黄色い拍子

言うよりも詠うことにて喜びをひそか硯の奥に隠して

2006/06/26

2006-06-26 21:46:30 | 短歌
何もかも壊れてしまえ靄煙る夢と現の間に間に全て

煙突は靄にかすんで影ひとつ細部分からず畏怖を覚える

華奢な体軋ます低気圧大気抱かれる事思い出す

雲流るインターネット窓の中外を見ずとも梅雨を感じる

水滴に歪む実体窓硝子虚ろとリアルカオスが結ぶ

2006/06/20

2006-06-20 22:25:29 | 短歌
鬱々と腹に抱える蜃気楼明日も何も幻ならば

葉脈干からび眠る紫陽花の譫言聞くも我日本人

バームクーヘンの年輪を数えて剥がす毎日日々が消え行く

日焼け止め塗り斑見つけ紫外線真皮に達し吾を破壊する

日焼け止め塗り斑見つけ紫外線虚ろな陰に釘打ち付ける

日焼け止め塗り斑見つけ紫外線刻む年輪黒炭となる

自分構成物、例えば「珈琲」

2006-06-10 01:36:53 | 短歌(副題付)
褐色喉元過ぎて胃に届き我は憂いを忘れてしまい

豆を挽く轟音の中歌い出す涙歌すら爽快になる

遠い国知らぬ世界の日差し浴び知らぬ日差しの王国に着く

湯気の先あなたがいればそれでいい、と言えるほどに大人ではなく

脳に染む化学物質カフェイン静かゆるりと壊れていくわ

スターバックスのソファに沈んだきり彼女はもう帰らなかった

雨の日にぬくもり添える珈琲はより頼もしくより美しい

胃の中に誰かがいないその不安いざ流し込め褐色のを

抽出し終わった珈琲豆の寂しげな影と後姿

夜明け前ラベンダー色に染む空カップの中に紫が咲く

自分構成物、例えば「妄想」

2006-06-10 01:15:27 | 短歌(副題付)
テレヴィジョンよりもヴィデオよりも鮮明なるは描く妄想

あの人の視線の先に揺らぐもの探ろうとして視界を盗む

午前二時百鬼夜行現る夢うつつに挨拶交わす

あの人はこの人が好きこの人はその人が好き私は一人

ホームにて油滴る更年期彼の幼い日々をソウゾウ

モノクロに塗り替えられた思い出に適当な色付け足してみる

嘘ですら真実めいて思うのは現実逃避始まる徴

明日すら解りもしない時ですら百年後の出来事想う

想像妊娠を想像してみる腹に痛みが沸いて出てくる

大半の妄想事に雛形が用意されてるレディメイドさ

自分構成物、例えば「マグリット」

2006-06-10 00:48:53 | 短歌(副題付)
夕闇に光の帝国が現れ私は一人彼方旅立つ

雨上がり空に飛び立つ鳩の群れひとつ交わり大家族成す

ベッドにて君と二人夜会服袖を通して激しく踊る

額縁の中に広がる異次元に散歩ついでに迷い込みたい

見えるもの見えないものを隠し去り夢は空ろの実態を持つ

世の中に傷つくたびにその城ははるか天空際無く昇る

青空を見上げるたびにその鳥を探してみるもいまだ出会えず

白紙委任状を託されたなら迷うことなく唇奪う

これはコップかそれとも別の何かか見えることは全てにあらず

死してなお生きる思考に投げかけを続ける図画のいとおそろしき

自分構成物、例えば「手」

2006-06-10 00:19:16 | 短歌(副題付)
手のひらで明日を決めるサイコロを知らないうちにころがしている

手首から先が働き紡ぎ出すそのシステムは欲望が為

病臥す老犬撫でるこの手には病消し去る力など無く

手足すら自由もがれる熱帯夜闇の後ろでもののけわらふ

左手に光るわっかを奪い去り雨の線路に放り込みたい

蛇の目を玩具のような左手で不器用に差した遠い昔

蚊に刺され休むことなく動く手のその世話しなさは蝿に似たり

手錠をいいえ荒縄皮ひもをそんなものでは心縛れず

手段を選ぶことなく狡猾に生きていくのはずるい気がする

手首すら時に不要と成るほどに体が軽いそんな明け方