JMのバレーボール観戦記

テレビのバレーボール解説では触れられない戦術面や選手個人の特徴について、「全員応援」の立場から語ります。

男子の世界標準バレーの先にあるもの クネオ

2013-03-27 02:18:33 | 用語解説
クネオは、あのマストランジェロ選手がセンターを務めるイタリアの強豪です。そのマストランジェロ選手が先月から欠場していて、今回の記事の内容もマストランジェロ選手欠場に端を発したものです。

・裏センターにスーパーエースを入れる
センターを一人欠いたクネオは、何とそこにスタメンスーパーエースのソコロフ選手を入れました。そして、前衛ではソコロフ選手がクイックに入り、サーブを打ったS4ローテではリベロと替わります。その次のS3ローテで控えのスーパーエースのアントノフ選手がサーブを打ってからは、アントノフ選手にリベロが入ります。後衛に戻ったソコロフ選手は、スーパーエースのように守備免除になって、バックライトを打ちます。

・何がクネオのオリジナルを可能にしたか?
これは、ソコロフ選手が前衛でセンターを出来ることに尽きます。しかし、実はソコロフ選手はそれほどクイックを打つのが上手いわけではありません。セッターのグルビッチ選手(シドニー金メダリスト)も、ソコロフ選手のクイックはアクセント程度にしか見ていません。それなのにソコロフ選手がセンターに入っているのは、やはり長身であり、センターブロックが出来るからではないでしょうか。クイッカーとしては三角でも、ミドルブロッカーとして満点以上なら、センターは務まるのですね。

このように、長身選手を、前衛でセンター、後衛でスーパーエースのように使う布陣は、時代の流れに関わらず、いろいろなチームで稀に見られます。アルゼンチン男子も、何年か前にやっていました。そのため、この布陣は、クイックとバックライトが打てる長身選手がいるときに、時代の流れに関わらず考慮すべき布陣と言えます。

クイックとバックライトを打てる長身選手と言えば、あの大御所がいるではありませんか。そう、山本隆弘選手です。山本隆弘選手を裏センターに入れる布陣を試してみても良かったのではないでしょうか。

また、クイックとバックセンターが打てる長身選手なら、前衛でセンター、後衛でレフトというような組み合わせも可能です。石島雄介選手、どうでしょうか。

男子の世界標準バレーの先にあるもの ブロード攻撃

2013-03-26 13:02:53 | 用語解説
ブロード攻撃は、高くて横幅もあるバンチリードブロックに対しては通用しない、ということで、男子バレーでは過去の遺物となりました。タイ男子はいまだセンターがブロードをしますが、これはライト攻撃の貧弱さを補う目的で、そもそもタイ男子自体があまり強くないため、参考にする必要は無いかも知れません。

しかし、世界標準バレーが完成されてからも、ブロード攻撃を打ち続けている選手がいます。

・ブラジル男子のシド選手のCワイド
シド選手の場合は、自分が前衛レフトにいて、そこからCクイックに入るために、長い距離を移動してやや空中で流れる感じになります。ジャンプは両足ジャンプですから、女子のワンレッグによるCワイドとは異なります。しかし、移動距離、移動速度ともに女子のCワイドと変わりませんので、変則助走のCワイドと認定できるでしょう。前記事でご紹介した通り、ブラジル男子の場合はCクイックが一つの重要な起点になります。その起点に到達するためなら、ブロード攻撃という手段も有効と言うことです。

・ブラジル男子のダンテ選手のL
こちらは、何も変則ではなく、正真正銘のL、つまりセンターからライトに移動し、片足ジャンプで空中移動しながら、上体をやや右に傾けて打つ攻撃です。ブラジル男子のナショナルチームでは、ダンテ選手は裏レフトですので、ライトから打つことはありません。しかし、ギリシャリーグ時代は、ダンテ選手は表レフトでしたから、S1でのライト打ちが発生します。また、稀にスーパーエースもしていました。この時、前衛ライトでのレセプションアタックは、全てLブロードで打っていたのです。S1ではもとからライトにいますので、移動するためにわざわざセンターに走り、そこからライトに引き返す形で打っていました。そう、山口舞選手の、Bセミ囮のLの一人時間差と同じです。しかし、ダンテ選手はBセミは打ちません。なのに毎回センターに戻ってまでLに入ったのは、一人時間差という意味ではなく、ダンテ選手がライト平行よりLの方が得意だったからとしか思えません。Lからなら、ストレートのラインショットや超クロスを多彩に打ち分けていました。

このように、コンビの中での必要性や、各選手の適性によっては、ブロードも現代バレーで使われます。S1では、左利きスーパーエースがブロード助走でレフトから打っても良いはず。ブロードは古いと決めつけられている現状は、大変残念です。

世界標準バレーの先にあるもの ブラジル男子

2013-03-26 12:41:12 | 用語解説
さて、この記事で、どうして私がこれまでブラジル男子の選手を世界標準の名選手に挙げなかったかが明らかになります。それは、世界標準バレーだと思われているブラジル男子が、実は世界標準バレーをしていないからなのです!

まず、レフト平行については、世界標準バレーと変わりません。しかし、それ以外の攻撃は、全く異なります。

・遅いCクイックと速いバックセンターでダブルクイック
まず、ブラジル男子ではCクイックが非常に目立ちます。そして、Cに限らず、クイックは速くありません。ややネットから離したゆとりのあるトスを、きちんと打ち分けます。逆に、バックセンターはAクイックやBクイックの後衛版のような速さになっています。そのため、前衛の遅いCクイックと速いバックセンターが、ダブルクイックのような形になっているのです。本来、世界標準バレーのパイプ攻撃とは、前衛のクイックを囮にして、そのブロックの落ち際にワンテンポ遅れたバックアタックを打ち込むというもの。それを同時のダブルクイックにしたのが、ブラジル男子です。クイック囮のパイプという時間差攻撃では、まず試合序盤にクイックから使いますが、これは相手がバンチリードの場合は大きな矛盾ですよね。ダブルクイック化すると、どちらを先に使っても良くなりますから、一発目からの被ブロックという最悪の事態は避けられます。さらに、返球がネットに近ければCクイックに上げやすく、ネットから遠ければバックセンターからのクイックに上げやすくなります。Bパスという概念がなくなりました。

・両足ジャンプのCワイドもどき
センターが前衛レフトに入るローテでは、上述のCクイックに入るには、かなりの距離を移動します。女子のブロードとは違って両足ジャンプですが、特にシド選手は、Cワイドのような形の移動攻撃をします。

・超高速のライト攻撃を、Cクイック囮のパイプとして代用
ブラジル男子のスーパーエースが左利きのアンドレ選手から右利きのビソット選手やウォレス選手に替わってから、ライト攻撃が大幅に高速化されました。以前の世界標準バレーにおけるパイプ攻撃と同等の速さです。そのライト攻撃の手前には、Cクイックが跳んでいます。そう、Cクイック囮でライトからパイプが打たれるわけです。

・何がブラジル男子のオリジナルを可能にしたか?
各選手の個人技はもちろんですが、やはりそれを戦術として組み合わせた監督の存在が大きいと思います。

男子の世界標準バレーの先にあるもの 東レ

2013-03-25 02:17:13 | 用語解説
東レも、世界の強豪チームとは言えませんが、参考になるオリジナリティを持っています。

・ブロックスイッチ
それは、自チームサーブ時に長身スーパーエースのボヨビッチ選手を、相手スーパーエースの目の前に貼り付けるブロックスイッチです。相手スーパーエースはほとんどのローテで相手ライト側つまり自チームレフト側にいますから、スーパーエースながらボヨビッチ選手が前衛レフトでブロックに跳ぶシーンがかなり多くなり、トランジション時にはレフトから打つことになります。これだけなら、特段取り立てるほどの戦略ではないです。

・ブロックスイッチするフリをしてしない
これにはびっくりです。自チームサーブ時に、上記のブロックスイッチをするフリをし、サーブが打たれた瞬間にはブロックスイッチするように一歩歩きます。その動きを相手セッターに見せつけておいて、実際にはスーパーエースがライト側ブロックにまわります。このため、相手セッターはボヨビッチ選手が東レライト側にいるとは思わずに、自チームレフト側に上げてしまい、ブロックの餌食になるわけです。

・何が東レのオリジナルを可能にしたか?
これが可能なのは、ボヨビッチ選手がイタリアリーグやセルビア代表でレフト経験をしていたからです。そのため、ブロックスイッチをしても、ボヨビッチ選手が普通にレフトから打ってくれるのです。さらに、レフト対角が前衛ライトからきっちり打てるのも嬉しいところ。裏レフトは基本的には絶対にライトからは打たないポジションですから、裏レフトがライトからも打てるというのは大きいです。さらに、セッターの近藤茂選手も、こういったブロックスイッチ後の攻撃については、きちんと考えてトスを上げている印象。ボヨビッチ選手のダブルBなどのコンビも使っています。あとはトス自体がもう少し打ちやすい球質になれば完璧だと思います。

ブロックスイッチするのかどうか最後まで分からない、というのでは、相手セッターも困ります。この作戦はファイナルラウンドで絶対に命運を握りますし、サントリーと堺に対しては、場合によっては意表をつくフロントオーダーを使ってくる可能性も考えられます。ファイナルラウンドでも、前衛でのブロックスイッチ、するのかしないのか、相手セッターの気持ちになって是非ご注目ください。

男子の世界標準バレーの先にあるもの パナソニック

2013-03-24 10:18:53 | 用語解説
パナソニックは強豪チームでしょうか。世界的に見れば弱小チームでしょう。しかし、とんでもないシフトで、さらに若手も試しつつ、先日東レに勝ちました。

・スーパーエースが後衛でレフト役をし、レフトがバックライトに入る
自業自得負傷により、スーパーエースの清水邦広選手を欠いたパナソニックは、本職スーパーエースの山本隆弘選手ではなく、本職レフトの川村慎二選手をライト起用。前衛では守備免除にしつつ、後衛では川村慎二選手にサーブレシーブさせてバックセンターを打たせる、実質的レフト扱い。そして、レフトの福澤達哉選手とジョンパウロ選手が後衛でサーブレシーブ免除になり、サーブが打たれた瞬間にバックライトに走り、バックライトを打ちます。

これは、川村慎二選手のバックライトへの信頼がないから、という消極的解釈も可能ですが、積極的側面もあるのではないでしょうか。攻撃力がある福澤達哉選手とジョンパウロ選手のうち、前衛の選手はサーブレシーブしてレフトから打つ。後衛の選手は、レフトから一番離れたバックライトを守備免除で打つ。守備が安定している川村慎二選手が守備でも貢献する。さらに、福澤達哉選手とジョンパウロ選手と川村慎二選手が交代でサーブレシーブから抜けるため、誰か一人がサーブで集中放火されることがなくなります。その上、福澤達哉選手は他人のAパスをハイジャンプで高速で打つのが持ち味ですから、そういった局面で福澤達哉選手が調子を上げてくれます。

もちろん、川村慎二選手は本職レフトですから、S1も大丈夫です。

このシフトで若手も使いながら東レに勝ったわけですから、ライトしか打てずサーブレシーブもできないスーパーエースという存在意義に疑問符が投げかけたのではないでしょうか。ファイナルラウンドでのパナソニックの繰り出すバレーに要注目です。いわゆるトリプルレフトといった形は、以前全日本でも見られ、それがあまり上手く行かなかったので、なかなか評価されないのが残念です。

・何がパナソニックのオリジナルを可能にしたか?
これは、川村慎二選手の前衛のライト攻撃と、福澤達哉選手とジョンパウロ選手のバックライトの攻撃力によって成り立っています。やはり特筆すべきは、福澤達哉選手とジョンパウロ選手のバックライトでしょう。ジョンパウロ選手は高いのでなんとでもなりますが、福澤達哉選手のバックライトがこんなに上手とは驚きです。