今回の香港訪問では、ついでに4年8ヶ月ぶりに中華人民共和国のフツーのエリア (特別行政区ではなく、中国共産党の完全な独裁下) に入ってみることにしました。まぁ東鉄線の釣掛に乗ったついでに落馬州から徒歩で深セン[土+川]に入り、17年ぶりに深センの街を眺め、深セン駅前から再び徒歩で香港側の羅湖に戻るというだけの、超安直で短時間な日帰りツアーに過ぎませんが、何はともあれ4年数ヶ月のうちに「凄まじく経済発展した」という中国が本当にそれに見合った変化をしているのかどうかを感じ取るには、たとえ速攻ツアーでも行かないよりはマシだろうということで……(^^;
というわけで、まずは境界の川を渡って深セン側の出入境事務所に入りますと、無駄に巨大で安普請なハリボテビルの中、出入境管理官がニコリともせずノービザ訪問スタンプを押してくれまして、「ぬほっ♪この《中国の特色ある》雰囲気、昔と何も変わっとらん」と思わずニヤリ。さらに無駄にデカい空間を通って地下鉄4号線の福田口岸 (口岸=ボーダーの意) 駅に行きますと、片道切符は硬貨がないと買えず、ICカード「深セン通」は10元札以下では買えず、ホームに下りる階段の間隔と水平はメチャクチャ、ホームドアが完備されたホームの構造物も歪みと隙間多数……。「《最も先進的な経済都市》の、開通したばかりの地下鉄でこの超テキトーさである以上、たとえGDPが日本を追い越してどれだけデカくなろうとも、この国に職人魂や「匠」の精神なんて根付いているわけないぜ! 日本の科学技術は震災でどれだけ傷つこうとも世界に冠たるものではないか?」とつぶやきつつ、ボンバルディアの技術供与を受けた電車に乗って1号線の起点・羅湖 (深セン側) に向かいますと、出口の先には17年前にも眺めたCNR深セン駅ビルが! 17年前には駅周辺の巨大建築と言えば駅ビルと出入今日事務所の建物のみでしたが、今や駅前広場の周囲を高楼大厦が取り囲み、駅前広場も多層化されて浦島太郎気分に……(^^;
深セン駅からは中国各地へ向かう長距離列車も出発していますが、今や深センを発着する列車の大多数は、ここ4~5年のうちに急激に整備・増発された電車 (動車組=Multiple Unitと通称)「和諧号」が占め、しかも約10分間隔で広州との間を頻繁運転していますので、この「和諧号」と東鉄線を乗り継いで広東省と香港の間を往来する客が常に深セン駅と出入境事務所の間に満ちています。そんな光景を眺めているうちに、ふと「このまますぐに香港側に戻るのではなく、ちょこっと話のタネとして和諧号に乗ってみたい」という欲求がムラムラと……。私が4年8ヶ月前に北京を訪れた際には未だ北京~天津間の和諧号は登場しておらず、いろいろな意味において巷で話題の和諧号の何たるかを直接見聞していなかったため (汗)、「時間にも少々余裕があるのでここらでひとつ、百聞は一見に如かず」と思った次第です。
そこで早速、深セン駅の和諧号専用切符売場・待合室に向かい、広州まで往復すると時間を相当食ってしまうことから途中の東カン[くさかんむり+完]まで一等車の切符を購入したのですが、とりあえずこの1往復で得た印象を総合しますと……「車両のハード面はそれなりに。しかしその他諸々の設備やサービスは《?》がいっぱい」といったところでしょうか。
◎ボンバルディアの基本設計によるCRH1の走行性能や乗り心地自体は十分快適。
◎線路も標準軌+重軌条の完全新線 (貨物・客車列車と分離) で、増発への余力あり。築堤や堀割が多く、他の中国高速鉄道新線のような高架線ではないため、軌道は割と安全?
◎最高時速は200kmという触れ込みながら、100数十kmで流しているのだろうか?と思う区間が多い? とは言え昔に比べれば十分過ぎるほど速く利便性が高いのは確か。
◎深セン駅の和諧号待合室でミネラルウォーターを無料配布していたのは良し。
●しかし何故……一等座車でも窓と座席の「割り」が合わない集団見合い席で、回転もリクライニングもしないのか? 2+3列の二等座車と比べごく僅かに高い一等運賃は、所詮「2+2列ゆったり料金」を上乗せしているに過ぎないのかも……。
●和諧号専用待合室と改札口は、出来て間もないにもかかわらず狭くてボロい。しかも列車ごとに相当ギリギリにならないと改札を行わないため、客が狭い待合室にあふれ気味。改札が始まる前にはいつもの中国らしく、先を競う客が狭く密集し殺気ムンムン (滝汗)。こんな雰囲気でどこが「和諧」だよ……と(-_-;;)。
●深センでは発車直前にようやくホームに入ることが出来、しかも他のホーム入口には立入不可のロープが張られているため、ロクに駅撮り出来ない……。
●東カンにて、発車まで余裕がある直近の深セン行・一等座車の切符を購入しようとしたところ、即座に「
没有!」と言われ、出て来たのは3本後の二等座車の泣く子も黙る《
無座》切符……。しかしその列車に乗る際、一等座車が満杯であるようにはとても見えず……。単にキーボードを叩くのが面倒だったために売らなかったことが想像され、「中国の特色ある」「人民のために服務」しまくりなサービス態度発動! (-_-;;) あるいは別の可能性も……(以下をご覧下さい)。
●では、3本後の無座切符しか買えないほど全ての列車が満席だったのかと言えば、決してそんなことはなく……。3本後の列車が来るまで、見かけ倒しの暗くてボロい待合室でくすぶるよりも、さっさとホームに入って撮り鉄したいと思い、1本目の改札の際にムリヤリ素知らぬ顔で入ってしまったところ、乗車率には余裕がありまくり (怒)。恐怖の「無座」と切符に表記するくらいなら、単に「自由席」という扱いにしてくれよ……と思うものの、そういえば中国において「自由」は政治的に敏感すぎる言葉であることを思い出しました (爆)。また、1本目の発車間際には、ホームの駅員に「お前乗らないのか?!」と言われ、「私の切符は3本後のもの。写真を撮りたいからさっさと入った」と返したところ、「その切符で乗っても構わんぞ!どうする?早くどちらかにしろ!」と叫び返される有様 (-_-;)。車内では検札をしているわけでもないため、どうやら途中駅からの利用客には原則として無座しか売らず、指定された列車に関係なく勝手に乗って良い……ということが見えて来たのですが (それとも不可なのでしょうか? 教えてエライ人! ^^;)、それにしても何故3本後を売ったのか?……全くナゾ。広州東駅を当該列車が空席ありで発車した直後、東カン駅に「んじゃー今からその列車の無座を○枚売って良し!」という電話連絡でもあるのでしょうか?? 長距離列車の切符が今でも駅ごとの割当制になっている一方、和諧号は全てコンピュータ仕掛けで販売しているのではないのか?と思うのですが、どうやら未だそこまで完璧なシステムではないらしい……。
●東カン駅での撮り鉄は、線路と線路の間にヤケに高い柵があるだけでなく、ホームの駅員が如何にも「お前何しに来た?」と言わんばかりの突っ慳貪な態度につき (しかも広東語なまりで聞き取りづらい……)、極めてやりづらし。「我是喜歓中国火車的日本游客!」と叫んでムリヤリ撮影 (汗)。
……というわけで、旧来のテキトー・ちぐはぐで利用者のことを余り考えていない建築・システム・サービスのため、折角の車両の印象が薄れて何やら感じの悪い、「和諧」(ハーモニー) とはほど遠い「和諧号」になってしまっているのではないか……と思った次第です。
そんな「和諧号」、CNRはもとより中国政府・メディアを挙げて「時速350kmを国産技術で実現させた我が国の高速鉄道技術は世界に冠たるもの! 北京~上海開業のあかつきには時速380km実現! 日本のパクリ批判はただの嫉妬」などと騒いでいたものですが、最近の報道 (とくに、リンク頂いております『中国鉄道倶楽部』ボーゲン様のブログからリンクされていた中国『火車票網』
記事が詳細)を見てみたところ、北京~上海開業に伴う全国ダイヤ改正では「安全上の余裕を確保し、沿線サービスを図る200~250km/hの列車を混ぜてダイヤを組むため」、北京~上海を含む基幹路線でも最高速度を300km/hに抑えて営業するとのこと (既に350km/hを実施している路線を含む)。恐らく、安普請な突貫建設に伴う巨大なリスクを考慮せざるを得ず、かつ技術を供与した日本等外国企業の批判や警告を無視して強引に350~380km/h運転を行うことの弊害も顕在化しているのかも知れません。
その裏に横たわるもう一つの大問題としては、超イケイケドンドンで高速鉄道網拡張に邁進した劉志軍・前鉄道相が、その裏で巨額の汚職をやらかして共産党員資格停止・全ての公職解任という処分を食らっている事実を考えてみなければなりますまい。共産党幹部の天文学的数字にのぼる汚職に対しては、中国一般庶民からの批判が常に沸騰していますので、この先裁判が開かれれば、恐らく見せしめで死刑判決が出る可能性が大 (執行猶予が付くかどうかは分かりませんが)。そこで、汚職にまみれているだけでなく、今後巨額の累積赤字や手抜き工事 (豆腐渣=おから工事と通称されます) に伴う大事故を生む可能性がある高速鉄道網については、これ以上センセーショナルにアピールすることなく、出来るだけ堅実な経営に徹しなければ様々な面でまずい……という政治的判断もあるのでしょう。いやはや、日本の新幹線を推進した十河国鉄総裁は今でも立役者として顕彰されていますが、中国の高速鉄道を推進した鉄道相の名は永遠にNGワードになるとは……。これもひとえに、何事も《中国の特色ある》という、国際標準や普遍的価値との摺り合わせを拒否して自らの狭い価値観や既存の社会的弊害に閉じこもることを良しとするかのような、共産党は大真面目のつもりでも思わずプッと吹き出さずにはいられない形容詞抜きでは語れないテキトー中国らしさの発露であるのかも知れず、高速鉄道も例外でないとは……(苦笑)。勿論、日本も油断すればこうなるわけで、他山の石とするべきではありますが。