Dr. 讃井の集中治療のススメ

集中治療+αの話題をつれづれに

口頭試問シミュレーションで教え、学ぶ

2012-08-30 14:18:12 | 麻酔

有志で集まって週二回朝7時から1時間、麻酔科専門医試験口頭試問のシュミレーショントレーニングを行っています。

とても楽しいです。

なぜか。

1. まず、知識の復習になるからです。

自分の知識がいかにあやふやか、再認識します。 米国レジデント時代に、コロンビア出身のチーフレジデントが朝のカンファレンスで、「悪性高熱症」の病態、発生頻度、診断、治療、疑った場合にどこに連絡して筋生検の準備をするかどうか、までよどみなく述べたときには、驚きました。 また、パキスタン系米国人の後輩レジデントが、麻酔科研修3ヶ月目で(3ヶ月目ですよ)、「シスアトラクリウム」という筋弛緩薬の薬理学、臨床使用法、適応について完璧に述べたのも思い出しました。 彼らのオーラル・プレゼン力は凄いなあ、さすが口で勝負する国、説得力あると感心しました(数字を正確に覚えて伝えるのですよね、だから説得力が出る)。

同時に、当然のことながら自分のオーラル・プレゼン力のなさを反省したわけですが、すぐに気づいたのは、「これはまず知識の問題であって、英語の問題でない」ということでした。実際、多くの場合これが当てはまり、さらに言えば「英語力の不足を知識でカバー」すれば、どんなに下手な英語でも「それなりに」通じると知りました。

正確な知識、これが必要です。朝の口頭試問のシュミレーションを終えたあと、なるべく早くこの自分のあやふやな知識を調べて、その日のうちに有志にメールで補足しています。

 

2. 日本の臨床麻酔の現状(メインストリーム)を実感することができるからです。

集中治療専属で週1回アルバイトで自分の好きなように麻酔をするだけの身にとっては(ちなみに好きな麻酔は、安くて、すぐ醒めて、覚醒時に痛みがない麻酔)、日本の臨床麻酔の現状を知る機会は多くありません。近年、日本でも複数の麻酔関連薬が発売されるようになりましたが、新しい薬について若いレジデントに臨床的な使用感を聞いてみたり、実際にいろいろな場面でどういう麻酔をするのか知るよい機会になります。日本で新しい薬と言っても実際に米国で使ったことがあるものが多いのですが、そのときの自分が持っていた印象が彼らのそれとは違うことに驚くこともあります。

これらの新しい薬の適応の問題、薬剤コストの問題などはさておき、麻酔がどんどん簡単になっていく歴史を肌で知ることができます。思い返せば、僕らが麻酔を始めた頃はセボフルランとベクロウムが広まりはじめて間もない頃だったのですが、当時先輩の先生方が「ハロセン」「エンフルレン」「パンクロニウム」「d−ツボクラリン」(人によっては「エーテル」)の難しさを面白おかしく語ってくれたのを思い出します。今やイソフルランすら使用したことがない若い麻酔科医が増え、今後はデスフルランしか使用したことがない若い麻酔科医が増えるかもしれませんね(ちなみに、米国ではデスフルランが先発でセボフルランが後発。セボの気道刺激性のなさをみんなありがたがっていました。現在の米国では、噂ですが、デス、セボ、イソが同程度のシェアを占めると聞きました)。

しかし、「麻酔が簡単になっていく歴史」は、大局に立てば、外科系医療の歴史と言えるでしょう。すなわち、一部の特殊技術者による治療が一般化されていく過程の一つなわけで、あらがいようもないというか、簡単になるのはいいことです。

 

3. どういう質問が良い質問か、勉強する良い機会になるからです。

回答者が設問のキーとなる答えを答えてくれなかった場合、どのように誘導するか練習になります。回答者に答えてほしいこと、つまり「これを答えれば他がだめでも合格点だが、他が完璧でもこれを答えてくれなかった」ために、合格点を与えられない、という「この設問の意図」というか「キー・アンサー」がありますよね。 これは、ICUのベッドサイドティーチングラウンドでレジデント自身にどう気づいてもらうか、のとてもよい練習になっています。

答えを自分で言ってしまわずにいかに回答者に言わせるか、は難しい。途中でイライラすることもありますし(いかんですねー)、「まるで「連想ゲーム」「ぴったしカンカン」か(古い!)と思うこともあります。

立場は変わって、このような臨床シュミレーション・ディスカッションは、回答者である若いレジデントにとっても、単に試験のためではなく、目の前の患者さんを救うための良いトレーニングであると信じています。「これが思い浮かび、やれば、他がいい加減でも患者は助かるが、他が完璧でもこれが思い浮かばずに、やらなかったために患者の状態が悪くなる」ことってありますよね。急性期医療には「勘の良さ」良い意味での「要領の良さ」が求められると信じています。

こんな感じで自分がまず楽しんでいるのが現状です(自己満足なだけだったりして)。

 

ついでに、これから試験を受けるひとにアドバイズを思いつくままに。

1. 振り出しに戻す

答えているうちに、あらぬ方向に行き、試験官が予想、期待するストーリーからどんどんずれていくことがあります。試験官は、前述のように「正解を言ってもらおう」としますから、回答者の回答にさらに質問をして修正しようと努力します。しかし、ときに回答者が気づくのが遅れると、「模擬患者」の状態がどんどん悪い方向に行ってしまい、取り返しのつかない状態になっていることがあります。そんなときには、気づいたらこだわりを捨てて、「そうすることもありますが.....」とか何とかごまかして(あるいは「もとい」と宣言して)潔く振り出しに戻してしてまうのも一法です。

 

2. 全体としての印象をよくすることを考える

3. あやふやな知識は使わない。

不得意な分野は最低限のことしか発言せずにボロを出さないようにしたほうがいいでしょうね。不得意分野であやふやな知識を「知ったかぶって」言うと、どうしても「コイツ本当に知っているのだろうか」と試験官は突っ込みたくなるものです(私が意地悪なだけかも)。 用語そのものが頭に浮かばないことがあります(逆に言うと、求められている用語、すなわちキーワードさえ言えればしめたもので、一気に印象が良くなるでしょう)。そのときは、あきらめずになんとか「自分がわかっていて普段の臨床ではできている」ということが試験官に十分伝わるようにあがく必要もあるでしょう。

逆に自分の得意分野にはまれば、「XXの管理を行います。なぜなら、〇〇年のNew England Journal of Medicineに掲載されたXXらの大規模RCTによれば〇〇により生存率がXX%改善し、その効果は確認されていますので」とか、「質の高い研究がほとんどないので臨床的な有効性は依然として不明ですが、理論的には(生理学的には、後ろ向きの観察研究結果から、薬理学的には、などなんでも入るでしょう)〇〇と考えられるので、XXの管理をおこないます」とか、試験官が「ああ、わかった、わかった、よく勉強してるね」というサインを出すまで、滔々と述べればよいでしょう。

もう少しですね。まじめな若いみなさまには、是非合格してもらいたいものです。