BioDoxology

生物と映画と政治とマレー・インドネシア語にうるさい大学生の戯言

映画(13) 「恋の罪」

2011-11-30 02:04:40 | 映画
 さて、レビュー本命の「恋の罪」である。いつも参考にしている映画批評サイト【CinemaScape】では上場の評判のようだ。しかし、自分は…。

 (以下、ネタバレおよび多数の性的表現を含みます)

 ラブホテル街の東京・円山町で頭部と四肢を切断された死体が発見された。事件を担当する刑事・和子(水野美紀)は、捜査を進めながらも家族と不倫相手のはざまで苦しむ。一方、人気作家の妻として閉鎖的な生活を送っていたいずみ(神楽坂恵)は、アルバイトをきっかけに性産業に巻き込まれ、さらに大学教授として働く傍ら売春で収入を得る美津子(富樫真)との出会いから円山町に入り、売春へ身を投じることになる。

 冒頭から話題の水野のフルヌード、約30分後には神楽坂のフルヌード、その約40~50分後には富樫のフルヌードと、もうとにかく裸とセックスのオンパレードのような生粋のR18映画である。しかしそのどれもが、薄っぺらくただ下品なだけにしか見えない。終盤では完全にそのエロに飽き飽きしてしまい、観ていられたものではない。そのすべての原因は、脚本のひどさにあるといっていい。

 まず、主に美津子が随所で発する哲学的なセリフ。「城の周りをぐるぐる回っているだけで、入り口にはたどり着けない」「言葉は肉体を持たなければ、意味を持たなければなんの力もない」などなど。そして謎の詩から「言葉なんか覚えるんじゃなかった」「日本語とほんの少しの外国語だけで…(以下記憶せず)」云々。カフカも引用されていたか。これらが、どう考えても全く話の中で消化されておらず、ただ観客を置き去りにする。園子温監督に「お前の言葉こそ意味も肉体もないぞ!」と言い返したい気分で、腹が立ってくる上に眠くなる。しかもその眠気をエロで無理やり覚まされるのがまた腹立たしい。

 また、和子の位置づけもよくわからない。実質的な話にはあまりかかわらず狂言回しのような役柄で、彼女の話が映画の中で浮いている。そのうえ、冒頭のフルヌードには全く必要性がない。やたらと不倫相手になびいてしまう行動も理解に苦しむ。不倫相手役のアンジャッシュ児嶋一哉が様になる演技をしていたのには驚いたが。ほかにも、美津子とともにいずみを売春に誘い込むカオル(小林竜樹)がホテルに連れ込む言い訳やプレイ道具に頻繁に使う塗料入りのゴムボールも謎。あんな手に乗る人がいるのか?いたか、いずみだ(笑)。

 まだまだマティーニちゃん、マリーなど珍キャラクターが大勢いるが、実質的な主人公であるいずみこそトップクラスに理解不能。以下列挙。
・わけあってエロビデオの撮影に協力させられてしまった後。家で鏡の前に立ち、スーパーのソーセージの試食販売のアルバイトの練習をしながら披露してくれるフルヌード。なんだこれは?(笑)「いらっしゃいませ!いかがですか?美味しいですよ!おひとつどうですか?」と、ポーズを決めながら言うな!これではただのエロ目的の下品なAVと変わらないではないか。
・その後いろいろと開眼してしまったのか、元気に試食バイトに励み、その上客の口についたソースを指ですくって途方もなくセクシーに舐め、「私も食べて」と誘惑してトイレに連れ込むとは何事だ?(笑)仕事しろ!
・カオルに騙され不本意なプレイを強要された挙句道に放り出され、ふと目に入った売春婦姿の美津子に「私、あなたの気持ちわかります!」え…?初対面なのに。何を、どうわかるんでしょうか?「はあ?ふざけんな!」と一喝した美津子にここは共感。
・終盤、いろいろと意味深長な出来事の果てに立派な売春婦として一人町をさまよい続けるのだが、港で小学生と向かい合ってしゃがみこみ、まさかの○○(自重します)。なんだこれは?そして笑顔で見つめる小学生たち、どうなってるんだ?

 言い続けているときりがないのでこの辺で。神楽坂の演技も正直よいとはいえない。「冷たい熱帯魚」のころからどうもせりふ回しが肌に合わず、棒読みに聞こえてしまうし、表情にも乏しい。まず、お顔立ちの印象が薄い…などと言ってはいけない。いや、決して悪いなどとは言っていないが。ついでに、大きすぎますね(再び自重)。園監督と結婚してしまって大丈夫か?お互いにご乱心でもあったとしか思えない作品の出来なのだが。

 しかしながらどんな映画にも光る点はあるもので、本作でも光った点が二つ。まずは、いずみが売春に目覚め、セックスに金を媒介させることを覚えてからの変化。それまではあったそばからやりまくっていたのが、必ず「いくらで?」と聞くようになると途端に「売春かよ」「変な女」と男たちからさけられるようになる。金を介したセックスのほうが汚いものとみられる。確かに妙かもしれない。別にほかの経済活動と変わらぬ価値交換ではある。これは案外深い問いではないか。テレビ東京の深夜番組「ジョージ・ポットマンの平成史」の〈童貞史・前編〉で、かつて日本は筆下ろしの通過儀礼や遊郭の存在など性に奔放な文化圏だったのが、西洋文明の流入と明治維新により性道徳が強調されていった、とあった。その後戦後には売春が禁じられ、(あくまで私見だが)「性は神聖であり秘め事」との意識が(自分も含めて)浸透し、少なくとも公の場では、経済の基準で扱うものではなくなっていった。しかしそれは一方で、ピンク映画やAVのシチュエーション(言い方は悪いがレイプや種々のプレイなど)に見られるように、セックスをタダで得られる快楽とはき違えるような風潮が出てきたのではないか。だからこそ、経済の法則にのっとって価値交換をしようとすると、そちらのほうが平等性はあるのにもかかわらず、嫌悪の目で見られる。性をめぐる本音と建前の矛盾が見えてきた興味深いシーンだった。

 もう一つは、美津子の母親を演じた大方斐紗子のとんでもない怪演。設定どおり家柄の良い厳格そうな雰囲気で登場し、しばらくいずみ・美津子・カオルとともに沈黙した後発した第一声が「売春のほうはうまくいってるの?」たまげた!(笑)その後も名台詞が次々と続く。「この子はこの子の父親に似て下品な血が流れているんです。私の家計の血からは考えられないものです」「(いずみに)あなたはまだ上品さがあるけれど、これからどんどん下品になります。お気をつけ遊ばせ」…圧巻。さらに突然席を立ったかと思うと…これは観賞に耐えた方々のみのえられる秘密としましょう。登場する役者たちの中でも別格の存在感と演技力。「冷たい熱帯魚」のでんでんをもはるかに凌駕するぞ、この人は。一見の価値があった。

 うん、これくらいか(笑)。今年劇場で見た中では断トツの大外れ。この映画のせいで自分は重度の裸アレルギーになってしまったではないか。皆様がご鑑賞されるかどうかはもちろん自由ですが、大方斐紗子の化け物演技を見たいからといっても、チケットをわざわざお買い求めになって鑑賞されることはおすすめいたしません。個人的見地から申し上げれば、裸が見たくて見たくてたまらない、という方には、この映画は間違いなくおすすめです。一緒に鑑賞してくれた友人には大変申し訳ないと同時に、この映画を自分とともに味わってくれたことへの感謝と、ともに珍品を乗り切ったことによる友情の再確認をここに述べたい。これからも、園監督作品を見続けようではないか。次回作「ヒミズ」は主演の染谷将太と二階堂ふみがベネチア映画祭で最優秀新人賞を獲得しているから、大丈夫なはず。え、神楽坂恵も出ているって…?

 個人的評価:☆

映画(12) 「冷たい熱帯魚」

2011-11-26 22:28:10 | 映画
 最近少しだけ時間ができたので、ハイペースで連続投稿。先日友人とともに園子温監督作品「恋の罪」を鑑賞してきた。これについてのレビューを書きたいのだが、そのためにはやはり前作「冷たい熱帯魚」に触れておかなければならない。ということで、8か月前に観た「冷たい熱帯魚」のレビューから入る。

 (以下、ネタバレを含みます)

 後妻と娘を持ち熱帯魚店を営む社本(吹越満)は、娘の万引きをきっかけに気さくな同業者の村田(でんでん)と知り合う。ビジネスに協力してくれと頼まれて村田の店へ出向いた社本がみたのは、ビジネスに反対する投資家・吉田(諏訪太朗)を殺害する村田とその妻・愛子(黒沢あすか)だった。社本は成り行きで吉田の死体処理に協力させられ、村田の本性を知ると同時に、彼から逃れられなくなっていく。

 盛大な血祭&エロ祭映画で、批評家たちの間にも絶賛の声は少なくない。しかし、自分はあまり乗れなかった。おそらくその理由は、世界観のちぐはぐさである。

 今作は、監督も述べるとおり実録犯罪映画のような色彩を持ち、手持ちカメラによる撮影が多く、またドライで引き締まった画面になっている。これの前作にあたる「愛のむきだし」の徹底したチープかつ漫画チックな世界観とは対照的だ。だが、登場人物の言動はなかなかぶっ飛んでいて非現実的である。特にでんでんと黒沢のぶっ飛び方は生半可なものではない。でんでんは過剰なほど気さくなおじちゃんの側面と、それ以上に過剰な殺し屋の側面画すさまじい振れ幅で現れ、黒沢は終始極道の妻のようなどすの利いた口調で立ち回る。二人ともなかなか素晴らしい怪演なのだが、この過剰な演技がどうも、リアル思考を持った実録調の世界観にそぐわず、違和感を覚えてしまう。そのため、実際の事件をもとにしたというプロットも、話自体はかなり事件に忠実らしいが、リアルな恐ろしさを感じない。画面の向こうから園監督が「ほら見ろ、グロテスクだろ、汚いだろ!」と一人でわめいているようにしか思えず、説得力がないのだ。観客を作品の世界に引き込もうという意思が感じられないのだ。

 また世界観自体にも妙な点がある。最たる例は村田が死体処理を行う別荘だ。「愛のむきだし」よろしくマリア像や十字架といったキリスト教要素がやたらと強調されているが、何の説明もない。また愛子がガスバーナーをぶっ放してともす大量のろうそくも謎。村田夫妻の猟奇的な性格を見せているという解釈にも無理がある。ドライな映像の中で、この建物だけが漫画チックで浮いているのである。また、終盤で突如登場するデジタル時間表示も意味不明。何のために時間を見せる必要があるのか全く分からない。監督は実録風の昭和映画「復讐するは我にあり」を参考にした、と述べているが、それにしては作り上げた世界が粗雑である。自身の得意な漫画的ぶっ飛びをもう少し抑えて、もっと冷たい「冷たい熱帯魚」にするべきではなかったか。これではまだ生ぬるい。冒頭の冷凍食品が次々レンジに放り込まれる描写や、滝のようというか滝そのものと言っていい(笑)くらいの土砂降りの雨程度の過剰演出で、十分通用するはずだ。

 その意味でいえば、でんでん・黒沢より、大した器でもない男が凶悪犯罪に巻き込まれ、深みにはまっていくさまを演じた吹越のほうが、より世界観に合った演技をしているように見えた。常に怯えと不快感を見せながら、ついには自分がぶっ飛んでしまうまでの過程は、でんでんや黒沢のような派手さはないものの、天下一品の演技だろう。村田と手を組む悪徳弁護士・筒井役の渡辺哲も、なかなかいいヤクザっぷりであった。

 一方いまいちだった出演者は社本の妻・妙子役の神楽坂恵(なんとのち園監督と結婚)と娘・美津子役の梶原ひかり。二人とも演技の経験が浅いせいか、芸達者な中年組に比べると不安定さやセリフのつたなさが目立って仕方ない。プラネタリウムで家族3人で話しているシーンは特にひどい。ところが、梶原は最後の最後で大化けする。このラストのすさまじい絶望感はこの映画の救いであり、しかも2回目に見ると(見てしまった)、素晴らしい快感、カタルシスを生む。このシーンで評価を持ち直した。

 以上、いいところと悪いところがどちらも顕著で、個人的にはあまり好きではない。こういう「汚い世界」系の映画は手あたりしだい暴力的に作ればいいというものでもないのだと学んだ。「時計仕掛けのオレンジ」がいかにバランスを考えて作られたものだったかが逆によくわかる。なんだかこき下ろしているような書き方になってしまったが、それなりに面白かったよ。筒井にかけられたタオルなど(笑)。

 個人的評価:☆☆☆

映画(11) 「エイリアン」

2011-11-23 23:41:21 | 映画
 多忙の末に風邪を引いて長期休止を余儀なくされていました。どうしてこんなに時間がないのだろうか、と考えてみると、大学の授業のコマ数がブログを始めた先学期より4コマほど多いことに気付いた。当たり前だ(笑)。

 というわけで、今月12日に「午前十時の映画祭」で上映されていたSFホラーの古典「エイリアン」のレビューを遅ればせながら。まず結論を言うと、久々の大当たり。傑作。

(以下、ネタバレを含みます)

 宇宙を航行する貨物船ノストロモ号は、当初のルートを外れて未知の惑星にたどり着く。そこで野外調査に出かけた乗組員の一人を、謎の生物が襲って船内に侵入する。生物は確実に成長し、乗組員たちをパニックに陥れる。

 もう、怖いのなんの。この作品は、まさしくSFとホラーの融合であり、「エクソシスト」の影響を強く受けたようなBGMが効果的。かつ、ヒッチコック以来の「敵が見えない」というサスペンスを、未確認の生物に与えることで恐怖を倍増させていて、見せ方はクラシカルながらとても洗練されている。それも、生物が姿を現す前後には必ず、粘液や抜け殻といった不気味な痕跡を残し、先が全く見えない不安をさらにあおっていく。今でこそ皆が慣れ親しんだ成体エイリアンの風貌だが、改めて映画の中で見ると、暗闇で頭や腕しかはっきり見えない様子は芸術的に怖い。また宇宙船が貨物船であるところも見事に効いていて、物が散乱して雑然とした暗い部屋が多く、いったいどこで何が起きるかわからない印象を強く残す。そのくせ、ショッキングなシーンはちょうどライトの強い部屋で見せてくる。なんという意地悪く、そして巧みな演出だろうか。

 そしてさらに怖いのは幼体のエイリアンで、見たこともない風貌ではあるが生物的にものすごくリアルなのである。幼体は明るい光の下で観察されることが多いことから、暗闇で怖さの引き立つ成体とはちがい、はっきり見えるリアルさで恐怖を引き出すようにデザインされているのだろう。成体が真っ黒なのに対して幼体が白っぽい点がそれを象徴している。卵から覗くぬるぬるした触手、乗組員のヘルメットを切り開くと同時に現れるクリーム色のカブトガニに似た体。そして伝説の赤ちゃん「チェストバスター」。生物好きとしては興奮せずにいられない。その完璧としか言えないデザインとショッキングな使い方に、完全にやられた。

 今でこそ当たり前のようにおこる、閉鎖空間での乗組員たちの相互不信や疑心暗鬼も、これまた古典的ながら見事なプロットである。特に、不審な動きを見せる科学担当のアッシュの真実は全く予想しておらず、またしてもやられた。俳優陣も、このシリーズで人気を博したシガニー・ウィーバーを含め当時はあまり有名でない人たちばかりで、自分もウィーバー演じるリプリー以外にだれがどんな顛末をたどるかわからず、サスペンスしっぱなし。閉鎖空間で限られた数の人物しか登場しない映画は、脚本次第でいくらでも膨らむものだ。

 ただ少し残念だったのはラストのシーンで、それまで延々と皆を苦しませてきたエイリアンにしてはあっけないな、という印象があった。また、そのシーンで成体エイリアンの全体像がやっとはっきり見えるのだが、実は思いっきり人型。足のあたりにはそれほど工夫が凝らされておらず、若干拍子抜けした感は否めない。もっとも、限られたディテールでも暗闇を生かすことで見た目の迫力をいくらでも高められる、ということの裏返しでもあるのだから、素直にそれまでの演出力を評価すべきなのだろう。

 突っ込みどころも多少ある。まず、未知の生物を扱うにしてはみな無神経すぎる(笑)。ケインさん、卵に不用意に顔を近づけてはいけません。船長とリプリー、「感染する危険性が…」などと周りに言うならせめてマスクはしようか。根拠もなく「問題ない、反射反応だ」とピンセットで触るのもよしたほうがいいぞ。そして生物を部屋に置きっぱなしにして見失うのは馬鹿にもほどがある(笑)。ガラス窓もあるんだし、常にだれか監視しておけ。ペットの猫も放し飼いにしちゃいけません。荷物に万一のことがあったらどうするんだ、と思います。それから乗組員の性格が悪すぎ(笑)。確かにブレッドは使えない野郎かもしれないが、(おそらく意図的に)おとりにして見殺しにする、というのは…「やつ、でかくなってたな」と言う前に少しは謝っておきなさいよ。

 もう一つ絶対に突っ込んでおくべきは脱出した後のリプリーのサービスショット(笑)。あれだけエイリアンと格闘して走り回っていたにしてはずいぶんと小さいアンダーウェアだこと。あれ、○○○ラですよね?宇宙船でのそれも緊急時の活動ってそんな軽装でいいんでしょうか(笑)。

 ちなみに、以前本作がテレビ放送されていた時に録画していたのだが、今回の映画館での上映を待って再生していなかった。帰宅後に録画を再生して再鑑賞したところ、びっくりするほど怖くないのである。プロットを一度知ってしまったというのもあるが、やはり映画館と違って部屋が明るかったことが大きい。暗いシーンも随分とはっきり見えてしまうので、あまり恐ろしくなかった。この映画は、実に映画館向きの作品だったのである。忙しい中でも無理やり時間を作って鑑賞した甲斐があったというものだ。もう、大満足。これからため込んだ映画レビューを一気に放出する予定なので、お楽しみに。

 個人的評価:☆☆☆☆☆

TPPのこと

2011-11-10 08:58:46 | 政治
 野田首相によるTPP参加をめぐる決断とAPECでの意思表明がすぐそこに近づいてきた。ここはやはり、その前に自分の意見を述べておくべきだろうと思い、1週間考え続けた結果、結論を出した。参加すべきだ。

 これから人口が減少し経済規模がどんどん縮小していく可能性の高い日本が経済国として存続するには、やはり外需拡大が必要である。そのためには自由貿易を促進するのが一番だろう。EU、ASEAN諸国や中韓との貿易自由化を進めるのに加え、今回のTPPでアメリカおよび太平洋地域との貿易を一気に進めるべきだ。

 ではまず、農業をどうすればよいのか。TPP賛成派の論者からは、「以前関税が引き下げられたサクランボは、結局国産人気を衰えさせはしなかった。コメに関しても、700%以上の関税が撤廃されても、日本人の味の好みがある以上国産米への需要はそこまで落ちない」といわれもするが、たとえばコンニャクイモ(関税率1300%以上)などになると味の良しあしがそこまで明確にならず、この論法も通用しない。コメにしたって、粉にして和菓子の原料の一部に使う、なんて使い道であればどう考えても安いものが使われるはずだ。正直なところ、打撃なしではすむはずがないだろう。賛成派の唱える、民間企業参入による大規模化にも限度がある。北海道のように日本で最も広大な地域を使ったところでアメリカやオーストラリアには遠く及ばない。価格面での対抗は無理に近いと考えるのが道理だ。

 と、ネガティブなことしか書いていないが、それでも賛成する理由は何かというと、「農業を産物で世界と競い合うべき産業と考えない」という発想にある。生産物による経済競争を前提にするから意見が対立するのであって、生産物だけを考えるのをやめればよい。わけのわからないことを言っている感じだが、要は農業を「技術産業」ととらえるのである。まず、農地だけを持っていて農業による収入が実質的にほとんどないに兼業農家も対象とするような戸別所得補償は速やかにやめ、民間企業の参入を促し、農地を集約して可能な限り経営の大規模化を進める。この時伝統的な作付のノウハウを身につけている農家を雇用し、技術の伝承と更なるイノベーションを進める。そして、これまで零細農家のものだった日本の農業技術を、企業水準・グローバル水準のものに高めていく。日本が世界に通用させていくべきはこの技術である。近年新興国で盛んになっていくインフラ輸出の一つとしてこれを使えばよい。アジアに太平洋地域、およびアメリカの一部には日本に近い気候の地帯もある。それに外国の農地は莫大である。そこに農業技術を投資し、大規模に利益を上げていく。これが日本の農業の目指す形の一つではないだろうか。

 だったら国内では外国産のものがあふれかえってよいのか。もちろんそんなことはなく、まずTPPの交渉の場で、ごねまくってでも可能な限りの作物について、関税の例外規定を何とか取り付ける。そしていざ外国産農作物の輸入が増え、国内の(すでに大規模化を進めた)農業が海外での利益と合わせても苦境に陥るようなら、そこに補助金を出し、元農家をはじめとした従業員にも支給する。生産性の低い個々の農家にちょこちょこ補助を出すより、大きな塊でドン、と渡して(ただし、そのすべてが経営者の懐に収まるようなことがないよう従業員への直接補助も義務付けて)、経営の改善をしてもらうほうが効率的なのは明らかだ。

 国内の農作物の輸出という選択肢はどうだろうか。価格面での勝負が厳しいなら、味と安全性を備えたブランドとして中国などの富裕層向けに輸出するという戦略はよく言われる。確かに潜在的な需要はこれからも増えるだろうし希望はある。ただしそこで注意すべきは日本の農作物の安全基準だ。これはあまり知られていないことだが、日本の安全基準はアメリカよりははるかに厳しいが、実はEUのほうがもっと厳しい。安全性を売りにしようとしても、今の日本は必ずしもトップクラスではないのだ。ここは支給改善を急がなければならない。そのためにも大規模化による速やかな対策が必要になるのである。

 農業については以上。更なる問題はほかの分野での自由化、特に医療だ。国家的な医療保険制度のもとで医療産業が成り立っている日本に対し、アメリカは自由診療が基本。仮にアメリカの医療産業(病院や製薬会社)が日本に参入してくると、保険の適用される治療と適用されない治療が混ざってくる、いわゆる混合診療の問題が今にもまして発生する。最近の裁判でも話題になったが、混合診療をすると、保険適用分の治療まで自由診療になる。これは大問題である。以前は医療分野が対象外だと説明してきた野田政権だが、ここにきてTPPにより医療部門の自由化も迫られうることが露呈してきた。「利点だけを強調した情報操作」との批判は受けて当然。その後浮上した事前協議問題と合わせて、政権の姿勢は詐欺に近い。

 ではなぜ自分は反対に回らないのかというと、農作物ならまだしも病院などでアメリカ式のものが幅を利かせるとはあまり思えないからだ。サクランボの例を農業面で取り上げたが、人々の生活に密着すればするほど、そして目に見えれば見えるほど、特に日本では今まで長く付き合ってきた国内のものへの信用が強まる。農作物以外でも、例えば以前の日米構造協議の結果、大規模小売店舗法廃止でシャッター商店街が増えたといわれているが、シャッター化を招いたのは結局日本のスーパーであって、ウォルマートなどアメリカのチェーン店が成功したとは言い難い。医療分野でも、結局は従来型の国内の病院への信用が残り、危惧されているほどの事態(日本が大量の壊滅と、米映画「シッコ」でいわれているような医療の格差拡大)は起きないのではないか。

 もうひとつ、「環太平洋といってもGDPの比で見れば日米が9割超、実質的に日米FTAでありアメリカの言いなりになる」という批判について。GDPで見ればそうかもしれないが、実際に交渉に参加するのはオーストラリアやベトナム、ニュージーランドを含め9か国になる。そして、GDP比で低い国が黙って日米の交渉を見ているはずがない。GDP比が低ければそれだけ不利になるからだ。それらの国も必ず自国の産業保護のために手を打って交渉してくるはずであり、その面で日本は協力し、アメリカに抵抗することができるはずである。特にオーストラリアはアメリカとの交渉で、アメリカ側がオーストラリアからの砂糖の関税を維持するという「貸し」を作らせている。日本にとっても砂糖の問題は相当厄介だが、逆にその厄介な相手と一部で手を結び、ボスであるアメリカと渡り合うことは可能なはずだ。日米二国間でFTAを結ぶほうが、よほどアメリカからの攻勢に耐えなければならない。それとも、多国間で連携するなんて交渉力は日本にないから無理だ、とでも言いたいのだろうか。残念ながら真正面から否定できないが(笑)、それならなおさら日米FTAが怖い。交渉面でのリスクはTPPのほうが低いと考えるのが妥当だろう。それにGDP比でいっても、これからベトナム、チリなどの新興国はどんどん伸びる。日米FTAのような体裁に今はなったとしても、近いうちに必ず多国間の協定としての意味合いを持つように修正されていくだろう。

 以上の理由で、自分は日本のTPP参加に賛成する。この記事、炎上覚悟で出している。首相が党内融和に務め、また政治家全般がメディアによる「たたき」を恐れるあまり自分の意見を出せないような状況が生まれているのなら、一国民が意見を出す番との思いもあって、出すと面倒になると思っていたテーマにも切り込むことにした。忌憚なきご意見を、伺いたい。

映画(10) 「中国超人インフラマン」

2011-11-01 09:19:06 | 映画
 最近まったく更新できていないのには3つ理由がある。
①大学の課題が重なって忙しすぎる
②授業の課題で指定された論文をたくさん読まなければならず、生物ネタになる面白い論文を読むことができない
③最近政治で話題になっている増税・TPP・普天間基地などはスケールが大きすぎて、この場で語れるほど自分の持つ知識が少ないし、以前のようにいろいろ調べている暇もない(ちょっとだけTPPについて言うと、かつてのイギリスの食料自給率改善政策が一つのモデルになるのではないか。広い農地に乏しい点など、日本と状況が似ている気がする)

 というわけで残るは映画くらいしかない。ところが、最近レビューを書くよう頼まれた「中国超人インフラマン」(1975)―あの最低映画祭上映作の1本―は論評するのが至難の業で、何をどう書こうか悩んでいる間にこんなに日が経ってしまった。

 (以下、ネタバレを含みます)

 中国の科学研究所の前に突如、震度12の地震とともに現れたドラゴン形の岩山。氷河魔王女が世界征服を狙っているのだ。そして研究所も氷河魔王所が送り込んだ怪物に攻撃される。研究所のリュウ所長は、戦闘員の一人レイ・マ(ダニー・リー)に手術を施し、中国超人インフラマンとして反撃させる。インフラマンとなったレイ・マは次々と現れる敵たちと戦い、ついに氷河魔王女のアジトに潜入する。

 知る人ぞ知る、中国の特撮ヒーロー映画である。セットの雰囲気などは、どう見ても日本のウルトラマンや仮面ライダーから絶大なインスピレーションを受けていると思われるが(笑)、重大な違いが一つある。ずばり、緩急のなさ。日本の特撮では、ヒーローが登場して最初は威勢よく戦うが、そのうちにだんだん敵が強くなり、クライマックスではピンチに陥るのが常。そしてここぞというときに必殺技で打ち勝つ、というのがセオリーだ。ところがインフラマンの場合、計5体以上の怪人と勝負するのだが、1人目と戦う時点ですでに必殺技「超人ビーム」(スペシウム光線と同じポーズで赤い極細レーザー光を出す)を使ってしまう。普通なら初戦は八つ裂き後輪のようなサブ必殺技でフィニッシュすべきなのに、全く光線のありがたみがなくなってしまうのである。おかげで、続く敵と戦うときも超人ビーム乱発、ヒーローに必須のカタルシス要素は完全に無と化してしまう。そのうえ、3人目、4人目あたりの中ボス的位置づけにいる敵がかなり弱く、なんのピンチもなく延々となぐり合っているだけ。あのばね男たちは何のために出てきたのか、理解に苦しむ。

 もちろん、特撮お楽しみの新たな必殺技も登場する。まずは「超人キック」。いうならばとび蹴りなのだが、恐ろしいことに、ジャンプして伸ばした足から炎が噴出しているように見えながら、体は普通に前方へ進む。謎の推進力。次は所長のいきな計らいで生まれた最強兵器「稲妻パンチ」。要はマジンガーZのロケットパンチだ。物語半ばで紹介しておいて、最後の戦いまでじらすところは合格点。しかしいざ使用した時の映像クオリティの低さがあまりにも肩すかし。そして、所長から何の説明もなかったのに最後の最後で突如使用した「雷電ビーム」。両手を斜めにクロスしてやっぱり赤い極細レーザー光。超人ビームとの差を感じないし強そうにも見えない。というわけで、軒並み技のかっこよさに欠けているのも致命的な欠陥といえる。

 そしてもう一つ大きな欠点は、戦闘中に音楽がないこと。なぐり合う体のぶつかり合いとインフラマンのセリフ、多少の効果音意外に音がなく、やけに淡々とバトルが進む。「ダークナイト」のカーチェイスのようなリアルかつ骨太なバトルでは、音楽の排除は緊張感を高める効果があるが、この映画のバトルでは効果が上がるはずもなく…。ただし、レイ・マがインフラマンに変身するシーンではいつも決まった音楽が流れ、若干テンションが上がる。ところがここでも不可解な点があり、変身したインフラマンは毎回バック宙をし、そして1秒にも満たない時間飛ぶ。いや、飛んでいる最中と思われる映像が説明もなしに挿入される、といったほうが正しい。しかも毎度同じ映像の使いまわし。誰がどう見たって、飽きることこの上ない(笑)。そう、説明不足もこの映画を象徴している。先ほど言った雷電ビームもその例に漏れない。確かに、説明が多すぎると「戦国自衛隊1549」のように話の流れが止まってしまうが、全く説明がないと、それはそれで理解できない。その塩梅をうまく調整するのが脚本家というやつなのだが、分かっていない方々も多いようで(笑)。

 良い点を挙げるとすれば、さすが中国だけあってカンフーアクションのキレ。主人公のレイ・マ役のダニー・リー、インフラマンのスーツアクターの動きもよいが、もう一人の隊員、シャオロン役のレイ・シューロンのアクションが頭一つ抜けている。彼はあのブルース・リーの後継者として一時期有名になった人らしい。ついでに、ダニー・リーといえば、ジョン・ウーの香港ノワール映画でも相当な人気を誇る「狼 男たちの挽歌・最終章」でチョウ・ユンファを追い詰め、そして共闘する熱血刑事を演じ、伝説のスプラッター映画「八仙飯店之人肉饅頭」では監督兼出演という、なかなかの一流俳優である。そんな彼がデビューから間もないころにこんなマニア映画に出ていたとは。ほかにもキング・コングをリメイクした「北京原人の逆襲」(日本のWho are you?ではなく)にも出演しているらしい。いやいや、中華映画界も奥が深いものだ。

 本作で最も驚いたところといえば、序盤の科学研究所内の効果音。あの特徴的な音は…なんと「2001年宇宙の旅」で宇宙船を操縦していた時の音ではないか!完全なパクリ。アレンジのかけらもなくコピペで挿入している。警報のアラームも宇宙船のアラームそのままじゃないか!これは訴えられるだろ。でもこうしてちゃんと出回っている。相手にされなかったか、存在すら知られていなかったか(笑)。

 とまあ、いろいろとつまらなくも衝撃的な本作。レンタルショップでDVDをレンタルしたのだが、傷があるらしく初めの数分間が再生に支障をきたしていた。まあ新しいものと交換してくれることもないだろう。オープニングはなかなか衝撃的というか、安っぽいのかかっこいいのかわからない感じで、結構好きだったりするのだが。いや、散漫な展開に飽きる前だから楽しめていただけか。

 個人的評価:☆