JMのバレーボール観戦記

テレビのバレーボール解説では触れられない戦術面や選手個人の特徴について、「全員応援」の立場から語ります。

左利きはレフト打ちが苦手なのか?

2012-09-14 23:14:31 | 用語解説
現在S1対策について連載中ですが、やはりS1が危機になるかどうかは左利きライトがどのくらいレフトから打てるかによります。

そこで、左利きは本当にレフト打ちが苦手なのか、考えてみましょう。

・左利きレフトの存在
実は、左利きでレフトを専門とするアタッカーもいます。例えば、イラン男子のガエミ選手、セルビア男子のウロシュ・コバチェビッチ選手、カザフスタン女子のザイツェワ選手などです。コバチェビッチ選手は、全く何の違和感もなくレフトから強いスパイクを打っていきます。ガエミ選手は、左肩がネットに入っても大丈夫なように、やや長い助走を取ってボールを切っていきます。ザイツェワ選手は、素人がそのまま代表選手に登り詰めたような、本当におかしな助走とジャンプで、非常識な打ち方をします。WGP2008の日本戦で、ザイツェワ選手は被ブロック0でした。それだけ癖のある動きでした。このように、個性はそれぞれですが、左利きレフトが代表レベルにいる事実は変わりません。

・右利きライトの存在
左利きのレフト打ちは、基本的には右利きのライト打ちと変わりません。そして、右利きライトは世界にわんさかいます。ロンドンの男女決勝ではライトは全員右利きでした(ロシア男子のミハイロフ選手とムセルスキー選手、ブラジル男子のウォレス選手、ブラジル女子のシェイラ選手、アメリカ女子のフッカー選手)。ということは、左利きのレフト打ちが下手と決めつけるのは早急ですね。

・S1のレフト打ちが上手い左利きライトの存在
山本隆弘選手は左利きですが、重心が崩れた2012年より前はレフト打ちも上手でした。

・ブロード助走
左利きの選手は、ブロード助走は左方向になります。左利きのブロードは、大林素子選手がライトからレフトまで走る素子スペシャルが有名ですが、そんなに派手なことを考えなくても、左利きレフトが毎回左方向にブロードして打っていくのも可能なはずです。ちょうど山口舞選手の鏡像関係ですね。女子チームなら十分通用すると思います。

このように考えると、左利きがレフト打ちを嫌がるのは、単に練習不足なのではないでしょうか。確かに、S1はたった1ローテで、しかも相手サーブ時のみで問題となります。しかし、ここで連続失点があるのは目に見えているので、是非世界のいろいろなチームの左利きライトの選手にレフト打ちもマスターしてもらい、よりランクの高い試合を見せてもらいたいですね。

S1対策 韓国女子の場合

2012-09-14 21:54:19 | 用語解説
韓国女子は、世界的には珍しくフロントオーダーを敷いています。そのため、ライト前衛のローテは次のようになります。

S1
-----
R L C
C L S

S6
-----
C R L
L S C

S5
-----
L C R
S C L

レフトとライトが入れ替わるローテがS1とS6の2つもあります。

・問題点
ライトのキムヒジン選手はセンター出身で、レフト打ちが苦手です。そのため、キムヒジン選手がレフトに取り残された場合、かなり厳しくなります。また、同じくライトのファンヨンジュ選手は左利きなので、同様にレフト打ちは苦手です。さらに、フロントオーダーでライトとレフトが入れ替わるローテを2回も作っていて、まさに二重苦です。

・解決策1 ライトはサーブレシーブせず、ライトにダッシュして戻る
一番まともな解決策ですね。キムヒジン選手は右利きのセンター出身なので、左端から右端までダッシュすればブロードで楽に打てます。ファンヨンジュ選手は左利きなので本来は左端から右端に走って打つのは苦手のはず。なのに、なぜかファンヨンジュ選手はこれを楽々とやってのけます。また、ファンヨンジュ選手とセッターのキムサネ選手とのコンビは良くて、ライトの端まで走ったり1m内側で止まったり、かなり凝ったことをしています。

・解決策2 レフトはレフトに戻らずロングBセミを打つ
レフトの選手はサーブレシーブに参加するので、なかなかレフトまで戻れません。そのため、ロングBセミまで戻ります。その際、センターはBクイックに入っているので、センターのBクイックとレフトのロングBセミで時間差の効果を出せます。また、このレフトによるロングBセミもタイミングや場所が多様で、さらにセンターのBクイックの背後から出てくる感じなので、なかなかブロックできません。

このように、韓国女子は本当に変則的な動きでライトとレフトの位置を毎回修正していきます。このため、前衛がごちゃごちゃ動きます。しかし、実はこのごちゃごちゃした動きがブロックの的を絞らせません。このごちゃごちゃした動きの回数を増やすことが、フロントオーダーの理由なのでしょう。まさにピンチをチャンスに変える発想です。

ただ、ライトが左端から右端まで走る動線上にサーブを落とされると、ライトが立ち往生してしまい、攻撃が単調化します。実際韓国女子は弱いチームですから、参考にすべきかどうかは疑わしいです。

S1対策 全日本男子の場合

2012-09-14 14:24:50 | 用語解説
全日本男子のS1は、全日本女子とは別の理由でかなり厳しいローテとなります。それは、ライトに入る左利きのスーパーエースの選手がレフトから打たなければならないからです。

・S1の問題点
スーパーエースの清水邦広選手は、左利きでレフト打ちが苦手です。また、ライトから打たなければならないレフトの選手は、高さが足りません。そのため、どちらのサイドに上げても、なかなか決められません。清水邦広選手はセンターに切り込んだりBクイックに入ったりできないため、ダブルクイック囮のバックレフトというコンビもできません。

・解決策1

とまで書いて愕然とするのですが、監督が監督なだけに、解決策って何もないんですよね。S1は「気持ち」とか「切り替え」とか「滝壺修行」では解決できない問題です。いくら「切り替え」ても、コート上で前衛のレフトとライトが入れ替わっている状況は変わらないのです。

海外の強豪男子チームでも、同様S1が回らない問題はありますが、全日本男子のふがいなさはワンランク上ですね。工夫もなければ、基本的な技術の向上もありません。

特に、清水邦広選手のレフト打ちの技術は、本当に良くありません。一般的に見て、確かに左利きの選手はレフト打ちが苦手と言えるのかも知れません。それは努力で何とかなるものなのでしょうか。この点について、次の記事で検証します。

全日本男子では、2人のレフトとリベロがサーブレシーブをするので、清水邦広選手はサーブレシーブ免除です。そのため、あくまでも一例ですが、サーブが打たれた瞬間に前衛センターとスイッチし、センターがBクイック、清水邦広選手がCクイック、前衛レフトが右端でサーブレシーブした流れでライトセミ、後衛レフトが左端でサーブレシーブをした流れでバックレフト、というコンビも考えられます。また、清水邦広選手が中央よりに構えてから、レフトの端まで斜めに走る助走も考えられるはず。こういった工夫と、基礎的な技術向上で、全日本男子のS1が改善されることを期待しています。

S1対策 全日本女子2012OQTの場合

2012-09-14 01:41:25 | 用語解説
前回記事では、S1ローテの連続失点を解説しました。では全日本女子のS1対策を見ていきましょう。

・S1の問題点
S1で前衛がRCLとなった時、Rには山口舞選手、Lには表レフトの木村沙織選手がいます。山口舞選手はライトですがもともとはセンタープレイヤーですので、クイックとブロードが命です。そんな山口舞選手がレフトからレフトオープンを打つわけですから、かなり厳しいローテになります。また木村沙織選手がライトに回ってしまいます。木村沙織選手はライト打ちは巧さはあっても体重は乗りません。さらに、相手もかなりマークしています。木村沙織選手でもS1でライトから決めるのには苦しみます。

・解決策1 木村沙織選手と佐野優子選手に頑張ってもらう
セッターの竹下佳江選手は、S1でかなり木村沙織選手に上げていきます。何度も何度も上げ、決まらなくても信頼は揺るがないようです。また、苦手ポジションから打つ前衛2人はサーブレシーブにも入るため、その2人の守備範囲を狭めるために、リベロの佐野優子選手は本当に広い範囲を守ります。

・解決策2 山口舞選手にセンターらしい動きをさせる
山口舞選手本来の良さを引き出すために、レフトからBクイックに入ってセンターとダブルクイックをしたり、レフトからBセミにブロードで入ってクロスに打ったり、センターのBクイックを囮にしてレフトからAセミにブロードで入ったりします。この場合、相手から返球されるまでのタイミングで木村沙織選手がレフトにスイッチし、前衛の並びをLCRに修正できます。

・解決策3 裏レフトの選手にバックレフトを打たせる
山口舞選手がレフトからセンターらしい動きをすると、レフトが空になります。そこに、普段はバックセンターを打つ江畑幸子選手や迫田さおり選手がバックレフトから打つことにより、レフト不在を補います。また、山口舞選手のBクイックは遅く、迫田さおり選手のバックレフトは速いため、このコンビは時間差のような効果もあります。

・解決策4 ライトに新鍋理沙選手を起用する
新鍋理沙選手は、レフト打ちも苦手ではありません。単に高さやパワーが全日本の他のレフトに届かないだけで、本人としては嫌ではないでしょう。新鍋理沙選手ならS1はピンチではなくなります。

OQTでは、このような解決策で何とか乗り切っていました。ロンドンでは、さらに驚きの対策が飛び出しました。これについては別記事で特集します。