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高田祟史さん『毒草師 白蛇の洗礼』

2008-08-01 00:49:41 | 読書
不可解な事件の真相と
歴史学や民俗学上の謎を同時に解明する『QED』シリーズで知られる
高田祟史さんの最新作『毒草師 白蛇の洗礼』
毒草師・御名形史紋が登場する<毒草師シリーズ>の第2作です。



ぼく(主人公・西田真規)の周りでは、幼いころから不可解な出来事が起きていた

一緒に登山に行った祖父が蛇毒で死に、
幼稚園の食中毒騒動では、一緒にご飯を食べたのにぼくだけが助かった。


そして現在―

医薬品業界向けの出版社に勤務しているぼくは
先日発生した、茶道家・大澤祐二が正体不明の毒物で変死した事件を調べるため
被害者の関係者が開く茶道教室に申しこむハメになった。

しぶしぶ茶道教室に向かったのだが
そこで、美人で上品でしとやかで優しい女性―神凪百合と出会う。

じつは、彼女は先日起きた変死事件の現場にいた一人であり
彼女の周りでも、小さい頃から不可解な事件が起きていたのだが、
そんなことは露知らず
その日から、ぼくは時間を見つけては茶道のテキストを読むようになった

ある日、稽古の帰り道で、ぼくは道で男が倒れているのを見つけた。
彼は息も絶え絶えに、吐血した血で地面に(漢字の十のような)模様を書き
「……ひ……ゆ……」
と呟いたまま、息を引き取った

その男こそ先日死亡した大澤祐二の兄・徹太だった

犯人の狙いは何なのか

一門のお茶会に誘われ、不安に駆られたぼくはマンションの隣人を訪ねる
彼の名は御名形史紋―
毒物師と称し、古今東西の毒薬に精通した男だ



謎の毒殺事件と千利休の死。
二つの謎に傲岸不遜な探偵・御名形史紋が挑む珠玉のエンターテイメント作品です。


殺人事件に、千利休や毒物のエピソード
さらに「宗教は人を救えるのか」という深遠なテーマに加えて、
西田と神凪の恋の行方

どれもそれだけで一冊の本になりそうな題材を豊富に詰め込んだにもかかわらず、
わずか300ページとコンパクトにまとまっています。
しかもどのテーマについても魅力的に描き、キチンと決着を付けている点もすごいと思いました。

この小説が扱う様々な題材の中でも、変死事件の真相と並ぶほどに重要なのが
千利休の死の真相と「利休=キリシタン説」。

これらについて、西田をはじめとする登場人物たちは、

桑田忠親や研究家の説を土台にしながら独自の推理を働かせます。

それ自体、そして結論の当否はひとまず別として、
歴史上の謎についてあれこれ推理することの面白さが存分に伝わってきます。


また、茶道初心者の西田の視点で語られるので、
基礎的な知識は西田と一緒に学ぶことができます。
そのため、利休についてあまり興味のない方でも難なく読めるようになっている点にも好感が持てました



御名形史紋については

白い整った顔立ちと長い髪、
黒いスラックスに白い麻のシャツ、それに真紅の靴下
そして口を開けば、傲岸不遜・驕慢尊大な態度

という見た目から、どんな奇抜な行動をするのかと楽しみにしていたのですが、
西田に対してもそれなりの節度を持って接するなど、思いのほか好人物であることも判明します。
(少なくとも、奇人変人がそろった名探偵の中では、標準的な部類に属すると思います。)
この点は、少々驚きましたが
本書全体のバランスからすると、この位の変人度にしておいたほうがよいかなと思いました



「蘭奢待」とか『オシリス』などマニアックな会話がもりだくさんなので
どなたにもおススメはできませんが
『へうげもの』を読んでいる方や、渋沢龍彦や種村季弘などが好きな方であればきっと楽しめる作品だと思います

なお、
本書が独自に主張していると思われる「利休=キリシタン」の根拠を
他の同時代人に当てはめてみると
真田幸隆・幸村、結城秀康、松平清康などが
隠れキリシタン(?)と判明いたしました。
(真田信之・昌幸、宇喜多秀家、徳川家康は違います←わかりますか?)


この本を読み終え、しかも、お時間のある方には
本書の法則にしたがって隠れキリシタン(?)を探してみることもおススメします