黄色い拍子

言うよりも詠うことにて喜びをひそか硯の奥に隠して

2004/11 10

2004-11-10 02:11:59 | 短歌
落下する赤に魅入られているうちに煎餅を鹿に奪われる

東大寺の陰に潜み暗く燃える紅葉の闇に吸い込まれる

奉じられる線香の霞み立ち上る先に色づいた香具山

古都の落日に重なるかのような夕焼けに紅葉が融けていく

葛湯の袋まで万葉に染まっているこの邦の空気の質

右近の橘が少しだけ冬をおすそ分けしてる興福寺

かつて参じた彼らが散じても万葉の気配は時を越える

帰り道眠ってしまいすべて夢のように思う紅葉も寺も

新しいドラゴンクエストの話題が白くなって溶けてなくなる

日々寝床に流れるにつれてほおを撫でる空気の冷たさが増す

体温を知るために体を限りなく冷たくして待っているよ

唇に朝日が触れる温もりを感じながら今日また生きる

手を伸ばせば届きそうな紺碧成層圏は冬の贈り物

出揃いだしたクリスマスケーキ昨年の甘さ不意に思い出す

2004/11 09

2004-11-09 02:11:30 | 短歌
何も思いつかない良く惚けた日に吐く息はいつもより白い

リースを写し出した駅張りポスターが年末を加速させる

碧く冷える空に霞がかかり紅葉狩りの紅葉に気を払う

霜降りても輝きを失わない艶蕗の黄色い光明

秋らしい青空の下知らない土地を電車で駆ける爽快

王寺斑鳩法隆寺陽射し温かな車窓から眺める

太極殿跡地にある奈良駅でたおやかな空気に包まれる

遥か彼方に見える若草山の鹿の無表情を思う

古池の亀が意識することもなく見つめる先に熟れた紅葉

敷き詰められた銀杏の黄色に低く埋まる鹿と鹿と鹿

2004/11 08

2004-11-08 02:11:01 | 短歌
知らぬ間に冬らしい世界に迷い込みでも慣れ暮らす私いる

襟元の毛皮に命はもうないのに暖かさだけはそのまま

白と青と茶とアルミの列車には冷えた空気がよく似合う

吐息で曇る窓硝子の果ての街はベルベットみたく霞んで

白雪のような孤高の心で咲くバラどうか熔けて消えないで

はち切れんばかりに熟した柿は満月に照らされて妖艶

夜露は降りた切り帰り行かないがあなたには帰ってきてほしい

手が冷えきって物の凹凸すらわからないでもこれは知っている

取り残されたオクラは実って弾ける事無くみどり

レールの上を滑る車輪の冷たさは回っていても伝わる

2004/11 07

2004-11-07 02:10:27 | 短歌
こんなに寒い日はこないと思っていたのにアラウンドアゲイン

沈黙の曇天のしたでは吐く息の白さが際立って光る

明るく燃えるストーブの暖色は今年も変わらず暖かい

摩天楼にかぶさる雲の中の静けさと冷たさを考える

あさぎ色の水面がいかに冷たくても水鳥は浮かんでいる

強まる雨足に明日はもう凍てついて明けないのではと思う

晴れない雲の下で週末ばかり気にしている晴れるかどうか

西高東低の訪れない冬の過ごし方私は知らない

お歳暮売場の混雑した空気は歳末色そのままの色

この冬初めて袖を通したコートは約束通り暖かい

2004/11 06

2004-11-06 02:10:02 | 短歌
ティーサーバに初めて注ぐお湯はきっと深く深く温かい

スムースさの無い冷たい雨に濡れるはかなく指先がかじかむ

呼吸困難で目覚める朝は冬の匂いも味もわからない

静まる事無く降る雨のした二人が同じように寒いのなら

どこまでも澄んだ蒼が塔のように聳える冬の寒さと鮮度

朝日が窓辺に騒ぐ通勤車両の温もりと憂欝さ

枯れた喉で希望の歌を歌ってもなんだか少しも嬉しくない

快適を守るために咳を押し殺している私の不快適

カシミア混のコートに袖を通そうかと迷ううちに朝になる

空気の冷たさに驚きの声を出すと真っ白な雲になった

2004/11 05

2004-11-05 02:07:46 | 短歌
薄く棚引いた雲が成層圏の冷え込みを私に伝える

話し声に静かな咳が交じるよく冷え込んだ朝の食卓

心にポツリポツリ小雨がしみる空の果てはもう明るいのに

寒くて心細いので不安な色を空に塗りこめると曇り

雑誌の卑猥な記事のなかに秋の味覚不足なく満たされる欲

赤く実りはじめた喉を鏡ごしに見るとより赤く感じる

暖かい空気のなかにいるけど冬が来ることは忘れない

ビルを出て街の空気に触れる赤く染まる頬が緊張する

首もとを流れる冷たい空気に清々しさと憂い感じる

よい人に出会えたのだと新聞紙のほほ笑みを見て共感する

2004/11 04

2004-11-04 02:07:21 | 短歌
煉瓦色に染まった空がジェリコの壁とならないことを祈る

豊かに深まる秋を烏が確かめるように俯瞰している

ちょっと触れていたいだけなのに涙で黄金の満月が歪む

絶え間なく環状線が走る街でマフラーを巻いてみる夜

強すぎるリキュールが体をめぐり私はたまらず横になる

今年もシベリアの白い鳥が緑の堀をやわらかに染める

立冬過ぎの夜明けに手足冷たく自身に温もりを求める

水平線の果ての異国はもう凍り付くほど寒いのだろうか

世界の天気予報のシンガポールに掻かない汗を知らず流す

とても良いことを考えながらオリオン座下の御堂筋を歩く

2004/11 03

2004-11-03 02:06:47 | 短歌
ヒルトンの辺りでは昴を木に飾り聖なる夜を待っている

渋滞する車列が特別なイルミネイションに見える時季

快速の扉近くの隙間風は焚き火の匂いを帯びている

小春日和のようなこんな日にあなたに会えるのはきっと良い事

時季外れの朝顔は何故咲き続けるのだろう心が騒つく

ノベンバーの冷たい風むせる客車内に目眩を感じる

うみのいろは全く暗い感じとなりその冷たさを考える

色付かない常緑木に苛立ちと頼もしさ併せ知る

海鳥が果敢に高い波に向かう私は遠くから見るだけ

車内広告のファー特集が陽気の中で暑苦しい

2004/11 02

2004-11-02 02:06:01 | 短歌
暗やみが溶ける街に鮮やかなファーのジャケットが翻る

街灯の下を歩くときに感じる淋しさが家路を急がす

ビルの屋上から棚引く蒸気がいかに寒いかを知らせる

小さく呟いたことが瞬間に白く色付いて消えていく

透明度はますます高まりサンザシが狂おしい位に赤い

どんなに風が冷たくてもチョコレートさえあれば大丈夫

体に住まう風邪のけだるさと頭痛のわずらわしさは仲がいい

痛む咽のしゃがれた声が一層愛しいのはなんと不思議か

散りもせず初夏のように緑の葉葉を茂らす桜の不気味さ

六甲の明るすぎる山肌に紅葉という炎が燃え盛る

2004/11 01

2004-11-01 02:05:35 | 短歌
老犬が弱々しく咳を吐くまだ冬はこれからだというのに

曇り空に赫々と眩しい柿の実を狙う漆黒の烏

高野山の色付きと対照的な並木を焦らすなと思う

乗り遅れた電車を待つ私に吹く風が透明で冷たい

コバルトに澄んだ青空をたくさんの鳩が飛んでいく何処かへと

肘の冷たさで目覚める夜明けに私自身が二度寝を薦める

色づき始めた蜜柑が小雨曇り空の中冬本番待つ

小雨が降り始めて肩を静かに濡らすひとりただ独りなのに

チョコレートのかけらが口の中で解けていくのを噛み締めてみる

夕闇が足早に世界をまたぎ夜の始まりを騒ぎ立てる