(日刊スポーツの報道より)
シドニー五輪女子マラソン金メダルの高橋尚子(33=スカイネットアジア航空)が、指導を受けてきた佐倉アスリートクラブ(AC)の小出義雄代表(66)の下を離れ、今後は独力で競技活動を続けることになった。同選手が9日、東京都内で小出代表とともに記者会見して発表した。
高橋は笑顔で「自分の競技生活も残り2、3年と感じる。甘えられる環境を抜け、すべて自己責任においてやってみたかった」と決断の理由を説明。独立は2月から真剣に考え始め、3月に決断、4月13日に小出代表に意思を伝えた。
今後は6月をめどに4人で自らチームを結成し、千葉県内を拠点に競技生活を続けていく。当面の目標は今秋のマラソンになる。小出代表はコンビ解消に「もう1本、マラソンを走らせて送り出してあげたかった」と未練をにじませる一方で「高橋だったらできる。まだ日本一の力がある」とエールを送った。
僕がこのニュースを最初に知ったのは、9日の午後4時30分のラジオのニュースである。その時間のニュースで、スポーツの事が報じられる事はめったにない。
第一報を聞いて、最初に僕が思った事は、
「ついにやったか。」
という事だった。いずれはこうなるだろうとは思っていた。流行りの言葉で言えば、「想定の範囲内」の事だった。驚きが無かったわけではない。しかし、僕にとっては、宗茂さんが旭化成の陸上部から退いた事の方が衝撃的だったし、一つの時代の終わりを感じて寂しさを覚えたものだった。
流行りの言葉と言えば、昨年人気を得たピン芸人(この呼称、いつのまに定着したのだろう?)
長井秀和のネタに
「高橋尚子は、小出監督と別れた方が記録が伸びる。間違いない。」
というのがあったが、僕には笑えなかった。友人に教えると、
「それ、ネタやあらへんやないか。」
苦笑していた。長井という男、スポーツ・ジムのランニング・マシンで走るのが趣味らしく、ランニング情報誌のインタビューにも登場していた。けっこうマラソンには詳しいのかもしれない。
テレビのニュースで記者会見の映像を見たが、まるで「おしどり夫婦」と呼ばれた芸能人の離婚発表を報じるかのようだった。実際に、デイリー・スポーツは「三下り半」という見出しをつけていた。
高橋と言えば、誕生日(僕と一日違い)に行った記者会見で、北京五輪への挑戦を宣言したばかりだった。もちろん、その時点で、北京は小出監督とのコンビを解消した上で目指すプランを立てていたようなのだ。
タイトルにも書いたように、スポーツ紙の報道では「独立」、「卒業」、「決別」といった言葉が並んだが、僕はずばり、「解任」だと思う。なぜなら、高橋は「プロ・ランナー」であり、小出監督は「プロの指導者」だからだ。結果を出せなければ、責任を取る、より上を目指すのなら、練習環境を変える、プロとしては当然の選択だと思う。
何と言っても、「優勝して当然」のお膳立てが整えられたレースで2位に敗れた以後、2年間1度も公式レースのスタート・ラインに立たせる事ができなかったのだ。更に言えば、2002年のベルリン優勝以来、1度も成功したレースがない。他のスポーツに比べて、第一線で活躍できる期間の短いマラソンにおいて、これ以上空白の期間を過ごす事は許されない。
長い間、日本のスポーツ界においては、指導者と選手の関係が、主従関係か上下関係となっていた。特に企業アマチュアでは監督が上司で、選手が部下という関係も見られる。
しかし、もはやそのような関係では、レベルの高い勝負ができなくなっているようなのだ。スポーツ・ライターの二宮清純氏が、あるプロ野球チームのコーチから聞いた話をラジオで紹介していたが、
「かつては、コーチと選手の関係を上下関係でとらえていたが、そんな気持ちを捨ててから、うまくいくようになった。」
そうなのである。
プロのアスリートであるなら、指導者と選手の関係は、「同じ目標に向けて歩む同士」という関係であるべきなのだ。両者を結ぶものは、
「このひとの言った通りの事をすれば、必ずうまくいく。」
という信頼関係である。
報道された記事を読む限り、両者の間にはかつてほどの信頼関係は無くなっているような印象を受けた。
高橋の今後を危惧する向きもあるようだが、それを言うなら、先に小出監督との「決別」を宣言したものの、翌月の名古屋国際女子マラソンを故障で欠場した千葉真子は元気なのだろうか?彼女はこのニュースをどのような想いで聞いたのだろうか?
5年前のシドニー五輪で高橋が獲得した金メダル。それは高橋のものでなく、高橋&小出の「師弟コンビ」のもの、というイメージがあまりにも強かったのだ。だからこそ、先述の通り、このニュースが「おしどり夫婦の離婚」と受けとめられたのかもしれない。
野口みずきの指導者の、一般的認知度はかなり低いかもしれない。陸上競技に多少なりとも興味のある人以外にどれだけの人が知っているだろうか?
別にそれは、悪いことではないと思う。Jリーグが開幕し、その人気にプロ野球人気が押されていた時期、
「プロ野球の人気回復させるには?」
というプランをある雑誌が募集していたが、僕もそれに応募したのだ。
当時のプロ野球の人気低下の理由を僕は、
「ミスターやノムさんや親分など、監督ばかりがクローズ・アップされるのがよくない。Jリーグはラモスにカズにゴンなど、子供にも覚え易い名前の選手たちが人気の主役じゃないか。これでは、子供たちに見放されても仕方ない。」
と書いた。これを読んだ方はどう思われたか分からないが、その後、野球の人気を回復させたのは、イチローやゴジラ松井ら、若い選手たちの活躍だった。監督は縁の下の力持ちに徹するべきだ。選手よりも目立ち過ぎてはどうかと思う。
その一方で、国際大会の日本代表チームを「(監督名)ジャパン」と呼ぶのが定着してしまった。
「選手が主役」という原則から外れているように思われる。女子サッカーの「なでしこジャパン」のような秀逸なニック・ネームが他の競技にも必要ではないかと思う。
アスリートとしての自立を目指す高橋には、これまで以上に注目が集まるだろう。
「次に敗れたら、引退。」
というが、北京まで3年ある。そんなに彼女を追い詰めなくてもいいではないか。北島康介でも敗れる時はあったではないか。
彼女にはこれまで走れなかった分、短い距離のレースにも積極的に出て欲しい。僕が一番望むのは、もう一度、彼女にトラックの競技会に出てもらいたい、という事だ。
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