2007年10月25日(木)にBSPフォーラムにおける財部誠一氏の講演記録
標題:『ITと日本経済』
財部誠一氏 略歴
1956年東京生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。
野村證券(株)、出版社勤務を経てフリーランスジャーナリストに。金融、経済誌に多く寄稿し、気鋭のジャーナリストとして期待される。テレビ朝日系の情報番組『サンデープロジェクト』、BS日テレ『財部ビジネス研究所』、大阪・朝日放送『ムーブ!』等、TVやラジオでも活躍中。また、経済政策シンクタンク「ハーベイロード・ジャパン」を主宰し「財政均衡法」など各種の政策提言を行っている。
主要著書
「負けない生き方」(2007年、東京書籍)
「勝者の思考」(2007年、PHP研究所)
「中村邦夫は松下電器をいかにして変えたか」(2006年、PHP研究所)
「間違いだらけの就職活動」(2005年、PHP研究所)
講演内容:
1)『社長はメディアを疑え』
財部氏より聴衆に質問。
「景気回復実感があるか?」
7割程度が「ない」と回答。
地方に行くと景気回復実感があると答える人は1割程度で、ひどい場合には0ということもある。
では、本当はどうなのか?
財部氏の考えは「景気は確実に回復している。」「いざなみ景気以来の好景気だ。」というもの。
メディアは『景気は回復していない』と報道する。「たかが経済成長率2%。」「経済格差がある。」というのが根拠。
しかし、日本のGDPは現在500兆円で成長率が2%だと、10兆円増加していることになる。
いざなみ景気の頃はGDPは100兆円程度で10%の成長だったので、同じく10兆円くらいの経済成長。
経済成長の絶対値でみると確実に日本は経済成長している。
19990年(バブル絶頂期)のGDPは400兆円。これが失われた10年を超えて現在は500兆円。
日本はバブル崩壊後の不景気をものともせず、成長を遂げてきた。
ちなみに、500兆円というGDPは英・独・仏を合計したのと同じ。
格差についても、日本は世界でみても稀に見る格差の小さな国。
税収をみても、1990年の60兆円が一時17兆円に落ち込み、現在は50兆円に回復している。
ここ数年、財務省が発表している税収見込みを実績が2・3兆円上回っている。
つまり、メディアは「印象/イメージ」を報道しているのであり、ビジネスマンは「事実/データ」で捉えなおさないといけない。
2)経済成長は続くのか?
少子高齢化は人口構造の変化を意味する。
人口の絶対数が減少するのだから、本来は成長するわけがない。
だから、今後日本の国内経済はマイナス成長するのが当然で、とんとんなら上出来、1%成長で驚きという時代になる。
つまり、今後のビジネスの前提は『国内経済は成長し続けることはない』というもの。
成功を収めている企業はこの変化に対応しているから成功している。
トヨタは日本の国内販売台数がここ10年間170万台で推移している。
しかし、トヨタはこの10年間で売上が2倍、利益が5倍になっている。
それはトヨタが売上の7割の世界で販売しているから。
というのも、世界の経済成長率は日本を超えて4%になっている。
その世界を相手に販売しているから売上が伸びる。
また、現地生産・現地販売をすることで、それまで日本から販売地まで輸送していたコストがそのまま利益に上乗せされた。
これが、トヨタが売上を伸ばし、それ以上に利益を伸ばした要因。
同じように、東芝や三菱電機も選択と集中をすることで過去最高益を得ている。
東芝は総合電器メーカーから「半導体」と「原子力発電」だけに絞って企業構造を大変革した。
非コア事業の売却や他社から半導体事業を買収するなど。
それに比べ、日立は世界の変化に合わせて自らを変革することが出来ないため、業績が回復していない。
グローバルに生産や流通を行うために、トヨタも東芝も世界的なロジスティックスを構築し、それをITによって支えている。
ITはロジスティックスを全体最適によって再設計するために、工場や調達先が新しく出来るたびにリードタイムが最も短くなるように再計算する。
ITは税計算にも活躍する。世界中の複雑な税体系を計算し、最も納税額が少なくなるような工場や調達先、倉庫の配置を計算する。
そして、これらの企業はITを構築し、そして改善し続けることが出来る。
つまり、ビジネスモデルを変えることができる会社はイノベーションを起こし続けることができるということ。
そして、ビジネスモデルは世界の4%の経済成長の恩恵を吸収できるように変えられなければいけない。
3)ITとマネジメントは同じ
福岡県は実態は日本経済から独立した経済圏。
福岡県の麻生知事は自動車工場を誘致するために、テキサスインストゥルメント出身のビジネスマンを雇って自動車用のLSIの開発や生産が出来る企業の誘致や工業団地を整備。自動車部品メーカーも誘致して自動車メーカーの工場を誘致した。
福岡県知事が「福岡での自動車の生産台数の目標は100万台」と言っている。
これは従来の自治体の首長の言葉ではない。企業経営者の言葉だ。
更に麻生知事は「福岡が世界経済にコミットしないと成長しない」と発言している。
ビジネスモデルを変えることは大企業にしか出来ないことではない。
事例紹介
福岡県久留米市にある「松本商店」という鋼材卸の会社。
当初は社員19名くらいの規模。
1990年代に不況の波に襲われた。
社長は「お客様本位」を愚直に貫く人で、この点が他の社長と違う。
赤福やミートホープの例でも分かるように、日本企業の品質に対する姿勢は海外に比べて低い。
しかし、この会社の社長は社員に対し「お客様に奉仕することを考えよ。利益のことは社長の責任だから自分が考える」と公言していた。
不況下で鋼材卸の業界も「値引き合戦」と「淘汰による倒産」が起きていた。
この社長はお客様のところに自分たちがお客様のために何が出来るかを聞きに言った。
そして、お客様の工場を見学したときに自分たちの商品が工場内に山と在庫されているのを見てショックをうけた。
「お客様のためと思って商売をしていたが、お客様に多大の在庫負担を強いる結果になっていた」
そこで、社員に「お客様の在庫を減らすアイデアを考えろ」と言ってアイデアを出させた。
そこで、「要るとき要るだけ」というコンセプトでお客様に一次加工した鋼材をJUST IN TIMEで納品することを約束した。
その為には、一次加工をする工場に外注しなければいけなくなる。
また、お客様の生産計画を直ちに知ることが出来るようになる必要がある。
なので、お客様の工場と下請けの加工所、自社で情報を共有するITを3年がかりで構築してJITを実現した。
今では西日本全体にお客様がいるので、お客様に近い場所に協力工場を作りビジネスが拡大し、社員も80名。年商も20億に成長した。
業績が悪いときに「景気が悪いから」という外部要因のせいだけにするのではなく、本当の課題を自ら分析するという態度が必要で、その解決にはITが大いに活躍する。
だから、IT部門といえども会社にイノベーションを起こすことが出来る。
IT部門から新たなビジネスモデルを提案するというくらいの気概が必要。
標題:『ITと日本経済』
財部誠一氏 略歴
1956年東京生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。
野村證券(株)、出版社勤務を経てフリーランスジャーナリストに。金融、経済誌に多く寄稿し、気鋭のジャーナリストとして期待される。テレビ朝日系の情報番組『サンデープロジェクト』、BS日テレ『財部ビジネス研究所』、大阪・朝日放送『ムーブ!』等、TVやラジオでも活躍中。また、経済政策シンクタンク「ハーベイロード・ジャパン」を主宰し「財政均衡法」など各種の政策提言を行っている。
主要著書
「負けない生き方」(2007年、東京書籍)
「勝者の思考」(2007年、PHP研究所)
「中村邦夫は松下電器をいかにして変えたか」(2006年、PHP研究所)
「間違いだらけの就職活動」(2005年、PHP研究所)
講演内容:
1)『社長はメディアを疑え』
財部氏より聴衆に質問。
「景気回復実感があるか?」
7割程度が「ない」と回答。
地方に行くと景気回復実感があると答える人は1割程度で、ひどい場合には0ということもある。
では、本当はどうなのか?
財部氏の考えは「景気は確実に回復している。」「いざなみ景気以来の好景気だ。」というもの。
メディアは『景気は回復していない』と報道する。「たかが経済成長率2%。」「経済格差がある。」というのが根拠。
しかし、日本のGDPは現在500兆円で成長率が2%だと、10兆円増加していることになる。
いざなみ景気の頃はGDPは100兆円程度で10%の成長だったので、同じく10兆円くらいの経済成長。
経済成長の絶対値でみると確実に日本は経済成長している。
19990年(バブル絶頂期)のGDPは400兆円。これが失われた10年を超えて現在は500兆円。
日本はバブル崩壊後の不景気をものともせず、成長を遂げてきた。
ちなみに、500兆円というGDPは英・独・仏を合計したのと同じ。
格差についても、日本は世界でみても稀に見る格差の小さな国。
税収をみても、1990年の60兆円が一時17兆円に落ち込み、現在は50兆円に回復している。
ここ数年、財務省が発表している税収見込みを実績が2・3兆円上回っている。
つまり、メディアは「印象/イメージ」を報道しているのであり、ビジネスマンは「事実/データ」で捉えなおさないといけない。
2)経済成長は続くのか?
少子高齢化は人口構造の変化を意味する。
人口の絶対数が減少するのだから、本来は成長するわけがない。
だから、今後日本の国内経済はマイナス成長するのが当然で、とんとんなら上出来、1%成長で驚きという時代になる。
つまり、今後のビジネスの前提は『国内経済は成長し続けることはない』というもの。
成功を収めている企業はこの変化に対応しているから成功している。
トヨタは日本の国内販売台数がここ10年間170万台で推移している。
しかし、トヨタはこの10年間で売上が2倍、利益が5倍になっている。
それはトヨタが売上の7割の世界で販売しているから。
というのも、世界の経済成長率は日本を超えて4%になっている。
その世界を相手に販売しているから売上が伸びる。
また、現地生産・現地販売をすることで、それまで日本から販売地まで輸送していたコストがそのまま利益に上乗せされた。
これが、トヨタが売上を伸ばし、それ以上に利益を伸ばした要因。
同じように、東芝や三菱電機も選択と集中をすることで過去最高益を得ている。
東芝は総合電器メーカーから「半導体」と「原子力発電」だけに絞って企業構造を大変革した。
非コア事業の売却や他社から半導体事業を買収するなど。
それに比べ、日立は世界の変化に合わせて自らを変革することが出来ないため、業績が回復していない。
グローバルに生産や流通を行うために、トヨタも東芝も世界的なロジスティックスを構築し、それをITによって支えている。
ITはロジスティックスを全体最適によって再設計するために、工場や調達先が新しく出来るたびにリードタイムが最も短くなるように再計算する。
ITは税計算にも活躍する。世界中の複雑な税体系を計算し、最も納税額が少なくなるような工場や調達先、倉庫の配置を計算する。
そして、これらの企業はITを構築し、そして改善し続けることが出来る。
つまり、ビジネスモデルを変えることができる会社はイノベーションを起こし続けることができるということ。
そして、ビジネスモデルは世界の4%の経済成長の恩恵を吸収できるように変えられなければいけない。
3)ITとマネジメントは同じ
福岡県は実態は日本経済から独立した経済圏。
福岡県の麻生知事は自動車工場を誘致するために、テキサスインストゥルメント出身のビジネスマンを雇って自動車用のLSIの開発や生産が出来る企業の誘致や工業団地を整備。自動車部品メーカーも誘致して自動車メーカーの工場を誘致した。
福岡県知事が「福岡での自動車の生産台数の目標は100万台」と言っている。
これは従来の自治体の首長の言葉ではない。企業経営者の言葉だ。
更に麻生知事は「福岡が世界経済にコミットしないと成長しない」と発言している。
ビジネスモデルを変えることは大企業にしか出来ないことではない。
事例紹介
福岡県久留米市にある「松本商店」という鋼材卸の会社。
当初は社員19名くらいの規模。
1990年代に不況の波に襲われた。
社長は「お客様本位」を愚直に貫く人で、この点が他の社長と違う。
赤福やミートホープの例でも分かるように、日本企業の品質に対する姿勢は海外に比べて低い。
しかし、この会社の社長は社員に対し「お客様に奉仕することを考えよ。利益のことは社長の責任だから自分が考える」と公言していた。
不況下で鋼材卸の業界も「値引き合戦」と「淘汰による倒産」が起きていた。
この社長はお客様のところに自分たちがお客様のために何が出来るかを聞きに言った。
そして、お客様の工場を見学したときに自分たちの商品が工場内に山と在庫されているのを見てショックをうけた。
「お客様のためと思って商売をしていたが、お客様に多大の在庫負担を強いる結果になっていた」
そこで、社員に「お客様の在庫を減らすアイデアを考えろ」と言ってアイデアを出させた。
そこで、「要るとき要るだけ」というコンセプトでお客様に一次加工した鋼材をJUST IN TIMEで納品することを約束した。
その為には、一次加工をする工場に外注しなければいけなくなる。
また、お客様の生産計画を直ちに知ることが出来るようになる必要がある。
なので、お客様の工場と下請けの加工所、自社で情報を共有するITを3年がかりで構築してJITを実現した。
今では西日本全体にお客様がいるので、お客様に近い場所に協力工場を作りビジネスが拡大し、社員も80名。年商も20億に成長した。
業績が悪いときに「景気が悪いから」という外部要因のせいだけにするのではなく、本当の課題を自ら分析するという態度が必要で、その解決にはITが大いに活躍する。
だから、IT部門といえども会社にイノベーションを起こすことが出来る。
IT部門から新たなビジネスモデルを提案するというくらいの気概が必要。