弁理士近藤充紀のちまちま中間手続60
拒絶理由 新規性・進歩性 記載不備
刊行物1には、「【請求項5】 重金属を含有する固形物に、第一鉄塩溶液と第二鉄塩溶液をそれぞれの鉄のモル比で0.2~1.5となるように、かつ鉄として少なくとも1重量%となるように添加し、pHをアルカリ性に調整し、全体を混練して、固形物中の重金属をフェライト化する、重金属含有固形物の処理方法。」、「【請求項6】 pH調整後の固形物中の含水率が20~90重量%である、請求項5記載の処理方法。」(特許請求の範囲)と記載されている。
又、上記刊行物1には、「【発明の属する技術分野】この発明は、都市ゴミや各種廃棄物を焼却する焼却炉から排出される重金属を含有した焼却飛灰や、工場跡地のように重金属で汚染された土壌等の固形物を無害化処理する方法に関し、さらにその方法に使用する特殊な鉄塩溶液の製造方法に関する。」(段落【0001】)、「つぎに、請求項5記載の発明は、重金属を含有する固形物に、第一鉄塩溶液と第二鉄塩溶液をそれぞれの鉄のモル比で0.2~1.5となるように、かつ鉄として少なくとも1重量%、通常は1~20重量%、好ましくは1.5~10重量%となるように添加し、全体を混練した後、pHをアルカリ性に調整し、固形物中の重金属をフェライト化する、重金属含有固形物の処理方法である。」、「上記処理方法において、pH調整後の固形物中の含水率は好ましくは20~90重量%である。…固形物中の含水率は上記鉄塩溶液の添加量およびアルカリ溶液の添加量によって決まるが、固形物中の重金属含有量が多く、鉄塩溶液添加量も多くなる場合は、鉄塩溶液濃度を高くして、固形物中の含水率を70重量%以下にすることが、処理操作上さらに好ましい。」、「pH調整剤としては水酸化ナトリウムなどの水酸化物が経済的である。好ましいpH値は7から11の範囲である。」(段落【0020】~【0022】)、「請求項5記載の発明はつぎのような作用を有する。重金属を含む固形物に第一鉄塩溶液と第二鉄塩溶液を添加し、さらにアルカリ溶液を添加し、全体をよく混練することによりpHをアルカリ性、たとえば7から11に調整し、室温で数分の反応で第一鉄と第二鉄はフェライトを生成する。…請求項5記載の発明では第一鉄と第二鉄を同時に高濃度に存在させるため、室温、数分の反応で酸素による酸化の必要もなくフェライトが生成する。」(段落【0030】)と記載されている。
そして、上記記載からみて、上記刊行物1には重金属含有固形物の処理方法が記載されており、当該方法は、重金属を含有する固形物に、第一鉄塩溶液と第二鉄塩溶液をそれぞれの鉄のモル比で0.2~1.5となるように、かつ鉄として少なくとも1重量%となるように添加し、pHをアルカリ性に調整し、全体を混練して、固形物中の重金属をフェライト化するものであり、pH調整後の固形物中の含水率が20~90重量%であるものである。
具体的には、上記方法は、重金属で汚染された土壌等の固形物を無害化処理する方法に関するものであり、重金属を含有する固形物に、第一鉄塩溶液と第二鉄塩溶液をそれぞれの鉄のモル比で0.2~1.5となるように、かつ鉄として好ましくは1.5~10重量%となるように添加し、全体を混練した後、pHをアルカリ性に調整し、固形物中の重金属をフェライト化するものであって、pH調整後の固形物中の含水率は好ましくは20~90重量%であるものであり、pH調整剤としては水酸化ナトリウムなどの水酸化物が挙げられるものであり、好ましいpH値は7から11の範囲であるものである。
ここで、上記記載からみれば、上記重金属含有固形物の処理方法は重金属汚染土壌の浄化方法と云えるものであって、重金属を含有する固形物に、第一鉄塩溶液と第二鉄塩溶液をそれぞれの鉄のモル比で0.2~1.5となるように、かつ鉄として少なくとも1重量%となるように添加する工程は、重金属で汚染された土壌に、第1鉄塩溶液と第2鉄塩溶液を添加する第1工程と云え、pHをアルカリ性に調整し、全体を混練して、固形物中の重金属をフェライト化する工程は、上記第1工程についで、生じた含水土壌にアルカリ溶液を添加してフェライトを生成させ、重金属をフェライト中に固定する第2工程と云えるものである。
そうすると、上記刊行物1には、重金属で汚染された土壌に、第1鉄塩溶液と第2鉄塩溶液を添加する第1工程と、ついで、生じた含水土壌にアルカリ溶液を添加してフェライトを生成させ、重金属をフェライト中に固定する第2工程とからなる重金属汚染土壌の浄化方法が記載されていると云える。
又、上記刊行物1には、固形物のpHをアルカリ性に調整pH調整剤としては水酸化ナトリウムなどの水酸化物が経済的であり、好ましいpH値は7から11の範囲であること、及び、pH調整後の固形物中の含水率は好ましくは20~90重量%であることが記載されているから、第2工程におけるアルカリが苛性ソーダ、苛性カリ、消石灰、炭酸ソーダおよび/または重炭酸ソーダであり、含水土壌のpHを7.5以上にすること、及び第1工程と第2工程における土壌中の含水率を40%以下とすることが開示されていると云える。
これらのことからすれば、本願特許請求の範囲の請求項1、3及び4に係る発明と上記刊行物1に記載された発明とを比較した場合、両者の間に構成上の相違点を見出せない。
更に、刊行物2には、「【課題を解決するための手段】本発明の要旨は、重金属含有灰に水、必要に応じて酸又はアルカリを加え、混合物のpHを9~12とした後、酸及び2価鉄を加えてpH6.0~8.0の範囲においてフェライト化することを特徴とする重金属含有灰の処理方法である。」、「【作用】廃棄物中の重金属は混練用の水及び必要に応じてアルカリ又は酸を添加することでpH9~12とすることで水酸化物となる。…上記のフェライト化反応で成長した粒子は、その表面に水酸化物を被膜されていない純粋なものであるため磁石で回収可能である。」(段落【0007】~【0008】)と記載されている。
そして、上記刊行物2の記載からみれば、上記刊行物2には、重金属をフェライト化反応させて成長した粒子は磁石で回収可能であることが開示されていると云えるから、上記刊行物1に記載された発明において、第2工程の終了後、重金属を固定化したフェライトを含む土壌からフェライトを磁力により分離し、汚染土壌中の重金属含有量を低下させることは、上記刊行物2の記載に基づいて当業者が容易になし得るものであり、且つ、そうすることにより格別な効果を奏するものでもない。
以上のとおりであるので、本願特許請求の範囲の請求項1及び3~5に係る発明は、上記刊行物1に記載された発明であるか、上記刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
36条
本願明細書の発明の詳細な説明には、例えば「実施例1 カドミウムの含有量が100mg/kgで、溶出試験結果が2.1mg/lであるカドミウム汚染土壌50g(含水率11.7%)に市販の塩化第2鉄溶液(濃度38重量%、比重1.38、0.18gFe/ml)と硫酸第1鉄溶液(0.09gFe/ml、98%硫酸2ml/L)とを1:1の割合で混合してなる溶液(0.135gFe/ml)を、鉄の総添加量で0.3重量%、0.5重量%、1.0重量%、2重量%、3重量%となるように添加し、含水率を揃えるためにそれぞれに蒸留水を9.2ml、8.5ml、6.8ml、3.4ml、0ml添加し、よく攪拌した。添加後の含水土壌のpHは0.3重量%添加では4.3、0.5重量%添加では2.6であったが、1.0重量%以上ではpH2.0以下であった。」、「10分放置後、各液にアルカリ溶液(24%水酸化ナトリウム水溶液、比重1.1)を1.4ml、2.3ml、4.6ml、9.2ml、13.8ml添加し、よく攪拌した。添加後の含水土壌のpHはそれぞれ8.5、8.7、8.9、8.9、9.0であった。」、「終了後、通常の溶出試験を行った。その結果を表1に示す。いずれもフェライト化は進んでいるが、環境基準を達成できたのは鉄の総添加量1.0重量%以上のものであった。」(段落【0027】~【0029】)、「鉄の総添加量3.0重量%の含水土壌について、塩酸または水酸化ナトリウムの添加によりpHを2.0、4.0、6.0、8.0、10.0、12.0に変化させて溶出試験を実施した。結果を表2に示す。」、「pH2.0では環境基準を上回ったが、pH4以上ではいずれも環境基準を下回っており、重金属の溶出が生じないことがわかる。これは、鉄塩溶液による第1工程において、含水土壌中の重金属のうち酸に溶出するものは溶出してしまったからである。」(段落【0032】~【0033】)、「比較例1 実施例1と同じ汚染土壌50gに実施例1と同じ塩化第2鉄溶液と硫酸第1鉄溶液の1:1混合液を、鉄の総添加量が0.3重量%、0.5重量%、1.0重量%、2重量%、3重量%となるように添加し、含水率を揃えるためにそれぞれに蒸留水を9.2ml、8.5ml、6.8ml、3.4ml、0ml添加し、よく攪拌した。その後ただちにアルカリ溶液(24%水酸化ナトリウム水溶液、比重1.1)をそれぞれ1.4ml、2.3ml、4.6ml、9.2ml、13.8ml添加し、よく攪拌した。」、「実施例1と同様に溶出試験を行った。この結果を表3に示す。鉄の総添加量3.0重量%では環境基準を達成することができたが、2.0%以下では達成できなかった。」(段落【0035】~【0036】)、「実施例2 実施例1と同じ土壌50gに前もってアルカリ溶液(24%水酸化ナトリウム水溶液、比重1.1)を5ml、6ml、7ml、8ml添加したものを用意し、それぞれに塩化第2鉄溶液と硫酸第1鉄溶液の1:1割合液を鉄の総添加量として3.0重量%添加し、含水率を揃えるためにそれぞれに蒸留水を5.1ml、3.4ml、1.7ml、0ml添加し、よく攪拌した。攪拌後のpHはそれぞれ3.7、4.2、4.9、5.6であった。」、「10分放置後、アルカリ溶液をそれぞれ8.8ml、7.8ml、6.8ml、5.8ml添加し、よく攪拌した。」、「実施例1と同様に溶出試験を行った。その結果を表4に示す。鉄添加後のpHが5.6の場合では環境基準を達成できなかったが、それ以外のpHのものでは達成できた。」(段落【0038】~【0040】)と記載されている。
そして、例えば上記「実施例1」の記載からみれば、上記「実施例1」は、汚染土壌に、第一鉄塩溶液と第二鉄塩溶液を1:1の割合で混合してなる溶液を鉄の総添加量が0.3重量%、0.5重量%、1.0重量%、2重量%、3重量%となるように添加し、よく攪拌し、10分放置後、各液にアルカリ溶液を1.4ml、2.3ml、4.6ml、9.2ml、13.8ml添加し、よく攪拌し、添加後の含水土壌のpHをそれぞれ8.5、8.7、8.9、8.9、9.0としたものについて、攪拌終了後、通常の溶出試験を行ったものであるが、環境基準を達成できたのは鉄の総添加量が1.0重量%以上のものであったものである。
又、上記「比較例1」の記載からみれば、上記「比較例1」は、実施例1と同じ汚染土壌に実施例1と同じ混合液を同じ量だけ添加し、よく攪拌し、その後ただちに実施例1と同じアルカリ溶液を実施例1と同じ量だけ添加し、よく攪拌したものについて、実施例1と同様に溶出試験を行ったものであるが、鉄の総添加量3.0重量%では環境基準を達成することができたが、2.0%以下では達成できなかったものである。
更に、上記「実施例2」の記載からみれば、上記「実施例2」は、実施例1と同じ土壌に前もってアルカリ溶液を5ml、6ml、7ml、8ml添加したものを用意し、それぞれに塩化第2鉄溶液と硫酸第1鉄溶液の1:1割合液を鉄の総添加量として3.0重量%添加し、よく攪拌し、攪拌後のpHをそれぞれ3.7、4.2、4.9、5.6としたものを、10分放置後、アルカリ溶液をそれぞれ8.8ml、7.8ml、6.8ml、5.8ml添加し、よく攪拌したものについて、実施例1と同様に溶出試験を行ったものであるが、鉄添加後のpHが5.6の場合では環境基準を達成できなかったが、それ以外のpHのものでは達成できたものである。
そうすると、上記「実施例1」、「実施例2」及び「比較例1」は、いずれも、環境基準を達成できたものとできないものを包含するものである。
一方、本願特許請求の範囲の請求項1には、「重金属で汚染された土壌に、第1鉄塩溶液と第2鉄塩溶液を添加する第1工程と、ついで、生じた含水土壌にアルカリ溶液を添加してフェライトを生成させ、重金属をフェライト中に固定する第2工程とからなる重金属汚染土壌の浄化方法」と記載されているところ、上記「実施例1」、「実施例2」及び「比較例1」に記載される条件は、全て、上記請求項1に係る発明の構成を満足するものである。
そうすると、上記請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載される作用・効果を奏しないものをも包含するものであるから、上記請求項1に係る発明の 構成が明確であるとは云えない。
且つ、上記請求項1は、第一鉄塩溶液と第二鉄塩溶液の混合割合、鉄の総添加量、第一鉄塩溶液と第二鉄塩溶液の混合溶液を添加た後のpH、当該混合溶液を添加し、攪拌した後の放置時間、アルカリ溶液添加後の含水土壌のpH等の条件を何等限定するものではないが、上記「実施例1」、「実施例2」及び「比較例1」の記載からみれば、発明の詳細な説明に記載される作用・効果を奏するのは、これらが所定の条件を満足する場合のみである。
そうすると、上記発明の詳細な説明に記載された内容を上記請求項1に係る発明の範囲に拡張乃至一般化することもできないから、上記請求項1に係る発明が、発明の詳細な説明に記載されているとも云えない。
そしてこのことは、請求項2~5に係る発明についても同様である。
意見書
理由1、2
拒絶理由1および2の対象となっていない元の請求項2を元の請求項1に組み込み新請求項1とした。したがって、新請求項1は拒絶理由1および2を有しないものである。
理由3、4
実施例1~4は、便宜上、請求項1に属するものと属しないものを併記したものである。すなわち、重金属の溶出結果を示す各表には、環境基準を達成したものとそうでないものとがあることが説明されている。
実施例1の表1において、鉄の総添加量1.0重量%以上が環境基準を達成できる(段落[0029])ので、これを新請求項1に規定した。環境基準を達成できない鉄の総添加量1.0重量%未満も便宜上表1に記載してあるが、これはもちろん請求項1に属しない。
実施例1の表2において、pHが4以上で環境基準を達成できることが示されている(段落[0033])。しかし、新請求項1では第2工程におけるアルカリ添加後の含水土壌のpHは規定されていないので、表2の結果は請求項1と矛盾しない。なお、請求項3の「含水土壌のpH7.5以上」は好適な実施形態を規定したものである。
新実施例2の表3において、鉄の総添加量3.0重量%以上が環境基準を達成でき(段落[0036])、3.0重量%未満は環境基準を達成できないので、後者の場合を請求項1から除外するために、新請求項1に「鉄の総添加量が汚染土壌に対して3.0重量%未満である場合には、第2工程の前に、汚染土壌中の重金属の溶出のための滞留時間をおく」と規定した。環境基準を達成できない鉄の総添加量3.0重量%未満も便宜上表3に記載してあるが、これはもちろん請求項1に属しない。
新実施例3の表4において、pH4.9以下が環境基準を達成できpH5.6では環境基準を達成できない(段落[0040])。これは新請求項1の規定に合致する。このように環境基準を達成できないpHの場合も便宜上表4に記載してあるが、これはもちろん請求項1に属しない。
以上のように、補正後の請求項1は、詳細な説明に記載された作用・効果を奏するように規定したものとなっているので、本願発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、かつ、明確である。
したがって、本願発明は、特許法第36条の要件を満たしている。
特許査定
ひとこと:拒絶理由通知が長くて大変でした。丁寧に対応して事なきを得ましたが・・