弁理士近藤充紀のちまちま中間手続71
拒絶理由 新規性・進歩性
例えば、引用文献1-4に記載されているように、水中に好気性細菌を保持した流動担体を含み、底部に脱窒細菌を保持した脱窒固定床を具備した生物的硝化・脱窒一体型装置および同装置を用いた水処理方法は周知技術と認められる。
そして、上記周知技術と本願請求項1,6に記載された発明との間に差違は認められない。
なお、水槽等の水処理を生物学的に行うことは周知技術と認められる。
意見書
引用文献1~4には、同一の槽内に好気性細菌を保持する好気性ゾーンと嫌気性細菌を保持する嫌気性ゾーンとを具備した生物的脱硝化・脱窒一体型装置が記載されている。
しかしながら、引用文献1~4には、「脱窒固定床内部に炭素源を直接供給する」ことは記載されておらず、それを示唆するような記載もない。
したがって、本願発明は引用文献1~4に記載された発明でなく、新規性を有している。
また、本願発明では、「脱窒固定床内部に炭素源を直接供給する」ことにより、有機炭素源溶液中の炭素が窒素ガス曝気等により人為的に排除・拡散されることがなく、脱窒に不可欠な嫌気状態を効果的に維持することができ、さらに、炭素源が処理槽に拡散して無駄になることもなく、最小限の炭素源の供給で効果的に脱窒させることができる。
引用文献1~4には、このようなことは記載されておらず、示唆するような記載もないので、本願発明は、進歩性も有する。
引用文献5には、槽内に脱窒細菌フロックを収容した脱窒槽を具備する生物的硝化・脱窒一体型装置が記載されている。
しかしながら、本意見書と同時提出した手続補正書による補正により、旧請求項2は削除したので、引用文献5に基づく拒絶理由は解消した。
拒絶理由 進歩性
引用文献1には、充填槽を用いた下水処理装置が記載されており、充填槽側の上段部には比重が比較的小さい粒子を充填するとともに散気配管を設けて好気槽を形成し、充填槽側の下段部には比重が比較的大きい粒子を充填するとともにメタノール注入管を設けて嫌気槽を形成する旨が開示されている。また、充填槽の底部には、充填槽を洗浄するための散気管が設けられている旨も記載されている(【請求項1】、段落番号【0001】、【0008】、【0009】、【図1】等参照)。
したがって、本願の請求項1、2に係る発明は、水族館や陸上養殖施設の循環水あるいは飼育排水を処理対象としている点で、引用文献1に記載された発明と相違する。
しかしながら、水族館や魚等の飼育に関する産業分野からの排水を好気槽と嫌気槽において硝化・脱窒処理する技術は、公知である(要すれば、引用文献2参照)。
したがって、引用文献1記載の下水処理装置において、処理対象として周知の排水を選択することは、当業者が適宜なし得る設計的事項である。
よって、本願の請求項1、2に係る発明は、進歩性を有さない。
なお、同様のことが、請求項3においても認められる。
意見書
本願発明の目的は、本願明細書の段落[0003]および[0004]に記載されているように、よりコンパクトかつ単純に、好気的な硝化処理と嫌気的な脱窒処理を同一槽内で行う一体型の硝化・脱窒装置を提供することにある。
ここで、本願発明の処理対象は、水族館および陸上養殖施設からの飼育排水中のアンモニア態窒素、亜硝酸態窒素および硝酸態窒素であるが、これらのうち、硝酸態窒素は他の態様の窒素ほどには魚類に対する毒性が高くない上、定期的な飼育水の交換の際に希釈されるため大きな問題にならない(段落[0002]の7~8行)。また、従来の好気的条件下での硝化処理に続いて嫌気的条件下で脱窒処理を行う方式では、硝酸が除去された後の処理水が嫌気的であるため、魚の飼育水槽に戻す前に曝気等を行い、これを好気的な状態に戻す必要があり(段落[0003]の5~7行)、装置のコンパクトの妨げとなっていた。
本願発明は、以上のような問題を解消するために、まず、「脱窒固定床内部に炭素源を直接供給する」ことにした。これにより、有機炭素源溶液中の炭素が窒素ガス曝気等により人為的に排除・拡散されることがなく、脱窒に不可欠な嫌気状態を効果的に維持することができ、さらに、炭素源が処理槽に拡散して無駄になることもなく、最小限の炭素源の供給で効果的に脱窒させることができる。
また、上記のように各態様の窒素のうち、硝化処理により生じた硝酸態窒素はそれほど大きな問題にならないことから、本願発明では、「底部の一部の領域に脱窒細菌を保持した脱窒固定床を、底部の他の領域に散気装置が具備される」ようにした。これにより、硝化処理を行った処理水の全てを次の脱窒処理に付すのではなく、同一槽内において好気的条件下での硝化処理と、嫌気的条件下での脱窒処理とを並行して行うようにし、槽内の水は散気装置による曝気により十分に好気的な状態になっていることから、従来のように処理後の水を魚の飼育水槽に戻す前に曝気等を別途行う必要がなく、よりコンパクトかつ単純な構成にすることができる。
また、明細書の段落[0015]に「硝酸の毒性は低く200~300mg/リットル程度でも特に支障は起こらない。また、担体容積あたりの窒素処理効率は硝化の約3倍であることから、よりコンパクトな容量で硝酸濃度は安全な濃度で維持することが可能である」と記載されているように、本願発明では、該脱窒固定床を、硝化担体1m3に対して0.1~0.3m3にすることができ、このような点でも、本願発明は、よりコンパクトかつ単純な構成になっている。
拒絶理由について
引用文献1には、充填槽を用いた下水処理装置が記載されており、充填槽側の上段部には比重が比較的小さい粒子を充填するとともに散気配管を設けて好気槽を形成し、充填槽型の下段部には比重が比較的大きい粒子を充填するとともにメタノール注入管を設けて嫌気槽を形成する旨および充填槽の底部には、充填槽を洗浄するための散気管が設けられている旨が記載されている。
また、引用文献2には、水族館や魚等の飼育に関する産業分野からの排水を好気槽と嫌気槽において硝化・脱窒処理する技術が記載されている。
引用文献1の装置では、その図1において示されるように、散気配管(6)による好気条件下での好気層(7)における硝化処理後の水は、その全てが、メタノール注入管(9)から供給されるメタノールを炭素源とする嫌気条件下での嫌気層(8)における窒化処理を経、窒化処理後の水は、オゾンまたは空気の供給器(10)による処理を経た後に排出されている。
このように、引用文献1の装置では、嫌気層(8)での処理後の水は嫌気状態にあり、下水を処理対象とする引用文献1の装置を、本願発明のような水族館等からの飼育排水に適用するためには、処理後の水に対して空気を供給する手段(オゾンまたは空気の供給器(10))が必須であり、コンパクトかつ単純な構成にはならない。
これに対して、本願発明では、底部の他の部分に設置された散気装置により曝気が行われているので、処理後の水に対して空気を供給する手段(オゾンまたは空気の供給器(10))を別途設ける必要がない。
さらに、引用文献1には、本願発明において規定される「脱窒固定床は硝化担体1m3に対して0.1~0.3m3である」ことは一切記載されていないので、この点でも、引用文献1の装置では、よりコンパクトかつ単純な構成の装置とすることはできない。
また、引用文献2は、硝化菌を保持した硝化ろ材の製造方法に係わる発明であって、本願発明のような構成は全く記載されていない。
したがって、下水処理のための引用文献1の装置を、そのままで水族館等からの飼育排水の処理に適用してもコンパクトかつ単純な構成のものにはならないので、引用文献1および2の記載から、本願発明に想到することは容易ではなく、本願発明は進歩性を有している。
特許査定