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星斗がプ二子を選んだ訳  5

2013-09-03 11:44:44 | ミステリー恋愛小説
笑子の章  

笑う子供と書いて、笑子(えみこ)という名前の由来はどんな時でも
ニコニコと笑って人生を生きてほしいという両親の願いらしい。
確かにいつもにこやかに笑顔を絶やさない女の子に成長した。
そして、付録で食べること大好きなふくよかな体型にもなった。
世間ではそれをプ二子と呼ぶらしい。世の中はプ二子ブームらしいが、
私には関係のない異次元の話だ。なんだかんだと言っても所詮デブに過ぎない。
恋人いない歴23年。勿論、バージンだ。
大学を卒業して就職して1年、23歳になってもいまだに恋人はいない。
バージンを大切にしていたわけじゃないけど、気ずいたら23歳になっていた。
でも、ひとつだけ自慢できることがある。それは料理がプロ級に上手いということ。
自画自賛ではなく、友人達が皆口をそろえて言う。
「メチャおいしい!レシピ本出したら売れるよ!」
週末には簡単な料理パーティも時々する。私の場合すべてが創作料理だ。
冷蔵庫には常時野菜と肉がそろっている。調味料は和洋中華30ほど種類ある。
今日は、会社の先輩加藤千恵子が友人を連れて遊び来る。
「あなたの料理の話をしたら大学の先輩の独身の男性達が食べたいと言うの。
お酒は持ち込むわ。材料代はカンパする。
それと私の本命星斗さんも来るのでよろしくね」
千恵子の話では光源氏の生まれ変わりという程眉目秀麗なモテ男らしい。
というわけで今夜は小パーティとなった。
参加者は男性3人、加藤千恵子の大学の先輩達だ。テニス同好会の仲間だという。
女性2人は加藤千恵子と同じ職場の同僚の女性、
5時に退社すると私は急いで帰宅した。
すでに昨日下準備をしてあるので2時間あれば完成する。
1品目は10品目野菜ピザ、料理嫌いの友人も好きにさせたくらいの自信作だ。
生地は市販のものを使用するが、ドレッシングは自家製だ。
サラダ油、醤油、みりん、生姜、にんにく、コショウ、ごま油
そして最後に隠し味昆布茶を適量加える。
薄いピザ生地にざく切りにしたサラダ菜、キュウリ、アボカド、トマト、
チコリ、タマネギ、セロリ、大葉、茹でたアスパラ、ブロッコリーを
加えて出来上がりサラダ感覚で食べるピザの出来上がり。

2品目はなんでもトッピング寿司
用意するのは、寿司酢ごはんと、半分に切ったパリパリのり、
大きなお皿に巻き寿司用に切った魚を盛り付ける。
まぐろ、ハマチ、サーモン、イワシ、タコ、いか、キュウリ、納豆、
たまご焼、ミョウガ、キュウリ、ネギ、大葉、白ゴマはお好みで
加える。
3品目は、エビと帆立のエビマヨネーズ。
マヨネーズに練乳とジンを加えて素揚げしたエビと帆立を絡める。
パリッとしたレタスの上に盛り付ける。

4品目は レタスと市販の安いカニかまぼこで作った簡単スープ。

5品目は缶づめのパイン、みかん、桃、アロエ、マンゴ、
果実のすいか、りんごを加えた簡単フルーツポンチを作り完成。
1時間30分にて完成だ。
テーブルに並べ終わった頃チャイムがタイミングよく鳴る。
テーブルに並んだ料理を見て皆が感嘆する。
「これ、退社後作った料理?やっぱり笑子さん天才だわ」
加藤千恵子が大袈裟な声をあげる。
その表情を見ながら横にいる男性に視線を移す。
人気タレントが持っている強いオーラのようなものが伝わってくる。
この人が、千恵子が密かに片思いをしている相川星斗だ。確かに美しい男だ。
哀愁を感じさせる表情は、女の琴線に触れて心をかき乱されそうだ。
「じゃあ皆さん、ご馳走になりましょう!」
千恵子の一言で男性陣が一斉に料理に手を出した。
野菜ピザを一口入れた星斗は「上手い!!」と言い次々と平らげていった。
豪快に食べる姿が微笑ましい。
こんなにおいしそうに食べる人に毎日作ってあげられたら
幸せだろうな・・・心の声に我に返る。
無理、無理、綺麗な千恵子さんにかなうわけがないわ。
2時間程食べて飲み5人は胃袋を満足して帰った。

それから数日後の夜、マンションのチャイムが鳴った。
玄関のドアレンズを覗くと相川星斗が立っている。
「どうしたんですか?」
「近くに用事で着たから寄ったんだけど。この前のお礼にプレゼントです」
色鮮やかな花束を目の前に差し出した。
「キレイ、ありがとう」
「この前の料理とてもおしかったよ。また作ってくだささいね。僕いつでも来ますから」
「相川さん、今日は夕食は食べたのですか?」
「いや、これから、どこかの中華でも食べようかなと」
「出来合いでよかったら食べて行きますか?」
「ええっ!いいんですか!嬉しいなあ」
星斗は満面の笑みで部屋に入った。
「わあ!上手そう!ひとりでこんなおいしい料理食べているの?」
「冷蔵庫の残りものでつくったのよ」
「えっほんと?やっぱり笑子さんは天才だ!」
「大袈裟ですね」
星斗は冷蔵庫の残り物でつくったおかず
キャベツとタマネギの野菜炒め、トマトを混ぜて
焼いた卵焼き、残りものの野菜を細かく刻み包んだ餃子を口に入れた。
「上手い!!」と大きな声で言う。
その日から、星斗は仕事の帰りに時々寄るようになった。
ある夜、いつものように、夕食を食べている時だった。
「笑子ちゃん、これからは僕のことは星斗でいいよ」
私は意味がわからず黙って星斗を見つめた。
「だから、これから星斗と呼んでくれよ。つきってほしいんだ」
私は驚きで声が出なかった。
「笑子ちゃんの料理をずっと食べたい。そしてその笑顔の傍にいつもいたいんだ」
私は生まれて始めて男性告白された。


数日後、千恵子にその日の夜のことを話した。
「ウソでしょう!!まさか」
千恵子は驚き、大袈裟にのけぞった。
千恵子もまさかデブ子に負けるとは思わなかっただろう。
しばらくして、
「負けた。胃袋でゲットされちゃかなわないよ」と自分に呟くように言った。
胃袋でゲットか・・・そう
大好きな料理がおいしい恋を運んでくれた。

終わり