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英会話学校の破綻と米国留学の減少は日本の成熟か衰退か

2010年04月26日 16時39分25秒 | 英語教育の話題



2年半前(2007年10月26日)のNOVAの「倒産」に引き続き、先日、2010年4月21日、英会話スクール大手のジオスも破産手続きを開始したと発表しました。正に、英会話スクール冬の時代。他方、日本人の海外留学生数自体は表面的には減っていないものの、長らく留学の代名詞でさえあったアメリカ留学はここ10年で40%以上も減少しています。而して、この傾向はこの社会にとってどんな意味を持っているのか。本稿はこのことについて考えた覚書です。

私は、一応、本稿が扱う領域の専門家です。よって、逆に言えば、守秘義務の側面もあり、各英会話スクールや留学準備機関各社の具体的な生徒数や客単価、収益に言及することは憚られます。而して、本稿に何かビジネス的な情報を期待される向きは、全くの期待はずれになることは必定。いずれにせよ本稿は少し浮世離れした観点からの「覚書」にすぎません。尚、英会話スクールのカリキュラム自体に関する私の基本的な考えについては下記拙稿を参照いただければ嬉しいです。

・NOVA再建を期にその主張「英会話はネーティブ講師から習うべき」を改めて考える
 http://kabu2kaiba.blog119.fc2.com/blog-entry-283.html

・草稿・科挙としての留学の意義と無意味

 https://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/3d2bc3378bcef0da078a1b30c9681d79







■英会話スクールの破綻と留学準備機関の苦境
英会話スクールに限らず、会社の倒産とは、それに至る原因は様々であるにせよ、収入を支出が上回る状態が恒常化したということ。そして、当然ながら、英会話スクールといわず留学準備機関といわず、教室展開型の教育機関は、①人件費(特に、講師人件費)、②教材開発費、③宣伝広告費、④不動産取得費用と家賃の5大費用の総額と割合、他方、授業料収入の推移と傾向(生徒数・客単価・売れ筋/見せ筋の商品の傾向)を睨みながら経営している。

而して、NOVAは、①講師人件費と④家賃の重圧を跳ね返すべく、増収求めて、更なる③宣伝広告と④拠点開発に突き進み傷口を広げてしまった。というか、それは自転車操業のようなものだった(要は、消費者金融の利息を払うため新たに消費者金融からの借り入れるようなもの)。この負のスパイラルの構図の中では、”Streamline”を仕入れる他には、②「新たなテキスト開発」は行なわず、他方、大枚を投じた結果、単体でも収益が上がり始めていた②「お茶の間留学」も所詮「焼け石に水」だったということでしょうか。そして、ジオスについて新聞はこう報道しています。

●英会話のジオスが破産 99校を閉鎖
英会話大手のジオス(東京)は21日、破産手続きを開始したと発表した。20日に東京地裁から財産の保全管理命令などを受けた。保全管理人によると負債総額は、今年3月末現在で約75億円。

21日から全校で臨時休校する。236校(「こども学校」66校を含む)は、先に経営破綻(はたん)したNOVAの事業を引き継ぐジー・コミュニケーション(名古屋)に譲渡され、23日から授業再開の予定。だが、99校は閉鎖し、近隣の継続校への転校などを斡旋(あっせん)する。

ジオスは昭和61年12月の設立で、テレビコマーシャルなどで事業を拡大してきた。だが、語学学校の乱立に加え、NOVAの経営破綻などで業界の信用が低下。不景気で国内事業も低迷し、経営が急速に悪化していた。

民間調査会社の東京商工リサーチによると、平成20年12月期の年商は約110億円に落ち込み、不採算校の撤退などから大幅赤字に転落していた。・・・

(産経新聞:2010年4月21日)   





私が尊敬する、ある大手予備校の代表取締役の方は、しかし、「売上はすべての矛盾を解決する」と喝破された。至言だと思います。NOVAにせよジオスにせよ、「倒産」したら破綻した理由や原因などは誰しも立て板に水で講釈を垂れるもの。けれども、実は、その売上が当時の経営陣の予想通りに推移していたとすればどんな会社も破綻することはないのです。

ならば、マーケットの規模の測定や客層のクラスタリング等々、普通のマーケティング手法を各社が標準装備している現状では、英会話スクールや留学準備機関の破綻や苦境の真の原因は、それらの経営陣の予想を遥かに超えた英会話離れや留学離れがマーケットで起きていることに求めるべきだと思います。

もちろん、例えば、NOVAやジオスの教室の過半を継承するジー・コミュニケーションや留学準備機関の中でほとんど唯一気を吐いている観のあるバークレー学院等々、所謂「勝ち組」も存在するわけで、会社破綻の責任はどこまでもその経営陣が負うべきなのでしょう。しかし、英会話学校の破綻とアメリカ留学の減少という傾向からこの社会の変容の相を考えてみようとする場合、会社破綻の原因を「マーケットの変容」に求めることは満更筋違いではないのではないでしょうか。この観点から、日本人アメリカ留学生の減少を報じた記事を確認しておきます。


●日本人の米国留学 10年で4割減少の理由

「留学といえば米国」という潮流に変化が起きている。この10年で米大学の日本人学生の数は約4割も減少した。日本人が「草食化」して内向きになったのが原因だとする米国メディアもあるが、日本から米国以外への留学は減っていない。・・・

米国で国際教育に携わっている非営利団体「IIE(Institute of International Education)」が毎年出しているレポートによると、米国内の日本人留学生の数は、2009年で2万9000人だった。10年前の1999年の4万6000人から約4割も減少している。一方で、中国や韓国といった国々からの留学生は軒並み増加、最も多かったインドに至っては、10年前の2倍以上にもなっている。・・・

しかし一方で、海外へ留学する日本人の総数自体は減っていない。文部科学省によると、日本から海外への留学生の総数は、1996年は約5万9000人だったのに対し、06年は約7万6000人。1980年代ごろから上昇傾向が続き、98年以降は8万人前後で推移している。米国への留学だけが落ちているようだ。

(J-CAST:2010年4月17日)    


引用した記事には「海外へ留学する日本人の総数自体は減っていない」と書かれていますが、これには些か注意が肝要です。というのも、中曽根内閣の「留学生10万人計画」(1983年)、そして、福田内閣が打ち出した「留学生30万人計画」(2008年)の裏面として、国公立大学は軒並み、私立大学もその体力に併せて、交換留学の形でその日本人学生を大量に<留学>させているから。つまり、()日本の大学に進学することなく、()海外の大学・大学院に留学する日本人学生数は、私の試算では5万人前後であり、やはり、海外留学自体がアメリカ留学を筆頭に「激減している」と言うべきだからです。尚、日本人留学生の推移に関しては下記データを参照ください。

・アメリカの留学生の動向
 http://kagakusha.net/alc/contents_files/rikei_daigakuin_ryugaku_data3.pdf

・日本人留学生数の推移
 http://www.anokuni.com/contents/ryugaku_data/ryugaku_data_081101.pdf

・文部科学省「我が国の留学生制度の概要」
 http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/ryugaku/main4_a3.htm







■英会話離れとアメリカ留学の減少の意味
なぜ、英会話離れと海外留学、就中、アメリカ留学の減少が惹起しているのか。これを考える上で前提にすべきは次の2点ではないでしょうか。

(a)経済的理由は少なくとも主要な要因ではない
大学進学率自体が景気変動の影響で急激に下降しているのではない現状では、地方から首都圏や関西圏の大学に進学するよりもかなりリーズナブルな留学が十分可能なことを鑑みるとき、家計の経済的理由は主要なファクターではないこと。  

このことは、選択するレッスン回数と内容に大きく左右されるものの、「激安、月8回で9,000円!」というちょっと怖い(笑)喫茶店で講師と待ち合わせするタイプの「無教室スクール」でなくとも、ほとんどの英会話スクールが月額換算25,000円程度で十分受講可能であることを考えれば(これは時給875円のバイトで29時間。つまり、週2回、毎回4時間のバイトでその学生が自分で支払い可能ということ)、英会話スクールにも当てはまるだろうこと。

(b)情報やノウハウはマーケットに溢れている
海外留学、就中、アメリカ留学のノウハウは、留学経験者の蓄積とともにマーケット自体に確実に年々蓄積されていること。例えば、1990年代初頭、実は、「TOEFL」や「GPA」という用語を知らない大学生が京都大学や同志社大学の学生の中でも多数派でした。それに比べれば現在は隔世の感があります。また、ネット上には無料の英会話ツールが溢れていることは指摘するまでもないでしょう。 


蓋し、(a)(b)から演繹できることは、留学準備機関と潜在的顧客の情報落差は毎年縮まっているということ。そして、英会話スクールがあまり役にはたたない、少なくとも、投資に見合った能力開発を行なっていないというイメージがマーケットに定着していることとこの留学を巡る経緯はパラレルではないかと思います。

例えば、極めて野心的なカリキュラムを開発運営しておられる東進こども英語塾等の例外もありますが、基本的に「児童英会話は小学校3年生までの期間限定の習い事」というのがマーケットの現状です。これは、限られた家計の収入を考えてみた場合、圧倒的多数の家庭が「小学校4年以降、児童英会話には塾を上回る価値はない」と判断しているということなのです。

というところで、、論理飛躍、あるいは、竜頭蛇尾の節もありますが結論に移ります。繰り返しになりますが、

英会話離れと海外留学の減少の理由・原因は、その価値の有効需要が落ちていることの反映である。現在、マーケットは、「英会話・留学から得られる効能<英会話・留学を敢行するための費用支出と機会損失」と考えている。

而して、(この8年間で日本国内でのTOEIC受験者数が1.7倍の171万人に増加していることからも明らかなように)これは日本の国際化の不足ではなくて、日本の国際化が進んだゆえに、英会話スクールも海外留学も稀少財としての価値を喪失し、それを死活的に重要と考えるかなり特殊な層にマーケットが縮小したことを意味する。    


と、そう私は考えています。畢竟、ここには遣唐使が廃止された背景と一脈通じるものがあるのでないかとも。蓋し、「遣唐使の廃止によって国風文化が盛んになったのか」あるいは「国風文化の興隆の影響で遣唐使が廃止されたのか」という所謂「卵が先か鶏が先か」の類の議論を持ち出すならば、私は、「遣唐使の廃止」と「国風文化の興隆」は共に、その当時の、私が言う「生態学的社会構造」(自然を媒介とした人と人とのある歴史的に特殊な社会的関係の取り結ばれ方の総体)の変容の帰結であると考えています。

而して、幕末から明治初頭の新島襄先生や津田梅子先生の留学からおおよそ150年。グローバル化の昂進の波濤は、誰しもそれを行なえば労働力商品としての自己にそれなりの付加価値を付け加えることができた古き良き時代を押し流し、とうとう、英語が話せること、海外留学することは、本当にそれが自分のキャリアや価値観形成にとって不可欠な人々のみが時間と費用を投下するに値する、そのような成熟した時代に我々を漂着させつつあるの、鴨。ならば、業界にいる者としてはあまり愉快ではないけれど、英会話学校の破綻とアメリカ留学の減少は日本の成熟の証左なの、鴨。と、そう私は考えています。






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