BioDoxology

生物と映画と政治とマレー・インドネシア語にうるさい大学生の戯言

DNAの仕組み―胎児への母親の飲酒の影響を説明するために

2011-09-14 00:17:56 | 生物
 ついに生物ネタ更新!めでたい。7月7日付のnatureに投稿された、ファンコーニ貧血という病気とアセトアルデヒドの関係についての論文が興味深かった。

 ファンコーニ貧血とは、いくつかの遺伝子の変異が原因で起きる病気で、患者は不妊や骨髄の機能障害を起こし、がんの危険性が高まるなどの症状がみられる。患者の細胞の中のDNAでは、二本鎖間の架橋反応(英語ではinterstrand crosslinking)という反応が起き、DNA複製が阻害されて異常が起きている。

 なんのこっちゃ、という話なので、今回はまずDNAの仕組みの説明をする。大昔の記事で、DNAとは生物の体を作るための、レゴブロックのいろいろな作品の作り方マニュアルが集められた本のようなものだとたとえた。ここでさらに厳密な言い方をすると、本は本でも、細長い紙に文字が1列並んだモールス信号文のようなものに近い。そしてブロック作品であるタンパク質は、一つ一つのブロックが文字の順番通りに数珠のようにつながったものである。

 ところで、文を書くためには文字が不可欠である。DNAで使われている文字は、A・T・G・Cの4種類しかない。それに対して、生物の体を作る一つ一つのブロック、つまりアミノ酸は20種類ある。4種類の文字で、20種類のアミノ酸をどうやってあらわすのか。ずばり、何文字かをつなげてセットにし、「単語」で表すのである。

 例えば、「か」と「き」という2種類の文字を使って2文字の言葉を作るとすると、「かか」「かき」「きか」「きき」という4種類の言葉ができる。このように、2種類の文字を使うとき、2文字の言葉は2×2=4種類できることになる。では、3文字の言葉ならどうなるか。「かかか」「かかき」「かきか」「かきき」「きかか」「きかき」「ききか」「ききき」の8種類になる。これは2×2×2という計算である。

 では、DNAの文字であるA・T・G・Cを考えてみると、2文字の言葉は、4×4=16種類できる。しかしこれでは、アミノ酸20種類を表しきれない。3文字の言葉はどうか。4×4×4=64種類できる。これならアミノ酸20種類を表すことができるが、逆に文字の種類が多すぎることになる。そこで、「違う文字からできた言葉でも同じアミノ酸を表す」という方法がとられている。例えば、CCA・CCT・CCG・CCCという4種類の言葉は、すべてプロリンというアミノ酸を表す。なんだか無駄の多い表し方だが、仕方ないのである。

 このようにして、20種類のアミノ酸を表すために、3文字セットとなったA・T・G・Cという文字が並んだものが、DNAなのである。AACGTCGAGTTAというDNAがあったら、3文字セットで読むと|AAC|GTC|GAG|TTA|となる。これは順に、アスパラギン・バリン・グルタミン酸・ロイシンというアミノ酸を表す。各セットは連結されるので、このAACGTCGAGTTAというDNAは、「アスパラギン-バリン-グルタミン酸-ロイシン」という、4つのアミノ酸からなる数珠のようなタンパク質を表す。DNAのA・T・G・Cとは、こうした役割を持ったものなのである。


 そして、このような文字が書かれたDNAの形であるが、単に文字を紙に書き続けたモールス暗号の文書のようなものとは違う。紙に書かれた文字が消えてしまわないように、保護しなければならない。この保護の仕方がすごく独特なのである。もう1本の暗号文書を貼り付けるのである。ただし、貼り付け方には規則がある。Aという文字はTという文字と、Gという文字はCという文字と貼りつきあわなければならない。こうして、DNAは2つの暗号文書が貼り付きあった形をとる。しかもこのペアになった文書がねじれる。これこそが、二重らせんと呼ばれる形なのである。らせんの両側の線が、信号を書いた紙に、らせんの中にある線が、書かれた文字に相当する。


 ちまたで「DNA=二重らせん、AとTとGとC」と、まるで暗記させるように連呼されているが、その仕組みはこんなに複雑なもの。しかし逆に言えば、この程度の暗号文書があれば、我々の体はすべて設計できてしまうのである。むしろ単純といえるだろう。次回はこれを踏まえて、ファンコーニ貧血の原因となるDNAの異常について述べる。

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