JAHPON LAND( Pucci )

スケートファニチャーやステンドグラス作品などJAHPON.comとして活躍する作家 土屋隆亮(プチ)のメッセージ!

熊の子太郎 あとがき

2007年11月13日 | 熊の子太郎
3週に渡って連載した童話版「熊の子太郎」が完結しました。思い入れが強過ぎて 最初から死に向っている物語と解っているのに、どんどん描くのが辛くなっていきました。読んだ方はお気付きかもしれませんが 描きながら、太郎よりも かなり ふう に気持ちが乗っていて、事実 長老に ふう が呼ばれるシーンを描く時 おれは号泣しながらタイプしていた程ですから、読んで頂いた感想で「太郎が撃たれるシーン」を挙げる人よりも「長老に呼ばれるシーン」にグっと来た!と言ってくれた人の方がストライクな感じで おれも嬉しいです。いつもながら かなり癖のある文章で読みづらかったかもしれませんが、ちょっとイジワルに「読んでいく時間が取戻せない感じ」をひっかけるトラップ的なしかけが好きなのです。通過してしまった言葉が後になって「あれは 唄ってたのか」とか「ふう は男かと思ってた」とか、文字に表しきれない全てが、読む人それぞれの世界別に 適当に膨らんでもらえたら愉快だと思うのです。いつか この物語を絵本にして、世界の小学校に寄贈して廻りたい!という夢があります。ギャラリーを借りて個展をするよりも有意義なお金の使い方でしょ!「神話に解釈を加えながら未来にリレーさせる」こんな素敵な世界に導いてくれた 中沢新一 先生に本当に感謝します。ありがとう!生きてて良かった!


熊の子太郎 15 最終回

2007年11月10日 | 熊の子太郎
みんな寝てしまった おひるごろ、
ふう は こどもたちを背負うと 山をのぼります。
お山には もう 花が咲いて ちょうちょが泳いでいます。
迷わずに家に着き「ただいまー」とコートを脱ぎます。すると
「おかえりー」と太郎ちゃんが笑って立っていました!
ふう は こどもたちのコートを脱がすのも忘れて
太郎ちゃんに とびつきました。
やっとこ じぶんで脱いだ、たお と さや も とびつき
いつもの よにんは、きのうおぼえた唄を
いつまでも いつまでも ぐるぐる ぐるぐる うたいました。

おちょうしもんの風が うたをうたっていたら、
それは おさんぽ中の 太郎ちゃんかもしれないね。

         おしまい

熊の子太郎 14

2007年11月09日 | 熊の子太郎
おまつりは 朝からはじまりました。
近くの村からも 人々がたくさん集まり、
長老が てまねき するとおりに ふう たちにも
とくべつな席が用意されていました。
お面をかぶった おどり子 たちの劇や
たいこ や ふえ をもった楽団の えんそう に、
きれいな声の うたうたい たち が出て来ると
楽しいリズムに たお も さや も おどりだしました。
村のこどもたちも とびだして来て、
ふう も村のみんなも 輪になって ぐるぐるおどります。

やがて 日も暮れると 広場の火も大きくなりました。
中心で長老が語りだすと みんな静かになりました。そして
「ふうや、ぼくちゃんたちも こっちへおいで。」
ふう は ハッとしました。長老は ちゃんと知っていたのです。
長老にかけよると、ぎゅっと強くだきつきました。
長老も ふう を だきしめ、みんなで たくさん泣きました。
その時、びゅううぅっと つむじ風が吹き、
広場の火が 強く吹き上がりました。
ふう は 胸のボタンを外して コートを半分脱いで、
これまでの事を 朝が来るまで話しつづけました。


熊の子太郎 13

2007年11月08日 | 熊の子太郎
ハンターは西の方から来た よそもの でした。
ふう の村では、熊は山の神様の使い で
勝手に山にのぼる事すら禁じていましたから、
やばんなハンターを追いかけたものの
間に合わなかったのです。
村の言い伝えによると 作物が採れず 村が苦しい時、
熊が山を下りて来て 自らの肉を与えて下さると言います。
そうして 互いの おくりもの が あたりまえの しぜんに
こうかん されるのです。

なつかしい ふう の村に着くと
広場では おまつりの準備をしていました。
ふう のよく知っている人ばかりです。
その夜は 太郎のそばで寝ました。


熊の子太郎 12

2007年11月07日 | 熊の子太郎
「バシャーン」
ふう のそばに太郎がたおれると、あたりは 真っ赤です。

「そこまでだ、無法はやめろ!」
何十人もの ヤリ や オノ をもった
ふう の村の人々が、ハンターを囲みました。

すぐに ハンターは捕まり、
人々は 川岸で 太郎の体をていねいに 拭くと
おみこしの台に太郎を乗せて 山を下ってゆきました。
ふう は ぼうぜんとしながらも、
こどもたち ふたりを ぎゅっとしたまま
人々の ぎしき をながめ、
せなかに ふたりを 背負うと 行列のあとについて
山を下りました。


熊の子太郎 11

2007年11月06日 | 熊の子太郎
川は まだ冷たい 雪どけ水ですが、
やわらかい ひだまりには ゆげが立つほど
あたたかい風が 流れていました。
太郎は 深みで 魚のむれを追っています。
ふう は 浅せで こどもたちと泳ぎの練習です。
まだ水に顔をつけられない さや に
たお が からかって 水をかけたり、
ふう の 水中さかだちを たお が まねして
ひっくりかえったり。
その時です。ふう は 岩の上に見たのです!
こちらを向いて つきささりそうな 黒く光る影を!
ふう は その光る ぼう のことを知っていました。
ライフルじゅうです!
ふう は、とっさに こどもたちに おおいかぶさって、
「うたないで!」と叫びました。
同時に、ざばあっ と 太郎が飛び出し
「ダアァーン ダアーン ダーンン」
はじめて耳にする ごう音が あたりの山に こだまして、
ふう たちは ぎゅっと ちぢこまりました。


熊の子太郎 10

2007年11月03日 | 熊の子太郎
それから どれだけ しあわせな朝を迎えたのでしょう。
夢の様な毎日は あたらしい 発見に満ちていて、
いつしか ふう は ふたごの赤ちゃんを生みました。
「たお」「さや」と名付けた こどもたちは
すくすくと育ち もう 外に出て よにんで すもうをとったり、
おにごっこをして かけまわったりできるのです。
そんな ある日、かぞくで 川へ魚をとりに出かけます。
たお も さや も わくわくして 朝からおおはしゃぎ。
ふう が ふたりにコートを着せると ドアからとび出して
とくいの でんぐりがえしを しながら せかしました。
「はーやーくっ はーやーくっ」
「すーぐ いーくよっ すーぐ いーくよっ」
よにんの唄は やっぱり「どん どん どん」になって、
川へ こうしんしてゆきました。


熊の子太郎 9

2007年11月02日 | 熊の子太郎
ふたりは 太郎が用意した 食事を食べます。
どれも ふう には はじめての味で、
おいしくて おなかは いっぱいになりました。
太郎が話す 料理や ここでの生活の全ては
不思議な事にあふれていたけれど、ふう には
なぜか納得のいく かんたんなしくみばかりでした。
太郎は クマのコートをさし出しながら
「さあ、お山を あんないしてあげる」と言うと
ふう は するりとコートを はおります。すると
太郎よりは 少し小柄な 熊そのものになりました。
太郎が頭の上で 手をたたいてみせると
ふう も まねしながら「太郎ちゃんになっちゃった」
と、はしり回ります。
なるほど 山にピッタリの体が たいへん気に入り
ふたりは はしゃぎつづけたのです。 



熊の子太郎 8

2007年11月01日 | 熊の子太郎
小鳥たちの歌声と 天窓からの光のカーテンに
ふう は ゆっくり目覚めました。
「おはよう ふう」太郎がお茶をもって来ます。
「おはよう 太郎ちゃん」と、コップをもらいながら
ふう は、太郎ちゃんが 少年の姿をしているので
目をこすりなおして まばたきをパチクリしました。

「ほんとうに 太郎ちゃんかい?」ふう が言うと
「そうだよ。 家では脱ぐんだよ、おどろいた?」と、
ドアの近くにかけてある クマのコートをゆびさしました。
ふう は もちろんおどろきましたが、何より
太郎の美しいゆび先に すっかり 見とれていたのです。


熊の子太郎 7

2007年10月31日 | 熊の子太郎
景色は 夕暮れのオーケストラから いつしか
満天の星がきらめく オルゴールに なっていて、
やわらかく なぜていく風に 枝もふわふわとゆれるので
ふう は すっかり眠っていました。

太郎は ふう を 背中にそっとのせ、
月あかりで 青くなった お山をのぼって
太郎の家の ふわふわのベッドに
ふう を寝かせました。
今日の太郎は ひとつも迷わずに帰れたので、
まんぞくで なかなか寝ませんでした。


熊の子太郎 6

2007年10月30日 | 熊の子太郎
お山は 険しいけれど、ふう は すばしっこくて
太郎と かけっこになっても 負けません。
ふたりは 転がる様に山をのぼり、
ちょっと 突き出たところにある
太郎が「ばんざいの木」と呼んでいる
太くて 大きな木の下に 着きました。
太郎は さっそく 木にのぼりながら
もう片方の 太い腕の様な枝をゆびさしました。
そのとうりに ふう が するする のぼると
座り心地の良さそうな ふし が あります。
すっぽりと座ると そこからちょうど広がる景色に
ふう は息をのみました。

一面のピンク色の雲の遠くに 大きな太陽が燃えていて
どこまでも広く 山や野原を 染めています。
ふうは「とくとうせきだぁ」と 真っ赤な太郎を見ると
あっちの腕に座りながら ゆっさゆっさと
木をゆらして 答えました。


熊の子太郎 5

2007年10月27日 | 熊の子太郎
ふう には おじいさんがいましたが、
今は ひとりで暮らしています。 村のみんなには
「ふう は 立派なこどもじゃよ。」と
認められるほど 元気で明るい こどもで、
なんでも なんとかする ふう は不思議な力に
守られていると みんなが信じていました。
だから ふらっと村からいなくなっても
心配もしないで、帰って来ると いつもしてくれる
不思議な話を みんなで楽しみに待っていました。


熊の子太郎 4

2007年10月26日 | 熊の子太郎
「どんっ どんっ どんどんどんっ」
「どんっ どんっ どんどんどんっ」
「どんっ どんっ どんどんどんっ」
「どんっ どんっ どんどんどんっ」
 
いつのまにか唄は どんどん に変わり
どれだけ回ったのか 空も赤くなってきました。
「とっても見えるところがあるよ。」
太郎は お山をゆびさして言いました。
ふう は ささの葉に はあぁっと息をかけて
おでこに貼りながら「いこうっ いこうっ」と
いいながら 大きくげんこつを振っています。
ふたりは踊りながら 山をのぼっていきました。


熊の子太郎 3

2007年10月25日 | 熊の子太郎
太郎がふり返ると あの形の葉っぱを手にのせた
こどもが 立って 笑っています。
太郎は 手の上をじっと見ていましたから
こどもは太郎の方にささ舟をさし出しました。
太郎は そおっと受け取り鼻にあてがいながら
「これは なんだい?」と言いました。
「ささ舟だよ、くまさん。」笑いながら
こどもは 手をぶらぶらさせています。
「くまさん って ぼくのこと?」まねして
太郎も 手をぶらぶらさせながら言います。
「ぼくなら 太郎だよ。きみはだれだい?」
「おいらは ふう だよ。太郎ちゃん~」
ふう は お互いのぶらぶらが だんだん踊りみたいに
なってきたのが可笑しくって 橋の上を回りながら
ちょっと唄う様に答えたのです。
「おいらは ふう だよ。太郎ちゃん~」
太郎は それがたいへん気に入って
ふたりは ぐるぐる ぐるぐる 唄いました。



熊の子太郎 2

2007年10月24日 | 熊の子太郎
その日は 川遊びに夢中になっているうちに、
見なれない 山の下の方まで来ていました。
川には 四角い橋が かかっていて
太郎は それが たいへん気に入り、
あっちの端から流れたものが 本当に
こっちの下から出て来るか どうかを、
何度も行ったり来たりして しらべていました。
その時です。見た事のない形の葉っぱが
流れて来ました。太郎の知らない ささ舟です。