疑惑
「行ってみますか?」
収穫は期待できないが、疑問は払拭したい。それは藤木も麻生も同じ考えだ。
二人は、車から降りてアパート「太陽荘」へと歩く。
ペンキの剥がれた階段を上り、2階の奥の部屋のチャイムを鳴らした。
厚紙で田代雄太と書いてある。カチャリとドアが開いた。
童顔だが瞳が鋭い20歳前後の青年と目が合った。
いつも何かに警戒しているようだな、藤木は直感で感じた。
警察手帳を見せると青年は少し驚いた様子だ。
「隣の事件のことで、少しお聞きしてよろしいでしょうか?」「何か?」
「昨日は何時に帰宅しましたか?」
「昨日は夜中の1時頃だと思います。」
「そうですか。その時に何か気付いたことはなかったですか?」「別に・・・」
藤木は質問をしながら部屋の様子を見た。
正面が雪子の部屋の位置になっている。麻生が言ったように窓を全開にしたら
雪子日常生活はすべて見える。青年から見てもも同じだが。
「何か気付いたことがありましたら、連絡お願いします」
と言うと、青年は小さな声で「はい」と言い無表情のままドアを閉めた。
車に乗ると麻生が首を傾げながら考えている。
「あの青年、どこかで見たことあるな・・・う~ん、思い出せない」
藤木の方は、は青年の鋭い瞳の奥に潜む闇が気になっていた。
数日後、警察署を出ようとする藤木に麻生が声をかけてきた。
「藤木刑事飲みに行きませんか?また、上手い飲み屋開拓しましたよ!」
麻生は、さまざまな飲食店を知っている。
イタリアンレストラン、日本料理店、アジア料理など、そのどれもが安くて美味しい。
食いしん坊と豪語しているだけあって、紹介された店は絶品だ。
今日は自宅近くの牛たんが絶品だという居酒屋に誘われた。
田舎風造りのドアを開ける。「いらっしゃませ!!」威勢のいい声があちこちから飛ぶ。
テーブルに案内され、注文を取りにきた男の顔を見た二人は驚いた。
「君はあの時の」アパート「太陽荘」に住んでいる田代雄太だった。
「ここで働いていたの?」雄太は少し照れ笑いをしながら軽く会釈をする。
麻生は好きな品を次々に注文していく。
慣れた手つきでメニューボタンに注文品を入れる雄太。
やがて注文したビールやハイボールなど次々とテーブルに並ぶ。
厚切りで網で焼いた牛タンをほおばる。
「牛タン塩焼きは絶品だな」酒とつまみでたわいのない話をした後、
麻生が事件の話をはじめた。
「今回の事件は坂崎孝雄の自殺ということで片付くでしょうか」
藤木は黙っていた。何かが引っ掛かっていた。そして麻生もまた腑に落ちない何かを感じていた。
その後、一、二軒小料理屋を梯子した後、藤木は麻生と別れた。
既に、夜中の12時30分を回っている。
このまま暗く寒い部屋に帰るのは空しい。
今年で38歳、父は7年前に他界した。母も2年前に病気で死んだ。
妻も子供もいない天涯孤独となった現在、時々あの頃を思い出す。
あの時、雪子と子供を守っていたら天涯孤独にはならなかった。。
後悔と自責の念が年数を重ねるごとに強くなる。
あの頃、ほんとに大切なことが見えなかった。
藤木の足は自然と雪子の家の方に向かっていた。
アパート「太陽荘」の横を通り過ぎる時、階段の裏側の方から話声が聞こえてきた。
藤木はその方向に視線を移す。
かすかに聞こえてくる言い争うような男女の声。
薄暗い暗闇の中、おぼろげに見える二つの影が見えた。
暗闇に慣れてきた瞳は二人の姿が浮き彫りにされてくる。
雪子?まさか?どうして雪子がいるのか。
そしてもうひとりの影、田代雄太だ。あの二人は知り合いなのか?
そうだとしたら接点はどこにあるのか?ありえないことが目の前に起きていた。
藤木は酔いから完全に醒めていた。
続く・・・
「行ってみますか?」
収穫は期待できないが、疑問は払拭したい。それは藤木も麻生も同じ考えだ。
二人は、車から降りてアパート「太陽荘」へと歩く。
ペンキの剥がれた階段を上り、2階の奥の部屋のチャイムを鳴らした。
厚紙で田代雄太と書いてある。カチャリとドアが開いた。
童顔だが瞳が鋭い20歳前後の青年と目が合った。
いつも何かに警戒しているようだな、藤木は直感で感じた。
警察手帳を見せると青年は少し驚いた様子だ。
「隣の事件のことで、少しお聞きしてよろしいでしょうか?」「何か?」
「昨日は何時に帰宅しましたか?」
「昨日は夜中の1時頃だと思います。」
「そうですか。その時に何か気付いたことはなかったですか?」「別に・・・」
藤木は質問をしながら部屋の様子を見た。
正面が雪子の部屋の位置になっている。麻生が言ったように窓を全開にしたら
雪子日常生活はすべて見える。青年から見てもも同じだが。
「何か気付いたことがありましたら、連絡お願いします」
と言うと、青年は小さな声で「はい」と言い無表情のままドアを閉めた。
車に乗ると麻生が首を傾げながら考えている。
「あの青年、どこかで見たことあるな・・・う~ん、思い出せない」
藤木の方は、は青年の鋭い瞳の奥に潜む闇が気になっていた。
数日後、警察署を出ようとする藤木に麻生が声をかけてきた。
「藤木刑事飲みに行きませんか?また、上手い飲み屋開拓しましたよ!」
麻生は、さまざまな飲食店を知っている。
イタリアンレストラン、日本料理店、アジア料理など、そのどれもが安くて美味しい。
食いしん坊と豪語しているだけあって、紹介された店は絶品だ。
今日は自宅近くの牛たんが絶品だという居酒屋に誘われた。
田舎風造りのドアを開ける。「いらっしゃませ!!」威勢のいい声があちこちから飛ぶ。
テーブルに案内され、注文を取りにきた男の顔を見た二人は驚いた。
「君はあの時の」アパート「太陽荘」に住んでいる田代雄太だった。
「ここで働いていたの?」雄太は少し照れ笑いをしながら軽く会釈をする。
麻生は好きな品を次々に注文していく。
慣れた手つきでメニューボタンに注文品を入れる雄太。
やがて注文したビールやハイボールなど次々とテーブルに並ぶ。
厚切りで網で焼いた牛タンをほおばる。
「牛タン塩焼きは絶品だな」酒とつまみでたわいのない話をした後、
麻生が事件の話をはじめた。
「今回の事件は坂崎孝雄の自殺ということで片付くでしょうか」
藤木は黙っていた。何かが引っ掛かっていた。そして麻生もまた腑に落ちない何かを感じていた。
その後、一、二軒小料理屋を梯子した後、藤木は麻生と別れた。
既に、夜中の12時30分を回っている。
このまま暗く寒い部屋に帰るのは空しい。
今年で38歳、父は7年前に他界した。母も2年前に病気で死んだ。
妻も子供もいない天涯孤独となった現在、時々あの頃を思い出す。
あの時、雪子と子供を守っていたら天涯孤独にはならなかった。。
後悔と自責の念が年数を重ねるごとに強くなる。
あの頃、ほんとに大切なことが見えなかった。
藤木の足は自然と雪子の家の方に向かっていた。
アパート「太陽荘」の横を通り過ぎる時、階段の裏側の方から話声が聞こえてきた。
藤木はその方向に視線を移す。
かすかに聞こえてくる言い争うような男女の声。
薄暗い暗闇の中、おぼろげに見える二つの影が見えた。
暗闇に慣れてきた瞳は二人の姿が浮き彫りにされてくる。
雪子?まさか?どうして雪子がいるのか。
そしてもうひとりの影、田代雄太だ。あの二人は知り合いなのか?
そうだとしたら接点はどこにあるのか?ありえないことが目の前に起きていた。
藤木は酔いから完全に醒めていた。
続く・・・