植生Salon

植生Salonでは、植物や緑、自然の面白さを探究するとともに、それを多くの方々と分かち合ってゆきます。

植生学研究ロマン

2010-03-10 | 自然
今週末,14日に飯田市美術博物館で,第2回学芸祭が開催されます.

その午前の部の,11時25分~12時5分まで.
「時空をこえた植生学研究ロマン -世渡り上手?な植物たち-」
というタイトルで研究発表をやらせていただきます.

調査ターゲットとして,これまでアクシバとハナヒリノキを紹介してきましたが,
ようやくその研究紹介です.
今回の写真は,調査ターゲット③,タムシバ(モクレン科)です.

発表の要旨を,紹介します.

◆はじめに
 このお話の主役は,日本のブナ林とその構成種である.日本のブナ林は,南は九州から北は北海道函館をこえたあたりまで,広く分布している.現在見られるブナ林の広がりもその構成種も,過去の気候変動による紆余曲折をへて成り立っているものである.その成り立ちを探るところに,1つの植生学研究ロマンがある.

 まずは各地のブナ林の種類構成を調べるという地道な作業がなければならない.こちらは先達の努力によりなされており,ブナ林には太平洋側と日本海側との間でその種構成に大きな違いが見られ,それぞれ太平洋型ブナ林,日本海型ブナ林として認識されている.
ちなみに南信は太平洋側である.

 さらにここからがロマンへの入口になってくるのだが,実はブナ林以外の植生もまとめて考えた時,構成種のほとんどは太平洋側,日本海側のどちらにも分布するものなのである.つまり,太平洋型,日本海型ブナ林の種類構成の違いを表している種の多くは,もう一方の地域にも存在しているが,ブナ林には生育していないことになる.これが一体どういうことなのかを考えるのが面白い.

◆結果と考察
①生育環境の違い
 私は,南信地域(太平洋側)において調査を行い,この地域において出現した日本海型ブナ林構成種の多くは,山地の常緑針葉樹林に生育することがわかった(アクシバ,タムシバ,イワウチワ,ツルアリドオシ,シノブカグマなど).

 これらはいずれも丈が低く林床に生育するものである.日本海型ブナ林の林床環境は,落葉期の冬の間も雪に埋もれることによって1年中暗い.これと同様に,落葉しない常緑針葉樹林の林床も1年中暗いことが,この生育パターンに関わっているのではないかと考えている.

②気候変動と分布変遷
 アクシバ,タムシバなどは,南アルプス以東では太平洋側に存在しないが,そこから西では太平洋側,日本海側を問わず分布しているものであり,興味をひかれた.

 東日本の日本海側に広がるブナ林は,最後の氷期の後(約1.2万年前以降)に本州南部の海岸沿いから分布を拡大させたものと考えられている.それではこれら現在の日本海型ブナ林構成種の分布変遷はどのようなものだったのだろうか?

 ブナのDNAに関する研究成果では,過去の分布変遷を反映すると考えられる葉緑体DNAが,北陸のブナのものと日本海側北部のものとが類似しているという結果がえられ,北陸が分布拡大起源地の1つであると考察されている(戸丸2004).

 そこで今年度からアクシバ,タムシバ,ツルアリドオシ,ハナヒリノキ,ショウジョウバカマ,シノブカグマの6種についても,各地で葉を採取し,葉緑体DNAの地域変化を調べることにした.南信州がこれらの分布拡大起源地だったりして!?が作業仮説である.主にDNA解析を,佐伯いく代博士(首都大学東京)にお願いしている.

 まだできたてホヤホヤの中間報告であるが,紹介したい.
 タムシバからは作業仮説に沿った結果が得られた.南信のものと東北のものが同じタイプで,西日本のものは違うタイプであった.ハナヒリノキは,南信州と東北で全くタイプが違うので,南信州から北上したとはいいがたい.アクシバは東北で様々なタイプがみられ,氷期の避難場所が東北に点在していた可能性がある.ツルアリドオシ,ショウジョウバカマ,シノブカグマは今のところあまり変異がみられず,今後の成果を待ちたい.

 この研究は,平成17, 21年度に長野県科学振興会より科学研究費助成を受けた.


てな感じです,当日はわかりやすくお話しますので,是非いらしてください.

最新の画像もっと見る

コメントを投稿