一 摂政太政大臣家ノ百首哥合に野遊の
心を 藤原家隆朝臣
頭注
野に遊とはのにいで
遊ぶ義なり。只
野ばかりはよまぬ
とぞ春秋にあり。
一 おもふどちそこともしらず行くれぬ花のやどかせのべの鴬
増抄云、おもふどち春の山べに打むれて、そことも
しらぬ旅ねしてしか。此哥を本としてよめ
り。本哥に似たるやうなれども、かやうなる一躰
なり。上句は本哥をもたせて、下句に花の宿を
うぐひすにかせといふか。一重面白いひたてし也。
そこともしらぬ所なるゆへに、知人もなし家
もなき所なり。折しもうぐひすが花のやど
をしめてゐるほどに、うぐひ(す)にやどをかせと
いひかけたる哥の作也。
桜がり雨はふりきぬ同じくはぬるとも花のかげにかくれん
いざけふは春の山べにまじりなんくれなばなげの花のかげかは
頭注
うぐひすは花を
やどゝしてゐるもの
なればなり。
なりひらの哥
かりくらし七夕つめに
やどからん天の川原
に我はきにけり
似たる作哥なり。
鴬のある所なる故に
鴬に花のやどかせ
とあるが天川に
きて七夕つめの
ある所なればやど
からんとあると似
たる事なり。
※おもふどち春の山べに打むれて、そこともしらぬ旅ねしてしか
古今和歌集 春歌下
春の歌とてよめる
素性
おもふどち春の山辺にうちむれてそこともいはぬたびねしてしか
※桜がり雨はふりきぬ同じくはぬるとも花のかげにかくれん
拾遺和歌集 春
題しらず よみ人知らず
さくらがり雨はふりきぬおなじくはぬるとも花の影にかくれむ
※いざけふは春の山べにまじりなんくれなばなげの花のかげかは
古今和歌集 春歌下
うりむゐんのみこのもとに花見にきた山の
ほとりにまかれりける時によめる
素性
いざけふは春の山辺にまじりなむくれなばなげの花のかげかは
※かりくらし七夕つめにやどからん天の川原に我はきにけり
古今和歌集 羇旅歌
これたかのみこのともにかりにまかりける
時にあまの河といふ所の河のほとりにおり
ゐてさけなどのみけるついでにみこのいひ
けらくかりしてあまのかはらにいたるとい
ふ心をよみてさかつきはさせといひければ
よめる
在原なりひらの朝臣
かりくらしたなばたつめにやどからむあまのかはらに我はきにけり
伊勢物語八十二段 交野の桜

