goo blog サービス終了のお知らせ 

バイクも仕事も走ります。

バイクででかける。美味いものを食べる。は継続。弁理士の仕事のはなしを加えていきます。

ちまちま中間手続63

2025-04-18 21:21:33 | 仕事日記
弁理士近藤充紀のちまちま中間手続63

拒絶理由
新規性
 引用文献1には、焼却灰中の重金属を抽出し、各重金属の標準電極電位に設定し、この電極の電位を変化させて多段電気分解を行い分離回収することが記載されている(【特許請求の範囲】参照)。

進歩性
 引用文献2に記載されるように、重金属回収装置において、電解槽内で重金属を析出させた後の電解液を逆抽出槽に戻して再使用することは普通に知られているのであるから、引用文献1記載の焼却灰中の重金属回収方法において、電解槽内で重金属を析出させた後の電解液を戻して再使用し、抽出、析出を行うことは、当業者が容易に想到しうる。
 電解陽極として、塩素発生を防ぐため、二酸化マンガン、酸化モリブデン等の触媒を用いた酸化イリジウム被覆チタンは良く知られており(引用文献3【0072】参照)、陰極として、銅回収に銅電極、カドミウム回収にアルミニウム電極、亜鉛回収にアルミニウム電極を用いることは、それぞれ引用文献4,5,6に開示されるように普通に知られている。

意見書
 引用文献1には、焼却灰中の重金属を抽出し、各重金属の標準電極電位に設定し、この電極の電位を変化させて多段電気分解を行い分離回収することが記載されている。
 しかしながら、引用文献1には、「回収すべき金属種毎に陰極電極を順次取り替えて使用する」という本願発明の特徴については何ら記載されていない。
 したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明とは異なるものであるので、本願発明は新規性を有している。

 引用文献2には、重金属回収装置において、電解槽内で重金属を析出させた後の電解液を逆抽出槽に戻して再使用することが開示されている。
 引用文献3には、電解陽極として、塩素発生を防ぐため、二酸化マンガン、酸化モリブデン等の触媒を用いた酸化イリジウム被覆チタンが開示されている。
 また、引用文献4、5および6には、陰極として銅回収に銅電極、カドミウム回収にアルミニウム電極、亜鉛回収にアルミニウム電極を用いることが開示されている。
 しかしながら、引用文献1~6のいずれも、電気分解による個々の金属の回収に適した電極を例示しただけであり、本願発明のように、「回収すべき金属種毎に陰極電極を順次取り替えて使用する」ことは開示されていない。
 本願発明では、「陰極電極として、銅の電解析出時には銅電極を、鉛の電解析出時には鉛電極あるいは鉛めっき鋼板電極を、カドミウムの電解析出時にはアルミニウム電極を、亜鉛の電解析出時にはアルミニウム電極、亜鉛電極あるいは亜鉛めっき鋼板電極を順次取り替えて使用する」ようにしたので、抽出液中に溶解している各金属を分別して回収することができ、このため回収操作が終わった後に、電極上に析出した金属をさらに分離する必要がなく、そのまま次の操作の電極として使用することもできる。
 また、一般に、電気化学的に貴な金属の上には卑な金属を析出させることができるが、これとは逆に、卑な金属の上に貴な金属を析出させることはできないことが知られている。引用文献1には、本願発明と同様に、電極の電位を変化させて多段電気分解を行っているが、単一の電極を用いているため、一つの電極表面には、貴から卑の順に、銅、カドミウム、鉛、亜鉛が析出し、最表面には最も卑な金属が析出する。すなわち、電位を変化さ せる多段電気分解の一連の操作が終わった時点で電極の最表面には最も卑な金属である亜鉛が析出している。上記のように、卑な金属の上に貴な金属を析出させることはできないため、最表面に卑な金属が析出している1回の操作が終わった同一の電極をそのまま2回目の操作に使用しても、これに析出し得るのは、最表面に析出している亜鉛またはこれよりも卑な金属のみであり、この電極を金属回収のために再度使用することはできない。
 したがって、引用文献1の方法では、単一の電極上に種々の金属が各層別に析出しており、分別して回収することができない上、1回の操作が終わった電極をそのまま再度使用することができない。
 これに対して、本願発明では、回収金属毎に電極と取り替えているため、引用文献1のような問題が生じることがない。
 引用文献2~6においても回収対象となる金属毎に電極を取り替えるものではないため、引用文献1について説明したと同じ問題点を有している。
 以上のように、引用文献1~6の方法では、上記のような本願発明の効果を得ることができず、したがって、本願発明は、引用文献1~6に基づいて容易に想到することができないものである。

拒絶査定
 出願人は、意見書において、本願発明は、回収すべき金属種毎に陰極電極を順次取り替えて使用している点で、単一の電極上に種々の金属が析出している引用文献1記載の発明と相違しており、該相違点に基づき分別回収ができるという効果を生じているので、個々の金属回収について開示された他の引用文献を考慮しても、当業者が容易に発明することができない旨主張している。
 しかしながら、引用文献1記載の発明に関して、単一の電極上で取り替えずに使用する旨の記載はなく、重金属の分離回収をするとされているのであり、図2のように、別の電極を使用して分離回収することも示され、引用文献2に記載されるように、用いた電解液をそのまま再利用することも知られているのであるから、本願発明は、引用文献1-3記載の発明から当業者が容易に発明することができたものである。

拒絶査定に対するこちらの見解を示す機会が当時はなく、断念の回答を受けて審判には進まなかった。審査時の意見書に書き方もあっさりしすぎの問題あったのではと思うと残念な件ではあった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ちまちま中間手続62

2025-04-17 21:07:00 | 仕事日記
弁理士近藤充紀のちまちま中間手続62

拒絶理由 新規性・進歩性
 引用文献1には、シリカ源、アルミナ源、アルカリ源、酒石酸及び水からなる反応混合物を反応させることにより、ペンタシル型アルミノシリケートゼオライトを製造する際に、該反応混合物中に、炭化水素を添加するゼオライトの製造方法が記載されている(特許請求の範囲参照)。また、引用文献1記載の発明では水熱反応が行われている(実施例参照)。引用文献1記載の発明において、水熱反応工程、酒石酸又は炭化水素を添加する工程が、それぞれ本願請求項1の「加熱工程」、「注入工程」に相当する。
 したがって、本願請求項1に係る発明と引用文献1記載の発明は、方法の発明として同一のものと認められる。
 なお、本願請求項1には各工程の順序に限定はないことから、注入工程の後に加熱工程を行う発明も本願請求項1に係る発明に包摂されると認定した。
 同様に、本願請求項1に係る発明は、ホージャサイト型ゼオライトの懸濁液中に酸を添加する引用文献2、及びメソポーラス物質に有機物を接触させて該メソポーラス物質を改変する引用文献3に記載された発明に他ならない(引用文献2の特許請求の範囲、実施例、引用文献3の特許請求の範囲、【0001】、実施例参照)。

意見書
 引用文献1には、シリカ源、アルミナ源、アルカリ源、酒石酸および水からなる反応混合物を反応させることにより、ペンタシル型アルミノシリケートゼオライトを製造する方法が記載されている。引用文献1の方法は、全化学種が混合され、次いで、オートクレーブ等において加熱工程に付される、「バッチ法」である。
 これに対して、本願請求項1の方法は、補正により明確にされたように、反応媒質の合成工程i)、加熱工程ii)および化学剤注入工程iii)をこの順で連続して行う、「半開放系」の方法である。
 本願請求項1の方法では、工程i)において、「全てではないが大部分の」化学種を含む反応媒質を生じさせ、次いで、工程ii)において、この反応媒質を加熱し、そして、工程iii)において、重縮合性化学種の生成を可能にする化学剤を注入している。このように、本願請求項1の方法では、加熱工程の前に、反応化学種の全部が混合されるわけではなく、加熱工程後に、連続的に徐々に化学剤を添加することによって、ゼオライトまたは中間多孔質固体が成長することを可能にした。
 本願請求項1の方法により、工程i)およびii)によって得られた均一な液体反応媒質に、添加量を調整しながら化学剤を添加することにより、ゼオライトまたは中間多孔質固体の成長を非常に良好に制御することができる。固体前駆体の量は、全体的な固体成長の間に制御される。
 引用文献1に記載されているのは、その第3頁右上欄19~20行「オートクレーブのなかに入れて結晶化させる」、第5頁左上欄1~2行「ステンレス製オートクレーブに入れ密封した」等に記載されるように、バッチ法のみであり、ここでは、全反応剤がオートクレーブに密封された後、これを加熱することにより反応を進行させている。加熱工程の後に化学剤を注入することは記載されていない。
 引用文献2には、ホージャサイト型ゼオライトの懸濁液中に酸を添加する方法が記載されている。引用文献3には、メソポーラス物質に有機物を接触させて該メソポーラス物質を改変する方法が記載されている。
 しかしながら、引用文献2および3に記載されているのは、既存の固体(ホージャサイト型ゼオライト、メソポーラス物質)を処理する方法(固体を改変する方法)のみである。固体成長を制御するために化学剤がその流量が制御されつつ注入されることは記載されていない(固体合成も固体成長も記載がない)。
 したがって、本願請求項1は、引用文献1~3と同一ではなく、また、これら文献に基づいて容易になし得るものでもなく、本願請求項1は新規性および進歩性を有する。
 本願新請求項2~9は、新請求項1の従属項であるので、当然、これらも新規性および進歩性を有している。

特許査定

拒絶理由で言ってない相違点を見出して引用文献を対比して登録に導けた。構成上の相違点ではなく、どちらかと言えば、観念上の相違点に基づくものであり、この点は面白いことになったと思っている。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ちまちま中間手続61

2025-04-16 21:02:39 | 仕事日記
弁理士近藤充紀のちまちま中間手続61

拒絶理由
新規性
 刊行物Aには、熱分解ガス化工程中にプラズマを発生させるガス化方法が記載されている。また、刊行物B(特に実施例参照)には、ガス化工程で発生したガスをプラズマで処理することが記載されている。

進歩性
理由1.参照。
 改質工程においてプラズマを発生させることも知られている(刊行物C、例えば図24参照)から、熱分解生成ガスを改質する際にプラズマを発生させることに格別の創意を要するものとは認めることができない。
 また、プラズマの発生源として水蒸気を使用することは刊行物Dで知られている。そして、生成ガスからの回収熱を使用して原料を乾燥することは当該技術分野で普通に行われていることにすぎない(例えば刊行物C第14頁「乾燥のための熱源は、・・・熱回収工程Bで生成ガスから回収された熱を用いても良い」)し、反応工程で発生した水蒸気をプラズマ作動ガスとして用いることは、当業者が通常の創作能力を発揮して実施する程度の事項に過ぎない。これらの点を、刊行物A、Bに記載の方法で実施することに格別の困難性が存するものと認めることができない。

意見書
 引用文献Aには、熱分解ガス化工程中にプラズマを発生させるガス化方法が記載されている。
 しかしながら、引用文献Aでは、プラズマを発生させるためのプラズマ作動ガスとして、メタンガス、エタンガス、天然ガス、プロパンガス等が開示されている(段落[0010])が、本願発明の「水素、酸素、空気および上記改質により得られる改質ガス」は開示されていない。
 引用文献Bには、ガス化工程で発生したガスをプラズマで処理することが記載されている。
 しかしながら、引用文献Bでは、その第2頁右下欄5~6行「プラズマ発生器内で加熱された」、同12~13行「プラズマ発生器内で加熱される」、第3頁左上欄9~12行「後続の反応室における温度を高くすることによって、ガス中に存在する重炭化水素が実質的に完全に熱分解される」とあるように、この引用文献Bにおけるプラズマ発生器は、熱分解の対象となる重炭化水素に高エネルギーの熱を与えるための加熱手段として用いているのであり、また、引用文献Bにおける処理は、熱分解処理である。プラズマ作動ガスから発生されたプラズマによって熱分解生成ガスを改質することは引用文献Bには全く開示されていないし、それを示唆する記載もない。
 引用文献Cには、改質工程においてプラズマを発生させることが記載されている。
 しかしながら、引用文献Cには、プラズマを発生させるためのプラズマ作動ガスについて一切記載がない。
 引用文献Dには、プラズマの発生源として水蒸気を使用することが記載されている。
 しかしながら、引用文献Dには、プラズマ作動ガスとして、「水素、酸素、空気および上記改質により得られる改質ガス」を用いることは開示されていない。
 以上に説明したように、引用文献A~Dのいずれにも、プラズマ作動ガスが「水素、酸素、空気および上記改質により得られる改質ガス」であることは開示されていない。水蒸気と本願発明により規定される水素等のプラズマ作動ガスは、全く異なる物質であり、水蒸気をプラズマ作動ガスとして用いるという知見に基づいて、本願発明において規定されている水素等をプラズマ作動ガスとして用いることに想到することはできない。
 したがって、本願発明は、引用文献AまたはBと同一でなく、さらに、引用文献A~Dに基づいて容易に発明をすることができたものではないので、本願発明は新規性および進歩性を有する。

拒絶査定
 刊行物C第13頁下から第8行~第14頁第6行、図24には、生成ガス(有機物の熱分解により生成したものであることは明らかである)から腐食性ガスを除去した後に、改質工程を行うこと;低温プラズマを利用した改質を行うことができることが記載されている。
 ここで、刊行物Cには、出願人も意見書で主張するように、「プラズマを発生させるためのプラズマ作動ガスについて」の記載はない。しかしながら、どのようなものをプラズマを発生させるためのプラズマ作動ガスとして利用するかは、当業者が通常の創意工夫により検討する事項に過ぎないものであると認められ、また、刊行物Aには「(プラズマアークを形成する電極が配設された炉の)熱分解ガス排出口から排出された熱分解ガスの一部を、プラズマ作動ガスとして供給する作動ガス循環装置」との記載があって、プラズマの存在下に熱分解されたガスをプラズマ作動ガスとして使用することが知られているから、プラズマにより改質されたガスをプラズマ作動ガスとして改質炉で使用することを想到することに格別の困難性があるものとすることができない。また、本願請求項で規定する特定のものをプラズマ作動ガスとして使用した場合にのみ、当業者に予想外の格別顕著な効果を奏するものとは、本願明細書の記載から認めることができない。

開示されていない、、からの●●●なので、容易に想到できない。。

今回の対応は、●●●の部分の記載が足りていない、と思いつつ作成したところ、やっぱり悪い予想の通りの結果になった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ちまちま中間手続60

2025-04-14 21:03:24 | 仕事日記
弁理士近藤充紀のちまちま中間手続60

拒絶理由 新規性・進歩性 記載不備
 刊行物1には、「【請求項5】 重金属を含有する固形物に、第一鉄塩溶液と第二鉄塩溶液をそれぞれの鉄のモル比で0.2~1.5となるように、かつ鉄として少なくとも1重量%となるように添加し、pHをアルカリ性に調整し、全体を混練して、固形物中の重金属をフェライト化する、重金属含有固形物の処理方法。」、「【請求項6】 pH調整後の固形物中の含水率が20~90重量%である、請求項5記載の処理方法。」(特許請求の範囲)と記載されている。
 又、上記刊行物1には、「【発明の属する技術分野】この発明は、都市ゴミや各種廃棄物を焼却する焼却炉から排出される重金属を含有した焼却飛灰や、工場跡地のように重金属で汚染された土壌等の固形物を無害化処理する方法に関し、さらにその方法に使用する特殊な鉄塩溶液の製造方法に関する。」(段落【0001】)、「つぎに、請求項5記載の発明は、重金属を含有する固形物に、第一鉄塩溶液と第二鉄塩溶液をそれぞれの鉄のモル比で0.2~1.5となるように、かつ鉄として少なくとも1重量%、通常は1~20重量%、好ましくは1.5~10重量%となるように添加し、全体を混練した後、pHをアルカリ性に調整し、固形物中の重金属をフェライト化する、重金属含有固形物の処理方法である。」、「上記処理方法において、pH調整後の固形物中の含水率は好ましくは20~90重量%である。…固形物中の含水率は上記鉄塩溶液の添加量およびアルカリ溶液の添加量によって決まるが、固形物中の重金属含有量が多く、鉄塩溶液添加量も多くなる場合は、鉄塩溶液濃度を高くして、固形物中の含水率を70重量%以下にすることが、処理操作上さらに好ましい。」、「pH調整剤としては水酸化ナトリウムなどの水酸化物が経済的である。好ましいpH値は7から11の範囲である。」(段落【0020】~【0022】)、「請求項5記載の発明はつぎのような作用を有する。重金属を含む固形物に第一鉄塩溶液と第二鉄塩溶液を添加し、さらにアルカリ溶液を添加し、全体をよく混練することによりpHをアルカリ性、たとえば7から11に調整し、室温で数分の反応で第一鉄と第二鉄はフェライトを生成する。…請求項5記載の発明では第一鉄と第二鉄を同時に高濃度に存在させるため、室温、数分の反応で酸素による酸化の必要もなくフェライトが生成する。」(段落【0030】)と記載されている。
 そして、上記記載からみて、上記刊行物1には重金属含有固形物の処理方法が記載されており、当該方法は、重金属を含有する固形物に、第一鉄塩溶液と第二鉄塩溶液をそれぞれの鉄のモル比で0.2~1.5となるように、かつ鉄として少なくとも1重量%となるように添加し、pHをアルカリ性に調整し、全体を混練して、固形物中の重金属をフェライト化するものであり、pH調整後の固形物中の含水率が20~90重量%であるものである。
 具体的には、上記方法は、重金属で汚染された土壌等の固形物を無害化処理する方法に関するものであり、重金属を含有する固形物に、第一鉄塩溶液と第二鉄塩溶液をそれぞれの鉄のモル比で0.2~1.5となるように、かつ鉄として好ましくは1.5~10重量%となるように添加し、全体を混練した後、pHをアルカリ性に調整し、固形物中の重金属をフェライト化するものであって、pH調整後の固形物中の含水率は好ましくは20~90重量%であるものであり、pH調整剤としては水酸化ナトリウムなどの水酸化物が挙げられるものであり、好ましいpH値は7から11の範囲であるものである。
 ここで、上記記載からみれば、上記重金属含有固形物の処理方法は重金属汚染土壌の浄化方法と云えるものであって、重金属を含有する固形物に、第一鉄塩溶液と第二鉄塩溶液をそれぞれの鉄のモル比で0.2~1.5となるように、かつ鉄として少なくとも1重量%となるように添加する工程は、重金属で汚染された土壌に、第1鉄塩溶液と第2鉄塩溶液を添加する第1工程と云え、pHをアルカリ性に調整し、全体を混練して、固形物中の重金属をフェライト化する工程は、上記第1工程についで、生じた含水土壌にアルカリ溶液を添加してフェライトを生成させ、重金属をフェライト中に固定する第2工程と云えるものである。
 そうすると、上記刊行物1には、重金属で汚染された土壌に、第1鉄塩溶液と第2鉄塩溶液を添加する第1工程と、ついで、生じた含水土壌にアルカリ溶液を添加してフェライトを生成させ、重金属をフェライト中に固定する第2工程とからなる重金属汚染土壌の浄化方法が記載されていると云える。
 又、上記刊行物1には、固形物のpHをアルカリ性に調整pH調整剤としては水酸化ナトリウムなどの水酸化物が経済的であり、好ましいpH値は7から11の範囲であること、及び、pH調整後の固形物中の含水率は好ましくは20~90重量%であることが記載されているから、第2工程におけるアルカリが苛性ソーダ、苛性カリ、消石灰、炭酸ソーダおよび/または重炭酸ソーダであり、含水土壌のpHを7.5以上にすること、及び第1工程と第2工程における土壌中の含水率を40%以下とすることが開示されていると云える。
 これらのことからすれば、本願特許請求の範囲の請求項1、3及び4に係る発明と上記刊行物1に記載された発明とを比較した場合、両者の間に構成上の相違点を見出せない。
 更に、刊行物2には、「【課題を解決するための手段】本発明の要旨は、重金属含有灰に水、必要に応じて酸又はアルカリを加え、混合物のpHを9~12とした後、酸及び2価鉄を加えてpH6.0~8.0の範囲においてフェライト化することを特徴とする重金属含有灰の処理方法である。」、「【作用】廃棄物中の重金属は混練用の水及び必要に応じてアルカリ又は酸を添加することでpH9~12とすることで水酸化物となる。…上記のフェライト化反応で成長した粒子は、その表面に水酸化物を被膜されていない純粋なものであるため磁石で回収可能である。」(段落【0007】~【0008】)と記載されている。
 そして、上記刊行物2の記載からみれば、上記刊行物2には、重金属をフェライト化反応させて成長した粒子は磁石で回収可能であることが開示されていると云えるから、上記刊行物1に記載された発明において、第2工程の終了後、重金属を固定化したフェライトを含む土壌からフェライトを磁力により分離し、汚染土壌中の重金属含有量を低下させることは、上記刊行物2の記載に基づいて当業者が容易になし得るものであり、且つ、そうすることにより格別な効果を奏するものでもない。
 以上のとおりであるので、本願特許請求の範囲の請求項1及び3~5に係る発明は、上記刊行物1に記載された発明であるか、上記刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

36条
 本願明細書の発明の詳細な説明には、例えば「実施例1 カドミウムの含有量が100mg/kgで、溶出試験結果が2.1mg/lであるカドミウム汚染土壌50g(含水率11.7%)に市販の塩化第2鉄溶液(濃度38重量%、比重1.38、0.18gFe/ml)と硫酸第1鉄溶液(0.09gFe/ml、98%硫酸2ml/L)とを1:1の割合で混合してなる溶液(0.135gFe/ml)を、鉄の総添加量で0.3重量%、0.5重量%、1.0重量%、2重量%、3重量%となるように添加し、含水率を揃えるためにそれぞれに蒸留水を9.2ml、8.5ml、6.8ml、3.4ml、0ml添加し、よく攪拌した。添加後の含水土壌のpHは0.3重量%添加では4.3、0.5重量%添加では2.6であったが、1.0重量%以上ではpH2.0以下であった。」、「10分放置後、各液にアルカリ溶液(24%水酸化ナトリウム水溶液、比重1.1)を1.4ml、2.3ml、4.6ml、9.2ml、13.8ml添加し、よく攪拌した。添加後の含水土壌のpHはそれぞれ8.5、8.7、8.9、8.9、9.0であった。」、「終了後、通常の溶出試験を行った。その結果を表1に示す。いずれもフェライト化は進んでいるが、環境基準を達成できたのは鉄の総添加量1.0重量%以上のものであった。」(段落【0027】~【0029】)、「鉄の総添加量3.0重量%の含水土壌について、塩酸または水酸化ナトリウムの添加によりpHを2.0、4.0、6.0、8.0、10.0、12.0に変化させて溶出試験を実施した。結果を表2に示す。」、「pH2.0では環境基準を上回ったが、pH4以上ではいずれも環境基準を下回っており、重金属の溶出が生じないことがわかる。これは、鉄塩溶液による第1工程において、含水土壌中の重金属のうち酸に溶出するものは溶出してしまったからである。」(段落【0032】~【0033】)、「比較例1 実施例1と同じ汚染土壌50gに実施例1と同じ塩化第2鉄溶液と硫酸第1鉄溶液の1:1混合液を、鉄の総添加量が0.3重量%、0.5重量%、1.0重量%、2重量%、3重量%となるように添加し、含水率を揃えるためにそれぞれに蒸留水を9.2ml、8.5ml、6.8ml、3.4ml、0ml添加し、よく攪拌した。その後ただちにアルカリ溶液(24%水酸化ナトリウム水溶液、比重1.1)をそれぞれ1.4ml、2.3ml、4.6ml、9.2ml、13.8ml添加し、よく攪拌した。」、「実施例1と同様に溶出試験を行った。この結果を表3に示す。鉄の総添加量3.0重量%では環境基準を達成することができたが、2.0%以下では達成できなかった。」(段落【0035】~【0036】)、「実施例2 実施例1と同じ土壌50gに前もってアルカリ溶液(24%水酸化ナトリウム水溶液、比重1.1)を5ml、6ml、7ml、8ml添加したものを用意し、それぞれに塩化第2鉄溶液と硫酸第1鉄溶液の1:1割合液を鉄の総添加量として3.0重量%添加し、含水率を揃えるためにそれぞれに蒸留水を5.1ml、3.4ml、1.7ml、0ml添加し、よく攪拌した。攪拌後のpHはそれぞれ3.7、4.2、4.9、5.6であった。」、「10分放置後、アルカリ溶液をそれぞれ8.8ml、7.8ml、6.8ml、5.8ml添加し、よく攪拌した。」、「実施例1と同様に溶出試験を行った。その結果を表4に示す。鉄添加後のpHが5.6の場合では環境基準を達成できなかったが、それ以外のpHのものでは達成できた。」(段落【0038】~【0040】)と記載されている。
 そして、例えば上記「実施例1」の記載からみれば、上記「実施例1」は、汚染土壌に、第一鉄塩溶液と第二鉄塩溶液を1:1の割合で混合してなる溶液を鉄の総添加量が0.3重量%、0.5重量%、1.0重量%、2重量%、3重量%となるように添加し、よく攪拌し、10分放置後、各液にアルカリ溶液を1.4ml、2.3ml、4.6ml、9.2ml、13.8ml添加し、よく攪拌し、添加後の含水土壌のpHをそれぞれ8.5、8.7、8.9、8.9、9.0としたものについて、攪拌終了後、通常の溶出試験を行ったものであるが、環境基準を達成できたのは鉄の総添加量が1.0重量%以上のものであったものである。
 又、上記「比較例1」の記載からみれば、上記「比較例1」は、実施例1と同じ汚染土壌に実施例1と同じ混合液を同じ量だけ添加し、よく攪拌し、その後ただちに実施例1と同じアルカリ溶液を実施例1と同じ量だけ添加し、よく攪拌したものについて、実施例1と同様に溶出試験を行ったものであるが、鉄の総添加量3.0重量%では環境基準を達成することができたが、2.0%以下では達成できなかったものである。
 更に、上記「実施例2」の記載からみれば、上記「実施例2」は、実施例1と同じ土壌に前もってアルカリ溶液を5ml、6ml、7ml、8ml添加したものを用意し、それぞれに塩化第2鉄溶液と硫酸第1鉄溶液の1:1割合液を鉄の総添加量として3.0重量%添加し、よく攪拌し、攪拌後のpHをそれぞれ3.7、4.2、4.9、5.6としたものを、10分放置後、アルカリ溶液をそれぞれ8.8ml、7.8ml、6.8ml、5.8ml添加し、よく攪拌したものについて、実施例1と同様に溶出試験を行ったものであるが、鉄添加後のpHが5.6の場合では環境基準を達成できなかったが、それ以外のpHのものでは達成できたものである。
 そうすると、上記「実施例1」、「実施例2」及び「比較例1」は、いずれも、環境基準を達成できたものとできないものを包含するものである。
 一方、本願特許請求の範囲の請求項1には、「重金属で汚染された土壌に、第1鉄塩溶液と第2鉄塩溶液を添加する第1工程と、ついで、生じた含水土壌にアルカリ溶液を添加してフェライトを生成させ、重金属をフェライト中に固定する第2工程とからなる重金属汚染土壌の浄化方法」と記載されているところ、上記「実施例1」、「実施例2」及び「比較例1」に記載される条件は、全て、上記請求項1に係る発明の構成を満足するものである。
 そうすると、上記請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載される作用・効果を奏しないものをも包含するものであるから、上記請求項1に係る発明の 構成が明確であるとは云えない。
 且つ、上記請求項1は、第一鉄塩溶液と第二鉄塩溶液の混合割合、鉄の総添加量、第一鉄塩溶液と第二鉄塩溶液の混合溶液を添加た後のpH、当該混合溶液を添加し、攪拌した後の放置時間、アルカリ溶液添加後の含水土壌のpH等の条件を何等限定するものではないが、上記「実施例1」、「実施例2」及び「比較例1」の記載からみれば、発明の詳細な説明に記載される作用・効果を奏するのは、これらが所定の条件を満足する場合のみである。
 そうすると、上記発明の詳細な説明に記載された内容を上記請求項1に係る発明の範囲に拡張乃至一般化することもできないから、上記請求項1に係る発明が、発明の詳細な説明に記載されているとも云えない。
 そしてこのことは、請求項2~5に係る発明についても同様である。

意見書
 理由1、2
 拒絶理由1および2の対象となっていない元の請求項2を元の請求項1に組み込み新請求項1とした。したがって、新請求項1は拒絶理由1および2を有しないものである。

理由3、4
 実施例1~4は、便宜上、請求項1に属するものと属しないものを併記したものである。すなわち、重金属の溶出結果を示す各表には、環境基準を達成したものとそうでないものとがあることが説明されている。
 実施例1の表1において、鉄の総添加量1.0重量%以上が環境基準を達成できる(段落[0029])ので、これを新請求項1に規定した。環境基準を達成できない鉄の総添加量1.0重量%未満も便宜上表1に記載してあるが、これはもちろん請求項1に属しない。
 実施例1の表2において、pHが4以上で環境基準を達成できることが示されている(段落[0033])。しかし、新請求項1では第2工程におけるアルカリ添加後の含水土壌のpHは規定されていないので、表2の結果は請求項1と矛盾しない。なお、請求項3の「含水土壌のpH7.5以上」は好適な実施形態を規定したものである。
 新実施例2の表3において、鉄の総添加量3.0重量%以上が環境基準を達成でき(段落[0036])、3.0重量%未満は環境基準を達成できないので、後者の場合を請求項1から除外するために、新請求項1に「鉄の総添加量が汚染土壌に対して3.0重量%未満である場合には、第2工程の前に、汚染土壌中の重金属の溶出のための滞留時間をおく」と規定した。環境基準を達成できない鉄の総添加量3.0重量%未満も便宜上表3に記載してあるが、これはもちろん請求項1に属しない。
 新実施例3の表4において、pH4.9以下が環境基準を達成できpH5.6では環境基準を達成できない(段落[0040])。これは新請求項1の規定に合致する。このように環境基準を達成できないpHの場合も便宜上表4に記載してあるが、これはもちろん請求項1に属しない。
 以上のように、補正後の請求項1は、詳細な説明に記載された作用・効果を奏するように規定したものとなっているので、本願発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、かつ、明確である。
 したがって、本願発明は、特許法第36条の要件を満たしている。

特許査定

ひとこと:拒絶理由通知が長くて大変でした。丁寧に対応して事なきを得ましたが・・
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ちまちま中間手続59

2025-04-13 21:46:48 | 仕事日記
弁理士近藤充紀のちまちま中間手続59

拒絶理由 進歩性
 引用文献1~3には、可溶性塩基性化合物の存在下に二酸化硫黄と硫化水素とを含むガス混合物を溶媒中で接触に付すことにより、これら2つの化合物の溶媒を含む液体反応媒質中での硫化水素と二酸化硫黄との反応により元素状硫黄を製造する方法が記載されている。
 また、二酸化硫黄や硫化水素を含むガス混合物を溶媒と接触させて処理する方法において、ガスと液との接触を並流で行うことは、引用文献4,5に記載されているように公知である。
 してみると、引用文献1~3に記載の方法においても、ガス混合物と溶媒との接触を並流で行うことは、当業者が容易に為し得たことである。
 そして、前記方法を実施するための装置として、本願の請求項7,8に記載された構成を有する装置も、当業者が容易に想到し得たものである。

意見書
 引用文献1~3には、可溶性塩基性化合物の存在下に二酸化硫黄と硫化水素とを含むガス混合物を溶媒中で接触に付すことにより、これら2つの化合物の溶媒を含む液体反応媒質中での硫化水素と二酸化硫黄との反応により元素状硫黄を製造する方法が記載されている。
 引用文献4または5には、二酸化硫黄や硫化水素を含むガス混合物を溶媒と接触させて処理する方法において、ガスと液との接触を並流で行ってよいことが記載されている。
 しかしながら、引用文献1~3に記載の方法において、ガス混合物と溶媒との接触を並流で行うことは、当業者が容易になし得たことではない。
 上記引用文献のいずれにも、上記接触を本願発明のように並流で行うことによって驚くような結果が得られることは記載されていない。また、本願発明のように並流で行うことによる利点も記載されていない。
 本願発明では、実施例1と実施例2において、並流と向流とでその得られる効果を比較している。すなわち、並流(実施例1)によるとSO2およびH2Sの硫黄含有物の残留物含有量は671ppm、向流(実施例2)によると同含有量は810ppmという顕著に異なる結果が得られた。また、実施例1に示されるように並流(本願発明)によってガス成分と液体成分とを接触させることによって残留SO2およびH2Sが16%低下したという結果が得られ、この低下は大きくかつ驚くべきことである。その結果、本発明の方法による処理後のSO2およびH2Sの含有量の最終濃度は極めて低い。したがって、並流法を採ることによって非常に改善された結果を得ることができる。向流様式によって並流様式と同一の結果(16%低下)を得ようとすると、反応器-接触器内の容積は10%増加させなければならない。これは、装置プラントの規模および施工費が余分にかかることを意味する。
 したがって、引用文献1~5には、これら単独でまたはそれらを組み合わせたとしても、並流で行う本願発明の方法に想到する動機付けは存在せず、本願発明は、引用文献1~5に対して進歩性を有している。

 なお、本出願人は、拒絶理由通知に示された見解に対して、本願発明が容易になされたものでないことを証明するため、比較実験を指導した当該分野における専門家による宣言書(Declaration)を提出する。

拒絶査定
 出願人は意見書において、ガス混合物と溶媒との接触を並流で行うことにより優れた効果が得られることは引用文献1~5のいずれにも記載されておらず、引用文献1~5には前記接触を並流で行う本願発明の方法に想到する動機付けは存在しないと主張している。
 しかるに、ガス混合物を溶媒と接触させて処理する方法において、前記接触をどのような方式で行うかは、当業者が処理効率などを勘案して選択する設計事項であり、周知又は公知の接触方式から処理効率の高い方式を採用することは、当業者が普通に行う創作の範囲内のことである。
 してみると、引用文献1~3に記載の方法において、ガス混合物と溶媒との接触に引用文献4,5に記載されている並流の接触方式を採用することは、当業者が容易に為し得たことである。
 よって、本願の請求項1~8に係る発明は、引用文献1~5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとせざるを得ない。

効果のみで進歩性を主張して失敗したケース。今なら違うアプローチする。並流でも向流でもいいなら、引用文献中にそのような記載があるはず。。逆に、並流は採用し得ない、と解されるような記載が引例中になかっただろうか。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする