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生物と映画と政治とマレー・インドネシア語にうるさい大学生の戯言

映画(13) 「恋の罪」

2011-11-30 02:04:40 | 映画
 さて、レビュー本命の「恋の罪」である。いつも参考にしている映画批評サイト【CinemaScape】では上場の評判のようだ。しかし、自分は…。

 (以下、ネタバレおよび多数の性的表現を含みます)

 ラブホテル街の東京・円山町で頭部と四肢を切断された死体が発見された。事件を担当する刑事・和子(水野美紀)は、捜査を進めながらも家族と不倫相手のはざまで苦しむ。一方、人気作家の妻として閉鎖的な生活を送っていたいずみ(神楽坂恵)は、アルバイトをきっかけに性産業に巻き込まれ、さらに大学教授として働く傍ら売春で収入を得る美津子(富樫真)との出会いから円山町に入り、売春へ身を投じることになる。

 冒頭から話題の水野のフルヌード、約30分後には神楽坂のフルヌード、その約40~50分後には富樫のフルヌードと、もうとにかく裸とセックスのオンパレードのような生粋のR18映画である。しかしそのどれもが、薄っぺらくただ下品なだけにしか見えない。終盤では完全にそのエロに飽き飽きしてしまい、観ていられたものではない。そのすべての原因は、脚本のひどさにあるといっていい。

 まず、主に美津子が随所で発する哲学的なセリフ。「城の周りをぐるぐる回っているだけで、入り口にはたどり着けない」「言葉は肉体を持たなければ、意味を持たなければなんの力もない」などなど。そして謎の詩から「言葉なんか覚えるんじゃなかった」「日本語とほんの少しの外国語だけで…(以下記憶せず)」云々。カフカも引用されていたか。これらが、どう考えても全く話の中で消化されておらず、ただ観客を置き去りにする。園子温監督に「お前の言葉こそ意味も肉体もないぞ!」と言い返したい気分で、腹が立ってくる上に眠くなる。しかもその眠気をエロで無理やり覚まされるのがまた腹立たしい。

 また、和子の位置づけもよくわからない。実質的な話にはあまりかかわらず狂言回しのような役柄で、彼女の話が映画の中で浮いている。そのうえ、冒頭のフルヌードには全く必要性がない。やたらと不倫相手になびいてしまう行動も理解に苦しむ。不倫相手役のアンジャッシュ児嶋一哉が様になる演技をしていたのには驚いたが。ほかにも、美津子とともにいずみを売春に誘い込むカオル(小林竜樹)がホテルに連れ込む言い訳やプレイ道具に頻繁に使う塗料入りのゴムボールも謎。あんな手に乗る人がいるのか?いたか、いずみだ(笑)。

 まだまだマティーニちゃん、マリーなど珍キャラクターが大勢いるが、実質的な主人公であるいずみこそトップクラスに理解不能。以下列挙。
・わけあってエロビデオの撮影に協力させられてしまった後。家で鏡の前に立ち、スーパーのソーセージの試食販売のアルバイトの練習をしながら披露してくれるフルヌード。なんだこれは?(笑)「いらっしゃいませ!いかがですか?美味しいですよ!おひとつどうですか?」と、ポーズを決めながら言うな!これではただのエロ目的の下品なAVと変わらないではないか。
・その後いろいろと開眼してしまったのか、元気に試食バイトに励み、その上客の口についたソースを指ですくって途方もなくセクシーに舐め、「私も食べて」と誘惑してトイレに連れ込むとは何事だ?(笑)仕事しろ!
・カオルに騙され不本意なプレイを強要された挙句道に放り出され、ふと目に入った売春婦姿の美津子に「私、あなたの気持ちわかります!」え…?初対面なのに。何を、どうわかるんでしょうか?「はあ?ふざけんな!」と一喝した美津子にここは共感。
・終盤、いろいろと意味深長な出来事の果てに立派な売春婦として一人町をさまよい続けるのだが、港で小学生と向かい合ってしゃがみこみ、まさかの○○(自重します)。なんだこれは?そして笑顔で見つめる小学生たち、どうなってるんだ?

 言い続けているときりがないのでこの辺で。神楽坂の演技も正直よいとはいえない。「冷たい熱帯魚」のころからどうもせりふ回しが肌に合わず、棒読みに聞こえてしまうし、表情にも乏しい。まず、お顔立ちの印象が薄い…などと言ってはいけない。いや、決して悪いなどとは言っていないが。ついでに、大きすぎますね(再び自重)。園監督と結婚してしまって大丈夫か?お互いにご乱心でもあったとしか思えない作品の出来なのだが。

 しかしながらどんな映画にも光る点はあるもので、本作でも光った点が二つ。まずは、いずみが売春に目覚め、セックスに金を媒介させることを覚えてからの変化。それまではあったそばからやりまくっていたのが、必ず「いくらで?」と聞くようになると途端に「売春かよ」「変な女」と男たちからさけられるようになる。金を介したセックスのほうが汚いものとみられる。確かに妙かもしれない。別にほかの経済活動と変わらぬ価値交換ではある。これは案外深い問いではないか。テレビ東京の深夜番組「ジョージ・ポットマンの平成史」の〈童貞史・前編〉で、かつて日本は筆下ろしの通過儀礼や遊郭の存在など性に奔放な文化圏だったのが、西洋文明の流入と明治維新により性道徳が強調されていった、とあった。その後戦後には売春が禁じられ、(あくまで私見だが)「性は神聖であり秘め事」との意識が(自分も含めて)浸透し、少なくとも公の場では、経済の基準で扱うものではなくなっていった。しかしそれは一方で、ピンク映画やAVのシチュエーション(言い方は悪いがレイプや種々のプレイなど)に見られるように、セックスをタダで得られる快楽とはき違えるような風潮が出てきたのではないか。だからこそ、経済の法則にのっとって価値交換をしようとすると、そちらのほうが平等性はあるのにもかかわらず、嫌悪の目で見られる。性をめぐる本音と建前の矛盾が見えてきた興味深いシーンだった。

 もう一つは、美津子の母親を演じた大方斐紗子のとんでもない怪演。設定どおり家柄の良い厳格そうな雰囲気で登場し、しばらくいずみ・美津子・カオルとともに沈黙した後発した第一声が「売春のほうはうまくいってるの?」たまげた!(笑)その後も名台詞が次々と続く。「この子はこの子の父親に似て下品な血が流れているんです。私の家計の血からは考えられないものです」「(いずみに)あなたはまだ上品さがあるけれど、これからどんどん下品になります。お気をつけ遊ばせ」…圧巻。さらに突然席を立ったかと思うと…これは観賞に耐えた方々のみのえられる秘密としましょう。登場する役者たちの中でも別格の存在感と演技力。「冷たい熱帯魚」のでんでんをもはるかに凌駕するぞ、この人は。一見の価値があった。

 うん、これくらいか(笑)。今年劇場で見た中では断トツの大外れ。この映画のせいで自分は重度の裸アレルギーになってしまったではないか。皆様がご鑑賞されるかどうかはもちろん自由ですが、大方斐紗子の化け物演技を見たいからといっても、チケットをわざわざお買い求めになって鑑賞されることはおすすめいたしません。個人的見地から申し上げれば、裸が見たくて見たくてたまらない、という方には、この映画は間違いなくおすすめです。一緒に鑑賞してくれた友人には大変申し訳ないと同時に、この映画を自分とともに味わってくれたことへの感謝と、ともに珍品を乗り切ったことによる友情の再確認をここに述べたい。これからも、園監督作品を見続けようではないか。次回作「ヒミズ」は主演の染谷将太と二階堂ふみがベネチア映画祭で最優秀新人賞を獲得しているから、大丈夫なはず。え、神楽坂恵も出ているって…?

 個人的評価:☆

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