KANCHAN'S AID STATION 4~感情的マラソン論

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2007札幌国際ハーフマラソン雑感vol.2

2007年08月09日 | マラソン観戦記
女子マラソンが競技として確立して30年余り。今や日本は世界有数の「女子マラソン王国」となった。6回の五輪で持ち帰ったメダル4個は世界最多であり、2大会連続して金メダルを獲得している。

日本の女子マラソンは欧米とは全く異なる形で成長してきた。大相撲の土俵のごとく「女人禁制」だったボストン・マラソンに女子ランナーの出場を認めることから始まった欧米の女子マラソンと対照的に、日本の女子マラソンは、「女性だけのマラソン大会」を開催することから、始まった。

(話は大幅にずれるが、かつては、今の時期、テレビのゴールデンタイムに欠かせなかった「女だけの水泳大会」って、いつのまに無くなったのだろう?)

今にして思えば、半世紀以上の歴史を重ねる福岡国際マラソンやびわ湖毎日マラソンが、関門制限タイムを延長して、女子ランナーの出場を認めていたら、日本の女子マラソンは全く違った歴史を歩んでいたに違いない。

丸亀ハーフマラソンの前身である香川マラソン、かつては日本有数の耐暑マラソンと言われた玉造毎日マラソンなどとともに、半世紀もの歴史を数える札幌ハーフの前身であるタイムスマラソンは、女子ランナーの出場できる部門を途中で加えて、欧米型の「男女同時スタートのロードレース」に変わっていった。タイムスマラソンに女子20kmロードレースが加わったのは、1980年。初代の優勝者は4年後のロス五輪のマラソン代表になる佐々木七恵さん。

ハーフマラソンとなったのは1986年。その時の優勝はソウル五輪代表の荒木久美さんだった。歴代の優勝者には、増田明美さん、浅井えり子さん、谷川真理さんらの名前が並ぶ。

女子ランナーの「登龍門」として、地位を確立した大会と言えるだろう。特に、'97年に優勝した市橋有里さんの走りは印象深かった。夏のレースなのに、一切給水を取らず、汗もかかずに、のちにシドニー五輪のマラソン4位になる留学生ランナーの元祖、エスタ・ワンジロを抑えて優勝したレースは、「ヒロイン誕生」を印象づけた。

2000年の優勝はシドニー五輪を2ヶ月後に控えた高橋尚子、そして6位でゴールしたのは、三井海上入社3ヶ月足らずの土佐礼子だった。学生時代と別人のように絞り切った身体を見て、僕は驚嘆した。7ヶ月後の名古屋で、高橋に次いで2位でゴールするとは、その時誰が想像しただろうか?

女子ランナーにとっては、まさしく「世界へとつながる道」である7月の札幌。今年、このロードを制したのは、昨年に続いて2連勝となる野口みずきだった。タイムも、昨年の大会記録1時間8分14秒より8秒遅れの歴代2位の記録となる。2ヶ月後に迫った、世界選手権代表のキャサリン・ヌデレバやマーラ・ヤマウチも霞んでしまう快走だった。

と言うか、世界選手権も、この大会を中継した局にとっては、「ライバル局のイベント」に過ぎないのだろう。16年前の東京大会は、この局にとっては「社運を賭けた一大イベント」だったのであるが。

ともあれ、野口は強かった。もしかしたら、
「なんで、野口が世界選手権に出ないのか?」
「野口や高橋が出ない、世界選手権のマラソン代表って、何なの?」
と思っている人も少なくないのではあるまいか?マラソンに少しでも詳しい人なら、
「代表選考レースを自ら回避したのだから、選ばれないのが当たり前。」
と思っているのだろうが、そういった「マラソン・ファンの常識」は、どこまで浸透しているのだろうか?であれほど、代表選考基準を明確にしているのに、
「マラソンの代表選考基準は分かりにくい。」
のは、ただ、
「五輪の金メダリストが無条件で代表になれない。」
ことを理不尽と感じている人が少なくないからだろう。

北京五輪の代表権を11月の東京国際女子マラソンで獲得することを狙っていると伝えられている野口だが、マラソンまであと4ヶ月もある時期にこれだけ走れるとは、佐藤敦之と同様に、代表選考レースで、日本最高記録を狙っているのだろうかと思える。

その野口に迫る走りをした、2位のマーラ・ヤマウチ。日本人を夫に持つ、英国マラソン代表ランナー。今回の1時間8分45秒という記録がハーフの自己ベスト記録である。

今回、テレビの画面に映らなかった、パリ大会の金メダリスト、ヌデレバの1時間11分51秒というのも、「練習として参加」したとすれば、決して悪いタイムではない。しかし、ヤマウチの好調ぶりは、日本勢にとっては脅威になりそうだ。

若手の注目株としては5位の大崎千聖。3月のまつえハーフでは、ヤマウチを抑えて優勝している。現在はチームの先輩である土佐礼子の練習パートナーだという。今回の結果で、世界ロードレース選手権の代表に選ばれた。7年前の土佐と全く同じ道を歩もうとしている。

男子のレース中継で、箱根駅伝出場校を大きく紹介していたが、過去に優勝歴のある強豪校のランナーたちが、女子の先頭集団に近い位置で走っていた。今の時期、本来なら箱根を目指す学生ランナーたちは、夏の走りこみを目前に控えた時期であり、本来の調子とは程遠い状態で当たり前である。しかし、そういった事情を知らない人が見れば、
「なんだ、箱根駅伝の強豪校とか言っても、女子のトップと同じレベルか。」
と思われたかもしれない。どうでもいいことだが。

野口みずきと高橋尚子。2人の金メダリストは、金メダルを獲得し、ベルリンマラソンで自己記録を更新した後は、全く対照的な道を歩んだ。「プロランナー」となった高橋は、年に1度のフルマラソン以外はほとんど公認マラソンを走らない。一昨年から、9月に海外のハーフマラソンに出場しているが、2001年の青梅以来、マラソン以外に国内の公認レースを走っていない。

一方、野口は、ハーフマラソンに30kmロード、トラックの競技会に積極的に出場している。「闘うマラソン女王」と呼びたいほどだ。

どちらがいいか悪いかは、決めないようにしよう。しかし、公認ロードレースが開催される地方都市、青梅や丸亀、宮崎や仙台、そして札幌等の沿道に住むファンや地元のジュニア競技者たちにとっては、金メダリストが、Tシャツ姿で笑顔でジョグする姿よりは、本気全力で「世界の走り」を見せる方が、何よりの「ファンサービス」になっているのではないかと思う。

野口は「プロ宣言」はしていない。彼女の指導者である藤田信之監督は、昔ながらの「実業団」という体制を守る立場である。

北京五輪の代表を決める大会でもある世界選手権の前に、そのスタートラインに立たない野口がこれだけの走りを見せたことは、世界選手権代表ランナーにとっては刺激というよりも重圧になったかもしれない。
「大阪で決めなければ、再チャレンジは困難。」
という覚悟で、大阪に臨んで欲しいと思う。



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