亀の啓示

18禁漫画イラスト小説多数、大人のラブコメです。

パラレルストーリー 年上美月 同棲編一年後

2018-08-19 08:11:40 | 美月と亮 パラレルストーリー
「ねえ。亮?」

美月は風呂上がりのほかほか桃色の体を
擦り寄せてきて囁く。

「どうしたの?」

美月の体が桃色にゆで上がるのを
隣で一緒に見ていた俺だが、湯上がりの
濡れていつもとは違うウェーブのかかった髪や
湯気がシャンプーの匂いを甘く立ててくる様子に
完全にノックアウトされているのだった。

一緒に暮らし始めて一年。
俺もバイトで生活費をかなり賄えるようになる。
相変わらず字の汚ない沖田先生は、ますますその
ミミズダンスぶりに磨きが掛かり、他のスタッフ
からはすこぶる評判が悪い。

「亮くんが先生を甘やかすからよね。」

行政書士の音無さんは沖田先生の補佐を務める
我が事務所のナンバー2だが、沖田先生の悪筆には
頭を痛めている。
書類作成が生業である行政書士は
文字のコミュニケーションが立ち行かないなんて
致命傷なんだけど、俺が沖田先生の悪筆を殆ど
すんなり解読するようになっちまったもんで
他のスタッフにも俺に渡すと同等の難解文字で
メモを渡すようになったのである。

講義の間の休憩に画像添付されたメールが
届き、スタッフ全員がギブアップした
ミミズ解読を求められたことも一度や二度ではない。
読める自分もどうかと思うが、先生本人に確認した
方が早いと思うんだけど。

「明日は、研修で東京に行くんだ。」

美月は桃色の頬を俺の頬に寄せて、んふんと
吐息をつく。

「バイト終わったら、待ち合わせしない?
一緒に帰ろう。んふふ。」

すごく嬉しそうに話す。我慢出来ないように
甘えて笑う。

「7時ごろになるけど、大丈夫かい?」

「待ってるよ。」

俺は美月の体を撫でながら、明日はどこで
食事をしようかと考える。事務所は飯田橋にあるので
新宿まで出てもいいし、神楽坂でもいいなと
あれこれ迷う。

「ん。亮ぅ。」

ゴロゴロと胸にすり寄る可愛い女を
布団で寝かしつける。
まだ眠るつもりはないみたいで
んふんふと体をくねらせてゴネはじめた。
俺は静かにさせようと色んなところを撫でるが
あんあんと声を上げて体を弾ませてしまう。
仕方がない。きつい、お仕置きだ。
美月はお仕置きの最中も、大人しくなんか
していなかった。











「あれ?亮。妙にソワソワしてるじゃないか。」

そろそろ終業時間だ。
美月を待たせているので、事務所を出たら
ダッシュで彼女の待つカフェへと向かうのだ。
そしたら沖田先生に気づかれた。

「何でもないです。」

イケメンに彼女会わせたくない症候群。

「彼女と待ち合わせかよ?」

何でわかるのさ!!

「ほっといてください。」

沖田先生は呆れたように大きなため息をつく。

「お前はなんて狭量な男なんだよ。
俺の悪筆をほぼラグなしで解読してくれる
大事なバイトの彼女に、日頃の感謝の気持ちも
込めて酒でも奢りたいんだけど。」

「感謝されるべきは俺じゃないんですか?」

「細かいことは気にしなくてもいい。」

「すごくそこだけ気になりますけど。」

沖田先生はぶひゃひゃと下品に笑う。
でもイケメンはこんな笑い方しても
最終的には下品にならない。

「三人で飲まない?奢るからさ。」







俺はつい先週、二十歳になったばかりなのだ。
誕生日には実家に帰って、家族と美月に
祝ってもらった。
うちの家族は酒に弱い。父も母も缶ビールを
一本二本飲めばどうでもよくなるほど弱い。
俺はその日、調子に乗ってワインを一本空けて
べろべろに酔った。
美月が介抱してくれたみたいで
二日酔いもなく爽やかに目覚めた。

後から話を聞くと、美月が俺をトイレに担ぎ入れて
さっさと指を口に突っ込み吐かせたという。
母はオロオロするばかりで、流石美月ちゃん!と
かなり持ち上げていた。

で、これは親父が教えてくれたのだが
美月は、はじめの乾杯しか酒に手をつけて
いないという。

美月は酒に弱く、シラフでいる代わりに
酔った者の介抱をしてきたのではないか。

俺は美月に無理やり飲ませないように決めたし
自分も手間を掛けないように節度を持とうと
誓ったばかりだった。

「俺も、彼女も、あんまり飲みませんからね。」

美月にははじめの乾杯をつき合ってもらう
ことにして、自分は先生と同じものを
はじめの一杯、二杯とつき合うことにした。

美月を迎えに行くと、一緒についてきた
イケメン中年に驚いていたが
一通りの挨拶を済ますと、すぐに俺の横に
寄り添ってくれた。
先生、イケメンでしょ?と耳打ちすると
亮のほうがカッコいいよ。とニッコリした。
馬鹿みたいだけど、ホッとした。



先生行きつけのバルで予約席の札が置かれた
テーブルにつくと、おまかせで料理が運ばれる。
乾杯はビールで。こんなもんだろう。
俺と先生はジョッキの半分ほどを一気に飲み干す。

「彼女の前だからってカッコつけてると
ベロベロになんぞ?」

先生は余裕でウインクすると
すぐにジョッキを片付けてウイスキーを頼む。
ワイルドターキーが瓶ごと置かれ、
グラスと氷、チェイサーが揃った。
ご機嫌で水割りを作り、俺と美月の前に
滑らせるようにして寄越した。

「若い頃はバーテンのバイトもやってたんだ。」

うわあ。モテる男は何をしても様になるが
これは鉄板。モテるやつや。

「美月。無理して飲まなくてもいいぞ?」

「ん。でも、せっかくだから。口はつけさせて
もらうよ。大丈夫。これ一杯だけね。」

正直、美月も心配だが俺自身はもっと心配だ。
ウイスキー、飲んだことない。

「亮こそ、無理しちゃだめ。」

俺たちが出された水割りをチビチビ
舐め始めると、先生が笑って言った。

「酒は飲まないと余計弱くなるぞ!
ぐいっと行けよ!はははは」

先生はロックでウイスキーをあおる。
早くも一杯目を飲み干した。

「おぉい。亮?まだ全然飲んでないじゃん。
情けねぇぞぉ。彼女の前でよ。」

酔っているわけではない。目はしらふだ。
でも、その目は笑っていない。
少し変な雰囲気になったところで
横の美月が思わぬことを言い出した。

「先生。もう、酔っちゃってるんですか?」

見れば、美月のグラスも空になっている。

「お?彼女はいい飲みっぷりだ。
亮もいけいけ!」

美月は一瞬黙りこみ、口元を一文字に
引き締めてから口の端だけを微かに上げて微笑む。

「この子は先週二十歳になったばかり。
まだ、子供です。ご存知でしょ?」

「……………おやおや。気の強いご婦人のようだ。」

先生は大人の男として、ちょっとばかり
俺に先輩風吹かしてからかっていただけだ。
それは俺にもよくわかった。
でも、いい加減しつこいなと思ったところだった。
やはり先生は少し酔ってはいるのだろう。
それ以上に、美月のキレ方に俺は驚く。

美月はグラスの氷を俺のグラスにカランカランと
放り込んで、空になったグラスにワイルドターキーを
並々と注いだ。琥珀色の液体は、美月の白い喉元を
上下させる艶かしい動きに呼応するように
うねりながら消えて行った。

「お酒は、楽しく飲むものでしょう?
強制されて無理に飲むなんて馬鹿馬鹿しい。」

俺も先生も動けなくなる。
美月はまた、グラスにワイルドターキーを注いだ。

「んふう。美味しいん。」

美月は決して酒に弱いわけではなかった。


小一時間。美月がワイルドターキーに引き続き
山崎を手酌でグラスに注いでいる。

「もしかして、中身はビールか?」

そんなわけないのをわかっていて
冗談をいう沖田先生。
この冗談、言った先生本人も
端で聞いてる俺も、ちっとも楽しくない。
美月に至っては無視を決め込む。

「て言うか、おかしくないか?
君、ほぼ一人でワイルドターキー空にして
二本目はよりによって勝手に山崎なんか頼んじゃって
こんなに飲んでるのに、なんでフツーにしてんの?!」

美月は普通ならとっくに酔いつぶれているだろう
量を飲んでいるのに、まったくのしらふである。
おかしい。何が起きている?

「酔ったことないので、他の人が羨ましいです。」


美月は頬も染めずに、寂しそうにわらった。


俺は水割りを二杯飲んだ。
ほろ酔いで気分が良かったが
記憶が、曖昧で。何を言ったか、言われたか。

「本当は馬鹿にしてんだろう。こんな字が下手なやつ
はじめて会ったろう?」

こんな風に言って先生は俺に絡んできたという。

「これで字が綺麗だったらスーパーマンでしょうが。
先生はミミズでいいんれす。」

俺はこう答えたという。

後から美月に聞いた話だ。



千鳥足の俺は美月に支えられて
ふらふらと駅へ歩いた。

美月に何度も、愛してるよ、と。
その度に美月はくすぐったそうに笑った。

駅に着いてからは上下にホームが別れたが
線路を挟んだ向かいのホームから手を振る
沖田先生の顔はすごくやさしかった。
ふわふわした記憶だけど、これは俺も覚えていた。