国語屋稼業の戯言

国語の記事、多数あり。国語屋を営むこと三〇余年。趣味記事(手品)多し。

作文参考書 陸軍予科士官学校 その8

2018-08-24 10:06:28 | 作文参考書 陸軍予科士官学校
 第三章
 第四節  客想
客想とは、主想を助けて文を有効ならしむべき補助の想なり。詳言すれば、主想を明晰ならしめ、文旨の存する所を読者の脳裏に深くかつ強く印象せしめんがために借りて用ふべき想なり。このゆえに、客想あればとて文の内容に一物をも増やすことなく、客想なければとて一物をも減ずることなし。もし内容に増減の影響を及ぼすものたらんか、そは客想にあらずして、主想の一部たるなり。
客想は、もと構想の意匠に属する方便物にして、目的物にはあらず。主想に追随して連想すべきものたり。故に、主想に先だちて起こるべきにはあらず。しかれども、これを構成配列するに際しては、或は主想に先だたしめて主想の前衛たらしめ、或は主想後しめて主想の後衛たらしめ、或は主想と前後相錯綜せしめ、或は主想の存する所を十分に含蓄せしめてわざと客想に多言を費し、主想の意を特に短縮してこれが結束のごとくし、或は殆んど主想に一言をも費すことなくしてことごとくこれを客想に託し、或は客想をただ一言して読者の想像に任せ、その余はつとめて主想に多言することあり。概しては客想多きに過ぐれば文辞浮華に流れて真摯の風を失す。
客想は、最も必要と認むるとき最も有効に用いられざるべからず。しからざれば、客想あるがためにかえって文旨の明晰を傷つくることあるべし。
それ客想は、大にしては文の一段一節をも占むべきものあり、小にしては一句数句の中に含まるべきものあり。吾人は、客想の運用によりて講演文章等に趣味有る敷衍を為し得ると同時に、客想の節略によりこれを縮約して簡潔なるものとも為し得べし。これたしかに、文の伸縮方の一理法となすべきなり。
客想については、措辞上の意匠と出入すること多し。ゆえに、その大なるものは構想の際筆を下すの前、まずこれが意匠を凝すべきも、その小なるものにいたっては、筆端の走るがままによりより案出調合して可なり。
 
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