黄泉比良坂の生っていた桃を三箇、イザナギが取って、それを水戸黄門の家来「格さん」がするように高く掲げます。なお、この段の訳で「福永武彦」は
“・・・桃の実を3つ取り上げると、追手を待って烈しくこれをうちつけたから・・・”
としておりますが。この訳は、「どう思っても少々おかしい」と、私は考えるのです。相手は屈強なる千五百もの黄泉の国の軍勢です。いくらイザナギが剛速球でそれを彼等の前に投げ得たとしても、たかが桃の実です。そんなものは恐ろしくも何でもない筈です。そうではなくて、此の桃に何か黄泉の者たちを怖がらせる何かがあったのではと思うのです。そうでなかったら
”桃子三箇待撃者悉逃返也<モモノミ サンコ (もちて)マチウチタマ イシカバ ココゴトクニゲカヘリキ>”
と、そう簡単に事が運ぶ訳がありません。
この「撃」を福永氏は「攻撃」と解釈されたのだろうとは思いますが、私は「目撃」、すなわち、目にさらすことと解釈しております。高く掲げて沢山の黄泉の総ての軍に見せたのだと思います。だから、「悉」ではないかと思うのですが????この比良坂の坂本に大きな岩があり、その上にあがって見せたのではと想像しております。この岩が、このすぐ後の
“千引石”
ではないでしょうか???
なお、此の桃の実の霊力については宣長も何も言っていません。念のために。