国語屋稼業の戯言

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作文参考書 陸軍予科士官学校 その7

2018-08-22 20:32:10 | 作文参考書 陸軍予科士官学校
 第三章
 第三節  構想(二)(構想の形式、主想)
構想の形式におよそ五種あり。追歩式・散列式・頭括式・尾括式・両括式、これなり。
追歩式とは、頭なく尾なく、唯一条の筋を辿りて縦に記述する形なり。何等の技巧なきが如くなれども、淡味言うべからざるものあり。散列式もまた頭なく尾なく、幾多の事項を横に並列記述する形なり。と見れば散漫にして何等条理の一貫せるもの無きが如くなれども、子細に点検し来れば各項自ら多少の関連あり、次序あり。その淡如たる所最も悦ぶべし。頭括式とはまず綱領を提げて記述し、次いでこれを詳説する形なり。尾括式とは、これに反してまず個々の事項を説述し、終りに至って結束する所あらしむるをいう。まず綱領を提起するあり、終りに結束するありて、首尾両つながら瞭然たるものを両括式という。これらの諸式、各々孤立するものにあらず。互いに相錯綜し並用せられて複雑なる発表の妙を極む。
それ思想界は広漠無限なり、複雑極まりなし。これを文辞に発表して他人の明解を得んと欲するもの、豈にその発表の手段を講ぜざるべけんや。その発表手段の一半は、これを構想の意匠に待たざるべからざるなり。
およそ吾人が題に臨み文を作らんとするとき、所題に関して懐ける思想を主想という。この主想を発表せんがために文は作らるるなり。されば如何なる意匠も、この主想を中心に立てて考案せられざるべからず。如何なる工夫も、この主想発表の目的を達せんがための方便として運らされざるべからず。主想の前には如何なるものをも犠牲にすべし。文辞のために主想を犠牲することあるべからず。初学の輩ややもすれば主従地を易え、主想を文辞の犠牲となす。戒むべし。
主想に系あり。あるは分れて二となり、三となり乃至数個となり。各個の小主想またわかれて二となり、三となり乃至数個となる。主想の内容これがために複雑となるものなり。こは分解の形にて述べしものなるが、もし総合の形にて言わんか、各個多数の思想集まりてここに小主想を構想すべく、各小主想集まりて、ここに大なる主想を構成すべし。これを要するに各想の間に秩序あるべく、系統あるべく、想々互に侵すことなく、紛糾することなく、配列よろしきを得て、各想は各一方に向って小主想の焦点を作り、各小主想はまた各一方に向って大主想の焦点を作るべく、而してその結構敷置を明晰ならしむる手段として章を分ち段落をも設くべく、また重要主想を顕著ならしむるためには、不急の思想について裁断簡略をも行うべく、これを全文の結構より言えば、起筆・中要・結尾等の体裁上の用意もあるべく、かくして整然たる配列あり、渾然たる統一あり、ここに始めて健全なる文の内容をなすべきなり。
主想を顕著ならしめんがための統一的配列は、題により想によりて各々その適否を異にすべし。まず大主想を提起して、次いでその内容をm項に分解し、更にその各項をn項に分解して、漸次に粗より細に入るを可とすることあり。あるいはこの法を逆にn項を彙類総合してm項となし、あるいはまた、n項の諸主想中、比較的重大なる数項を列挙し、しかる後小主想の数項を補遺的に列するの可なることあり。n項の諸主想に大小軽重の等差の順に配列し、もしくは逆に配列するの可なることあり、或は故らに大小軽重を相錯綜せしむるの可なることあり。n項の諸主想に大小軽重の差なきとき、時間空間等の支配に順いながら、故らにその一二もしくは三四項を抜いて後列に編し、もって単調を破るの可なることあり。或は原因を先にして結果を後にし、或は結果を挙げて次に原因に及ぶの可なることあり。事実の大綱はこの方に従いながら、さらにその内容の小事項には原因結果相錯綜せしむるの可なることあり。引例の際の、例と理との関係もまたこれに準ずべし。或は間接関係の事項を冒頭に置いてこれによりて直接事項を誘起するの可なることあり、間接事項を後援地位に置くの可なることあり。これに客想の加わるあれば、構想はますます複雑になりゆき、文はますますの妙趣を添え来るものなり。
 


 
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