亀の啓示

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パラレルストーリー 年上美月 同棲編三年目の浮気②

2018-08-24 00:51:00 | 美月と亮 パラレルストーリー
「浮気?」

俺は開いた口がふさがらなかった。
今だに玄関先で俺と美雪が近づいて
喋っていれば、笑いながら人を睨んでくる
男である。
考えにくいが、出来心とか別腹とかなのかな。
わからない。

美月も同じようなことを考えていたらしく
思わず突っ込みを入れる。

「賞平くんに限って、そんなことは
ないと思うなあ。」

美雪自身、愛されている実感はあるだろう。
なのに、こんな相談をしに来るということは
何か不安に思う出来事が、実際に起こって
いるのだろう。
そこを促すと、美雪はポツリポツリと話し始めた。

「今夜だって、ちょっと友達と呑んでくるから
遅くなるって出ていったの。結婚してから
そんなこと初めてだし、どこの誰かも教えて
くれないのよ。」

あらら。それは怪しい。
夜に呑みに行くなんていかにもな言い訳だ。
せめて、相手に美雪の知っている人を
チョイスして口裏を合わせるくらいの工夫は
欲しいところだ。

美月は苦笑いをする。美雪は見逃さなかった。

「美月先生。心当たりないですか?」

「いやあ、賞平くんは友達とわざわざ約束して
呑みに行くタイプじゃないよね。仕事上がりとか
打ち上げとかで誘われれば、断らないやつだけど。」

美月は思ったままを話す。
黙ってればいいのに、とも思うが
ここで適当に言い繕っても、美雪にほじくり返されて
本音を言わされるはずだ。

「まあ、相手が女だと仮定しよう。
もしかすると本当に只の友人なのかもしれないし
二人きりじゃないと都合の悪い話をしてるのかも
しれない。恋愛相談なんかを受けてるとかね。」

俺はここで、本当に人それぞれだと思う
『浮気と友達の境界線』をリサーチして
いくことにする。

「美雪は先生…いや旦那さんがだよ。同僚とか
昔の同級生とか、軽い知り合いくらいの女性と
二人きりで会うとして。どこまでなら許せる?」

この辺を甘く見積もると痛い目に遭う。
美雪は一言。

「夜に二人きりで会うこと自体アウトでしょ?」

亮はさっき恋愛相談とか言ったけど
既婚男性に、女が夜に二人きりで会うのを
強要してする話じゃないんじゃない?
そんなものは女同士でぐるぐる解決しない
方向に話をしてればいいのよ。
それが楽しいんじゃないのかしら?
同僚ならなおさらおかしくない?
同僚の家庭を思いやれないような女とは
ぜひ距離をおいて付き合うようにするべきよ。
昔の同級生やら軽い知り合いくらいの女性と
夜に二人きりで呑みに行かなきゃ出来ない話を
しなきゃならない必然性が、私には理解出来ないわ。
だってそうでしょ?

「そもそもあたしが昔の同級生と
夜に二人きりで呑みに行くって言ったら
彼はなんて言うと思う?そこでキスまでなら
許すとか手に触れるくらいなら許すとか
そんなこと言ってる場合ではないわよね?!」

あれ?

昔の、同級生?

「美雪に抱きつかれただけで殴られた
俺の立場はどうなって行くんだ?」

何年も前の話だけど、気にならないまでに
忘れているわけでもない。ないんだよ。

「本人に訊いてみたら?」

美月は今までの話をひっくり返すような
暴言を吐いた。

「………話、聞いてましたよね?」

美雪は頭を抱える。

「美月。訊いてもしらばっくれるし
本当に友達と呑んできたとしても
反応は同じだから。」

「あ。そうか。」

こんな美月が、人を疑わないとか
嫉妬も起こさないとか言うわけではない。
この女は脊椎反射でやきもち妬くから
それはそれで油断できない。

「別にどうしてもらおうと思った訳じゃないし。
聞いてもらって楽になったわ。」

これは美雪と一芝居打って、揺さぶりをかける
べきだろうかと考えてやはり思いとどまる。
もし、その浮気がただのつまみぐい、とかでは
なかった場合は逆効果になるだけだ。

「体に、訊こうか。」

美月がきれいに拳を握りしめて
胸の前で構えを決める。

「話す相手間違えたなあ。せめて内緒に
してくださいね?」

美雪はため息をついた。
俺は玄関先で美雪を送り出しながら
励ますように肩に手を回した。

「元気出せって。まあ、学校の先生たちには
明日電光石火で話が回っちゃうだろうけど。」

「…あたしもちゃんと話をするわ。」

美雪は気持ちが切り替えられたようで
笑顔で俺を見る。美人だよな、こいつ。
こんないい女にこんなに心配かけて。
旦那失格だぜ。坂元先生。

「人の女房に何やってんだよ。」

後ろからドスの効いた低い声がした。
俺が振り向こうとするより早く
襟首を掴まれて、後ろに引っ張られた。
美雪から俺を引き剥がすと、アパートの壁に
叩きつけるようにして胸ぐらを掴む。

「何してるの賞平さん!やめてよ!!」

すぐそばにいるはずの美雪の叫びも
遠くに響いているように感じた。

「いつもいつも美雪とイチャイチャ
しやがって。胸糞悪りぃ。」

息が、酒臭かった。まあ、呑んで帰ってきたのは
本当のようである。

「誰と呑んで来たんです?」

俺はこんな状況なら油断して
何か秘密を漏らすかと突っ込んでみたのだが。

「てめぇに関係ねえ。」

「女、ですか?」

俺の言葉に、胸ぐらを掴んでいた坂元先生の
手が緩んだ。

「何言ってんだ?お前は。」







「あれ?賞平くん。」

込み入った話になりそうだったので
改めて美雪と坂元先生を部屋に連れてきた。
美月は片付けたカップを洗っていたら
また来客で、慌ただしくヤカンを火にかけた。
美月は、俺のシャツの襟が乱れて、不自然にシワに
なっているのを見て取った。
俺と坂元先生を交互に見る。
美月がややこしい脱線を始める前に
本題を片付けようと思う。

「なんか。浮気じゃないくさいよ?」

俺が言うと、美月と美雪は目を見開いて
こっちを見た。
坂元先生だけは、眉を寄せた。

「だれが?」

まあ俺の言い草では、誰かが
浮気を疑われていたということは
察することができよう。
誰かと問いかける坂元先生の目は
自分が渦中にいるなどと想定外、という
普段と変わらない色である。

「賞平くん、お酒入ってんの?
冷たい飲み物の方がいい?」

美月がなんとなく話をそらす。
坂元先生は何でもいいと答えて
改めて俺を見た。

「浮気のなんのって。誰の話だ?」

知り合いの噂話か。
それとも、もっと深刻な身内の話か。
坂元先生は少し心配するような声音で言う。

「美雪。この人、浮気してないよ。」

俺は美雪の方を向いて、坂元先生を指すと
呆れたように断言した。

「はあ?俺が浮気?どういうことだ?」

ピヒューとヤカンが鳴く。
美月はいそいそと台所に向かう。
俺は美雪が口を開かないので
手短に説明することにした。

「最近の先生の挙動に疑いを持った奥さんが
ついさっきまで家で相談してたんです。」

「は?疑い?」

「坂元先生、たびたび美雪を置いて
外出してますね?誰と会うのか訊いても
教えてくれないって。」

美雪は俯いて、誰とも目を合わせない。

「え、美雪。そんな勘違いしてたのか?」

「賞平さん、様子がおかしかったんだもの。
何を訊いてもはぐらかして。あたしを見て
くれてない感じがしたの。」

美月がほうじ茶を淹れて運んできた。
香ばしく落ち着く匂いが漂う。
お茶請けに浅漬けなんか持ってきて
美月ってば本当に可愛い女だ。

「そういえば、亮はなんで浮気じゃないって
わかったの?」

美月が俺の横をすり寄るようにしながら
お茶を出す。可愛い。

「後ろめたさがなかった。堂々と俺の
胸ぐらを掴んで。嫉妬もいつもと変わらずで。」

「しょーへーくん!また亮に手出したのっ?!」

美月は止める間もなく、素早い身のこなしで
坂元先生の後ろに回り込んだ。
ヘッドロックを決める。

「ご、ごめんって!だってこいつ美雪の肩を!」

話が進まなくなると思った美月は、あっさり
坂元先生から手を離す。美月にしてはお利口だった。
あとで撫でてあげよう。身体中。

「じゃあ。今日は誰と呑んでたの?」

美雪がゆっくり、恐る恐るといった風に顔を上げる。
もっと理攻めで追い詰めて行くと思っていたのに
色々な思いに負けそうになりながら
必要最低限のことを口にするだけで精一杯だった。

「夜に、誰と会ってたの?」

そこで、坂元先生は意外な単語を出してきた。

「編集さん。」

全員のゼンマイが切れたように、ギシギシと
ぎこちなく動きを止めた。
ヘンシュウ、サン?

「安心して。大学時代の悪友だ。大塚って
覚えてないか?美月。」

「あれ?節っちゃんの彼氏?」

「節子さんの、彼?」

節子とは、坂元先生の妹だという。

「それなら家に連れてくればいいのに!」

美雪は悔しそうな嬉しそうながっかりしたような
すごく複雑な顔をしている。

「美雪がそう言うと思ったから黙ってたんだ。」

「え?」

美雪は少し、機嫌を損ねた顔になる。
義理の妹の彼でもある夫の友達を
もてなさないわけがない。

「っていうか。編集さんって。その大塚さんが?」

俺が口を挟むと、坂元先生はそうそう!と
ご機嫌な顔になった。

「遅咲きだけど。デビューが決まりそうだ。」

全員状況が飲み込めなかったが
先生は漫画家としてデビューすることになったという。






「もちろん知りませんでした。」

俺は正直にいった。
妙に図解が達者だとは思っていた。
でも生物の先生はだいたい細胞の絵とか
変に上手いものだ。

「賞平くん、確か漫研だったね。」

美月は今更思い出したようである。

「デビューって?」

美雪はあまりの非現実感に頭が真っ白である。

「マイナー誌だけど、連載持たせてもらえそうなんだ。」

月刊誌に8ページ。
趣味の延長だというが、これは明らかな副業である。

「これからも内緒にしてほしい。」

俺も美月も首を縦にぶんぶん振った。

「だから、隠してたっていうの?」

美雪は納得していなかった。

「いや。美雪には正式に決まってから
驚かせてやろうと思って。秘密にしてた。」

今までの坂元先生の挙動不審は
すべて妻へのサプライズのためだったという。

「もう!!驚かせないで!!」

美雪は旦那さまに抱きつくと、ドンドンと
柔らかく握った拳で胸を叩く。

「ばかばか!」

「まさかそんなことになってたなんて
思わなかったけど。ごめんな。誤解させて。」

先生は奥様の頬に軽くキスして、抱きしめた。





「人騒がせな。」

美月は坂元先生と美雪が帰っていくと
大きくため息をついた。

偉そうに言っているが
美月は美雪からの浮気の相談自体に
全くの役立たずであった。
そんなとこもかわいい。

「亮もね。賞平くんが手荒にしたらやり返して
構わないんだからね!」

あ。そっちのことか。

「俺は浮気なんかしないから。」

美月はあの時いった。
頭ではわかってても、体が言うことを利かない。
人の感情って、あんなにコントロールができない
ものなんだ。同時に痛くて切なくて愛おしい。

「愛してる。好きだよ。」

もし、浮気しないまでも
今回の坂元先生と美雪のように
誤解から嫉妬させたりしたら
美月は暴れるのだろうか。
いや。たぶん泣くんだろう。
そして、俺から逃げていってしまう。

俺は逃がさないように愛しい女を抱きしめた。