BioDoxology

生物と映画と政治とマレー・インドネシア語にうるさい大学生の戯言

映画(9) 「デビルマン」

2011-10-20 22:26:22 | 雑記
 2週間に及ぶ多忙と過労から復活!まったく更新できず申し訳ありませんでした。政治の動きがのろのろ気味なことに助けられた気も(笑)。

 さて、今回は前から温めていたものの、記事を書く暇がなくお蔵入りになっていたもの。9月のある日、友人2人とともに「最低映画祭」を開催した。世間で駄作といわれる「北京原人Who are you?」「中国超人インフラマン」「デビルマン」の3作を一気に上映、不毛さを味わって満足という妙な一日となった。3作それぞれ独特の珍品ぶりがあったが、最も強烈だったのは「デビルマン」。2000年代最大の駄作となじられまくり、友人の1人のブログでも「これはひどい」の一言で片づけられている本作をまじめに語ってみようではないか。

 高校生の不動明(伊崎央登)は幼いころに両親を亡くし、同級生の牧村美樹(酒井彩名)の家の世話になっていた。ある日晃は、親友だが異常に凶暴な同級生・飛鳥了(伊崎右典)に自宅へ呼び出され、研究者である了の父(本田博太郎)がデーモンという未知の生物に感染した様子を見せられ、了自身も感染していると告げられる。そしてついには明も了の父から飛び出したデーモンに感染するが、明は一般的なデーモン感染者と異なり、人間としての理性でデーモンの凶暴性を抑え込むことのできる生物、デビルマンとなっていた。明はデーモンの破壊活動を阻止するべく、デビルマンとしてデーモンと戦う道を選ぶ。しかし、デーモンの感染やデーモンによる殺人事件は日増しに増加し、日本中で周りの人間がデーモン感染者ではないかという疑心暗鬼が広がりだし、魔女狩りのような襲撃事件が横行する。明の同級生・川本巳依子(渋谷飛鳥)もデーモンに感染し、彼女をかくまった明と牧村一家が町民から疑われ始め、ついには明が感染していることも明らかになってしまう。

 なんだかまとめるのも大変なくらいに内容は多い。そして、こうまとめてみればそこまで駄作となる余地もなさそうに思える。この映画、もともとはマジンガーZやキューティーハニーなどを手掛けた永井豪の同名漫画が原作で、原作は人間の心の闇を描いたSF大作として評価も高い。そしてWikipediaを見る限りだが、映画版と漫画版ではそこまでストーリーの違いがあるわけでもなさそうだ。しかし現にこれはひどい(笑えない)。なぜこんなことになったのか?自分が思うに最大の原因はストーリーラインの組み立て方だろう。

 原作漫画は全部で53話もあり、すべての内容を2時間の映画に詰め込もうとしても無理があるので、(原作のイメージを尊重するなら)取捨選択をして可能な限り分かりやすさと原作イメージの保持を両立させるよう、脚本で努力しなければならない。本作はこれに失敗したとみて間違いなく、スケールの大きな漫画のストーリー全体から部分部分を切り取って張り合わせたような印象を受ける。説明区長のセリフが多いうえ、せりふでも補えないような唐突な展開が多すぎて、何がどうなっているのかわからない。原作を読んでいない場合は特に、全く置いてきぼりを食らうような流れである。次から次へと新しい人物やキャラクターが登場してはすぐにいなくなっていき、結局最後までストーリーとのかかわりもなく消化不良になっている点などは、漫画から個々のエピソードをつぎはぎしてきたとしか思えない。連載漫画では何話かで一つの区切りをつけ、新しいエピソードを展開させることもよくあるが、映画で、まして短時間でそれは難しいのである。

 そのせいで、観客を置き去りにしてやたらとスケールの大きな話が支離滅裂に展開し、全く乗り切れなくなっている。町が廃墟となり、クライマックス(?)の明と了の戦いでは地球にひびが入り、あれよあれよという間に全人類が滅亡してしまうなど、もはや呆然とするしかない展開だ。そのうえ説明区長のセリフに感情をこめようと演出しているので陳腐に見えてしまう。「戦国自衛隊1549」や「となりまち戦争」と似た失敗である。つまり脚本に加えて監督の責任も重い。「俺、デーモンになっちまった…」って、そんなストレートすぎて軽すぎる言い方があるか(笑)。

 そして、脚本と監督の悪さを考えたうえでも、役者陣がうまいとは言い難い。明・了を演じた伊崎兄弟(双子である)はともに映画初出演なためか棒読みのオンパレードで、明がデーモンであるとばれたときの「ああー」というセリフは心情の推測が不可能。美樹の父親役の宇崎竜童が、「ゴジラ モスラ キングギドラ 大怪獣総攻撃」では主演の新山千春よりもはるかに劣る大根ぶりだったのに、本作ではなかなかうまく見えるのは、周りのレベルが低いからか?それとも本人の演技力が向上したからか?(笑)

 ただ、ひたすらこき下ろすのもなんなので、よいと思われる点を挙げるとすれば、人間たちが魔女狩りならぬデーモン狩りに躍起になる一連の場面である。脚本でもこのエピソードを重視したのか、展開が他と比べても突出してゆっくりで、流れについていくことができた。退屈もしたが(笑)。性格が不思議なだけでデーモン感染者とのうわさを立てられて逮捕されたり、デーモンだとばれた巳依子の家が落書きまみれにされたり。実際に、民族や思想の対立などでこれに近い状況に陥った国や地域もあるわけで、今の日本でも過剰な福島忌避現象が起きていることもあり、これは他人事ではないな、とゾクゾクした。

 もう一つ、よいといえるかどうかわからないが、退屈か呆然としているかが大半の本作の中で一番刺激の強かったのは、デーモンとばれていったん警察に連行された明が逃亡して牧村家に戻ってきたとき、一家全員がすでに住民に殺された後だったと分かるシーン。美樹の両親は横たわっているだけだからまだいい。美樹はなんと、生首がさらされていたのである。しかもその首がものすごくリアル。「犬神家の一族」や「羊たちの沈黙」に登場する首は作りものだと分かるが、本作の首はまるで演じた酒井彩名そのもので、唐突なグロテスクシーンの登場と相まって、友人ともども背筋が凍ってしまった。あれは作り物か?それとも境の映像を合成したのか?あのシーンだけは詳しく知りたい。

 そしてもう一つ。本作で、親から虐待を受けていたが巳依子に助け出された少年ススムのを演じ、奇妙な老成ぶりで印象に残っていたのは、なんと先日ベネチア国際映画祭で「ヒミズ」の演技により最優秀新人賞を受賞した染谷将太である。最低映画から時を経て最優秀新人賞へ。あっぱれ。

 うん、ほめるのもこれが限界だ(笑)。観終わって頭を整理したからそれなりにきちんとまとめられているが、観ている間は何がなんだかよくわからないままに時間が過ぎ、「まだあと30分以上あるのか、しかしどう収束するんだ?」と思っていたらカメラが引き始めて「ここで終わるのか?」と困惑するなど、まあこれほど理解に苦しんだ映画もそうない。「北京原人Who are you?」は駄作ではあるものの突っ込みを入れる楽しさがあったが、この映画は突っ込むことすらも許されない。そう、真の駄作を前にすると「ひどいなこれ!」ということすらも許されないのである!参った参った。予想を上回る不毛度でした。全作品鑑賞後、3人そろって意気消沈してしまい、このままでは家に帰るのもままならない、ということで「ダークナイト」をダイジェスト鑑賞した時に感じたクオリティの差といったら、同じ映画芸術とは思えなかった(笑)。やはりフィクション映画のヒーローは、変身してもデビルマンのような意味不明な中腰ポーズは撮らず、インフラマンのように不必要に飛ぶこともしないほうがよいし、一般市民も北京原人に熱く共感した緒方直人のように「うぱー」といわずしっかり助けを求めたほうがいいぞ。

個人的評価:☆

美女とバンデット

2011-10-04 12:46:22 | 雑記
 長い長い夏休み、今年はマレーシアや東北など数々の強烈な体験をしてきたが、昨日最後にして最大、メガトン級の衝撃体験に遭遇する羽目になってしまった。

 もともと、昨日は大学の同級生たちとのバーベキューで、京王多摩川駅の近くの公園で集まって楽しんでいた。そこでいつからか遊園地の話になり、ディズニーランドや絶叫マシンの話で盛り上がっていた。そして思わず
「ジェットコースターとか乗ったこともないなあ」
と聞かれてもいないことを口走ってしまった。自分はあの手のものが大嫌いで、今までひたすら食わず嫌いを続けてきていた。思えばこれが悲劇の始まりであった。

 こんな愚か者を観て黙っていないのが、何かとお世話になっている同級生の美女2人組である。2人とも絶叫マシンが大好きらしく、うまいカモが来たといわんばかりに
「だったらこの後よみうりランド(京王多摩川から電車で2駅)に行って一緒にジェットコースター乗ろうよ!」
「一回も乗らないで嫌いって言ってたらだめじゃん」
「意外と好きかもしれないでしょ」
「生物の研究して教養人になる前に人生経験積んで常識人になろうよ」
とじゅうたん爆撃にあってしまった。この2人、絵にかいたような才色兼備で人間的にも自分が全く及ばない偉大な方々なのだが、頃自分をもてあそぶことに関しては邪神のごとき恐ろしさであり、自分をいじめるのが大好きだと公言なさるほどである(自分もそれをまんざらでもなく楽しんでいるなどとは言えない)。この2人に詰め寄られたら最後、断ることなど不可能に等しい。
「別にいやならいかなくてもいいんだよ」
と麗しき満面の笑みでいわれた時点で勝負ありである。政治学の講義で学んだルークスの二次元的権力観―賛成か反対かという争点の顕在化自体を妨げてしまう権力―の好例といえる。

 そこに、絶叫マシンは嫌いだが自分の無様な姿は見てみたいというおっさんルックの男子まで加わって圧力をかけてきた。「乗れ乗れ!僕は見てるだけだけどな」などとほざいているが、彼のパワーなどたかが知れている。どうせ乗る羽目になるなら彼を道連れにするほかない。ここは美女2人と協力して巻き込むに限る。

 というわけで、バーベキュー終了後本当によみうりランドに行ってしまった。思えば遊園地に行くこと自体10年ブリくらいである。よみうりランドは丘陵地帯を切り開いて作られたようなリッチで、駅からゴンドラに乗り、緑に包まれた広大な敷地上空を通過して入園する。外の風景の写真を撮ってテンションの上がった美女2人とは対照的に、自分と、結局乗る羽目にされた哀れなおっさんはジャングルの戦場に向かう兵士のような悲痛な心である。そしてゴンドラの前に化けもののような鉄骨がぬっと姿を現した。当園名物コースター、バンデットである。コース最上部はゴンドラより高い。どうかしてるだろ、これ。ほかにもホワイトキャニオン、モモンガという2種類のコースターがあり、美女2人は3種類全制覇しようと意気込んでいる。

 ついに入園。この時午後4時近くで、5時に閉園なのであまり時間はない。一直線にバンデットへ。バンデットとは英語で「山賊」を表すbanditで、広大な山々を見下ろしながら進むコースには悔しいながらピッタリである。列に並ぶ頃になると、恐怖が限界値を超えて肝が据わってしまい、テンションが上がってきた。以前に乗りまわされて懲りたというおっさんよりもはるかに乗り気である。なんと馬鹿な真似をしていたのだろう、この時は。そして乗車。方にハーネスをつけられ、「GO!GO!バンデット!」というスタッフの掛け声とともに巻き上げに入る。周りにならってスタッフとハイタッチ。巻き上げ中に下をのぞくと、もはや即死確定の高さ。怖すぎて高笑いの境地に入ってしまった。後ろ手は美女2人が早くも楽しく叫んでいて、隣ではおっさんが「いやだいやだー」とわめいている。最高点に達したところで恐怖が第2の限界値を超えた。もはや笑うこともできない。座席の前のバーを握る手はすでに汗でびっしょりである。まずい。落ちる。待て。待て―。

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!かつて経験したことのない衝撃と風圧と恐怖が戦国騎馬軍団のように全身に襲いかかってきた。落下するにつれて心臓が握りつぶされたように痛くなってくる。これは典型的な心筋梗塞の症状じゃないか。死ぬのか?死ぬのか?痛みが最高点に達したところで落下がストップ。これほど死を意識した瞬間はない。と思いきや強烈なカーブ。なんだ、この体が下向きに飛ばされる感じは?生物として対応できないぞこんな環境は。殺す気か?ああまた落下だ。心臓が痛い。やめろ、ぐるぐるカーブするな。体がハーネスから抜けそうだ。やめてくれ。隣ではおっさんが「うわー」「ギャー」と叫んでいるが自分は叫ぶことすらできない。あまりにも詩を意識しすぎて声も出ない。さながら「リング」の真田広之状態。バーを必死につかんで前方を見つめながら、生き延びたい一心で意識を保ち続ける。まだ死なんぞ。ここで心臓が止まってたまるか―。

 どれくらいそうしていたのかわからない。気が付くとスタート地点に戻って停止していた。茫然自失。ハーネスが上がるが、立てない。美女とおっさんが一斉に「大丈夫か?」と寄ってくる。手すりにつかまりながら降車し、列に並んだ客の前を無様に通り過ぎて階段を降りる。恥ずかしいなどといってもいられない。これは本当に無理だ。笑いものになること必至の形相を美女2人にカメラで撮影されまくったがどうでもよい。何を口走っていたのかも記憶にない。確かなのは、自分の状態が3人の予想よりはるかに深刻だったということである。3人が本気で心配顔になってきている。あなたたちは悪魔か?死神か?冥界王か?

 結局、あまりに見ていられない状態になってので、その後何のアトラクションに乗ることもなく、4人で園内を閉園時間までぶらぶら歩いて出てしまった。歩いている最中でも、あの忌まわしき「GO!GO!バンデット!」の掛け声と、処刑台に連れて行くかのような巻き上げ音が耳に入り吐き気を催した。その後の落下風景を見るとそれだけで心臓が痛くなる。どうやらとんでもないトラウマを背負ってしまったらしい。

 めいいっぱい楽しんで満足げの美女2人からは
「みなよ、あれを乗り越えたんだよ!すごいじゃん!これで成長したよ!」
「バンデットは日本で乗るコースターの中でもトップクラスだからもう何でも乗れるよ!」
などと慰めの言葉をいただいたが、何を言われようと二度と乗る気など起きない。絶対に健康に悪い。あの時心臓はどうなっていたんだろうか?1人が「ああいう物理的に飛ばされたり落ちたりするのは全然怖くないし気持ちいい!」とのたまっていたので、率直に言った。
「馬鹿じゃないの!?」
こんな口のきき方をしたのは初めてだし、普段なら絶対にしないが、もう言わずにはいられなかった。そういえばおっさんはなんだかんだ言ってへっちゃらのようだ。この野郎。結局自分だけ笑いものじゃないか。帰りのゴンドラが揺れるだけでもあの恐ろしい体験がよみがえり、一人うめいてしまった。情けなさすぎる…。

 しかし、自分のせいで2人がほかのコースターに乗れなくなってしまったのは非常に申し訳ない。2人には普段足を運ぶことのない世界にしばしば連れて行ってもらっており、社会経験を積ませてもらっているので本当に感謝である。今回は代償が大きすぎたが…。ところが先ほど馬鹿呼ばわりしてしまった美女は、心理的恐怖は大の苦手で、お化け屋敷は全くだめだという。最高じゃないか。心理的恐怖はえぐい映画で相当な耐性ができている。お化け屋敷への恐怖感は自分にはない。今度はこちらがやり返す番だ。