やんちゃでいこう

5歳の冷めた男の子の独り言

↓投票ボタン押してね

blogram投票ボタン

先輩からの贈り物

2011-05-16 22:41:56 | 小説
「さようなら」

そう会釈をして、先輩が去って行った。

そんなに親しい間柄でも無い。

特に意識した人でも無いし、同じ空間に居たと言うだけの人だ。

でも最後はきちんと挨拶をした。

定年を待たずに、退職だ。

ありきたりの言葉を交わした後、誰かに見送られるでもなく去って行った。

これで縁は切れた・・・はずだった。

しかし年賀状などの挨拶が数年続く。

こうした関係で通り抜けて行った人は、もう何千人いるだろう。

もっといるのかもしれない。

今更道であっても、思いだせない人も多い。

1度だけ言葉を交わした人も含めると。

ただその先輩は、数年後に俺のところに尋ねてきた。

「君とは約束してたからね。私が本を書き上げると君に届けるってね」

こちらは社交辞令で話しただけだと思う。

まったく記憶にも残っていない。

だが断るわけにもいかない。

自費出版の本。

お金を払うと言っても、受け取らずに去って行った。

2年ほど読まずにいた。

埃を被った状態で、本棚の奥に眠っていた。

その先輩が癌で亡くなったと人伝に聞いて、なんとなく手にしたその本の5ページ目。。。

たぶん俺のことなんだろう。書かれてあった。

「K君という笑顔をいつも向けてくれる後輩がいる。特別に言葉も交わすこともないが、どの位置からでも彼の笑顔は目を引く。
辛い時や落ち込んでる時に、何度彼の笑顔に癒されただろう。
ただ一度、、、私が社を去る時だけ、彼の笑顔が消えていた。
私のために。。。
彼の笑顔は絶やさないでほしい。人を幸せにする笑顔。君だけにできることだから」

こんな文章に黄色の蛍光ペンが塗られてあった。

人はどこで誰に見られているかわからない。

こちらでは記憶はなくても、相手には大きな印象を与えている。

今一度、背筋を伸ばして生きて行こうと思った。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする