第三章 第五節 段落
文は構想に基いて段落を作るを要す。段落を作るは文意を明晰にするゆえんなり。
段落を作るとは、配列せる思想の系統によりて、首より尾に至るまでを幾段かに分割し、各段において、その思想の小結束を形成せしむるの謂いにして、これを筆紙に見わすときは各段に行を改め書くなり。これを「段落を切る」という。段落について、最も注意すべき二大要件あり。
一にいわく、段内の思想はいずれも渾然たる一団を成して、秩序あり条理あるべし。
二にいわく、段と段との関係は互いに親密を有ちて、前者の後を呼び、後者前に応じ、ただに前後段の相隣せるもののみしかるべきにあらず、相隔たれる各段においてもまた適当なる反照照応などあるべし。
この二件の要件は、構想の際、配列統一の工夫によりて行わるべきものなり。
段落を切るには一定の則なし。されど試みに数個の場合を挙げんか、分解的に配列において、まず大主想の提起を一段とし、更に分解せられたる一項毎に段を立つべきあらん。この際、小なるは数項を連結して一段とすべきもあるべし。
総合的配列の場合においても、またこれに準ずべきか。大小軽重の場合においては、大なるもの重きものを一段とし、小なるもの軽きものを一段とすべきもあらん。時間に関するものは時間の一区割毎に、空間に関するものは空間の一区割毎に切るべきもあらん。或は原因をもって一段とし、或は結果をもって一段とし、或は一因一果をもって一段とし、或は一事実をもって一段とし、或は二三事実を連結して一段とし、或は評論を一段とし、或は事実と評論とを結んで一段とすべきもあらん。事実の長きもの複雑なるものは更にその内に段を分つべく、評論の長きもの複雑なるものも、またその内にさらに段をわかつべし。或は一引例を一段とすべく、或は一解説を一段とすべく、或は一例一解の配合をもって一段とすべきもあるべし。一客想を一段とすべく、或は一客想に主想の一部分を配合して一段とすべきもあるべし。或は一問をもって一段とすべく、或は一答をもって一段とすべく、或は一問一答をもってすべく、或は数問数答をもってすべく、或は叙事に叙言を配して一段とすべく、或は叙言と叙事と別々に一段とすべく、或は長き叙言はさらに数段に分つべきもあらん。
段落の工夫よりして、一篇の文章には多く首中尾の体裁を具う。中要は一段乃至数段にわたりて縦横に綴らるべきも、起首と結尾とは概して一段に収むべく、かつ、起首と結尾とには全篇の大主想を簡明峻刻なる語法によりて表出するの最も有効なることあるべし。さは言えこの限界は、思想の種類によりて或は顕著ならしむべく、或は顕著ならしむるを要せざるべし。
文末僅かに余波を描いて、一段の光彩を添うることあり。
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