醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより   1511号   白井一道

2020-09-05 14:34:28 | 随筆・小説



 芭蕉は恋歌の伝統を継承している



華女 日本の詩歌には伝統的に恋の歌が詠み継がれてきた歴史があるのよね。
句郎 万葉集の時代からだよね。額田王の歌には、情熱的な歌があるね。
華女 高校生の頃、初めて教わった歌が額田王の歌だったわ。「茜(あかね)さす紫野ゆき標野(しめの)ゆき野守は見ずや君が袖ふる」ね。
句郎 どのようなことを詠んでいるのかな。
華女 額田王は恋多き女性だったのよ。大海人皇子(後の天武天皇)との間に子供がいたのよ。その後、彼女は義兄、天智天皇と付き合う。しかし大海人皇子は、まだ私に未練があるみたい。彼は袖を振って誘ってくるのよ。そんなに袖を振っていたら、見張りの人に秘め事がばれてしまうじゃないのと、いうことだと思うわ。
句郎 この歌は不倫の歌だね。このような歌を高校の授業で習ったんだ。
華女 不倫とは、何なの。万葉の時代はおおらかな時代だったのよ。「原始、女性は太陽だった」と言われているでしょ。万葉の時代には不倫などというものは無かったのよ。
句郎 時代が進むに従って、男女差別が厳しくなっていくに従って女性の恋心を制約するようになっていくと言う事かな。
華女 男の恋心も制約されていくようになるのよ。でも男は狡いから、女にだけ、貞操観念のようなものを植え付けていったのよ。でも恋の歌は命の輝きだから、万葉の時代から現代にいたるまで詠み続けられてきたのよ。
句郎 「茜(あかね)さす紫野ゆき標野(しめの)ゆき野守は見ずや君が袖ふる」。この額田王の歌には命の輝きがあるように思うね。
華女 情熱的な歌人よね。女性の歌人は皆、情熱的なのよ。情熱的でなければその時代の重圧に押しつぶされてしまうからよ。与謝野晶子の歌も情熱的でしょ。そう、思わない。「やは肌の あつき血汐にふれも見で さびしからずや道を説く君」。恋と性愛を情熱的に詠んでいるでしょ。これが命の輝きというものなのよ。
句郎 樋口一葉の歌にも熱い思いの籠った歌があるね。
華女 「梅が香の身にしむばかり夜も更けぬ契りし友を待つとせし間に」という一葉の歌があるわ。内に秘めた熱い思いの籠った歌だと思うわ。万葉以来の歌の伝統は女が継承してきたと私は思っているのよ。芭蕉が慕った歌人に西行がいるでしょ。西行の詠んだ恋歌があるわ。
句郎 百人一首になっている歌が有名かな。藤原定家が高く評価したという歌かな。
華女 「嘆けとて月やはものを思はする かこち顔なるわが涙かな」でしょ。大岡信は「西行の恋の歌としては、何ということもない凡作である」と言っているわ。
句郎 西行が恋を詠んだ歌とは、どのような歌があるのかな。
華女 「花を見る心はよそに隔たりて 身に付きたるは 君が面影」。この歌の方が私は好きよ。
句郎 男が詠んだ歌としては女々しくないかな。
華女 そう、女々しいのよ。男は女になって歌を詠んでいるのよ。男が男のままでは歌にならなかったのよ。男は女になって、女の気持ちになって初めて歌が歌になったのよ。それが恋歌だったのだと私は考えているわ。
句郎 男女差別が社会的なものであった時代に生きていたからということかな。
華女 男が女に恋をするということを恥じるような意識が男の世界にはあったということよ。男女差別は男の心を捻じ曲げてしまったのだと私は考えているわ。
句郎 もともと男は女々しいのかもしれないな。泣くことが男にはできないようなところがあるからな。泣きたくても泣けないのが男だからな。
華女 泣くということよ。泣くという事には強い思いがあるということよ。この強い思いを言葉にしたものが恋歌だったのだと私は思うわ。ものを見て、ものに接して率直に感じたことを言葉にしたものが恋歌だったのだと思うわ。
句郎 恋歌に詩歌の原点があるということなのかな。
華女 きっとそうなのよ。その詩歌の原点としての
  恋歌の伝統が芭蕉にも引き継がれているのでは
ないかと思うわ
句郎 恋の歌には率直な気持ち、純粋な気持ちがあふれ出ているということかもしれない。芭蕉もまた詩歌の伝統の中で句を詠んでいる。

醸楽庵だより   1510号   白井一道

2020-09-04 16:34:03 | 随筆・小説


 
  菅義偉氏が自民党総裁候補になった



呑助 安倍総理は岸田氏に禅定すると言っていたのじゃないですか。
侘助 今までの自民党総裁選挙で禅定する約束が守られた例はないそうだからね。
呑助 岸田氏は広島参議院選挙区で宏池会岸田派の重鎮、溝手氏ではなく、河井杏里氏の選挙の応援に入り、安倍総理に義理を果たしていたのじゃないですかね。
侘助 自民党総裁選挙は下克上の世界で、義理も人情もないようだよ。
呑助 自民党執行部はなぜ溝手氏の対抗馬、河井杏里候補陣営に一億五千万円もの選挙資金を与えたのでしょうかね。
侘助 元検事の郷原信郎弁護士が『日本の権力を斬る』の中で溝手氏が参議院議員に当選したなら、参議院議長候補だった。このことを安倍総理はどうしても許すことができなかったのではないかと述べていた。
呑助 河井杏里氏の公職選挙法違反事件は安倍総理が溝手氏を落選させるために行った事件だということですか。
侘助 郷原氏の見解によるとそのようだ。この河井事件に成り行きに神経が参ってしまい、安倍総理は潰瘍性大腸炎が悪化したのではないかと述べていた。
呑助 身体的病より精神的に安倍総理は参ってしまい、総理の辞任にいたったということですか。
侘助 そうなのかもしれない。安倍総理は岸田氏への義理を果たすことなく、同じ自民党員である溝手氏を落選させ、河井氏は公職選挙法違反で逮捕され、精神的に追い詰められてしまったのかもしれない。
呑助 衆議院議員の河井克行氏は安倍首相の返り咲きを支援し、菅義偉官房長官の側近として振る舞い、政界での地位を確立していった人ですよね。
侘助 河井氏の人生が暗転行く中で菅氏は栄光への道を歩みつつある。
呑助 次期総理は石破氏でもなく、岸田氏でもなく、菅氏が総裁選で多数を獲得することが事前に分かってしまうことになったのでしょうかね。
侘助 自民党にとって全党員の選挙で選ばれた総裁の方が強い政権になる。そのようなことは誰でも分かっている。しかし自民党員すべての選挙をすると石破氏が勝つ可能性がある。なんとしても石破氏が党総裁になることだけは避けたいというのが自民党執行部の意向のようなんだ。
呑助 なぜ、それほど現自民党執行部は石破氏を嫌う理由は何なのでしょうかね。
侘助 石破氏は国民的人気が岸田氏や菅氏より高い。なぜ国民的人気があるのかというと真面なことを発言しているからのようだ。
呑助 もり、かけ、さくらと言われる出来事を再調査すると発言していることですか。
侘助 何としても現自民党執行部は「もり、かけ、さくら」のような出来事の再調査をさせてはならないというのが自民党の多数派のようだ。
呑助 昔の自民党と違ってきているように感じますね。昔の自民党には強力な反主流派の存在がありましたね。
侘助 今は小選挙区制だから、一選挙区に一人しか立候補できない。その公認権は幹事長が握っている。更に議員数によって配布される政党助成金を握っているのも幹事長のようだ。現自民党幹事長二階氏は絶大な権限を持っている。二階氏に刃向うことなどできないようだ。
呑助 よく言えば現自民党の結束は固くなっているということですか。
侘助 二階氏が次期総裁は菅氏が良いと判断した結果、その結果を自民党の各派閥も了承したという事なんじゃないかと思う。
呑助 安倍総理も二階氏の判断に同意したようだ。
侘助 麻生副総理兼財務大臣も菅氏で同意したという事ですか。
呑助 石破氏を当選させるわけにはどうしてもいかないということですか。
侘助 自民党員全員の選挙によって選出された総裁の場合、どうしても力が出ないので、選挙に打って出ることが厳しいという意見がある。
呑助 解散ができない総理大臣になる可能性があるという見解があるようだ。
侘助 小渕内閣は総理が脳梗塞による死によって有力議員の話し合いによって森喜朗氏が総理になったが短命に終わったのは自民党全員の堅い支持が無かったからという話がある。

醸楽庵だより   1509号   白井一道

2020-09-03 14:43:57 | 随筆・小説

 

  澤藤統一郎の憲法日記  9月2日より



 菅義偉よ、かくまで「アベ後継」をウリにするというのか。

 安倍晋三による再びの政権投げ出しである。前回のように国政選挙での与党大敗北に続く醜態とはいえないものの、明らかに八方塞がりの失政の中で、やる気を失った無責任というしかない。
その安倍政権の7年8か月に、国民はウンザリしていたはずである。アベ政権といえば、立憲主義の否定であり、日本国憲法理念の否定であり、国政の私物化であり、嘘とごまかしと忖度の政治手法であり、三権分立の軽視でもあった。経済政策では格差と貧困を深化させ、コロナ対策ではアベノマスク以外に有効な策はなく、無為・無能・無策。しかも、こんなにも公文書管理をないがしろにし、強権と忖度に支えられ、品性に欠ける振る舞いで国民からの顰蹙を買った為政者も珍しい。北方領土問題も拉致問題も1ミリも進展させることができなかった。もちろん、辺野古も、慰安婦問題も、徴用工問題も、核軍縮も。
だから今自民党は、マンネリ停滞で薄汚れたイメージのアベ政治からの脱皮のチャンスである。安保で倒れた岸信介のあとに所得倍増計画の池田をもってきて鮮やかな転身を見せたように、あるいはロッキードの田中角栄からクリーンな三木武夫に頭をすげ替えたように、自民党は国民に別の顔を見せなければならない。
ところがどうだ。後継総裁は、出馬宣言前から菅義偉に決まりという報道である。政策や抱負を語る以前から、密室の談合で派閥の論理で菅義偉に決定というのだ。既に党内7派閥のうち5派閥が菅支持に固まっているとか。少しだけ驚いた。菅といえば、アベ政権そのものではないか。アベ政治からの脱却ではなく、国民から見離されたアベなきアベ政治をこれからも続けようというのだ。
本日(9月2日)夕刻、菅は総裁選出馬の記者会見を行った。何とも新鮮味に欠け、何とも華がなく、何とも変わり映えせず、いかんとも明るい展望はまったくなく、旧態依然の政治続行の予感に改めてウンザリと言うしかない。菅は、「安倍政権の取り組みをしっかり継承し、さらに前へ進めるために私の持てる力を全て尽くす覚悟だ」と述べた。「安倍政権の取り組みをしっかり継承し」とは、内容においては新自由主義的政策を継承し、政治手法としては強権と忖度、嘘とゴマカシを続けようというのだ。そして「さらに前へ進める」とはどういうことだ。アベ政権への反省の弁がまったくないのだ。
ハト派と言われる「宏池会」の岸田文雄も、アベに対する党内批判派の石破茂も、脱アベのイメージ演出にはもってこいの存在。この2人ではなく、旧態依然アベカラーに染まりきった菅に決まりだというのだから政治の世界は分からない。その総裁選挙の日程は9月14日である。
さて、対する野党の側の事情。9月10日に、立憲・国民の合流新党が結成されて代表選が行われる。新代表に新味はなかろうが、新党の存在感を示そうとこれまで慎重だった「消費税減税」に踏み込むのではないかと報道されている。
私の主たる関心事は、改憲策動の有無である。常識的には、アベができなかった明文改憲を、アベ後継ができるはずもない。しかし、これは、アベ後継が国民世論をどう読むかにかかっている。国民世論は必ずしも「改憲反対」ではなく、「安倍のいるうちの改憲には反対」という読みもある。
新党には改憲反対の姿勢を明確にし、市民の護憲運動とスクラムを組んでいただきたい。アベなきアベ政治の継続が明文改憲に結びつく危険な事態は継続しているのだから。
決して、改憲策動に乗せられてはならない。9月16日発足の新政権が、今秋にも衆院解散・総選挙に踏み切るのではないかという声も聞こえる。もちろん、野党側の態勢不備に付け込んでのことだ。これまで、護憲派は薄氷を踏む思いで国政選挙を乗り切ってきたが、この次の総選挙も、決して楽観できるものとなりそうもない。これも、アベなきアベ政治の置き土産である。

醸楽庵だより   1508号   白井一道

2020-09-02 06:17:08 | 随筆・小説


 
 朝鮮人虐殺を追悼「忘れてはならない」 否定する集会も



 朝日新聞社 2020/09/01  デジタル版より

 関東大震災の際に起きた朝鮮人虐殺の犠牲者を追悼する式典が1日、東京都墨田区の横網町公園であった。虐殺を疑問視する団体の集会も同時刻に開かれた。疑問視する側の昨年の集会での発言を都がヘイトスピーチと認定し、集会に抗議する人たちとの間で衝突が起きたことから、今年は警察官数百人が警戒にあたった。
 日朝協会などの実行委員会が1974年から主催する式典には昨年、主催者発表で約700人が参列したが、今年は新型コロナウイルス対策で約30人に絞った。宮川泰彦・実行委員長が「大震災の際、流言飛語を信じた自警団や軍隊、警察により朝鮮人や中国人が虐殺された。この消しようのない事実を忘れさせようという動きがある。絶対に同じ過ちを犯さないよう、数多くの尊い命が奪われたことを忘れてはならない」とあいさつした。
 式典はネット中継された。追悼文送付を4年連続で見送った小池百合子都知事への抗議の意味も込め、ツイッターでは「#私は追悼します」とする投稿がトレンド入りし、「小池都知事は事実と向き合うべきだ」などのツイートが同日夕までに約2万7千件に達した。

 大正12年(1923年)、関東地方は地震によって壊滅的な被害を被り民心と社会秩序がひどい混乱に陥ったことを受けて内務省は戒厳令を宣告し[2]、各地の警察署に治安維持に最善を尽くすことを指示した。しかし、そのときに内務省が各地の警察署に下達した内容の中で「混乱に乗じた朝鮮人が凶悪犯罪、暴動などを画策しているので注意すること」という内容があった[3]。この内容は行政機関や新聞、民衆を通して広まり、朝鮮人や、間違われた中国人、内地人であるところの日本人(聾唖者など)が殺傷される被害が発生した。

 東京日日新聞(一六八六七号)に「火をのがれて生存に苦しむ牛込」「雨と火と朝鮮人との三方攻め」といふ題下にて、次の如き記事が載せてあつた。 「火に見舞れなかつた唯一つの地として残された牛込の二日夜は、不逞鮮人の放火及び井戸に毒薬投下を警戒する為め、青年団及び学生の有志達は警察、軍隊と協力して、徹宵し、横丁毎に縄を張つて万人を附し、通行人を誰何する等緊張し、各自棍棒、短刀、脇差を携帯する等殺気立ち、小中学生なども棍棒を携へて家の周囲を警戒し、宛然在外居留地に於ける義勇兵出動の感を呈した。市ヶ谷町は麹町六丁目から、平河町は風下の関係から(此所新聞紙破れて不詳)又三日朝二人連の鮮人が井戸に猫イラズを投入せんとする現場を警戒員が発見して直ちに逮捕した。」  下野新聞(九月六日)に「東京府下大島附近」「鮮人と主義者が掠奪強姦をなす」と云ふ題下にて次の如き記事が記載されていた。 「東京府下大島附近は、多数の鮮人と支那人とが空家に入り込み、夜間旺に掠奪強姦をなし、又社会主義者は、市郡に居る大多数の鮮人や支那人を煽動して内地人と争闘をなさしめ、そして官憲と地方人との乱闘内乱を起させ様と努めて居る許りでなく、多数罹災民の泣き叫ぶのを聞いて、彼等は革命歌を高唱して居るので、市民の激昂はその局に達して居る。」

 辛基秀『写真で語る「日韓併合」史』(1987年8月発行)で”No. 508 「自警団と死体」”裵昭『関東大震災朝鮮人虐殺―写真報告』(1988年10月発行)で「震災後も関東各地で自警団による虐殺が日常的に行われた。」との説明文が付された写真。
竹槍や日本刀、銃などで武装した民間人が自警団を結成し、朝鮮人(と彼らに間違われた中国人)を殺害し始めた。朝鮮人と誤解されて中国人が犠牲となった事件、沖縄・秋田・三重出身者が犠牲となった検見川事件や秋田出身者が犠牲となった妻沼町事件、香川出身一家9名が犠牲となった福田村事件など地方出身の日本内地人も殺された。また朝鮮人犠牲者以外にも社会主義や無政府主義の指導者を殺害した動きがあり、無政府主義者の大杉栄・伊藤野枝・大杉の6歳の甥橘宗一らが殺された甘粕事件、社会主義者10名が犠牲となった亀戸事件も起きた。

醸楽庵だより   1507号   白井一道

2020-09-01 12:39:07 | 随筆・小説


 
 安倍政権は何をしたか 3


 
 2020.9.1  ネチズン・カレッジより  加藤哲郎 一橋大学名誉教授

 アメリカ、ジョンズ・ホプキンス大学のデータでは、8月30日現在、新型コロナウィルスの感染認定者は世界全体で2481万2440人となっています。亡くなった人は83万8704人に上っています。感染者が最も多いのはアメリカで593万9591人、ブラジルが380万4803人、インドが346万3972人、ロシアが98万2573人、ペルーが62万9961人、亡くなった人が最も多いのはアメリカで18万2217人、ブラジルが11万9504人、メキシコが6万3146人、インドが6万2550人、イギリスが4万1585人です。
 イギリスBBCの表現を借りれば、「感染者が最初の10万人に達するには67日かかったが、次の10万人確認は11日、その次の10万人確認はわずか3日しかかからなかったのだ」。WHOのマーガレット・ハリス医師は、「私たちは今なお、加速を続ける激しい、そしてきわめて深刻なパンデミックのただなかにある」と話した。「世界のあらゆるコミュニティーでパンデミックは続いている」。「人間が密集すればウイルスは伝播する。この真実があるからこそ、いまパンデミックの震央になっている中南米の状況が説明できる。インドでの感染者急増も同様だ。香港が感染者を隔離施設に収容しているのもそのためだし、韓国当局が市民の銀行口座や携帯電話を監視しているのも同じだ。だからこそ、欧州各国やオーストラリアは、ロックダウン(都市封鎖)と感染封じ込めのバランスをいかにとるかで苦労している。そして私たちは、以前の日常生活に戻るよりは、「新しい普通」、「新しい日常」を模索しているのだ。「このウイルスは惑星のあちこちで広まっている。私たち一人ひとり、全員に影響している。人間から人間へと伝染し、私たちがみんな結びついてつながっていることを浮き彫りにしている」。ロンドン大学セントジョージ校(医学専門)のエリザベッタ・グロッペリ医師はこう言う。「旅行や移動だけでなく、一緒に話したり、一緒に時間を過ごしたりする。人間とはそういうものだ」。一緒に歌を歌う。ただそれだけの素朴な行動が、ウイルスを広めてしまう(BBCニュース、8月11日)ーー同じ島国でも、イギリスと日本の公共放送の報道の視角は、ずいぶん違うようです。インドでは、8月末に感染者がⅠ日8万人に達しました。日本でも「第二波」は、確実に起こっていました。経済再開を急ぐ政府が、認めたくないだけです。
 世界のパンデミックのさなかに、日本では、安倍晋三長期政権の終焉、国民にとっては大きな、自民党内ではなぜかいつもの、政局・政変です。「ようやく辞めた」というのが率直な印象ですが、病気を理由にした政権放り出しで、この8年近い「ファシズムの初期兆候」の残滓はあまりにも大きく、簡単に反転するとは思えません。外交・安全保障はもとより、内政の構造も、新型コロナウィルスよりずっと前から、「安倍ウィルス」に感染し、蔓延していました。まずはアベノミクス、金融・財政政策をテコに経済成長をめざし、デフレを終わらせ雇用・賃金も保障するとしましたが、非正規雇用だけが増えて格差は広がり、国際競争力も労働生産性も下がるばかりで、トリクルダウン効果はあがりませんでした。消費税を選挙の道具にし、原発再稼働から原発輸出までを推進し、挫折しました。集団的自衛権を認めて新安保法を強行し、森友学園・加計学園・桜を見る会・黒川検事長定年延長問題、河合前法相夫妻公選法違反事件など「権力の腐敗」「政権の私物化」としかいいようのない不祥事が続き、ついには、公文書までが隠蔽され、改竄されました。マスコミの中に「アベ友」をつくり、テレビ番組からSNSにまで批判言論つぶしの監視を進めました。最期まで東京オリンピック開催にこだわり、緊急医療資源にまわすべき膨大な財源が費やされました。かけ声だけの「安倍外交」は、拉致問題もロシア領土交渉も暗誦にのりあげ、中国・韓国との関係もぎくしゃくして、アメリカのトランプ大統領から高価な兵器を買わされるだけでした。核廃絶にも沖縄米軍基地問題にも、むきあおうとはしませんでした。
 本サイトは、日本の新型コロナウィルス対策失敗の大きな要因を、安倍内閣「健康・医療戦略」に求めてきました。アベノミスクの第三の矢「成長戦略」の一環で、ガン特効薬やゲノム解析に投資して「高度先進医療」技術を海外輸出し、他方で医療費削減・病院再編の効率化、保健所やベッド数削減を進めてきました。2009年の新型インフルエンザのパンデミックに対して、ちょうど自公政権から民主党政権への政権交代期にあたり、感染症「専門家」が医療器材の備蓄やPCR検査の拡大等も提言しましたが、第二次安倍内閣が「悪夢の民主党政権」を全否定して、先進国では最低レベルの貧困な装備・人員で、2020年の新型コロナウィルス・パンデミックに遭遇することになりました。そのツケが、中国武漢での蔓延からクルーズ船「ゴールデン・プリンセス号」封じ込めの初動の不手際から、PCR検査の絶対的不足、医療崩壊寸前までいった院内感染・受入病院の経営圧迫、休業補償を伴わない自粛・休業要請、果ては「アベノマスク」からステイホーム動画、感染拡大下のGOTOトラベル・キャンペーンのような愚策を産み出してきました。一方で病院・保健所・ベッド数を削減し、他方で後手後手の感染症対策ばかりの、「安倍ウィルス」に汚染された「健康・医療戦略」が改められない限り、日本の「経済成長」主導のコロナ対策は続きます。安倍首相がいなくなっても、「安倍ウィルス」に汚染された官邸官僚主導政治、権力私物化の構造、国会無視の自民党「一強政治」が継続される限り、私たちは「コロナウィルス」と「安倍ウィルス」に対する、二重の感染対策を求められます。



醸楽庵だより   1506号   白井一道

2020-08-31 15:17:22 | 随筆・小説



   安倍政権は何をしたか 2

 
 「法の支配から人の支配へ」

 「Choose Life Project」の動画、「7年8カ月、安倍政権とは何だったのか」。この動画の中で弁護士の亀石倫子さんは「法の支配」ではなく「人の支配」する政治を行ったと発言していた。弁護士さんは物事の本質を言い当てている。その通りだと思った。「人の支配」を打倒し、「法の支配」を打ち立てた出来事がフランス革命だった。神から授けられた王権は絶対的なものだというのが絶対王朝ブルボン朝の政治体制だった。この独裁政治体制を倒し、「人の支配」から「法の支配」を実現すべく、創り出されたものが憲法だった。憲法に則って行われる政治体制が民主政治というものだった。
 民主政治を破壊し、独裁政治を行ったのが安倍政治だった。このよう私は理解した。独裁政治とは政治を私物化することである。安倍政治は政治を私物化した。私物化された政治が独裁政治だ。安倍政権は政治を私物化しているのでその政治は独裁政治である。そのような独裁政治を可能としたものが長期政権だった。戦後政治において、政権が独裁化すると国民からの厳しい反撃に合い、政権は倒れた。多数者の支持を得て、政権を持った者は絶えず政治を独裁化する可能性があるので、その可能性を事前に取り除くのが民主政治というものだ。安倍一強と言われていた。ただマスコミがそう言っただけだ。それほど安倍政権が国民大衆から絶大な支持を得ていたというわけではない。ただ選挙に負けなかっただけである。民主党政権時の自民党の支持率を維持していただけである。野党の支持率が自民党の支持率を上回ることがなかっただけである。
 小選挙区制度の上に胡坐をかいて、低支持率の上に好きな事をしたのが安倍政治だった。このような政治が国民から見放されることは間違いない。野党の協力態勢が整い、自民党の政治ではない、もう一つの選択肢として野党の政治を国民が望むようになるなら、自民党は政権を失うことになるだろう。
 自民党の政治基盤を支えていた人々は社会党を支えていた政治基盤を破壊することによって、民主政治を破壊する安倍政治を創りあげた。55年政治体制を崩壊させ、その成果としての自民党一党独裁体制としての安倍政治は「風をだに待つ程もなき徒花は枝にかかれる春の淡雪」として消えていった。

醸楽庵だより   1505号   白井一道

2020-08-30 11:35:16 | 随筆・小説


 
 安倍政権は何をしたか

 
「戦後レジームからの脱却」とは何を意味したか

 安倍晋三首相(当時)は第1次内閣期(2006年9月〜07年9月)に、「戦後レジーム」を「憲法を頂点とした、行政システム、教育、経済、雇用、国と地方の関係、外交・安全保障などの基本的枠組み」と定義しました(06年12月)。「戦後レジームからの脱却」には、大きく分けて2つの意味があります。
第1は、1960年代の高度経済成長期に自由民主党政権みずからが確立した雇用制度(終身雇用など)・社会保障制度(生活保護・国民皆年金・国民皆医療保険など)・農業のしくみ(家族経営の自作農の保護)・税制(所得税・法人税を基軸とする)・貿易のありかた(国内産業の保護)・地方自治(都道府県制度)などを解体し、多国籍企業に有利なように、非正規があたりまえの雇用制度、社会保障の緊縮、企業主体の農業、法人税減税と消費税増税、徹底した自由貿易、道州制などを確立することです。一言でいえば、新自由主義的な経済社会体制にすることです。その目的は、地域の中小自営業者・農民やサラリーマンを基盤とする戦後型保守政治を大都市の多国籍企業・金融資産家を基盤とする保守政治に再編することにあります。
 第2の意味は、ポツダム宣言(1945年7月)と日本国憲法(47年5月施行)に基づく戦後日本国家、つまり植民地をもたず、軍隊をもたず、市民的自由と民主主義を基本とする政治体制を解体することです。めざすのは、日米安全保障条約(52年4月発効、60年6月改定)を根拠とする日米軍事同盟をグローバル化して、「日本軍」がアメリカに従属しつつ国内でも海外でも制約なしに武力行使できるように、憲法を改悪し、国家秘密保護法や集団的自衛権の行使容認の法体系等を整備することです。また国家主義的な教育政策や靖国神社公式参拝、植民地侵略・軍慰安婦問題のあいまい化をとおして<戦争する国>を国民が支持する体制を構築することです。
 ただし、「戦後レジームからの脱却」と言っても、安倍氏らにはサンフランシスコ平和条約・安保条約を破棄して戦前の大日本帝国に戻ろうという意図はありません。安倍氏らの目的は、アメリカの軍事覇権に従属しつつ「日本軍」がグローバルに武力行使することで、日本の多国籍企業がグローバルに資本蓄積できる体制(現代的帝国主義)を確立することにあるからです。しかしこのような政治体制は、勤労者・地域諸階層からの批判、非軍事と民主主義を求める市民からの批判、植民地侵略への反省と謝罪を求めるアジア諸国民や欧米諸国民からの批判にさらされざるをえません。(進藤 兵)

 第二次安倍政権は7年半の長期政権ではあったが、「戦後レジームからの脱却」はできなかった。憲法を改正し、自衛隊を軍隊にすることはできなかった。




醸楽庵だより   1504号   白井一道

2020-08-29 16:08:38 | 随筆・小説



  命なりわづかの笠の下涼み  芭蕉



句郎 1676年、延宝4年、33歳になった芭蕉
は故郷伊賀上野を目指して東海道を下っていた。
 静岡県掛川市佐夜の中山峠にさしかかった。芭蕉は西行の歌が自然と胸に沸き起こって来た。
華女 西行は佐夜の中山で詠んでいる歌があったわね。句郎君、覚えているかしら。
句郎 勿論、覚えているよ。「年たけてまた越ゆべしと思ひきや命なりけり佐夜の中山」だったかな。
華女 こんな年になってまた「佐夜の中山」の峠道を越えることがあるなんてと感慨にふけっているのよね。命があってこそのことだ。「佐夜の中山」の峠道を今越えようとしていると思いを深くしているのよね。
句郎 佐夜の中山と言われた峠は東海道の難所の一つとして詠われてきたところのようだからね。箱根の峠や鈴鹿峠と並んで、東海道の三大難所の一つに数えられていたところだったからな。
華女 「佐夜の中山」は歌枕になっている所ね。「東路のさやのなか山なかなかになにしか人を思ひそめけん」と紀友則の歌が『古今集』にあるわね。どうして私はあの人が気になりだし、好きになってしまったのかなと気持ちを詠った歌ね。
句郎 「佐夜の中山」は東海道の難所として数多くの歌人に詠み継がれてきた歌枕だった。その歌枕になっている「佐夜の中山」を通り過ぎようとしていた芭蕉の心には今いる場所に刺激されて一句を詠みたいという強い思いが込み上げてきたという事なのだろうと思う。
華女 歌枕の場所にいるだけで感動するという事があったということなのね。
句郎 そういうことは今でもあるように思うな。日光の華厳の滝に行くとそこに立っている「巌頭之感」という碑を見て明治に生きた青年の思い、生きる悩みの深さのようなものに感慨を持つと思う。
華女 「巌頭之感」よね。私も高校生の頃、英語の先生から聞いたことがあるわ。
  巌頭之感
悠々たる哉天壤、遼々たる哉古今、五尺の小躯を以て此大をはからむとす。ホレーショの哲學竟に何等のオーソリチィーを價するものぞ。萬有の眞相は唯だ一言にして悉す、曰く、「不可解」。我この恨を懐いて煩悶、終に死を決するに至る。既に巌頭に立つに及んで、胸中何等の不安あるなし。始めて知る、大なる悲觀は大なる樂觀に一致するを。
 これが「巌頭之感」のすべてよね。藤村操が自殺した華厳の滝が自殺の名所になったという話を聞いたことがあるわ。
句郎 土地、場所に宿る地霊というものがあるように歌が詠まれ、人々に歌い継がれていくとそのような場所が歌枕となのだと思う。「佐夜の中山」にやって来た芭蕉はこの場所にいるだけで感動していた。その結果、詠まれた句が「命なりわづかの笠の下涼み」だった。
華女 「年たけてまた越ゆべしと思ひきや命なりけり佐夜の中山」と詠んだ西行の歌の「命なりけり」という言葉から「命なり」の言葉をいただき、句を詠んだということなのね。
句郎 猛暑だったのだと思うな。笠によって遮られた日影に命を感じたのではないかと思う。
華女 佐夜の中山が実際、どのような場所であったのか、分からないけれども木陰など何もない一本道だったのかもしれないわね。笠に遮られた僅かな日影に命が休まるような涼しさを感じたということなのよね。
句郎 厳しい労働を強いられた労働者が炎天下に体を休めていると一筋の風が吹き抜けていった。その一筋の風に安らぎを覚えたというような話をキリスト教会で聞いた。その風に神の存在があるという話に展開していったが、その一筋の風に命を感じるという気持ちは分かる。
華女 「下涼み」という言葉が季語になっているのよね。この「下涼み」という季語を十二分に表現している句だと私は思うわ。
句郎 ほんの僅かな涼しさに命の輝きがあるということかな。
華女 人間は僅かなものに心が集中するとそこに自分がいることに満足するのかもしれないわ。
句郎 誰でも「足る」を知ることが今の自分を肯定的に受け入れることができるように思うからな。
華女 確かにそうなのよ。小さなことであってもそこに満足感が得られることがだいじなのよ。
句郎 笠の下の涼しさに命の有難さかな。

醸楽庵だより   1503号   白井一道

2020-08-28 14:45:02 | 随筆・小説



   核兵器禁止条約を批准しない日本とは



侘助 核兵器禁止条約が2017年に国連で採択されたにもかかわらず世界で唯一の戦争被爆国である日本はこの条約交渉にも参加せず、この条約締結国になろうともしなかった。
呑助 広島・長崎の両市長や被爆者団体などは、日本政府に核兵器禁止条約加入を繰り返し求めているのじゃないですか。
侘助 そのようだ。けれども頑として日本政府は核兵器禁止条約に加わろうとはしていない。
呑助 なぜなのですかね。核兵器が非人道的な兵器であることが分かっていないと言う事なのでしようかね。
侘助 戦争そのものが非人道的な出来事であるという認識が日本政府にはないということなのかもしれない。
呑助 地雷にしろ爆弾にしろすべて人間を殺す武器である以上非人道的なものでしようが、核兵器は決定的に大きな被害を何年にもわたって残す究極の兵器ですよね。そのような兵器の廃絶を実現しようという国際条約に日本が加わらないということが理解できませんね。
侘助 日本政府は「米国の核抑止力が日本の安全保障に不可欠」だから核兵器禁止条約には加わらないと言っている。
呑助 「米国の核抑止力」とは、具体的にどのようなことを意味しているのですかね。
侘助 日本を再び核攻撃しようとしても駄目だよ。日本を核攻撃しようとしても日本には米国が付いている。日本を核攻撃したら米国の核反撃があるぞと、言う事が核抑止力ということのようだ。
呑助 アメリカ政府と日本政府は一体化している。アメリカの核の恐怖によって日本は平和を守っているということですか。日米安全保障条約というのは日米軍事同盟なのでしようか。
侘助 日米安保条約は軍事同盟そのもののだと思うな。軍事同盟と言うと前時代的なことのように思うけれども実質的にはそうなっているようだ。
呑助 そのような軍事同盟によって平和を守るというのは古い考えのように思いますね。今だったら世界中の国々と平和友好条約を結び、仲良くしていこうというのがお金もかからないし、安全のように思いますね。
侘助 世界には核保有国があるからね。1968年の核不拡散条約(NPT)が結ばれ、米ロ英仏中5カ国の核保有を認めあっているからね。更にイスラエル、インド、パキスタンは核兵器を保有し、北朝鮮が核兵器を持とうとしているとアメリカ政府や日本政府は考えているようだからね。 
呑助 イランも核兵器を持とうとしているとアメリカ政府や日本政府は考えているようじゃないですか。
侘助 核兵器を所有することが自国の平和と安全を維持することになると言うような状況があるということだと思う。
呑助 もし本当にそのような状況があるとしたら、核兵器禁止条約を結ぶ国が増え、国連加盟国すべてが核兵器禁止条約に加盟すれば世界平和が実現するように思いますね。
侘助 確かにそうだと思うな。核兵器は破滅的な結末をもたらす非人道的な兵器であり、国連憲章、国際法、国際人道法、国際人権法に反するものであると断罪している。核兵器に「悪の烙印」を押したのが核兵器禁止条約だ。核兵器はいまや不道徳であるだけでなく、歴史上初めて明文上も違法なものだと言っている。この条約は核兵器の開発、生産、実験、製造、取得、保有、貯蔵、使用とその威嚇にいたるまで、核兵器に関わるあらゆる活動を禁止し、「抜け穴」を許していない。核保有国の条約への参加の道を規定するなど核兵器完全廃絶への枠組みを示し、同時に、被爆者や核実験被害者への援助を行う責任も明記され、被爆国、被害国の国民の切望に応えるものになっているようだ。このように、核兵器禁止条約は、被爆者とともに私たち日本国民が長年にわたり熱望してきた核兵器完全廃絶につながる画期的なものである。条約調印国はアジア、ヨーロッパ、中南米、アフリカ、太平洋諸国の 84か国。批准国は44か国となり、発効に必要な条件(50か国)まで残り6か国となっている。アメリカの「核の傘」に安全保障を委ねている日本政府は、核兵器禁止条約に背を向け続けている。こうした態度をただちに改め、被爆国として核兵器全面禁止のために核兵器禁止条約に調印、批准することを望みたい。

醸楽庵だより   1502号   白井一道

2020-08-27 12:04:00 | 随筆・小説



  政治は選挙だ



侘助 立憲民主党の大串博志議員が「政治は選挙だ」とデモクラシータイムスの番組の中で発言していた。「政治は選挙だ」という言葉は何を言っているのかな。
呑助 「猿は木から落ちても猿だが、代議士は選挙 に落ちればただの人だ」と昔、言った自民党政治家がいましたね。
侘助 大野伴睦かな。典型的な党人政治家として名をなした人だった。「伴ちゃん」が愛称で、「政治は義理と人情だ」とも言った有名な政治家だった。
呑助 政治体制が五十五年体制と言われた頃の自民党には党人派と言われた政治家と官僚派と言われた政治家がいましたね。大野伴睦は代表的な党人政治家だったように思いますね。
侘助 党人政治家の代表と言えば、田中角栄だろうか。庶民宰相と言われていたように、昔の自民党政治家というと大人の風格があったように思うね。
呑助 庶民の要求を体現するような政治家が今はいなくなってしまったように思いますね。埼玉を代表する庶民政治家と言うと荒船清十郎がいましたね。圧倒的な人気がありましたよ。演説会場に行くと住民の熱気が感じられました。演説に飽きることがありませんでしたね。面白かったですね。
侘助 深谷駅問題が印象に残っているな。1966年(昭和41年)のことだ。第1次佐藤内閣の第2次改造内閣の運輸相に荒船清十郎は抜擢され、10月1日からの国鉄ダイヤ改正に際して、自分の選挙区にあった深谷駅に急行を停車させるよう圧力を加えた。この問題が表面化した9月、荒舩は自宅で新聞記者に「私のいうことを国鉄が一つぐらい聞いてくれても、いいじゃあないか」と発言した。同じ9月参議院運輸委員会でこの問題が取り上げられ、石田礼助国鉄総裁は「いままでいろいろ御希望があったのだが、それを拒絶した手前、一つくらいはよかろうということで、これは私は心底から言えば武士の情けというかね」と答弁した。庶民のわがままを通した。だから庶民の人気を博した。
呑助 問題だとは思っても許しちゃうようなキャメッケがあったということですか。
侘助 荒船清十郎のような政治家の存在を許す有権者がいた。こうした有権者が荒船清十郎という政治家を創りあげた。選挙には圧倒的な強さがあった。
呑助 安倍晋三氏も荒船清十郎と同じような事をしているように思いますが、荒船清十郎は許せても、安倍晋三氏は許せない。そんな気持ちが日本国民にはあるように思いますね。
侘助 国有地を破格の値段で売却しようとした森友学園問題にしても、加計学園を優遇するような学科の増設を許した問題、「桜を見る会」に自分の後援会会員を公費で招いた問題、すべて許せない。これが国民の気持ちのように思う。
呑助 シャーシャーとしている顔が許せない。そんな気持ちに庶民はなるのじゃないですかね。俺たちは毎日毎日厳しく、厳しく働かせられているのに、何だという気持ちですよ。
侘助 田中角栄の一番弟子を任じている小沢一郎氏が言っているように今度の衆議院選挙で自民党は大きな敗北を喫し、政権交代が起きるのもしれませんよ。
呑助 そうですかね。今は昔の自民党政権の中枢にいた小沢一郎氏がそう言うのだったら、もしかしたら自民党は政権を失うのかもしれませんね。政治は選挙によって決まるということですか。
侘助 そう、結局は国民がその国の政治の在り方を決定している。国民の支持を失った政党は政権を失う。基本的にはそうであっても現実には選挙に参加する有権者が少ないため、低投票率、小選挙区制のため、自民党が相対的に有利になることがある。そのため自民党の政権が続くことがあるかもしれないが、国民の政治への興味関心が高まり、投票率が高まると必然的に自民党は議席を失うことがあるように思う。
呑助 自民党は国民の政治への興味関心が高まるのが恐ろしいということになりますね。
侘助 自民党は政権を民主党に奪われたときを反省し、メディアが自民党政権を厳しく見ることを止めさせるような措置を取っているようだ。
呑助 そのせいでしょうかね。特にテレビでは政治的中正な報道が求められているようですね。
侘助 「桜を見る会」に安倍後援会会員を招待している事実を報道することに政治的中正など無いよ。