私は地球で楽しく遊ぶために生きている

心はいつも鳥のように大空を飛び 空に吹く風のようにどこまでも自由に

今夜もサザンの着信音は鳴らない・・・   3

2013-08-21 09:01:29 | ミステリー恋愛小説
由里の章

残業が終わり携帯電話を取り出す。ランプが点滅していた。
風間からのメールが入っている。「ゴメン!今日は行けない。
急に子供が熱を出してすぐに帰ることになった。又連絡する」
まただ。子供の病気、家族の行事、妻の都合、一体何十回
彼の発する家庭の匂いの言葉に傷つけばいいのだろう。
肌に感じる夜風が虚しさと寂しさを運んでくる。
涙が頬を伝わる。風間と出会って3年、友人は次々と結婚していく。
数年後、可愛いベビーを添付して送信してくる子供の誕生お知らせメールが一番つらい。
もしかしたら私は一生赤ちゃんを自分の腕に抱けないのではないかという
恐怖にも近い不安が押し寄せてくる。風間との結婚を望んでも
報われないことだとわかっている。
風間もまた、妻とは別れるつもりはないだだろう。
会社の同僚の美香はいつも「不倫なんて先の見えない恋はやめなさい」
と厳しく忠告されている。
しかし、すでに私の心と身体は、風間の人生経験豊富な性や懐の深さに
翻弄され虜になっていたし、何よりも、彼の腕に抱かれて眠る時の
安堵感と甘美さは、たとえようもない。
いつしか風間は私の生活のすべてになっていた。
愛すれば愛するほど、彼が妻帯者であることに苦しむ。
彼の妻はどういう人だろう?
嫉妬が年月を重ねる度に強くなる。
何度か別れ話をしてきた。「もう嫌、普通の恋がしたい」
苦しさをぶつけたとき、風間は決まってこう言った。
「由里が別れたいのなら僕は何も言えないよ。僕は別れたくないけど」
「いつまでこういう関係が続くの?もう疲れた」「ごめん・・・」
「奥さんと別れるとは絶対言ってくれないのね」
「結婚は無理だと初めから言ったじゃないか」
「奥さんを愛しているの?」
「愛とかそういうのじゃないんだよ。親として、社会人として責任なんだ」
「嘘よ。ほんとに私を好きだったら奥さんと離婚してくれるわ」
「君は何もわかっていない。結婚は愛だけではやっていけないんだ」
「私を愛している?」
「愛しているよ。愛しているからこうして何とか時間を作って会っているじゃないか」
何度同じ会話をして喧嘩をしたことだろう。
美香は「ほんとに由里のことを愛していたら離婚するはずだわ」と言う。
一体風間の本心はどこにあるのだろう。私は風間にとってただの浮気相手なのだろうか?
もう考えることも疲れた。22歳で出会って3年、
何度か職場の先輩や、紹介で男性とデートをした。しかし風間ほど私の心を
ドキドキさせ、甘えさせてくれる男はいなかった。

夕闇せまる表参道のカフェ、
テーブルの携帯からサザンの「いとしのエリー」の着信音が鳴ることを心待ちながら
今夜も独り、風間の好きなハイボールを口に含む。

続く・・・