弁理士近藤充紀のちまちま中間手続96
拒絶理由 進歩性
引用例1には、重質油を固定床にて水素化して脱メタル及び脱硫し、次いで沸騰床にて脱硫することが記載されている。
そして、該重質油を本願発明中の原料留分とすること、水素化条件を本願発明中の条件とすること、さらに生成物を任意の留分に蒸留することは当業者が容易になし得ることに過ぎない。
意見書
引用文献1には、次の2工程を包含する方法が開示されている:
a)重質油からバナジウムおよびニッケルを除くための水素化処理触媒を含有する固定床反応器における重質油の水素化処理(水素化脱金属および水素化脱硫);および
b)さらなる水素化処理を実施するための工程a)において水素化処理された重質油の懸濁床反応器への水素化処理。
引用文献1に記載された発明の目的は、重質油を水素化処理することであり、包含される2つの工程により、固定床反応器中の水素化処理触媒の不活性化を制限することが可能になる。第1の反応器中の触媒の耐用期間を延長することができ、全体的に、重質油の水素化処理が実施される期間を延長することができる(段落[0016]参照)。
しかしながら、引用文献1によると、工程b)の後に得られる油生成物の硫黄含有量(表3および4を参照)は0.30wt%(3000重量ppm)であり、この値は、規格値よりはるかに大きい値である。
したがって、引用文献1の方法では、硫黄10重量ppm未満のガソリン型エンジン気化燃料および500ppm未満の硫黄含有量を有するディーゼル型エンジン気化燃料を得ていない。
したがって、本願発明の請求項1は進歩性を有している。
引用文献2には、Reを含有する特定の触媒を用いる水素化処理およびその後の流動接触分解の2工程により重質油を転化する方法が開示されている。
しかしながら、引用文献2の方法における「Reを含有する特定の触媒を用いる水素化処理」は本願発明の請求項1の工程(b)に相当し、「流動接触分解」は、本願発明の請求項2の工程(d)に相当しており、引用文献2の方法では本願発明の請求項1の工程(a)に相当する工程はなされていない。
また、引用文献2では、重質油原料の全体が流動接触分解工程に付されるのに対して、本願発明では、請求項1および2に規定されるように、工程(c)により得られるガス留分、ガソリン型エンジン気化燃料留分、ガスオイル型エンジン気化燃料留分および重質の液体留分のうち、重質液体留分のみが接触クラッキング工程(工程(d))に投入される。
さらに、引用文献2には、特定の水素化処理によって硫黄分が低レベルになるように除去されることが記載されている(段落[0020]等)が、本願発明に規定されるように高度に硫黄含有量を低減させることができることは記載されていない。
したがって、引用文献1に記載の発明に引用文献2に記載されたクラッキング工程を組み合わせても本願発明の請求項2とは同一とはならず、また、容易に想到することもできない。
したがって、本願発明の請求項2は進歩性を有している。
以上のように、本願発明の請求項1および2は進歩性を有している。本願発明の請求項2~13は、新請求項1および2の従属項であるため、当然、これらの請求項も進歩性を有している。
以上に説明したように、補正により本願発明の拒絶理由1および2は解消した。
拒絶査定
出願人は意見書において、引用例1お呼び2には水素化重質油の製造方法が記載されているに留まり、その硫黄濃度は本願発明の濃度と異なる旨主張する。
しかしながら、本願発明は工程a及びbで得られた生成物をさらに蒸留する工程を有するものであるところ、燃料油の製造において、求める蒸留性状の油をえるために任意の条件にて蒸留することは常套手段であるから、引用例1記載の発明において得られた重質油をさらに蒸留して、硫黄濃度が低減されたガソリンやディーゼル燃料をえることは当業者が容易になしえることに過ぎない。
また、引用例2の【0038】に記載されているように、水素化処理は固定床の水素化触媒等により処理することにより行うことが記載されているので、引用例2には、本願発明中の工程a及びbに相当する工程が記載されていると認められる。
よって、本願発明は依然として特許を受けることができない。
審判
補正なし
理由
以下、本願発明が進歩性を有する理由について説明する。
拒絶理由通知および拒絶査定では、本願発明の工程aおよびbが、引用文献1および2に記載されている旨が認定されているが、引用文献1および2を参照すると、この認定は誤りである。以下、この点について詳細に説明する。
引用文献1には、次の2工程を包含する方法が開示されている:
a)重質油からバナジウムおよびニッケルを除くための水素化処理触媒を含有する固定床 反応器における重質油の水素化処理(水素化脱金属および水素化脱硫);および
b)さらなる水素化処理を実施するための工程a)において水素化処理された重質油の懸濁床反応器への水素化処理。
引用文献1に記載された発明の目的は、重質油を水素化処理することであり、包含される2つの工程により、固定床反応器中の水素化処理触媒の不活性化を制限することが可能になる。第1の反応器中の触媒の耐用期間を延長することができ、全体的に、重質油の水素化処理が実施される期間を延長することができる(段落[0016]参照)。
しかしながら、引用文献1の段落[0005]には、「本発明の方法では、最初に固定床で、原料の重質油を水素化処理する(a)工程を、前記従来技術のように該工程で・・・高い脱硫、・・・を行うことを目的としてきびしい条件で実施すると、・・・この様なきびしい条件では重質油中に含まれるアスファルテンは、・・・ドライスラッジの発生原因となる。また、アスファルテンが熱分解を生じ、コーク質が生じるため、・・・長期間の運転が不可能になる。従って該工程では温和な反応条件により反応性に富んだ不純物だけを除去することが望ましい。」と記載され、また、段落[0007]には、「本発明の方法における(b)工程では、・・・高い脱硫・・・を行うことが望ましい。」と記載されており、引用文献1の工程(a)は、本願発明の請求項1における(a)工程のような脱硫工程ではなく、むしろ脱硫が生じることを避けるようにしてなされる工程であり、脱硫が行われているのは工程(b)である。
したがって、「固定床水素化脱硫触媒を含む少なくとも1つの反応器によって低減された硫黄含有量の液体流出物を得る」ための本願発明の請求項1の工程(a)は、引用文献1の工程(a)とは全く異なるものである。
また、引用文献1によると、工程b)の後に得られる油生成物の硫黄含有量(表3および4を参照)は0.30wt%(3000重量ppm)であり、この値は、規格値よりはるかに大きい値である。
したがって、引用文献1の方法では、硫黄10重量ppm未満のガソリン型エンジン気化燃料および500ppm未満の硫黄含有量を有するディーゼル型エンジン気化燃料を得ていない。
引用文献2には、Reを含有する特定の触媒を用いる水素化処理およびその後の流動接触分解の2工程により重質油を転化する方法が開示されている。
引用文献2では、その段落[0018]~[0042]において水素化処理の説明がなされている。この水素化処理は、モリブデンとアルカリ土類金属および/または希土類金属を含有する触媒を用いてなされるものであり、固定床、沸騰床等の種々の反応方式で行われている。
また、段落[0022]には、水素化処理として、水素化脱硫反応、水素化脱金属反応、水素化脱窒素反応、芳香族環の水素化反応、水素化開環反応、側鎖の脱アルキル化反応等の多様な反応が挙げられている。
これに対して、本願発明の請求項1では、工程(a)が、「水素化脱硫触媒を含む」として規定された脱硫工程であり、工程(b)が、「沸騰床水素化処理触媒を含み」と規定される水素化処理工程である。本願発明の請求項1では、各工程に用いられる触媒について「水素化脱硫」および「水素化処理」と機能上の規定のみに留まっているものの、本願明細書の段落[0010]の11~12行に第VIB族金属であるモリブデンが例示されており、引用文献2の水素化処理工程において用いられる触媒がモリブデンを含有するものであることと一致し、かつ、本願発明の請求項1の工程(b)が水素化処理工程として規定されていることを考慮すれば、引用文献2の水素化処理工程に相当するのは、本願発明の請求項1の工程(a)および(b)のうち、工程(b)であるといえる。
また、上記のように、引用文献2の水素化処理では、水素化脱金属、水素化脱窒素等の多種多様の反応のうちの一つとして水素化脱硫が挙げられているに過ぎず、水素化脱硫を主目的として水素化脱硫触媒を用いて脱硫反応を行っている本願発明の請求項1の工程(a)とは同一とはいえない。
さらに、引用文献2における第2工程である、流動接触分解処理は、本願発明の請求項3の接触クラッキングの工程(d)に一致する。
以上から、引用文献2の水素化処理は、本願発明の請求項1の工程(b)に相当し、流動床接触分解工程は、本願発明の請求項2の接触クラッキング工程(d)に相当するので、引用文献2には、本願発明の請求項1の工程(a)に相当する工程は記載されていない。
また、引用文献2では、重質油原料の全体が流動接触分解工程に付されるのに対して、本願発明では、請求項1および2に規定されるように、工程(c)により得られるガス留分、ガソリン型エンジン気化燃料留分、ガスオイル型エンジン気化燃料留分および重質の液体留分のうち、重質液体留分のみが接触クラッキング工程(工程(d))に投入される。
さらに、引用文献2には、特定の水素化処理によって硫黄分が低レベルになるように除去されることが記載されている(段落[0020]等)が、本願発明に規定されるように高度に硫黄含有量を低減させることができることは記載されていない。
以上に説明したように、引用文献1および2のいずれにも、本願発明の請求項1の工程(a)に相当する工程は記載されておらず、示唆する記載もない。
次に、本願の出願人は、処理対象となる炭化水素留分の硫黄濃度が異なることにより得られる差異を説明するために、引用文献1の実施例1において得られた流出物の蒸留をシミュレートして、その硫黄含有量を算出した。
その詳細について、以下の追加実施例において説明する。
上記追加実施例1の結果から、当業者が流出物の蒸留により引用文献1の出発原料について本願発明の方法を行ったとしても、本願請求項1のような低硫黄含有量の生成物を得ることはできず、これらの生成物は、より高い硫黄含有量を有するので、法定価格に達するために化学方法によって処理されなければならない。
したがって、引用文献1の出発原料について本願発明の処理を行っても、直接的な蒸留工程のみによっては低硫黄含有量の硫黄製品を得ることはできない。
以上に説明したように、本願発明の請求項1は、引用文献1および2に対して進歩性を有している。また、本願発明の請求項2~13は、直接的または間接的に本願発明の請求項1を引用しているので、当然、これらも進歩性の要件を満たしている。
拒絶理由
36条第6項第1号
36条第4項
補正書提出
意見書
追加実施例提出で解消
特許審決