM-30、EU-2およびEU-11は記載されておらず、示唆する記載もない。
引用文献2には、EU-2が記載されている。しかしながら、引用文献2では、これを線状パラフィンの選択的クラッキング触媒として使用している。ここでの選択的クラッキングは、パラフィン類からオレフィン類を製造することを意味しており、本願発明において企図している接触脱ろうとは全く異なっている。まして、最終的に高い粘度指数、低い揮発度、良好なUV安定性および低い流動点を有する基油を得るために特定の分子篩を用いることは、引用文献2の記載から想到することはできないものである。
引用文献3には、脱ろう触媒としてZSM-48が記載されている。しかしながら、引用文献3には、本願発明において用いられているZBM-30、EU-2およびEU-11が記載されておらず、それらを示唆する記載もない。
引用文献4には、ZSM-48を合成する方法が記載され、さらに、ZSM―48がEU-2、EU-11、ZBM-30とトポロジーが一致することが記載されている。しかしながら、本願発明は、上記のように、EU-2、EU-11またはZBM-30を段階(a)に続く段階(b)の接触脱パラフィン工程に用いれば、分子篩が持つ酸性機能と水素化機能との機能が適切に選択されて、このことにより、触媒の活性/選択性の組合せが調節されて、最終的に高い粘度指数、低い揮発度、良好なUV安定性および低い流動点を有する基油を得るに至ったものである。引用文献4には、ZSM-48とEU-1等のトポロジーが一致することが記載されているのみであり、トポロジーが一致するとの記載だけでは、ZSM-48が本願発明に関するEU-2等と同様の活性/選択性の組合せを有することに想到することはできない。
以上のように、引用文献1の接触脱パラフィンの分子篩に代えて引用文献2~4に記載された分子篩を用いることは容易に想到することはできないし、そのように組み合わせることによって、本願発明のような極めて良好な性質の潤滑油を得ることができるという効果に想到することも容易ではない。
なお、引用文献1の段落[0041]に「少なくとも2重量%」とあるのは、「多くとも2重量%」の誤記である。
拒絶理由
36条6項2号
補正書
特許査定