新緑の美しい季節になった。
経済制裁の影響で、物価はウナギのぼり。
国民生活にもジワジワ効いているはずなんだが、それほど深刻な顔をしているイラン人はいない。
産油国の飛びぬけた豊かさに加え、何にともあれ、ポジティブなのだ。この国の人たちは……。
先日乗ったタクシーの運転手は、高速道路を運転しながら、隣の車線の若い女性をナンパし始めた。
私は急いでいるにもかかわらず、「へい、そこのきれいな姉ちゃんたち」と声をかけ、相手が嫌がって車が離れても、何度も懲りずにずっと追いかけていく。何度も横づけして声をかけて電話番号を尋ね(相手にされず)、最後は自分の電話番号を書いた紙を窓から放り投げた。「ちゃんと、電話してくれよ」
運転手は自称30歳だが、よく聞いてみると、数年前に離婚したバツイチの40歳。運転手ではそれほどかせげず、貯金まったくなし。日本だったら……相当思いつめている状況だが、何とも明るいのだ。
運転中にしょっちゅうナンパしているらしい。それほど格好よくない。
「こうやって路上で声をかけて、たまには成果あるの」「いや、全然。ハハハ……」
なんなんだその根拠のない自信は……。
まあ、人生一度きりなら、根拠がなくてもポジティブな方がやっぱりいいよなあ。
なかなか簡単ではないが、イランにいるとそう痛感する。
先日の休刊日には、とんぼ帰りで、少し離れた地方都市ガズビーンへ。
とくに目的もなく街をぶらぶら。すると、中心部の公園には、おっさん、じいさんがたまっている。
日本の高齢者と違って孤立している男性は少なく、みな集まってようしゃべる、しゃべる……。
豊かなイランは年金制度も整っていて、50代から隠居して年金生活の人もいる。
これまたみなポジティブなのだ。
「日本は60代後半にならないと年金もらえないよ」と話すと、かなり驚いた様子。
「それじゃあ、年金の意味がないよ。もらう前に死んでしまうやつもたくさんいるからなあ。ハハハ……」
豪快に笑っていた。
なんとも自分がちっぽけに見えるのだった。