亀の啓示

18禁漫画イラスト小説多数、大人のラブコメです。

パラレルストーリー 美月と亮⑥

2018-08-07 07:35:13 | 美月と亮 パラレルストーリー
権藤は美月と話をしたいと俺に申し出た。

誠実なやつだ。

あらためて俺は思った。
権藤、いいやつ。

だから、二人きりで話をするのを快諾した。
まあ、俺が許す許さないではないけど。
自分がとても尊重されている気分になった。

権藤は他人のいうことを鵜呑みにしたことを
反省すると言ってくれた。
それは俺に大怪我負わせるところだった
ということにもなるのだが。
そして、美月の本音を聞いて納得したいと。

「あれ?権藤!」

美月は嬉しそうに駆けてきた。くそ、かわいい。

「二人、なんで一緒にいるの?」

そう言いながら、美月はすぐに
俺の左側に寄り添ってくれた。
半袖から伸びた、素肌の二の腕が当たる。
滑らかだ。内側を舐めてやったら感じてくれるかな。

「久しぶりに、ちょっと話がしたくてなあ。」

「だから、俺はしばらく外すよ。」

俺は美月の返事も聞かずに
図書館にいるから、と別れた。







30分ほどがたった頃。
美月がどすどすと足を鳴らして
俺の前に現れた。

「美月。図書館では静かに、な。」

思わずたしなめたくなるくらい
美月からは色んな気配が駄々漏れだった。

鼻息荒く、足を鳴らし、荒っぽく鞄を下ろす。

「あのバカ!ボコる!もうやえりが見てようが
関係ない!権藤まで巻き込んで!!」

美月は悔しすぎてべそをかいている。

「落ち着け。美月。」

俺は美月の手を引き、隣に掛けさせた。

「お前が出ていく必要はないよ。」

美月は涙を一杯にためた綺麗な瞳で俺を見た。

俺は美月の涙を指で拭ってやりながら言った。

「男同士でカタをつけるから。」

だからといって暴力で解決しようと言うのではない。
話し合いで円満に、秘密裏に解決して見せよう。










「よう。忙しいところ御足労いただいて恐縮だ。」

「梨本さんじゃあるまいし。」

とある放課後、秋太を呼び出した。
俺は期末が終わるのを待って
話し合いの場を設けたのである。

場所は校内の会議室。
早く言えば校舎の端の準備室だ。
生徒会副会長の協力で貸し切りに出来た。

コの字型に机を配置して、俺と秋太が相対して座る。

俺は議長に直樹を立てる以外は条件を出さなかった。
後は議論する上で、自分に有利に働くような
助っ人を三人まで連れて来ていいと秋太に伝えた。

あくまで、話し合いの雛型をもとに
そこから逸脱しないよう、議事進行を直樹に委ねた。
会議慣れしている副会長である直樹は
私情を交えず、討論に参加することもないと
宣言した。

結局、秋太は誰も伴わず一人で会議室にやって来た。

「ええと。この会議の議題は、どうなるんだ。」

直樹は開会の挨拶に困りきって
俺に助けを求めた。そこまで決めてなかったな。

「鷺沼美月と長内亮の交際についての
異議申し立てとその根拠に関する議論てとこか?」

直樹はしっくりこないと思うものの
他にいいタイトルも考え付かず
そのままを黒板に書き付けた。
そう、この議長は書記も兼任している。

「鷺沼美月と長内亮との交際は、どの時点で
正式に開始したかは記録にありません。
その件に関して詳細をお願いします。」

直樹に促されて、俺は立ち上がる。

「三年に進級してまもなくですが、確か4月の
10日前後だったと思われます。かねてより好意を
持っていた鷺沼美月に、私長内亮が告白という
形式で同時に交際を申し込んだものであります。」

秋太は即座に手を挙げる。

「それは承諾されたんですか?!」

「正式には受け入れられてはおりませんでした。」

俺は正直に答えた。
だが、俺たちの距離が確実に狭まったのは
あの日からだ。

「ですが、この数日後。鷺沼美月が一、二時間目を
エスケープした際、様子を見に行ったところ
何かを目撃して大変ショックを受けた彼女を
慰めたときから二人の距離は一気に縮まります。」

「彼女が何を目撃したのかは、分かっているんですか」

秋太が涼しい顔で質問をねじ込んできた。
俺は鼻で笑うと答えた。

「校舎の物陰で行われていた、
坂瀬秋太と五島やえりのキスシーンであると
聞き及んでおります。」

「えっ………」

「もう高校生ですし、校内で人目を忍んでのキスくらい
咎められるほどのことでもないと考えます。しかも
鷺沼美月は坂瀬秋太に、五島やえりを紹介した
本人でもあります。ショックを受けるとは、いささか
おかしな話ではあります。」

秋太は一言も言い返せなかった。

「この件に関して、坂瀬秋太本人に伺います。
思い当たる節はありますか。」

議長である直樹が冷静に秋太に切り込む。

「まさか。美月が、俺のこと…」

そこへ俺が割って入る。

「鷺沼美月は一年生の頃から、坂瀬秋太に
好意を持っていましたが、その事実はずっと
秘匿されてきました。それは彼女自らの意思で
決めたことであるとのことです。」

「それは、鷺沼美月本人から聞いたことですか?」

直樹は相変わらず冷静に進行していくが
こいつも側にいてすべてを悟っていた一人だ。

「それもありますし、私も好意を抱いていた女性の
ことですから、察していたというのもあります。」

「なんで。美月は、黙って…」

会議の形式から脱落していった秋太を置き去りに
俺と直樹はあくまで冷静に、突き放した口調で
平坦に事実を述べていく。

「鷺沼美月は中性的な見た目で、男子の中に
混じっても十分な運動能力を有し、女子特有の
男子を惹き付ける魅力といったものに欠けると
コンプレックスを持っていたのだと推測します。
そこへ五島やえりから坂瀬秋太への好意を相談されて
その恋の成就に一役買ったのだと思われます。」

秋太はおずおずと手を挙げた。
会議形式に戻ってきたと言うことは
どうしてだか、立ち直ったのだろうが
それは生まれたての子馬のように危うかった。

「成就するかはともかく、他に好きな男のいる
鷺沼美月に無理やり関係を迫った長内亮のやり方は
無粋と言わざるを得ません。修正を求めます。」

「では、坂瀬秋太が長内亮に振るった暴力に関して。」

議論に参加はしていないものの、直樹は
議題を提供する権限は持っている。
この流れでこれを出さずに終わるつもりはない。

「あれは、長内亮が鷺沼美月の思いを蔑ろにして
一見優しげに一緒にいながら、鷺沼美月を自分の女
として振り回していたのを注意したまでです。
あまりに非を認めずに、誤魔化そうとしたので
つい手が出ました。でもそれはやり取りの上での
必然です。」

「確かに、言葉遊びでかわそうとしましたね。
あれは俺が悪かったと思います。そこで一つ
質問です。鷺沼美月本人が、長内亮の存在を
疎んじていたと発言したのですか。それを
確認出来ましたか。」

惚れた女も口説けずに、その女が紹介してきた女と
ねんごろになったくせに。他の男が現れれば嫉妬に
駆られて手を出すなんざ、ちゃんちゃら可笑しい。
そりゃあ、元々自分に気がある女は楽チンだ。
あの時、ちゃんと美月と向き合わなかった秋太を
俺は認めるわけにはいかない。


「それは。見ていて分かりました!」

「根拠のない発言は控えてください。」

さすが名議長。切るのが早い。

「次は、柔道部主将である権藤隆之に長内亮の
根拠のない悪行を吹き込み、暴力を振るうように
仕向けていた件について。」

秋太は驚いたように顔を上げ
直樹と俺を代わる代わる見た。
権藤がこっちで話をしていたなんて
知らなかったんだろうな。

「嘘だ!そんなこと、俺はやってない!
単なる世間話で長内の話はしたが、そんな暴力を
云々なんてことは言った覚えはない!」

秋太は必死に訴える。
これは、素人である俺たちには判断がつかない。
秋太が俺のことを悪く言っても、権藤は特別なんの
感情も沸かなかっただろう。
あいつは俺をよく知らないんだから。

そこへ美月が繋がれば、権藤は頭に血が昇る。
それが、俺に対する暴力へ誘導出来たのは
想像に難くないが、それを立証する術はない。

「権藤がもし本気を出したら、怪我じゃ済まない。
俺はそこまで長内を憎いとは思ってない。」

「権藤は本気なんか出さないよ。ちゃんと人の話を
聞ける男だ。最後まで俺には、お前の名前は
出さなかった。」

そうだ。権藤がすべてを話したのは美月にである。

「以下は権藤隆之から鷺沼美月が聞いた話の要約です。
生徒会室において役員と世間話になり、鷺沼美月と
長内亮の交際が話に上った。そこでは他愛ない
普通のカップルの噂話に終始したが、その後
坂瀬秋太に呼び出されて、長内亮が鷺沼美月を強引に
交際と称してつれ回し、キスに至っても無理やり強要
しているものだと吹き込んだ。」

直樹は手元のメモ書きを読み上げた。
これは後から美月に聞いた話を盛らずに
まとめて書き留めたものである。

「そして、これらのことに関して鷺沼美月は
一切を事実とは認めないことを証言しました。」

その時、ドアが開いた。

「一切、事実とは認めません。」

美月が立っている。
え?美月には何にも教えてないし、ここで
話し合いを持っていることだって内緒のはず。

「直樹!しゃべったな!」

「これは長内亮だけの揉め事ではありません。
鷺沼美月も心を痛めた被害者のひとりです。」

直樹は俺の問いかけに答える形を取りながら
見据えていたのは秋太のことだった。

「面白いアイデアだよね。殴りあいの嫌いな
亮らしい考え方。」

美月は俺の隣に座って机に頬杖をついた。

「秋太?あたしは後悔してないよ。
あんたにやえりを紹介して、二人、上手く行った。
あたしの気持ちと、それとは別。」

秋太はかなり未練がましい顔で美月を見つめた。

「亮はね。もう秋太のことをもて余さなくていい、
半分俺が抱えてやるからって言ってくれた。
あたしは好きでこいつといるから。
もう気にしないで。」

「美月。本当に、こいつが好きなのか?」

秋太はまだ忌々しいと言った表情で俺を見る。
ここまで言われてまだわからないとは。

「秋太。みんなあんたを殴りたいのを
ぐっと堪えて我慢してるんだよ?」

美月は立ち上がると秋太の鼻っ面に
拳を突き出した。

「やえりが泣くから、我慢してるんだ。」








解散してからも、俺と美月は
しばらくの間会議室で呆けていた。

「なんか無駄なことにエネルギー使ったな。」

俺は隣に座っていた美月に話しかけた。

「ありがと。亮いてくれなかったら
大乱闘だったかもね。ブレーキ掛けるやつ
誰もいないもん。」

美月に、直樹に、権藤に。
こいつらが揃って暴れたら凄いことになった。
確かに、ブレーキ役に立候補してよかったと思う。

「でも、そう考えるとさ。はじめ、秋太に殴られて
俺が殴り返してたら。そこで収まってたのかな。」

そうしたら、この一件。俺と秋太の間のことで
収まってたかもしれない。権藤を巻き込むことは
なかったのかもしれないな。

「やっぱり、いざというときに
効果的にやり返せるようにしとかないと。」

俺はどうしていいのか分からないながらも
拳を握り締めてみた。殴りあいなんかしたことない。

美月はその拳を両手で包んで頬を寄せた。

「今度じっくり教えてあげる。今はもう、いいよ。」

俺の拳をやさしく撫でて、甲の筋のあたりに
キスしてくれた。
それは唇にされるよりも柔らかくて
特別胸に感じた。