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生物と映画と政治とマレー・インドネシア語にうるさい大学生の戯言

クズ男、年末の遠吠え

2011-12-31 11:23:26 | 政治
 気分的には28・29日と開催した第二回最低映画祭の記事を書きたいところだが、ここ何か月もひそめていた政治の小言、今年の政治への文句は年内に年内にぶちまけておかねばフェアではないだろう、ということで、ざっくばらんに申し上げたい。

 先日出来上がった2012年度予算案。名目上の歳出を90兆円に抑えて胸を張る安住財務大臣。しかしその内実はと言えば、震災復興費を特別会計に入れたり、年金財源の不足分を赤字国債には計上されない「交付国債」(このワードは初めて聞いた)に付け替えたりといった帳尻合わせでしかなく、実質的には過去最大規模。特に年金財源を交付国債で賄うなどもはや粉飾決算、いや粉飾予算。だって、かかることはまぬかれないお金を、もはや借金の形でしか見えないようにしているんだろ?もっとも、失言以外にはおとなしいマスコミにもあっさり暴露されて叩かれていますが。

 八ツ場ダム、東京外環道路をはじめ公共事業も軒並み復活の動き。選挙を見据えて地元に利益を誘導しているとか、国土交通省の官僚が震災復興を理由にブイブイ言わせているとか。民主党が政権交代前にさんざん批判していた政治形態を見事に復活させているではないか。いや、復興の名目がついただけたちが悪いか。

 マニフェストに書いていない消費税の増税に反発して離党者続出。無駄の削減もしないままに増税など公約違反、けしからんと小沢さんが言っている(もっともこの人は公判中だし、選挙で不利になるからと現時点での離党は進めていない。理念<政局)。実現しようもない八方美人のマニフェストで国民を半ばだまして成立した政権がやっとこさ現実に気付き、公約を放棄して増税する気音には異論があるのも当然、そして選挙で信を問えという声があるのももっともな話。しかし少なくともこれだけは言える。公約違反だといって離党した先生方は2年前の公約実現に向けて努力しましたか?あるいは「これは非現実的だ」といさめたりしましたか?あれだけ政治と金の問題を批判しておいて、そして無駄削減を訴えておいて、年始に申請手続きの始まる政党交付金目当てに、急いで年末に新党結成をもくろんでいるのはどういう精神?しかも金脈問題で収監された宗雄さんが受け皿になると来た。原発推進のために電気料金に上乗せされる電源開発促進税は批判するのに、国民1人当たり250円を強制的に払わせる政党交付金は思う存分利用するわけですか。以下、離党した内山晃氏の弁。
「『政党交付金目当て』という表現は非常に悪い言葉だ。国民の豊かな生活を目指す政治のために交付金を活用するのは、当然の権利だ」(朝日新聞12月29日付)
爆笑。「値上げは事業者の義務であり権利である」と発言した東京電力西沢社長よりはるかに悪質。こういう発言を政治面の端っこでなく、せめて2面くらいで取り上げたほうがいいぞ。なんだか、給料削減がとりあえずは取りざたされてる公務員が気の毒にもなってくる。国会議員は歳費も元に戻ってるしなあ。

 ついでに増税に反対する有識者の方々にも一言。「GDPを1%上げたほうがはるかに税収が伸びる」「財務省が自分の取り分を増やしたいだけ」などなど、要は経済を活性化できない官僚と政治家を馬鹿にしているわけだが、人口が減って高齢者が増えるというのにどうやってGDPをサクサク上げるんでしょうか?おまけに超円高で輸出が伸び悩んでいて、ますます内需に頼るしかないのに。そもそも、この10年近く税収がどんどん落ちてた中で、ずっと経済の回復・発展が先だといってきたからこんな借金財政になったわけで。同じ議論を続けていても仕方ないんじゃないの?

 借金財政。サラリーマンに例えるなら収入の49%がカードローン。当然支出の少なからざる部分がローン返済に消える。借りた分だけ返済額は将来増える。さらに社会保障日は年1兆円ずつ増える。自由に使える金がなくなるので震災復興にも回せなくなった。もう無駄削減で済まないのは明らか。しかし高齢者と団塊世代が有権者の多くを占めるから、政治家は社会保障の削減に踏み出せない。1400兆円ある国内の資産のうち1000兆円が国債に充てられ、国債発行額は年40兆円のペースで増えるのだから残り時間は最大であと10年。「海外の投資家がそれほど買わないうちはギリシャのようにならない」というが、欧州危機の特に後半で分かったのは、実際に国債が買われているという事実よりも、たった数社による格付けのせいで国中の投資家が資金を引き揚げて経済危機を起こすという人間心理の恐ろしさだ。本当に、本当に、どうするんだ?参政権のない子供たち、何もできないまま。こうして年金の世代間格差も広がっていく。「もう自分たちはもらえないだろうから」と保険料を納めなくなる若者に対して、厚生労働省は「将来の安心のためです」という。年金は積立方式でなく賦課方式。現役世代が受給世代のために払ってるんです。体のいいごまかしはやめてください。このままいくと、財政規律を守るための高齢者排斥集団とか、過激な若者の間で宗教団体の形で結成されるんじゃないのか?老人介護施設焼き討ちなんて起きてからでは遅いぞ。今年オウムがよく取り上げられただけあって、冗談抜きに怖いんですけど。

 原発事故と放射能問題。東電をゾンビのように生かしておいて、「値上げは事業者の権利」発言をたたく枝野経済産業大臣。社長の発言も強気すぎるが、そのような変な事業者にとどまらせた責任を国は感じていないのか?除染費用は30兆円とも100兆円とも言われ(100兆円あれば世界中の飢餓が救えるそうです)、食品は1キロあたり1ベクレルでも放射性物質が検出されれば買ってもらえない風潮。そして検出されなくても売れない福島の農産物。「食べて応援」フェアを開催してほかの産地のものと変わらない値段で売っている大手流通は、実は仕入れの段階で農家から安く買い叩いている。よって、ぼろもうけ。民間の意識も問いたいところです。

 文句ばかり言っていても仕方ない。ちっぽけな脳みそで考え付いた対策も言わなければ。消費税は、もう増税は仕方ないだろう。法人税はグローバル化時代の企業誘致合戦で、上げるのは困難だが、活路がある。宗教法人と学校法人の収益事業への課税だ。宗教、学校ともに公益性があるとされているので宗教法人と学校法人は非課税なわけだが、有名な創価学会や幸福の科学、統一協会などは営利事業もバリバリである。学校法人の中で意外と知られていないのが予備校。あれは明らかに受験「産業」である。サービス業である。これらに課税すれば、兆単位で税収が伸びる。しかし、これだけでは逆進性が強すぎてたまったものではない。所得税の最高税率をかつての70%まで、と行きたいところだが、今の世の中租税回避もあっという間で、自営業者の所得捕捉の難しさも毎度壁になる。そこで相続税に目をつける。資産をたっぷりともっている上の世代からいただくしかない。税をとられたくなければ、孫へのプレゼントなどでの散財を進めるのも手だ。高齢者の方々は、自分が金を使う、あるいは子供に金を使うよりも、孫に金を使うことをはるかに喜ぶことが多い(鳩山のお母さんはよくわかりませんが)。というわけで一家に1人は子供がいるといい。有形資産なら所得よりも補足と国内での処理がしやすく、税収を伸ばすか経済を回すか出来そうである。もう一つ、かつて与謝野元経済財政担当大臣が提案していたことなのだが、臨時復興の財源として携帯電話料金への月額100円程度の上乗せはどうだろうか。はやりのスマホなら200円くらいか。日本の携帯電話契約者数は1億人に達しているはずだから、月額100億円、年間1200億円くらいはとれる。でも小さいなあ(笑)。

 そして政党交付金の廃止。政治家の皆さんも、これからは会食するならたまにはファミレスか、食べ放題飲み放題2時間3000円の居酒屋でいかがでしょうか。回転ずしもいいですね。夢と享楽にあふれた学生時代に立ち返れるし、国民との距離も縮むと思います。たまにテーブル越しに酔ったおじさんが絡んできて、「あ、あんた大臣に似てるね!」なんて、自分は最高だと思うのですが。お世話になってる新橋の料亭は、海外からの観光客をどんどん呼び込もう。ブータン国王夫妻のような国賓も大歓迎。もちろん身内のパーティーより優先で。政治家さんは身内はつつましく、外には盛大にもてなす姿勢でやっていただければ、国内外から受けもよくなるのではないのでしょうか。

 で、料亭の皆さんは国際化が求められるので、学校での英語教育の強化が必要。ただし、これは時間がかかる。今の小学6年生に課す週1コマの授業では、教師側も準備不足が深刻だ。教える人材を鍛え上げてから、実行に移してほしい。できれば英語だけでなく、第二外国語もさわりだけでも学べるといいだろう。英語を公用語として用いているアジアの人たちは、現地語であいさつしてもらうだけでもすごく喜ぶ。震災と原発事故で地に落ちた日本の国際的信用を、政治面だけでなく国民レベルで持ち直さなければ。

 内需はどうか。戦後日本の内需を引っ張ってきたのは自動車、家電とくにテレビ、そしてマイホーム。これらの価値が近年特に若者の間で減少してきているといわれる。そこで新たな火付け役として提案したいのが、賃貸住宅。核家族化と所得低下が進んだ今になってもマイホーム思考を維持するのは非現実的である。日本は海外に比べて賃金の質が低い。そこで中高級の賃貸住宅を、住いの新たな軸にしたらどうだろうか。思いローンにしり込みしたり、長々と住宅減税やローン援助を国で負担したり、といったことをなくしてしまえばよい(といいつつマイホームに住んでいる自分が情けない)。もう一つはスポーツカーの復活。燃費や環境性能ももちろん大事だが、純粋に「かっこいい」車がまた注目を集めるようにならないか。若い世代でもグランツーリスモなどで燃えている人がいるので、潜在能力はありそうである。最近の自動車って、どうも機能性重視の似たり寄ったりで面白みがないのが不人気の原因になっていないか?東京モーターショーでトヨタが久々に発表したスポーツカー、86(ハチロク)が先頭に立ってほしい。

 今年震災が起きてまとまるかと思った日本社会は、むしろ政局と放射能汚染でますます分裂してしまったような気がする。今年の漢字が「絆」だったが、本当にそうか?特に首都圏の人たちは、そんなに絆を意識しているのか?それは自分たちの責任を個々の地域に転嫁する口実ではないのか?自分自身、3月の言い表しようもない緊迫感がどんどん薄れてきている。正直なところ、自分の意識を何とか被災地に向けさせているのは夏以来活動に携わっている「ボランティアインフォ」くらいだ。なんだか書いていて気分が沈んできてしまった。紅白歌合戦でAKB48とともに登場する、インドネシアのジャカルタで結成されたJKT48でも見て、気を取り直そうか。

映画(14) 「悪人」

2011-12-28 01:48:44 | 映画
 11月の映画ラッシュ期の最後に観たのがこれ。「キャリー」で肩透かしを食らってしまったので、有終の美となった。

 (以下、ネタバレを含みます)

 日雇い作業員として生活する祐一(妻夫木聡)は、出会い系サイトで知り合った佳乃(満島ひかり)を衝動的に殺してしまい、その後新たに知り合った光代(深津絵里)と逃避行に出る。一方、佳乃と付き合っていた圭吾(岡田将生)は犯人と疑われ、祐一を母のように育ててきた祖母・房枝(樹木希林)は祐一にも疑いの目が向くにつれ、マスコミに追われていく。

 原作の小説があり、誰が犯人かはあらかじめ明らかに等しい状態なので、どのように緊張感が描かれるのかと思っていたが、完全にやられた。前半の殺人をめぐる場面は、佳乃が祐一を放って圭吾と車で出かけてしまったのを見つめた祐一が、自分の車を発進させたところでいったん中断する。そして、殺人が終わった後の現場を祐一が仕事の車で通りすぎるところで、事件が起きたことがわかる。原作を未読なので映画での演出なのかどうかは分からないが、祐一が自分の意思とは関係なく再び現場を通らされるという設定が非常にユニークで、また車のガラスを通して現場が映し出される演出も、リアルさに満ちている。その後祐一は光代と会い、また圭吾や房枝、そして佳乃の父親・佳男(柄本明)それぞれのもつ負の側面がじわじわと浮かび上がっていく。徐々に登場人物たちの相関図が浮かび上がってきた、しかしまだつながりが弱いというところで、すでに光代と逃避行に出た祐一が自身の殺人を告白し、事件の続きが始まる。この段階で、個々の人物の関係や感情が一気につながる。特に圭吾と佳乃のやり取りに驚き、そして彼らへの嫌悪感が増す。ここに至るまでの演出や脚本の運びは、最近見た日本映画の中では最高レベルの鋭さだ。もう、完璧。

 また、総じてこの映画、画面の切り取り方がとんでもなく上手い。全体のきめの粗さも、良くも悪くも昭和以来の地方都市らしい場面(高齢者たちが公民館で団らんする、車なしでは動けないなど)を描き出すのに絶妙である。事件当夜の道路の暗さも真っ暗ではなく、車のライトで照らしたくらいの明るさが見事に出ていて、緊張感を生み出す。主人公が人を殺すというイベント自体に意外性がないのなら、そこに至る過程を徹底的に面白くしよう、という製作者たちの努力が、演出と合わせて余すところなく出ており、本当に素晴らしい。

 ただ、その前半の運びに比べると、祐一と光代の二人がメインになる後半は、ふつうの恋愛ドラマに成り下がってしまったようにも見える。二人以外の人びとが登場する場面でも少し首をかしげるところが目立った。悪徳商法に遭って金をむしり取られてしまい、さらにマスコミに追われる房枝が、バスの運転手(モロ師岡)に「しっかりしろ!」と叱咤激励されてからマスコミに動じなくなったのはわかるが、事件と関係のない悪徳業者にまで立ち向かって金を返してくれと懇願するようになったのはなぜか。そこに孫である祐一の影響がなぜ出たのか、いまいち理解できない。娘を失って絶望する佳男とたまたま出会った圭吾の友人(永山絢斗)の言動も、描くにしてはあっさりしすぎているというか、工夫がみられない。いる必要があったのだろうか。もったいなかったなあ、というのがストーリーに対する感想である。

 俳優陣は実によかった。主演二人、妻夫木・深津はストレートに、心血を注いで熱演。さわやかさもなく弱弱しい(まあイケメンは隠せないが)妻夫木は見事に役者として新境地を開いたといえる。深津もモントリオール映画祭で最優秀女優賞を獲得しただけあって、全編にわたって醸し出す幸の薄さがよい。特に、同居している妹のベッドを見つめながらひとりでケーキを食べる場面の寂しさと若干のエロさは出色(別にエロを求めているわけではないですが)。これら二人に加えて脇役、ベテランがみな最高の演技を見せる。満島はもはや十八番と化してしまった感のあるビッチ女を演じているが(笑)、「愛のむきだし」のころよりはるかに上達。がならなくても腹の立つ雰囲気が出せている。柄本は絶望して放心状態になる男を演じさせたら圧倒的に日本一(「坂の上の雲」の乃木希典も圧巻だった)。樹木も典型的な昭和の海の女を見事に演じていた。何とも言えない料簡の狭さというか、「私は今までずっとこうして生きてきたんだ!」という役に立たない自信が痛々しい。

 このように皆さん素晴らしいが、誰よりも以外でかつ光っていたのは岡田。彼の演じる圭吾の器の小ささ、人間のクズっぷりは天下一品!うざくてうざくてしょうがない。ボンボンに生まれたからか、周囲の人間を常に値踏みするような目つきや自己中極まりない振る舞いで強がっていて、でもそれはすべて虚勢を張っているだけでしかなく、ちょっと追いつめられれば赤ん坊のようにぐずる。テレビドラマや恋愛映画での演技を見た限りでは「どうも様にならんなあ」という感じだったのだが、今作でのはまり具合は異常。これ、素なのか?(笑)業界の皆さん、これからは岡田さんを嫌な役でどんどん使ってください。小顔イケメンでいやな奴というのは、世の男性の反感をもれなくえることができ、とてもおいしいかと思われます。

 以上のように、ストーリーで残念なところはあったが、全体としてみれば力作、秀作であった。サスペンス好きなのでどうしてもこうしたドラマ映画への評価は低くなりがちだが、今作はなかなか楽しめた。ちなみに、最後のほうにタクシー運転手の役ででんでんが登場し、「人を殺すなんてまともな人間のできることじゃありませんよ」とおっしゃるのだが、別の映画、あの「冷たい熱帯魚」ではほかならぬでんでんその人が何十人も殺しているぞ…笑うところでもないのに、笑ってしまいました。

 個人的評価:☆☆☆☆

横浜マラソン

2011-12-26 00:35:58 | 雑記
 課題に追われる怒涛の12月が終了、やっと時間ができたのでここから一気に更新していきます。

 もう3週間も前だが、12月4日の第31回横浜マラソン10kmの部に出場してきた。自分の姿を見知っている方々ならおわかりだろうが、このわたくしおよそ運動、特に運動神経とは無縁である。参考までに述べておくとBMI指数は17前後である。にもかかわらず、なぜこんな無謀な試みに出たのか?もともとのきっかけは、今年1月に朝日新聞に掲載された「1年かけてフルマラソン完走を目指す」という記事であった。運動と無縁とはいえ、体型も幸いして長距離走にはそこまで苦手意識がなかったため、挑戦するのも面白いではないかと、記事をスクラップしておいた。しかしいつもながら、学校が始まればそんな練習に割ける時間もなく、10km走るのがせいぜいといったところで夏休みに。そんなときに見かけたのがこの横浜マラソンのチラシで、10kmの部ならこなせるだろうと思い、同じマンションに住んでいることが発覚した大学の同級生(笑)を誘ってエントリーしてしまった。ところが休みが明けるとますます練習時間が減り、11月に入って焦って練習を再開した程度である。

 かたや、誘った同級生は夏から週2回練習を積んで10km完走できるようにしてきたという。見た目ががっしりしていた人だったのでスポーツも得意だろうと思っていたのだが、意外にも高校時代以降は運動をしておらず、初めは2kmで疲れてしまっていたところからトレーニングし続けたとのこと。誘った本人よりよほど熱意がある。本番1週間前に2人で近所の公園で10km走ってみたところ、かろうじて自分が先にゴールできたのでよかったが、エントリーした時に妄想していた50分以内には遠く及ばず、54分かかってしまった。

 そして本番。緊張したせいで前日は午前3時まで眠れず、3時間睡眠という最悪のコンディションで出発だ。相棒は全く緊張せずに6時間以上眠れたらしいが、「眠い眠い」とのんきにぼやいている。こいつめ。しかも会場の山下公園に向かう途中で「腹が痛い」と言い出し、高級ホテルに入っていった。しばらく待つこと数分、出てきた彼は「みんな同じ事考えてたみたいだ」と、ランナーとしか思えない格好の男性たちがホテルのトイレに並ぶ謎の光景を解説してくれた。まあ、めったに見られないものではあるが。山下公園はとにかく人だらけ。更衣室としてテントが張ってあったのだが、テントの中もひどい混雑で、座ることすらままならない。やけに時間がかかりながらも着替え、荷物を預けてスタートまで待つ。50分もある。周りでは本気度の高そうなランナーたちがウォーミングアップに励んでジョギングをしているが、そこまでの熱意もない我々2人はぶらぶらと公園を散歩し、ストレッチをするくらい。途中公園内のトイレを見つけたが、目を疑うような行列ができていた。ホテルのトイレに入って正解なわけだ。

 いよいよスタートが近くなり、スタート位置に並ぶ。イチョウ並木のきれいな車道を思いっきり占拠して走れるのがこのレースの魅力だ。予想タイムによって並ぶ位置が決まっており、自分たちを含め予想タイム45~60分の人たちは最後方である。スターターゲストには我らが林文子横浜市長(相棒は名前すら知らなかった)と、何と横浜Fマリノスの中村俊輔。当然ながら声援は俊輔にのみ向く(笑)。そしてついにスタート。しかしこの人の多さである。まず、開始30秒は動かない。その後徐々に歩き始め、合計2分間は完全なお散歩状態。一応54分での完走を目指していたのでかなり焦り、人がばらけてくる矢田港をしまくってペースアップ。気がつくと相棒はいなかった(笑)。1km通過時点で6分30秒。遅すぎる!自分は前半と後半でペースが変わらないので、1km5分半くらいで走らなければならない。急いでペースを上げようにも人が多すぎて無理である。しかも1km通過直後に道が狭くなり、またしてもお散歩を強いられる。そのうえ、道幅が広く周りの人たちがみな走っているので、自分のいつものペースが全くつかめない。

 おそらく3~4km進んだかというところで、すでに折り返してゴールへ向かう1番手とすれ違う。どんな速さだ?その後、5km折り返し地点に到達。タイムは手元の時計で29分59秒。なんということだ。あまりに遅いではないか。54分でゴールするには残り5kmを24分で走らなければならない。ここでちっぽけなエンジンが全開モードになった。そろそろ人ごみもかなり解消されてきたので、蛇行しながら懸命に周りを抜いて走り続ける。他人を抜くにはかなりペースを上げなければならず、そのうえ蛇行で走る距離が増えるので、どんどん疲労が蓄積していく。6kmほどの地点で給水があったが、何とここも混雑していて行列ができてしまっていたので、水を受け取らずにパスする。一度やってみたかったのだがお預けだ。当然ながら路面に水が散乱していて、水たまりを踏んだ。そんなことに構う余裕もなくひたすら走り続ける。

 あと3kmの表示が見えた。手元の時計で40分ほど。まずい。間に合わない。前半でペースダウンを強いられた狭い道に差し掛かる前にどうにかして順位を上げなければ。ここでゆるい上り坂が来た。苦しすぎる。例の狭い道に入る。ところがすでに人がばらけていてペースが落ちない。いや、落とすことはできるのだが、さっきまで抜いて行った人たちにぬき返されるのが悔しいので勝手にペースを維持。そんな中、15分ほど前にスタートしたハーフマラソンの部の1番手にぬき去られた。だから、どんな速さだ?坂が下りになった。沿道でおびただしい数の人が声援を送ってくる。その声も耳に入らないくらいに必死で走る。しかしいつまでたってもスタート地点の銀杏並木に入らない。そろそろ限界だ。

 すると、何やら前方に青いゲートのようなものがある。何だあれは?なぜかタイムカウンターがついている。その上のほうにFINISHと書いてある。ゴールだ!ゲート30m手前でやっとその事実に気付く。残った道をラストスパートしてついにゴール。手元の時計で、54分51秒。54分を切ることはできなかったが、初めにスタートラインまで到達するまで2分かかっていることを考えれば、目標達成だ。今までの練習とは比較しようもない疲労感と足の痛さ。ふらふらしながら参加賞のアクエリアスとTシャツをもらい、荷物を受け取ってテントへ。しばらくしてからあの同級生にも再会。彼も無事1時間1分ほどでゴールしたとのことで、「マイペースで楽しく走ったわー。いやあ楽だった!これで就活の自己アピール欄が埋まるわ!もう2度とやらねえ!」とへらへらしている。事前の熱意と本番のやる気で順位が逆転している我らであった。

 あまりの疲労でもはや着替えるのも面倒になったので、Tシャツに行きの上着を羽織り、下はジャージのままで帰宅。これだけ疲れればよく眠れるだろう、と思っていたのだが、体が痛すぎて眠れなかった(笑)。翌日、授業が1限からあり、しかも午後は脳科学のシンポジウムに出るという超過密スケジュール。シンポジウムの途中で寝落ちたのは言うまでもない。だが出場したことに悔いはない。本番のレースは練習と全く違うつらさがあり、今回はそれを思い知ったが、同時に達成感も大きい。来年はハーフか?まあ、そういっておきながら結局練習せずに10kmで妥協していそうだが。

 さらに後日談。実はレース時にランナー全員がタイムの計測器を身に着けており、後日詳しいタイムや順位がわかる仕組みになっていた。送付されてきた結果を見ると、初めにスタートするまでの時間ロスを加味した正味のタイムは52分41秒。軽く自己ベストだ。順位はなんと3717人中1553位。20歳代男性の中でも473人中221位。この自分が、半分より上でゴールだと?意外と皆さんレベルが低い。特に20歳代男性、もっと頑張れ(笑)。最も驚いたのは5km折り返し地点での順位で、3717人中1834位。これでゴールした時に1553位ということは…後半5kmで281人抜きをしていたことになる。そりゃあ、つらかったのも当然だ。ということで、ちょっと自慢できてしまう体験であった。