BioDoxology

生物と映画と政治とマレー・インドネシア語にうるさい大学生の戯言

映画(11) 「エイリアン」

2011-11-23 23:41:21 | 映画
 多忙の末に風邪を引いて長期休止を余儀なくされていました。どうしてこんなに時間がないのだろうか、と考えてみると、大学の授業のコマ数がブログを始めた先学期より4コマほど多いことに気付いた。当たり前だ(笑)。

 というわけで、今月12日に「午前十時の映画祭」で上映されていたSFホラーの古典「エイリアン」のレビューを遅ればせながら。まず結論を言うと、久々の大当たり。傑作。

(以下、ネタバレを含みます)

 宇宙を航行する貨物船ノストロモ号は、当初のルートを外れて未知の惑星にたどり着く。そこで野外調査に出かけた乗組員の一人を、謎の生物が襲って船内に侵入する。生物は確実に成長し、乗組員たちをパニックに陥れる。

 もう、怖いのなんの。この作品は、まさしくSFとホラーの融合であり、「エクソシスト」の影響を強く受けたようなBGMが効果的。かつ、ヒッチコック以来の「敵が見えない」というサスペンスを、未確認の生物に与えることで恐怖を倍増させていて、見せ方はクラシカルながらとても洗練されている。それも、生物が姿を現す前後には必ず、粘液や抜け殻といった不気味な痕跡を残し、先が全く見えない不安をさらにあおっていく。今でこそ皆が慣れ親しんだ成体エイリアンの風貌だが、改めて映画の中で見ると、暗闇で頭や腕しかはっきり見えない様子は芸術的に怖い。また宇宙船が貨物船であるところも見事に効いていて、物が散乱して雑然とした暗い部屋が多く、いったいどこで何が起きるかわからない印象を強く残す。そのくせ、ショッキングなシーンはちょうどライトの強い部屋で見せてくる。なんという意地悪く、そして巧みな演出だろうか。

 そしてさらに怖いのは幼体のエイリアンで、見たこともない風貌ではあるが生物的にものすごくリアルなのである。幼体は明るい光の下で観察されることが多いことから、暗闇で怖さの引き立つ成体とはちがい、はっきり見えるリアルさで恐怖を引き出すようにデザインされているのだろう。成体が真っ黒なのに対して幼体が白っぽい点がそれを象徴している。卵から覗くぬるぬるした触手、乗組員のヘルメットを切り開くと同時に現れるクリーム色のカブトガニに似た体。そして伝説の赤ちゃん「チェストバスター」。生物好きとしては興奮せずにいられない。その完璧としか言えないデザインとショッキングな使い方に、完全にやられた。

 今でこそ当たり前のようにおこる、閉鎖空間での乗組員たちの相互不信や疑心暗鬼も、これまた古典的ながら見事なプロットである。特に、不審な動きを見せる科学担当のアッシュの真実は全く予想しておらず、またしてもやられた。俳優陣も、このシリーズで人気を博したシガニー・ウィーバーを含め当時はあまり有名でない人たちばかりで、自分もウィーバー演じるリプリー以外にだれがどんな顛末をたどるかわからず、サスペンスしっぱなし。閉鎖空間で限られた数の人物しか登場しない映画は、脚本次第でいくらでも膨らむものだ。

 ただ少し残念だったのはラストのシーンで、それまで延々と皆を苦しませてきたエイリアンにしてはあっけないな、という印象があった。また、そのシーンで成体エイリアンの全体像がやっとはっきり見えるのだが、実は思いっきり人型。足のあたりにはそれほど工夫が凝らされておらず、若干拍子抜けした感は否めない。もっとも、限られたディテールでも暗闇を生かすことで見た目の迫力をいくらでも高められる、ということの裏返しでもあるのだから、素直にそれまでの演出力を評価すべきなのだろう。

 突っ込みどころも多少ある。まず、未知の生物を扱うにしてはみな無神経すぎる(笑)。ケインさん、卵に不用意に顔を近づけてはいけません。船長とリプリー、「感染する危険性が…」などと周りに言うならせめてマスクはしようか。根拠もなく「問題ない、反射反応だ」とピンセットで触るのもよしたほうがいいぞ。そして生物を部屋に置きっぱなしにして見失うのは馬鹿にもほどがある(笑)。ガラス窓もあるんだし、常にだれか監視しておけ。ペットの猫も放し飼いにしちゃいけません。荷物に万一のことがあったらどうするんだ、と思います。それから乗組員の性格が悪すぎ(笑)。確かにブレッドは使えない野郎かもしれないが、(おそらく意図的に)おとりにして見殺しにする、というのは…「やつ、でかくなってたな」と言う前に少しは謝っておきなさいよ。

 もう一つ絶対に突っ込んでおくべきは脱出した後のリプリーのサービスショット(笑)。あれだけエイリアンと格闘して走り回っていたにしてはずいぶんと小さいアンダーウェアだこと。あれ、○○○ラですよね?宇宙船でのそれも緊急時の活動ってそんな軽装でいいんでしょうか(笑)。

 ちなみに、以前本作がテレビ放送されていた時に録画していたのだが、今回の映画館での上映を待って再生していなかった。帰宅後に録画を再生して再鑑賞したところ、びっくりするほど怖くないのである。プロットを一度知ってしまったというのもあるが、やはり映画館と違って部屋が明るかったことが大きい。暗いシーンも随分とはっきり見えてしまうので、あまり恐ろしくなかった。この映画は、実に映画館向きの作品だったのである。忙しい中でも無理やり時間を作って鑑賞した甲斐があったというものだ。もう、大満足。これからため込んだ映画レビューを一気に放出する予定なので、お楽しみに。

 個人的評価:☆☆☆☆☆

最新の画像もっと見る