弁理士近藤充紀のちまちま中間手続53
拒絶理由 進歩性
引用例1には、本願所定の壁厚、多孔率(気孔率)、孔径を有する炭化珪素製多孔質透過成型体が記載されている(特許請求の範囲、第1頁右欄第8行~第20行、第3頁右上欄第3行~第11行、第4頁右下欄第4行~第5頁左上欄第1 2行)。
ここで、引用例1には明記されていないものの、比透過率は壁厚や多孔率によって一義的に決定されると認められるので、引用例1記載の多孔質透過成型体も、本願所定の比透過率を有するものと認められる。
仮に、引用例1記載の多孔質透過成型体が本願所定の比透過率を有するとまではいえないとしても、圧力損失等考慮して、多孔質透過成型体の比透過率を所望の値に調節することは、当業者が適宜なし得る事項にすぎず(必要ならば引用例2等参照)、かかる数値限定による臨界的な効果も、本願明細書からは何ら認め られない。
さらに、抵抗値を調節するために、多孔質透過成型体にホウ素等の添加剤を加えることも公知であり(引用例3:請求項3、【0019】【0034】)、所望の抵抗値を実現するために、引用例1記載の多孔質透過成型体にホウ素等の添加剤を適当量添加することは、当業者が容易になし得ることである。
意見書
補正により旧請求項1~5は削除された。これにより、引用文献1~3に基づく進歩性の拒絶理由は本願に該当しなくなった。
拒絶理由 進歩性
引用例2には、出発粉体を炭化後、窒素雰囲気下1400~2000℃で焼成する炭化ケイ素製多孔質透過成形体の製造方法が記載されており、焼成時に窒素を添加することで比抵抗を調節することも記載されている(特許請求の範囲、第3頁右上欄第15行~第4頁左上欄第9行等)。
ここで、引用例2には「再結晶焼成」については明記されないものの、本願における「再結晶焼成」温度と上記引用例2の焼成温度とは重複しており(2000℃)、また本願明細書には「再結晶焼成」の具体的な定義づけや焼成条件は何ら規定されない、言い換えれば「再結晶焼成」であるか否かはその焼成温度のみに依存すると認められるので、本願発明は引用例2に記載された発明である(仮に上記「再結晶焼成」が焼成温度以外の条件を必要とするのであれば、本願明細書には焼成温度以外の条件については何ら記載されておらず、また「再結晶焼成」なる記載から具体的な焼成条件が自明に導かれるとも認められないので、本願明細書は、「再結晶焼成」を実施できる程度に明確かつ十分に記載されておらず、本願請求項の「再結晶焼成」なる記載は不明瞭である)。
また引用例4には、出発粉体を炭化後、窒素雰囲気下本願所定の温度範囲で2段階焼成する炭化ケイ素製多孔質透過成形体の製造方法が記載されており、該2段階焼成の一方、若しくは双方がそれぞれ本願における「反応焼成」「再結晶焼成」に相当する(特許請求の範囲、第2頁左下欄第4行~第10行、第2頁右下欄第1行~第12行、第3頁左下欄第7行~第4頁左上欄第18行)。
さらに、引用例3,5~8には、出発粉体を炭化後、不活性雰囲気下、本願所定の「再結晶焼成」温度で焼成する炭化ケイ素製多孔質透過成形体の製造方法が記載されている一方(引用例3:特許請求の範囲、【0026】【0034】【0035】/引用例5:特許請求の範囲、第3頁右上欄第10行~右下欄第9行、第4頁右下欄第1行~第7頁左下欄第4行/引用例6:特許請求の範囲、第2頁左上欄第19行~左下欄第18行/引用例7:特許請求の範囲、第4頁右上欄第17行~第5頁左上欄第4行/引用例8:特許請求の範囲、第3頁右上欄第18行~右下欄第9行、第4頁左上欄第1行第9行、第5頁左上欄第9行~右上欄第14行)、引用例2,4等に記載されるように、比抵抗の調節のため焼成に用いる不活性ガスを窒素とすることは、当業者が容易になし得ることである。
加えて、炭化ケイ素製多孔質透過成形体の原料としてシリカ及び炭素前駆体材料のみを用いることも一般的な技術でしかなく(引用例9等)、所望の物性や作業性を得るために、原料の組成比、粒径等を好適に定めることも、必要に応じて当業者が適宜なし得る事項でしかない。
そして、本願明細書の記載からは、本願発明が所定の構成をとることで顕著に有利な効果を示すとまでは認められない。
意見書
最初に、本発明の特徴である「反応焼成」と「再結晶焼成」の二段階の工程について詳細に説明する。
本願の出願当初の明細書の段落[0003]に記載されているように、ケイ素と炭素の混合物に対して反応焼成(1400~1900℃)を行うことにより、炭化ケイ素が形成されるが、この場合に形成されるのは、β-炭化ケイ素である。本願明細書および平成18年12月25日に提出された意見書において説明されるように、β-炭化ケイ素は非常に緻密であり、フィルタの壁厚を非常に薄くした場合であってもディーゼルエンジンの排ガスをろ過するのに適していない。壁厚を薄くすると、ろ過体が不安定になる。その結果、1400~1900℃の温度に未焼成体をコーキングすることのみによって製造された排ガスフィルタは、不安定なフィルタをもたらす。
本発明の特徴は、反応焼成後に、第二の工程として、少なくとも2100℃に昇温させられる「再結晶焼成」工程を行うことである。「再結晶焼成」の温度領域では、「反応焼成」工程により形成されたβ-炭化ケイ素をα-炭化ケイ素に転換する再結晶が起こる。α-炭化ケイ素に転換することによって、多孔度が大幅に向上し、その結果、焼成体が、大幅に薄い壁を有し、その結果として、より良好な機械的安定性を有し得るという利点を有する。したがって、ろ過体は、良好なろ過効果、低い流れ抵抗およびそれにもかかわらず良好な機械的安定性を有する。上述の方法によって得られたろ過体は、本出願の前に知られたSiCからの全てのろ過体と比較して大きな利点を有する。
(a)引用文献2について
引用文献2には、出発粉体を炭化後、窒素雰囲気下1400~2000℃で焼成する炭化ケイ素多孔質透過成形体の製造方法が記載されている。
しかしながら、新請求項1における「反応焼成」は1400~1900℃で行われ、「再結晶焼成」は少なくとも2100℃で行われているので、引用文献2では、本願の「再結晶焼成」に該当する工程はなされていない。さらに、引用文献2の第2頁右下欄27行に「材料のβ炭化珪素成分が本体の電気抵抗に好ましい影響を与える」と記載されているように、引用文献2では、β-炭化珪素を形成することが目的となっているため、引用文献2には、本願の「再結晶焼成」を行ってβ-炭化珪素をα-炭化ケイ素に転換することの動機付けになるような記載はない。
(b)引用文献4について
引用文献4には、出発粉体を炭化後、窒素雰囲気下所定の温度範囲で2段階焼成する炭化ケイ素製多孔質透過成形体の製造方法が記載されている。
しかしながら、引用文献4と本願発明では、その出発物質と実施される焼成の工程の内容が全く異なっている。すなわち、引用文献4では、その第2頁左上欄8~9行に「フィルタ材料としては炭化珪素の多孔質焼結体が選択される」と記載されているように、出発物質が炭化ケイ素であり、ケイ素および炭素の混合物を出発粉体とする本願発明とは全く異なっている。また、引用文献4では、第1の焼成工程が1900~2300℃の温度範囲でなされており、これでは、用いられる温度に応じて、2100℃未満ではβ-炭化ケイ素が形成され2100℃以上ではα-炭化ケイ素が形成され、しかも、第2の焼成工程が1600~2100℃のβ-炭化ケイ素が形成される温度範囲で行われており、本願のように「反応焼成」と「再結晶焼成」の二段階で焼成を行っていない。したがって、引用文献4の方法によってα-炭化ケイ素を一部に含むものが得られるとしても、本願発明のように二段階で焼成することにより透過特性に優れたものが得られることに想到することはできない。
(c)引用文献3について
引用文献3には、内燃機関の排気ガスを精製するためのフィルタを製造する方法が記載されている。
しかしながら、引用文献3では、フィルタは、α-炭化ケイ素およびβ-炭化ケイ素粉体および添加物(炭化ケイ素を除く炭化物)の開始混合物から製造されているのに対し、本願発明では、ケイ素と炭素の混合物を反応焼成(1400~1900℃)することによってβ-炭化ケイ素を形成し、次いで、再結晶焼成(少なくとも2100℃)することによって、α-炭化珪素を生じさせている。
また、引用文献3では、1800~2200℃の焼成温度で焼成工程を行っており、本願発明で規定する「再結晶焼成」の温度範囲を含んでいる。しかしながら、引用文献3では、一段階の焼成工程である。本願発明では、β-炭化ケイ素を形成するための「反応焼成」の段階、β-炭化ケイ素をα-炭化ケイ素に転換させる「再結晶焼成」の段階の二段階を順次に行うことによって、明確に孔を成長させ、透過特性が事実上改良された状態の多孔性透過成形体を製造することができる。一段階で焼成する引用文献3の方法により、フィルタ中のα-炭化ケイ素を含むものが得られるとしても、本願発明のように二段階で焼成することにより透過特性に優れたものが得られることに想到することはできない。
(d)引用文献5について
引用文献5には炭化珪素質ハニカム状フィルタの製造方法が開示されている。
しかしながら、引用文献5の方法では、炭化ケイ素粉末を主体とする出発原料からフィルタが製造されており、ケイ素と炭素の混合物を反応焼成(1400~1900℃)することによってβ-炭化ケイ素を形成し、次いで、再結晶焼成(少なくとも2100℃)することによって、α-炭化珪素を生じさせている本願発明とは異なっている。
また、引用文献5では、2000~2500℃の焼成温度で焼成工程を行っており、本願発明で規定する「再結晶焼成」の温度範囲を含んでいる。しかしながら、引用文献5では、一段階の焼成工程である。本願発明では、β-炭化ケイ素を形成するための「反応焼成」の段階、β-炭化ケイ素をα-炭化ケイ素に転換させる「再結晶焼成」の段階の二段階を順次に行うことによって、明確に孔を成長させ、透過特性が事実上改良された状態の多孔性透過成形体を製造することができる。一段階で焼成する引用文献5の方法により、フィルタ中のα-炭化ケイ素を含むものが得られるとしても、本願発明のように二段階で焼成することにより透過特性に優れたものが得られることに想到することはできない。
(e)引用文献6について
引用文献6には均質で多孔性の再結晶炭化珪素体の製造方法が開示されている。
しかしながら、引用文献6の方法では、炭化珪素粉と場合による炭素粉と炭素バインダーとからなる混合物からフィルタが製造されており、ケイ素と炭素の混合物を反応焼成(1400~1900℃)することによってβ-炭化ケイ素を形成し、次いで、再結晶焼成(少なくとも2100℃)することによって、α-炭化珪素を生じさせている本願発明とは異なっている。
また、引用文献6では、1900~2400℃の焼成温度で焼成工程を行っており、本願発明で規定する「再結晶焼成」の温度範囲を含んでいる。しかしながら、引用文献6では、一段階の焼成工程である。本願発明では、β-炭化ケイ素を形成するための「反応焼成」の段階、β-炭化ケイ素をα-炭化ケイ素に転換させる「再結晶焼成」の段階の二段階を順次に行うことによって、明確に孔を成長させ、透過特性が事実上改良された状態の多孔性透過成形体を製造することができる。一段階で焼成する引用文献6の方法により、フィルタ中のα-炭化ケイ素を含むものが得られるとしても、本願発明のように二段階で焼成することにより透過特性に優れたものが得られることに想到することはできない。
(f)引用文献7について
引用文献7には導電性炭化ケイ素焼結多孔体の製造方法が開示されている。
しかしながら、引用文献7の方法では、炭化ケイ素粉末を出発原料としており、ケイ素と炭素の混合物を反応焼成(1400~1900℃)することによってβ-炭化ケイ素を形成し、次いで、再結晶焼成(少なくとも2100℃)することによって、α-炭化ケイ素を生じさせている本願発明とは異なっている。
(g)引用文献8について
引用文献8には炭化珪素質焼結体で構成されたフィルタが開示されている。
しかしながら、引用文献8に記載された方法では、少なくとも60重量%のβ型炭化珪素よりなる炭化珪素を出発原料としており(第2頁左下欄10行)、ケイ素と炭素の混合物を反応焼成(1400~1900℃)することによってβ-炭化ケイ素を形成し、次いで、再結晶焼成(少なくとも2100℃)することによって、α-炭化珪素を生じさせている本願発明とは異なっている。
また、引用文献8では、1700~2200℃の焼成温度で焼成工程を行っており(第4頁左上欄2~3行)、本願発明で規定する「再結晶焼成」の温度範囲を含んでいる。しかしながら、引用文献8では、一段階の焼成工程である。本願発明では、β-炭化ケイ素 を形成するための「反応焼成」の段階、β-炭化ケイ素をα-炭化ケイ素に転換させる「再結晶焼成」の段階の二段階を順次に行うことによって、明確に孔を成長させ、透過特性が事実上改良された状態の多孔性透過成形体を製造することができる。一段階で焼成する引用文献8の方法により、フィルタ中のα-炭化ケイ素を含むものが得られるとしても、本願発明のように二段階で焼成することにより透過特性に優れたものが得られることに想到することはできない。
(h)引用文献9について
引用文献9には、炭化ケイ素製多孔質透過成形体の原料としてシリカ及び炭素前駆体材料のみを用いることが開示されている。
しかしながら、補正後の本願発明は、ケイ素および炭素の混合物を出発物質としており、引用文献9とは異なっている。
以上において説明したように、本願発明は、引用文献2~9に記載された発明と同一ではなく、また、引用文献2~9に基づいて容易に想到することができるものでもない。したがって、本願発明は、引用文献2~9に対して、新規性および進歩性を有している。
特許査定
2回の拒絶理由までは、ぼろくそにやられてた。通常は、この段階でギブアップでも仕方ないかな。。最後の意見書で総力を挙げて仕上げたところ権利化に成功した。