私は地球で楽しく遊ぶために生きている

心はいつも鳥のように大空を飛び 空に吹く風のようにどこまでも自由に

さそり座の愛~占い刑事の推理~第2章~

2012-09-29 02:18:53 | ミステリー恋愛小説

出会い

秋も深まり、銀杏の葉も色づいてきた頃、夜風にあたろうと雪子は窓を開けた。
あっ、お互いに驚き次に照れ笑いをする。男と視線が合った。
向かい側の住人を初めて窓越しで挨拶をする。
「どうも・・」ニ十歳くらいだろうか。唇に笑みを浮かべているが瞳は鋭い。
男は、慣れない様子でシャツを干している。
「いつも夜に干しているの?」「ええ、」
「そう、ここは、日が射さないから洗濯物が乾かないよね」黙って頷く。
雪子は向かいの若い男と話すことに気が安らいだ。その感情が不思議だったか理由がわからない。
その日から、朝起きた時、寝る前にカーテンを閉める時必ず男の存在を確認していた。
手を伸ばせば男の手と繋ぐことのできる距離は雪子の孤独を充分に救ってくれた。
少しずつ窓越しに話すようになって、 日常的な会話をするようになっていた。
名前は田代雄太、ニ十歳だという。あどけない顔に似合わない鋭い瞳が気になったが、
雄太と話す時間は、いつしか雪子のささやかな楽しみとなっていた。
雄太は、昼過ぎにアパートを出て、深夜の一時頃に帰ってくる。
時々、女性と一緒に帰って来る時もあるが、その時は大概言い争う声が聞こえてくる。

ある日の夜、買物の帰宅途中、後ろから声をかけられた。
「もしかして隣の・・・」覗き込む男の顔を見て雪子の表情がほころぶ。田代雄太だった。
「あら、雄太君、お仕事は?」「今日は休みです」「デートの帰り?」
「もう、別れました」乾いた口調で言う。
しばらく並んで歩く。「あのベンチで休んでいきませんか?」
通り道にある小さな公園のベンチを指差した。
雪子は無言で頷いた。
ベンチに座ると雄太は両手を空に向けて言った。
「不思議だなあ。どうして雪子さんといると、ありのままの自分でいられるんだろう。
こんな気持ちになったの生まれて初めてだ」
「ほんと、私もこんな短期間に気軽に話せる若者と出会えて幸せだわ」
二人はお互いの顔を見て笑った。
久しぶりの安らいだ笑顔だと雪子は思った。
「でも、若い人は恋をしてドキドキする時間の方が楽しいでしょう?」
「いや、僕は恋愛できないですよ。男と女の愛なんて所詮、錯覚。幻ですから」
大人びた覚めた言葉が返ってきた。
「そうね、恋愛なんて所詮錯覚からの始まりだね。そのことに初めから気づいていたら
こんなに世の中に男と女の悲劇など起こらないのに・・・」
「雪子さんは今幸せじゃないの?」
「幸せ?幸せそうに見える?夫との生活は死んでいるようなものなのに」
雪子はこれまで、誰にも語ることのなかった孝雄の目に見えない冷酷な仕打ちを吐露した。
「夫が私にした侮蔑と裏切りは少しずつ蓄積して、固まり胸の中に
大きな固い岩となって存在してしまったの。
その大きくて固い岩は声に出せずに耐えた苦しみの固まりになってしまった。
その岩を壊さないと私は、もう一歩も歩き出せない。」
今まで黙って聞いていた雄太が呟いた
「その岩を壊してあげたい。僕に何かできることある?」「えっ」
「僕にできることある?」
「私の味方になってくれるの?」
雄太は無言で頷いた。

それは、ずっと心の奥底に秘めていた計画、孤独の中で静かに遂行の日を待っていたある計画、
そうあの日、自分の部屋と雄太の部屋の距離が1メートル程の近さであることの幸運を知った瞬間、
夫殺しの完全犯罪は雄太の一言で決心が固まった。

続く・・・