亀の啓示

18禁漫画イラスト小説多数、大人のラブコメです。

パラレルストーリー 美月と亮①

2018-08-02 07:23:23 | 美月と亮 パラレルストーリー
いつも描いている美月と亮ですが
本編、ヴァンパイア編と続いて
またパラレルストーリーを小説で
書いていこうかと思います。
Twitterでアンケートも実施しまして
「他の男を忘れられない美月と必死に口説く亮」
に決まりました。
実は設定当初、美月と亮が出来立てホヤホヤの
30年ほど前にはこういう話だったんです。
今でこそ美月は甘えっ子で素直で可愛い妹キャラ
なんですが、ここでは違うキャラになっています。
2~3回で終わらせるつもりですが。
しばらくおつき合い下さいませ。







……………………………………………………………………………………………


「美月。好きだ。つき合って。」

俺は1年の時からずっと同じクラスだった
想い人に告白した。
もう3年になってしまった。
受験生、最終学年だ。
俺は2年間彼女をずっと見てきた。
なぜ、2年もの間指を咥えて待っていたのか。

彼女には、好きな男がいたのだ。

「何言ってんの?からかってる?」

俺の告白に、明らかに狼狽えているが
ポーカーフェイスを崩さない余裕があった。





美月はとてもボーイッシュで背が高く
175ある俺でもそんなに見下ろすことなく
ほぼまっすぐに目線が合う。
身体能力は高く、男とも喧嘩をして引けは取らない。
柔道部の権藤や剣道部の水田、ウエイトリフティングの
脇田なんかとしょっちゅうタイマンを張っていた。
この三人は、秋に主将になった。

俺の好みのタイプは、小柄なトランジスタグラマー。
一言で言えば女の子を楽しむオンナノコタイプ。
女子オブ女子、とも言うべき女子に
中学の頃までは鼻の下を伸ばしていたものだ。

入学式で初めて美月を見た時。
確かに胸を掴まれた。
でも、自分の好みとはほぼ真逆の美月に
なぜ惹かれたのかは自分にも全くの謎だった。
あいつは大柄で細くて胸なんかぺったんこで。
強い眼差しで遠くを見ていた。
凛としているってこういうヤツに使うんだな。

俺が立ち止まって美月を見ていたら。
気づいた美月が軽く首をかしげて
俺を見上げた。少しだけだけど。

今まで、自分の好みの女子は
20センチ以上の身長差を
首を裏返すように見上げて
しがみついてくるように
俺を見てきたんだ。
そこがたまらなかったんだ。

でも。美月は全く違った。

どうしたの?あたし、なんか変?

俺があわてて首を横に振ると
哀しげな微笑みを残して行ってしまった。

短い髪の毛先をほんの少し揺らして、行ってしまった。



その時、俺は彼女の強さに隠れた
脆さ、危うさにアンバランスさを感じていた。
きっと彼女はそれを嗅ぎ取られるのを
死ぬほどいやがるだろう。
なんだか、そう思ってしまった俺は
その日から美月を黙って見守ることになった。

美月は陽気で、男らしく、フェミニストで
勉強も良くできるパーフェクトなやつだった。
女の子からはすごくモテていて、バレンタインには
どの男子よりチョコレートを多く貰っていたっけ。




「あたしみたいなやつが。
男子から告られるとか、つき合うとか。
有り得ないから。」

美月は俺を遠ざける。
確かに面倒くさいんだろう。
こいつはまだ、あいつを忘れていない。

「これからもずっと秋太に想いを残して
宙ぶらりんな気持ちで生きていくのか。」

俺は爆弾をいきなり弾けさせる。
覚悟はしていたけど、これで俺は美月に嫌われる。

「はあ?何言ってんのさ!秋太にはやえりが
いるじゃん?知んない訳じゃないよね?」

ああ、知ってるよ。
1年のとき、隣のクラスだった
五島やえりさん。
よりによってお前が秋太にけしかけて
くっつけた女だろ。よく知ってるよ。

美月は秋太が好きだった。
今でも忘れられない。
秋太だって美月が好きだった。
二人、両想いだったくせに
いつまでもウジウジしてずっと友達のふり
してやがったんだ。
秋太は美月を口説き落とせる自信がなかった。
美月は口説いてもらえる自信がなかった。
バッカみてえ。
そんな二人を他の誰もが悪友と認識していた。
俺には二人の気持ちが手に取るように分かったんだ。
どうしてって。
ずっと美月を、見てたからだ。

「五島さんと秋太の結びの神は美月だもんな。」

美月は友達のやえりから
秋太が好きだと相談される。
そしてあっさりと二人をくっつけた。
1年の3学期だったよ。
冬休みが明けてすぐだった。

「秋太だって美月を好きだったじゃねえか!」

俺は感極まって叫んだ。
叫びながらも、殴られる覚悟も決めた。
これは美月が一番隠したい、触れられたくない
すごく柔らかで敏感なところだ。

俺はたまらなくなって、美月から目をそらした。

「なんで。そんなことまで言うの?」

予想に反して、美月は俺の胸ぐらを掴むこともなければ
頬を打つこともなく。罵声を浴びせることもなかった。

「なんで。知ってるの?」













翌日、少し登校する足取りが重かった。
一昨年からずっと好きだった女に喧嘩を売った。
おかしい。告白ってもっと甘酸っぱくて
切ないものだったように認識していたのだが
こんなに重たくて生々しいものだったのだ。

「おはよう。」

俺はもうすでに席についていた美月に
小さく挨拶した。

返事はなかった。

今更ながら、昨日やらかしたことの大きさに
押し潰されそうになる。
だが、後悔ではない。
これは通らなくてはいけない道である。

「ごめん。でも俺はやめないよ。」

美月は無視しきれず、俺を見た。

「俺は、お前を好きだ。口説くのはやめない。」

美月の耳にギリギリまで近づいて
囁くように言った。
これが教室でなかったら。
昨日、あんな風に美月を痛めつけていなかったら。
抱き締めたいのを我慢した。
それこそ、殴られていただろう。

美月は悔しそうに俺を睨み付けながら
頬を真っ赤にした。
それは怒りなのか、重ねての告白に羞恥を覚えたのか。
美月の瞳は強く光っていたが、ちょっとは
強がっていたんじゃないかと思う。






「放課後、顔貸してよ。」

美月は授業が終わると俺を連れて教室を出る。
今度こそ殴られるんだろうな。
顔貸せって連れていかれたら、そういう順番だ。

すっかり葉桜になった青々とした木々の間から
名残の花びらがちらり、ちらりと舞う。
放課後の渡り廊下を吹き抜ける風は少し冷たかった。

あれ?ここは。
中庭の温室の横、特別棟の裏側に置かれたベンチは
人目に付きにくく、男女がしけこむ場所になっていた。
カップルシートと呼ばれている。

「ここなら誰にも聞かれないから。」

美月は先にベンチに小走りに近づいて
とすんと腰かけた。

「み、美月。」

もしかすると美月は俺とすんなり
つき合ってくれる気になったのかもしれない。
有り得ないことを考えてしどろもどろになる。

「内緒事はここで話す。一度座っちゃえば
皆、近づいてこないからね。」

そうか。美月にとってカップルシートは
人払いの出来る空間くらいの認識なのか。

「え、いつもどんなヤツとここで内緒話すんの?」

俺は思わず確認した。

「最後にここで話をしたのは、2ヶ月くらい前。
権藤がマキちゃんをデートに誘いたいって
相談してきたときだな。」

「え?ここで?権藤と、二人で?」

美月は怪訝そうな顔でこう言った。

「もちろん権藤だけじゃないけど。」

美月が喧嘩仲間の武骨なやつらに
相談事を持ちかけられるときは
大抵ここで話をするのだという。

「そんなことより!長内はなんであんなこと
知ってんの!?」

美月は俺の肩に手を置いて
体を俺に向かって開いて覆い被さるように
顔を覗き込んできた。

「まさか、直樹に聞いた?」

直樹とは、美月の双子の弟である。
さすがにあいつにはバレたのだろう。
美月は自分の秘密を、弟が漏らしたのではないかと
疑いを持ったのだ。いや、そうでもなければ
単なるクラスメートの俺が知っているのは
おかしいレベルの秘密なんだろう。

「違うよ。」

俺は事実を述べた。

「じゃあなんで分かるの!!」

美月は俺の肩を掴んで派手に揺さぶった。

「話聞いてた?俺はお前が好きなの!
もう、入学したあたりからずっと好きで
ずっとお前を見てたんだよ!分かるっつーの!!」

俺のオリジナルの分析力であると知るや
美月はがっくりと首を折る。

「うそ。ショック。」

「………なんか。ごめん。」

美月があんまりしょげてしまったので
つい謝ってしまった。
待てよ?ショックなのは俺に見抜かれたから?
それとも、俺がお前を好きでずっと見てたから?

「隠してたのに。そんなに分かった?
じゃあ、みんな分かってて知らない振りしてるのかな」

美月はファスナーを開けたまま
知らずに1日過ごしてから
夜になってやっと気づいたような
いや、スカートの裾をパンツに巻き込んで
知らずに丸出しで外を歩いてしまったのを
後から気づいたくらいかな
そのくらいに恥ずかしく悔しげな顔をした。

「そんなことないだろ。」

俺は昨日から一貫して
好きだ
と、言っている。
お前を一昨年からずっと好きでいる俺だからこそ
多分秋太だって知らないお前の気持ちを悟ったんだ。
それを、美月は認めてくれない。
いや、見て見ぬ振りか。
なかったことにしたいんだな。

「ほんとに?ほんとにそう思う?」

美月はすがるように俺を見た。
俺はグッと来るのを我慢して、そっけなく頷く。

「まあ、仕方ないか。他の皆に知られてなければ。」

もしかすると、美月はこの時
俺のことを『秘密を共有する相手』に
昇格させたのかもしれない。

こんな剣呑な雰囲気ではあったものの
美月との初カップルシートは
お互いの体温を感じるくらいに
近くに座ってくれて
まあ肩を掴まれて揺さぶられたり
噛みつく勢いでなぜなぜ攻撃を受けたりしたものの
総合点から言ったら満足のいくものだった。

「一緒に、帰ってもらえる?送っていくから。」

切って捨てられる覚悟で言ったんだが
意外にも美月は事も無げに首を縦に振ってくれた。