一 花の哥とてよみ侍ける。西行法師
一 芳野山こぞのしほりの道かへてまたみぬ方のはなを尋ん
増抄云。しほりとは、枝折と書也。山へ入る人道
のしるべに、木のえだを折ておくをいふなり。野べには
しるしに草をむすびておく也。哥のこゝろは
明也。こぞ山おくかへるしるしに枝折をして
入けるかたのみちかへて、この春はこぞみぬ方の
花をたづねんとなり。或説しほりは去
年花が面白さに又來春みんとてのしるし
共いへり。
頭注
一所に心をとめず
こそとかへてみん
といへる。執着せぬ
ところ西行の
こゝろなり。かゝる
所に心をつくべし。